第14話
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「う~~~~~~~。お尻痛い~~~」
エドに呼ばれ、中央へと汽車で赴いたウィンリィは駅に到着し、硬いシートに長時間座ったせいで痛む尻を押さえながら呻き声をあげる。
「あいつら、よくこんなのに、しょっちゅう乗ってられるわね」
汽車の乗り心地の悪さに愚痴をこぼしつつ、珍しそうにきょろきょろ周囲を見回す。
さすがは国家の中枢・中央であり、駅にはたくさんの訪客が未だに引きも切らずの勢いで溢れ出している。
「さすが、中央は人が多いなぁ…エドの奴『西口で目印が立ってるから、すぐわかる』って言ってたけど、目印って……」
人混みに揉まれながらも目印を探すウィンリィの視界に、一際大柄な軍人の男が飛び込んだ。
「あ。目印……」
エドの言う目印を見つけたウィンリィは早速手を振り、アームストロングに声をかける。
「アームストロング少佐!」
「おお、ウィンリィ殿!」
声をかけられたアームストロングは、こちらに駆け寄る金髪の少女に顔を綻ばせ、礼儀正しく敬礼する。
「リゼンブールでは、お世話になりましたな」
「いえいえ。エルリックのバカ兄弟とキョウコがお世話になりました」
ウィンリィもアームストロングに倣 い頭を下げて挨拶をする。
場所を移動し、ウィンリィはアームストロングに案内されてにぎやかな市街地を歩く。
その華奢な両腕にはずっしりと中身の詰まった革鞄を提げていたが、アームストロングがさりげなく引き取り、彼女の荷物を持っていた。
最初、ぶんぶんっ、と恐縮したように頭を振っていたが、せっかくの好意を無下にするわけにもいかず、お言葉に甘えて荷物持ちを任せた。
「それにしてもエドの奴、こんな所まで呼び出しておいて、迎えにも来ないなんて!」
「仕方ありますまい。今は動けない状態ですからな」
「それなんですけど『動けない』って、どういう事ですか。あいつ何も言わないんですもの」
何やら意味ありげな言葉に首を捻るウィンリィは率直に問いを投げる。
アームストロングは少し渋っていたが、ここで答えを濁すわけにいかない。
「いやまぁ、なんと言いましょうか……………ちと入院してましてな」
「入院!?」
予想外の答えにウィンリィは驚きを隠せなかったが、すぐに事情を察したらしい。
頬に手を当ててぼそりとつぶやく。
「そう…あいつとうとう、犯罪起こして、少年院に…」
向こう見ずに勢い込んで、何かと騒ぎを起こす幼馴染みがついに犯罪に手を染めた……そう解釈した彼女の妄想を中断させる。
「その院ではありません」
勘違いの末に正しい情報を伝えると、その表情にはっきりと動揺の色を浮かべた。
「え……病院……?」
東方司令部に電話がかかってきたのは、忙しい仕事中の時だった。
《だ・か・ら・よ!》
聞き覚えのある、なるべくなら聞きたくない声が受話器から届く。
唐突に電話をかけてきたヒューズはでへっと笑ってデレデレしながら話しかける。
「うちの娘が三歳になるんだよ!」
開口一番、娘自慢である。
ロイは電話の相手であるヒューズに、静かに怒りを込めた声音で伝える。
「……………ヒューズ中佐……………私は今、仕事中なのだが」
《奇遇だな。俺も仕事中だ》
軍の電話回線を使い、仕事中にもかかわらず、こうして迷惑しているロイに構わず、デレデレしながら娘自慢が止まらないヒューズ。
「いや、もう毎日、かわいいのなんのってよぉ!」
《わかったから、いちいち娘自慢の電話をかけてくるな!しかも軍の回線で!》
「娘だけじゃない!妻も自慢だ!そして、キョウコも自慢だ!」
反論など一切気にせず、ヒューズは自信満々に言い切る。
議論のできない相手との会話に疲れたロイだったが、看過できない発言を聞いて強く言い返した。
《ちょっと待て!なんでそこで家族とは関係の無い名前が出てくる!私だって自慢くらいはしたいぞ!そして、何故おまえがキョウコの自慢をする!?》
「キョウコだからだ!」
正直、全く伝わらない。
《…………錬金術で電話口の相手を焼き殺す方法は無いものかな、ヒューズ》
この親バカとの会話はもうたくさんだ。
そう痛感したロイは呪いの言葉を吐き捨てると共に電話を切ろうとした。
《おーおー。焔の錬金術師はこわいねぇ――っと、錬金術師と言えば、傷の男はどうなった?》
家族を愛する父親の顔はここまでにして、軍人の顔つきになったヒューズは真面目な声で言ってきた。
消息不明のスカーの遺体を見つけるべく、捜索を続けるロイ達。
ハボックは瓦礫の撤去作業をしていた。
「こいつですかね」
憲兵は布に覆われた死体を見せる。
「ぐちゃみそでわかんねぇよ」
布の隙間から見える手は黒焦げ状態となっていて、ハボックは煙草を吹かしながら顔をしかめる。
謎の爆発によって身元不明の遺体も多数出ており、捜索は難航している状況だ。
「まだ発見されていないが、かなり大規模な爆発で、身元不明の遺体も多数出てるからな。あるいは、その中に…東部近隣での目撃情報も無いから、やはり死んだものとする意見が大勢を占めている」
《じゃあ、エルリック兄弟とキョウコの護衛 は解けるのか?》
「ああ。彼らが中央にいるのなら、中央の担当に判断をまかせよう」
すると、ヒューズの口からある朗報を聞かされる。
「その担当だがな。国家錬金術師を統制する上層部の奴らが、傷の男に殺 られて、人員不足になってる」
初めて気づいた、というふうに漏らす声の裏で、ロイは目を細める。
「ほぉ…」
軍部階級の大佐よりも遥かに上席……彼が羨 んで止まない、目指す上の地位。
中央勤務のヒューズは彼を中央に招き入れるという情報を聞きつけ、それをロイに伝える。
「マスタング大佐の中央招聘 も近いって噂だぜ」
「中央か。悪くないな」
「気をつけろよ。その歳で上層部に食い込むとなると、敵も多くなる」
「覚悟はしている」
「キョウコのように、おまえさんを理解して、支えてくれる人間を一人でも多く作っとけよ」
普段のおどけた様子はそこにはなく、彼の理想に共感し叶えようとする一人の親友として気遣う。
ここで終わるといいのだが、ヒューズは余計な一言を付け加えた。
《だから、早く嫁さんもらえ》
既婚者である親友のいらぬ世話に、ロイは声を荒げて乱暴に受話器を置く。
「やかましい!!」
「大佐。お電話はお静かに」
その場にいる誰もが驚いて思わず振り向く中、リザだけは淡々と業務をこなしながら口を開く。
乱暴に受話器を置いた直後、ロイは何かに気づいたように叫ぶ。
「……しまった!」
「どうかしたのですか?」
「キョウコが元気だとか、悪い虫がついていないとか聞くのを忘れていた!私とした事が!」
過保護なロイの言葉に、一斉に半眼になるリザ達。
キョウコに対する同情の念を送った。
ヒューズは軍の回線を使って電話していたものだから、記録係の女性に怒られていた。
「ヒューズ中佐~~。また、家庭自慢の電話ですか?」
「何?君もうらやましい?うちの娘が三歳になるんだよ~~~~~。写真見る?見る?」
「見ません!」
女性はきっぱりと断り、呆れた表情で記録簿にコード番号を書く。
「プライベートな会話に、軍の回線を使わないでくださいよ、もう…聞いてる方がはずかしいったら…………ヒューズ中佐、ヒトサンニイマル…と」
お世辞にも軍人とは言えない立ち振る舞いと、そして家族を大事にする言動のせいで呆れられているが、その冴え渡る頭脳は智勇兼備だと言ってもいい。
残念そうに苦笑しつつ、ヒューズは愛娘ではなく、キョウコの写真を取り出した。
カメラに緊張しながらもはにかんで笑う少女の、年相応の姿が写っている。
ふっ、と口許を緩ませて、ヒューズはキョウコの写真を大切に懐に収め、次に娘の写真を出して上の空。
「上の人に盗聴されたら、減給ものですよ!」
「減給ごときで俺の愛は止められんのだ、わはははは!」
不敵な笑みを浮かべて、溢れる家族愛を止められないと豪語するヒューズ。
「――あ、ロイの野郎にエドの入院の事話すの忘れてたな。ま、いっか」
ふと立ち止まると、エドの入院を話すのを忘れていて、次の一瞬で気にしないことにした。
病院に到着したウィンリィは、その光景を見て愕然とした。
「そんな!」
驚愕の面持ちで動揺するウィンリィに、キョウコは曖昧な笑みを浮かべる。
そこには、ミイラ男のように全身に包帯を巻かれたエドがベッドに横たわっていたのである。
「…こんな大ケガで入院してるなんて聞いてないよ!」
驚きと動揺のあまり、思わず荷物を落とす。
すると、ミイラ男もといエドは幾重にも巻かれた包帯の中から、もごもごと口を動かす。
「いや本来は、このケガの半分以下だったのだが…」
「エド!!」
――兄弟とキョウコが第五研究所に忍び込んだ経緯は、アームストロングの耳にも入った。
「何ッ、第五研究所に忍び込んで、大ケガをしたと!?」
「はい」
――アームストロングはすぐさまエドの入院する病室に駆け込むと、力の限り抱きしめる。
「心配したぞ、エドワードエルリックーーっっ!!!」
「ギャー!!」
――結果、エドと全身の骨は悲鳴をあげた。
「という訳だ」
キョウコが軽い頭痛を覚え、ウィンリィが露骨に顔をしかめる横で、アームストロングは軍服を脱ぎ、鍛え抜いた肉体を披露してポーズを決める。
「もー。びっくりさせないでよ」
「オレに言うな、オレに!!」
エドは顔に巻かれた包帯を外しながら愚痴をこぼす。
「くそ…おかげで、入院が長引いちまった」
「鍛え方が足りんのだ!」
「少佐と一緒にしないでください」
分厚い胸板の前で腕を組むアームストロングの発言に、キョウコは厳しくつっこむ。
「それにしても………少佐の分を差し引いたって、ひどいケガじゃない」
ウィンリィは、様々な傷を包帯で巻かれるエドの姿に心配の眼差しを向ける。
それに対して、エドは軽い口調で言い放つ。
「たいした事ねーよ、こんなの。すぐ治るケガだ」
普段ならばそこで強気に言い返すものの、いつもと違う雰囲気にエドは顔を上げる。
そこには、珍しく深刻な表情をした幼馴染みがいた。
「?なんだよ」
「…機械鎧が壊れたせいで、ケガしたのかな…あたしがきちんと、整備しなかったから………」
どこか心配するような、戸惑っているような表情が、その明るさの端に見え隠れしていた。
自分のせいで大怪我を負ったことに責任を感じる彼女に、病室が重い静寂に包まれる。
そんな、どこか気まずい空気の中、キョウコ達は険しい眼差しでエドにこう伝える。
お前がなんとかしろ。
「え?え?え?オレ?」
本人は混乱しているが。
(そんな事気にしてたのか…意外とかわいい所あるじゃん)
知って、一瞬だけ迷いに言葉を詰まらせて、どこか気まずくなった空気を吹き飛ばさんとする。
「べ、べつに、ウィンリィのせいじゃねーよ!だいたい、壊れたのは、オレが無茶な使い方をしたからで!おまえの整備は、いつも通り完璧だったしな!」
エドが必死に弁明する中、ウィンリィは矢継ぎ早に繰り出される言葉の意味をしばし吟味する。
(ネジのしめ忘れに気付いてない?)
「それに腕が壊れたから、余計なケガしなくて済んだってのもあるしよ!気にすんなよ!なっ!!」
数秒の時を経て、目の前の少年が気づいていないという理解を追いつかせた瞬間、顔色を変える。
(そして、結果オーライ?)
彼女はいつもの元気な明るい口調で開き直ると、素早くそろばんを弾き出した。
「そうね!あたしのせいじゃないわね!んじゃ早速、出張整備料金の話だけど!」
(やっぱかわいくねー!!)
エド、先程の発言を撤回。
「うむ!腕もケガもさっさと治して、早く元気なエドワード・エルリックに戻ってもらわねば!」
(あんたが言うな)
とてもいい笑顔を浮かべるアームストロングの言葉に、ブロッシュは胸中でつっこむ。
「そのためには、栄養と休養をしっかり取る事だ!」
「わかってるよ!」
すると、キョウコはベッドの隣に置かれた食事に視線を移し――一つだけ残されている牛乳を見つけた。
「…牛乳、残してる」
ぽつりとつぶやくと、エドは思い切り動揺する。
キョウコが睨むと、瞬時に目を逸らす。
「「………………」」
しばらく黙り込む二人。
やがて、その沈黙に耐えられなくなったのか、エドが苦々しく口を開いた。
「……牛乳嫌い」
その決定的な一言に、たまらずウィンリィが頭を抱えて叫ぶ。
「そんな事言ってるから、あんたいつまでたっても豆なのよう!!」
「うるせー!!こんな牛から分泌された白濁色の汁なんぞ、飲めるかー!!!」
身長の低さがコンプレックスなくせに牛乳嫌い――そんな矛盾すぎる好き嫌い。
アームストロングも厳しく叱りつける。
「わがままだぞ、エドワード・エルリック!!」
(全国の酪農家のみなさま、ごめんなさい)
エドの牛乳嫌いに即反応したウィンリィはなおも喚き立てる。
「早くケガを治したいなら、栄養はきちんととらないと!!」
「牛乳以下の他の物で栄養とってりゃ、問題無いだろ!!」
「だから身長が伸びないのよ!!」
「なにをーーーっ!!」
痛いところを突かれ、たちまち目をつり上げていく。
そして、エドとウィンリィは至近距離で額と額を突き合わせ、噛みつくように睨み合いながら子供じみた口喧嘩を始める。
「牛乳は完成栄養食と言ってねぇ!!」
「知るか!!」
騒がしい二人のやり取りに、いつもなら微笑ましく見つめるアルだったが、この時ばかりは何も言わず、静かに病室を出た。
(アル?)
ウィンリィと頬をつねられるエドは疑問符を浮かべ、キョウコは横目で窺い、悲しげに表情を揺らした。
キョウコの前では、漆黒の大型拳銃――通称《スノー・ブラック》がバラバラに分割され並べられている。
動作と照準の安定性、使用状況を問わないタフさにおいて非常にハイバランスを誇る拳銃だ。
メンテナンスを終えたキョウコは、それらを手早く組み立て始める。
キョウコときたら、射撃の腕前は随一なだけあって、異様なほど扱いに手慣れている。
あっさり銃を組み立ててみせた。
エドに呼ばれ、中央へと汽車で赴いたウィンリィは駅に到着し、硬いシートに長時間座ったせいで痛む尻を押さえながら呻き声をあげる。
「あいつら、よくこんなのに、しょっちゅう乗ってられるわね」
汽車の乗り心地の悪さに愚痴をこぼしつつ、珍しそうにきょろきょろ周囲を見回す。
さすがは国家の中枢・中央であり、駅にはたくさんの訪客が未だに引きも切らずの勢いで溢れ出している。
「さすが、中央は人が多いなぁ…エドの奴『西口で目印が立ってるから、すぐわかる』って言ってたけど、目印って……」
人混みに揉まれながらも目印を探すウィンリィの視界に、一際大柄な軍人の男が飛び込んだ。
「あ。目印……」
エドの言う目印を見つけたウィンリィは早速手を振り、アームストロングに声をかける。
「アームストロング少佐!」
「おお、ウィンリィ殿!」
声をかけられたアームストロングは、こちらに駆け寄る金髪の少女に顔を綻ばせ、礼儀正しく敬礼する。
「リゼンブールでは、お世話になりましたな」
「いえいえ。エルリックのバカ兄弟とキョウコがお世話になりました」
ウィンリィもアームストロングに
場所を移動し、ウィンリィはアームストロングに案内されてにぎやかな市街地を歩く。
その華奢な両腕にはずっしりと中身の詰まった革鞄を提げていたが、アームストロングがさりげなく引き取り、彼女の荷物を持っていた。
最初、ぶんぶんっ、と恐縮したように頭を振っていたが、せっかくの好意を無下にするわけにもいかず、お言葉に甘えて荷物持ちを任せた。
「それにしてもエドの奴、こんな所まで呼び出しておいて、迎えにも来ないなんて!」
「仕方ありますまい。今は動けない状態ですからな」
「それなんですけど『動けない』って、どういう事ですか。あいつ何も言わないんですもの」
何やら意味ありげな言葉に首を捻るウィンリィは率直に問いを投げる。
アームストロングは少し渋っていたが、ここで答えを濁すわけにいかない。
「いやまぁ、なんと言いましょうか……………ちと入院してましてな」
「入院!?」
予想外の答えにウィンリィは驚きを隠せなかったが、すぐに事情を察したらしい。
頬に手を当ててぼそりとつぶやく。
「そう…あいつとうとう、犯罪起こして、少年院に…」
向こう見ずに勢い込んで、何かと騒ぎを起こす幼馴染みがついに犯罪に手を染めた……そう解釈した彼女の妄想を中断させる。
「その院ではありません」
勘違いの末に正しい情報を伝えると、その表情にはっきりと動揺の色を浮かべた。
「え……病院……?」
東方司令部に電話がかかってきたのは、忙しい仕事中の時だった。
《だ・か・ら・よ!》
聞き覚えのある、なるべくなら聞きたくない声が受話器から届く。
唐突に電話をかけてきたヒューズはでへっと笑ってデレデレしながら話しかける。
「うちの娘が三歳になるんだよ!」
開口一番、娘自慢である。
ロイは電話の相手であるヒューズに、静かに怒りを込めた声音で伝える。
「……………ヒューズ中佐……………私は今、仕事中なのだが」
《奇遇だな。俺も仕事中だ》
軍の電話回線を使い、仕事中にもかかわらず、こうして迷惑しているロイに構わず、デレデレしながら娘自慢が止まらないヒューズ。
「いや、もう毎日、かわいいのなんのってよぉ!」
《わかったから、いちいち娘自慢の電話をかけてくるな!しかも軍の回線で!》
「娘だけじゃない!妻も自慢だ!そして、キョウコも自慢だ!」
反論など一切気にせず、ヒューズは自信満々に言い切る。
議論のできない相手との会話に疲れたロイだったが、看過できない発言を聞いて強く言い返した。
《ちょっと待て!なんでそこで家族とは関係の無い名前が出てくる!私だって自慢くらいはしたいぞ!そして、何故おまえがキョウコの自慢をする!?》
「キョウコだからだ!」
正直、全く伝わらない。
《…………錬金術で電話口の相手を焼き殺す方法は無いものかな、ヒューズ》
この親バカとの会話はもうたくさんだ。
そう痛感したロイは呪いの言葉を吐き捨てると共に電話を切ろうとした。
《おーおー。焔の錬金術師はこわいねぇ――っと、錬金術師と言えば、傷の男はどうなった?》
家族を愛する父親の顔はここまでにして、軍人の顔つきになったヒューズは真面目な声で言ってきた。
消息不明のスカーの遺体を見つけるべく、捜索を続けるロイ達。
ハボックは瓦礫の撤去作業をしていた。
「こいつですかね」
憲兵は布に覆われた死体を見せる。
「ぐちゃみそでわかんねぇよ」
布の隙間から見える手は黒焦げ状態となっていて、ハボックは煙草を吹かしながら顔をしかめる。
謎の爆発によって身元不明の遺体も多数出ており、捜索は難航している状況だ。
「まだ発見されていないが、かなり大規模な爆発で、身元不明の遺体も多数出てるからな。あるいは、その中に…東部近隣での目撃情報も無いから、やはり死んだものとする意見が大勢を占めている」
《じゃあ、エルリック兄弟とキョウコの
「ああ。彼らが中央にいるのなら、中央の担当に判断をまかせよう」
すると、ヒューズの口からある朗報を聞かされる。
「その担当だがな。国家錬金術師を統制する上層部の奴らが、傷の男に
初めて気づいた、というふうに漏らす声の裏で、ロイは目を細める。
「ほぉ…」
軍部階級の大佐よりも遥かに上席……彼が
中央勤務のヒューズは彼を中央に招き入れるという情報を聞きつけ、それをロイに伝える。
「マスタング大佐の中央
「中央か。悪くないな」
「気をつけろよ。その歳で上層部に食い込むとなると、敵も多くなる」
「覚悟はしている」
「キョウコのように、おまえさんを理解して、支えてくれる人間を一人でも多く作っとけよ」
普段のおどけた様子はそこにはなく、彼の理想に共感し叶えようとする一人の親友として気遣う。
ここで終わるといいのだが、ヒューズは余計な一言を付け加えた。
《だから、早く嫁さんもらえ》
既婚者である親友のいらぬ世話に、ロイは声を荒げて乱暴に受話器を置く。
「やかましい!!」
「大佐。お電話はお静かに」
その場にいる誰もが驚いて思わず振り向く中、リザだけは淡々と業務をこなしながら口を開く。
乱暴に受話器を置いた直後、ロイは何かに気づいたように叫ぶ。
「……しまった!」
「どうかしたのですか?」
「キョウコが元気だとか、悪い虫がついていないとか聞くのを忘れていた!私とした事が!」
過保護なロイの言葉に、一斉に半眼になるリザ達。
キョウコに対する同情の念を送った。
ヒューズは軍の回線を使って電話していたものだから、記録係の女性に怒られていた。
「ヒューズ中佐~~。また、家庭自慢の電話ですか?」
「何?君もうらやましい?うちの娘が三歳になるんだよ~~~~~。写真見る?見る?」
「見ません!」
女性はきっぱりと断り、呆れた表情で記録簿にコード番号を書く。
「プライベートな会話に、軍の回線を使わないでくださいよ、もう…聞いてる方がはずかしいったら…………ヒューズ中佐、ヒトサンニイマル…と」
お世辞にも軍人とは言えない立ち振る舞いと、そして家族を大事にする言動のせいで呆れられているが、その冴え渡る頭脳は智勇兼備だと言ってもいい。
残念そうに苦笑しつつ、ヒューズは愛娘ではなく、キョウコの写真を取り出した。
カメラに緊張しながらもはにかんで笑う少女の、年相応の姿が写っている。
ふっ、と口許を緩ませて、ヒューズはキョウコの写真を大切に懐に収め、次に娘の写真を出して上の空。
「上の人に盗聴されたら、減給ものですよ!」
「減給ごときで俺の愛は止められんのだ、わはははは!」
不敵な笑みを浮かべて、溢れる家族愛を止められないと豪語するヒューズ。
「――あ、ロイの野郎にエドの入院の事話すの忘れてたな。ま、いっか」
ふと立ち止まると、エドの入院を話すのを忘れていて、次の一瞬で気にしないことにした。
病院に到着したウィンリィは、その光景を見て愕然とした。
「そんな!」
驚愕の面持ちで動揺するウィンリィに、キョウコは曖昧な笑みを浮かべる。
そこには、ミイラ男のように全身に包帯を巻かれたエドがベッドに横たわっていたのである。
「…こんな大ケガで入院してるなんて聞いてないよ!」
驚きと動揺のあまり、思わず荷物を落とす。
すると、ミイラ男もといエドは幾重にも巻かれた包帯の中から、もごもごと口を動かす。
「いや本来は、このケガの半分以下だったのだが…」
「エド!!」
――兄弟とキョウコが第五研究所に忍び込んだ経緯は、アームストロングの耳にも入った。
「何ッ、第五研究所に忍び込んで、大ケガをしたと!?」
「はい」
――アームストロングはすぐさまエドの入院する病室に駆け込むと、力の限り抱きしめる。
「心配したぞ、エドワードエルリックーーっっ!!!」
「ギャー!!」
――結果、エドと全身の骨は悲鳴をあげた。
「という訳だ」
キョウコが軽い頭痛を覚え、ウィンリィが露骨に顔をしかめる横で、アームストロングは軍服を脱ぎ、鍛え抜いた肉体を披露してポーズを決める。
「もー。びっくりさせないでよ」
「オレに言うな、オレに!!」
エドは顔に巻かれた包帯を外しながら愚痴をこぼす。
「くそ…おかげで、入院が長引いちまった」
「鍛え方が足りんのだ!」
「少佐と一緒にしないでください」
分厚い胸板の前で腕を組むアームストロングの発言に、キョウコは厳しくつっこむ。
「それにしても………少佐の分を差し引いたって、ひどいケガじゃない」
ウィンリィは、様々な傷を包帯で巻かれるエドの姿に心配の眼差しを向ける。
それに対して、エドは軽い口調で言い放つ。
「たいした事ねーよ、こんなの。すぐ治るケガだ」
普段ならばそこで強気に言い返すものの、いつもと違う雰囲気にエドは顔を上げる。
そこには、珍しく深刻な表情をした幼馴染みがいた。
「?なんだよ」
「…機械鎧が壊れたせいで、ケガしたのかな…あたしがきちんと、整備しなかったから………」
どこか心配するような、戸惑っているような表情が、その明るさの端に見え隠れしていた。
自分のせいで大怪我を負ったことに責任を感じる彼女に、病室が重い静寂に包まれる。
そんな、どこか気まずい空気の中、キョウコ達は険しい眼差しでエドにこう伝える。
お前がなんとかしろ。
「え?え?え?オレ?」
本人は混乱しているが。
(そんな事気にしてたのか…意外とかわいい所あるじゃん)
知って、一瞬だけ迷いに言葉を詰まらせて、どこか気まずくなった空気を吹き飛ばさんとする。
「べ、べつに、ウィンリィのせいじゃねーよ!だいたい、壊れたのは、オレが無茶な使い方をしたからで!おまえの整備は、いつも通り完璧だったしな!」
エドが必死に弁明する中、ウィンリィは矢継ぎ早に繰り出される言葉の意味をしばし吟味する。
(ネジのしめ忘れに気付いてない?)
「それに腕が壊れたから、余計なケガしなくて済んだってのもあるしよ!気にすんなよ!なっ!!」
数秒の時を経て、目の前の少年が気づいていないという理解を追いつかせた瞬間、顔色を変える。
(そして、結果オーライ?)
彼女はいつもの元気な明るい口調で開き直ると、素早くそろばんを弾き出した。
「そうね!あたしのせいじゃないわね!んじゃ早速、出張整備料金の話だけど!」
(やっぱかわいくねー!!)
エド、先程の発言を撤回。
「うむ!腕もケガもさっさと治して、早く元気なエドワード・エルリックに戻ってもらわねば!」
(あんたが言うな)
とてもいい笑顔を浮かべるアームストロングの言葉に、ブロッシュは胸中でつっこむ。
「そのためには、栄養と休養をしっかり取る事だ!」
「わかってるよ!」
すると、キョウコはベッドの隣に置かれた食事に視線を移し――一つだけ残されている牛乳を見つけた。
「…牛乳、残してる」
ぽつりとつぶやくと、エドは思い切り動揺する。
キョウコが睨むと、瞬時に目を逸らす。
「「………………」」
しばらく黙り込む二人。
やがて、その沈黙に耐えられなくなったのか、エドが苦々しく口を開いた。
「……牛乳嫌い」
その決定的な一言に、たまらずウィンリィが頭を抱えて叫ぶ。
「そんな事言ってるから、あんたいつまでたっても豆なのよう!!」
「うるせー!!こんな牛から分泌された白濁色の汁なんぞ、飲めるかー!!!」
身長の低さがコンプレックスなくせに牛乳嫌い――そんな矛盾すぎる好き嫌い。
アームストロングも厳しく叱りつける。
「わがままだぞ、エドワード・エルリック!!」
(全国の酪農家のみなさま、ごめんなさい)
エドの牛乳嫌いに即反応したウィンリィはなおも喚き立てる。
「早くケガを治したいなら、栄養はきちんととらないと!!」
「牛乳以下の他の物で栄養とってりゃ、問題無いだろ!!」
「だから身長が伸びないのよ!!」
「なにをーーーっ!!」
痛いところを突かれ、たちまち目をつり上げていく。
そして、エドとウィンリィは至近距離で額と額を突き合わせ、噛みつくように睨み合いながら子供じみた口喧嘩を始める。
「牛乳は完成栄養食と言ってねぇ!!」
「知るか!!」
騒がしい二人のやり取りに、いつもなら微笑ましく見つめるアルだったが、この時ばかりは何も言わず、静かに病室を出た。
(アル?)
ウィンリィと頬をつねられるエドは疑問符を浮かべ、キョウコは横目で窺い、悲しげに表情を揺らした。
キョウコの前では、漆黒の大型拳銃――通称《スノー・ブラック》がバラバラに分割され並べられている。
動作と照準の安定性、使用状況を問わないタフさにおいて非常にハイバランスを誇る拳銃だ。
メンテナンスを終えたキョウコは、それらを手早く組み立て始める。
キョウコときたら、射撃の腕前は随一なだけあって、異様なほど扱いに手慣れている。
あっさり銃を組み立ててみせた。