第11話
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それは苦難に歓喜を。
戦いに勝利を。
暗黒に光を。
死者に生を約束する。
血のごとき紅 き石。
人はそれを敬意をもって呼ぶ。
「賢者の石」と。
床に散乱した資料の山と、そこに記されていた真実。
それは確かに、知らない方が幸せだったのかもしれない。
その口からこぼれるのは、辛苦の響き。
「たしかにこれは、知らない方が幸せだったかもしれないな。この資料が正しければ、賢者の石の材料は生きた人間…しかも石を一個精製するのに、複数の犠牲が必要って事だ…!」
長い時間をかけて解読した、マルコーが書き記した賢者の石に関する暗号資料。
その結果が、石の材料は生きた人間であり、しかも一個を精製するのに複数の人間が必要だということ。
「そんな、非人道的な事が軍の機関で行われているなんて…」
「許される事じゃないでしょう!」
身も凍るような恐怖を覚えるロスとブロッシュ。
「そう、許される事じゃない。でも、これは紛れも無い事実」
キョウコはいきなり冷淡に告げ、恐怖に身をすくませる二人へ向き直る。
「……ロス少尉、ブロッシュ軍曹」
「「はっ!」」
その呼びかけに、二人は幼い少女から醸し出される貫禄と存在感を感じて表情を引き締める。
「この事は、誰にも言わないでくれますか」
「しかし…」
何か言いたげなブロッシュの抗議を遮って、エドはか細い声で懇願する。
「たのむ。たのむから、聞かなかった事にしといてくれよ」
スカーとグラトニーが交戦した地下水道の跡地を見て、憲兵は唖然とした。
「うわ…ガス爆発か?」
度重なる爆発に砕かれ吹き飛んで、瓦礫の山と成り果てた地下水道の痕跡も残していない。
「わからんな。テロかもしれん」
「おいおい。かんべんしてくれよ。傷の男の件も片付いてないところに…」
(最近、市街破壊多いなぁ)
目の前の光景に愕然とする憲兵の横で、もう一人の憲兵はつい、そんなことを思う。
「…なんだ、あれ」
不意に視線を移すと、血に塗 れたジャケットが水面に浮かんでいた。
「――どう思う?」
その後、現場の状況を視察しにロイ達が到着した。
血に塗れたジャケットを手に取ったリザがスカーの私服だと確認する。
「傷の男が着ていた物に、間違いないと思います」
「死体は出たか?」
「捜索はしてますが、あのガレキの下を全部確認するとなると、何週間かかるやら」
リザは周囲の惨憺たる状況を見渡した。
激しい戦闘で爆砕した地下水道は見るも無惨な姿となり、瓦礫の山にはスカーらしき死体がない。
「どのみち、この出血量では無事ではいないでしょうけれど…」
「うむ…しかし、奴の死亡を確認するまで油断はできん。ハボック少尉!」
険しく眉を寄せるロイは煙草を吹かすハボックを呼ぶ。
「はい?」
「おまえの隊はガレキの撤去作業を進めろ、昼も夜も休み無しだ!なんとしても、奴の死体を引っぱり出せ!」
「うへぇ、かんべんしてくださいよ。俺らを過労死させる気ですか」
顔をしかめる部下の愚痴を、青筋を立てて斬り捨てる。
「うるさい!奴の死体をこの目で見るまで、私は落ち着いてデートもできんし、安心してキョウコを呼び戻せんのだ!」
「ああ、そうですか」
上司が切羽詰まったように告げる、不純と過保護な理由に、ハボックは投げやりな口調で答えた。
ロイ達が必死にスカーの捜索を続ける様子を、現場から離れた場所でラストとグラトニーが眺める。
「……逃げられちゃったわね」
「食べそこねた」
スカーを仕留め(食べ)損ねたグラトニーは恨めしそうに涙を浮かべ、指をかじる。
「はいはい。また今度ね」
恨めしげなグラトニーに対して、ラストは軽くあしらうと即座に思考を切り替える。
「ま。あれだけやっとけば、傷の男 もしばらく動けないでしょ。私はまた、中央に戻るわ。お父様に報告しておかなくちゃね」
三人の宿泊するホテルのロビーにアームストロング、ロス、ブロッシュは集まっていた。
「何?エルリック兄弟とキョウコ・アルジェントは今日もまた、部屋に閉じ籠もっていると?」
部下からの報告に、彼は訝しげに眉根を寄せる。
「ええ。今日は食事も、まだのようです」
「むう…疲れが溜まっていたのだろうか。このところ、根 を詰めておったようだしな」
「はぁ…」
アームストロングの話に生返事をすると、二人はすぐさま顔を近づけて小声で話し合う。
「無理もないわよ。苦労して解読した研究資料の内容が、あんな……」
「ダメージでかかったんでしょうね。オレも思い出しただけで、胸くそ悪くなりますよ」
ひそひそと囁き合う二人の会話に、アームストロングは早速気づいた。
不思議そうに首を傾げて声をかける。
「なんだ?」
「「いえ。なんでもありません」」
何かを隠そうとする二人の反応に瞬時に察し、半眼になって問いつめる。
「あやしい」
――ひー!!
アームストロングの筋骨隆々な身体に脅され、二人は否応なしに答えざるを得なかった。
判明した恐ろしい真実を知った次の日から、三人は食事も取らずに部屋に閉じこもっていた。
部屋に引きこもりのエドはコートと上着を脱ぎ、黒のシャツとズボンでソファに寝転がり、アルはソファの背もたれに座る。
「……兄さん、ごはん食べに行っといでよ」
「いらん」
その言葉だけ終わって会話は続かず、重苦しい静寂が部屋を包み込む。
しばらくして、エドが重い口を開いた。
「………しんどいな」
「………うん」
それに応えるアルの返事も元気がない。
エドは機械鎧の右手を天井に伸ばして逡巡するように言葉を紡ぐ。
「なんか、こう……手の届く所に来たなと思ったら逃げられて、それのくり返しで、やっとの思いでつかんだら今度は、つかんだそいつに蹴落とされてさ…」
微かに金色の瞳を翳 らせ、握りしめた右手を額の上にのせた。
「はは…神サマは禁忌を犯した人間を、とことん嫌うらしい。オレ達、一生このままかな」
ああ、神様は残酷だ。
一生、元の身体に戻れないのか。
そんな耐えがたい虚無感と絶望感に苛まれる。
そんな思考放棄を無理矢理にせき止め、口をつぐんだ。
そして、エドはアルを見もせずにつぶやいた。
「――なぁ、アル。オレさ…ずっとおまえに言おうと思ってたけど、怖くて言えなかった事があるんだ…」
「何?」
その時、廊下からこちらの部屋に向かう足音が聞こえる。
「ちょっ…お待ちください!!」
「二人とも、休んでいるところですので………」
必死に止めようとするロスとブロッシュの声が聞こえ、キョウコの悲鳴が届く。
「少佐ーー!!降ろしてくださいーー!!」
次に、激しくノックされる音。
否、扉が軋み部屋が震えるそれは、既にノックという範疇を超越して打撃の領域に足を踏み入れていた。
「エルリック兄弟!!居るのであろう!?我輩だ!!ここを開けんか!!」
遠雷のように重く深いアームストロングの大声に、
「う・わ――」
二人の表情が一気に引きつる。
「どうしよう?」
「シカトだ、シカト!!鍵かかってるし、居留守きめこむぞ!!」
「むん!!」
無視を決め込んだ直後、いとも簡単に扉が叩き壊れた。
「聞いたぞ、エドワード・エルリック!!」
右手に壊れたドアノブ、左脇にキョウコを抱えてアームストロングが入ってきた。
「……」
後ろには、止めようとしたブロッシュが涙を流して立っている。
二人が恐怖に顔を歪めるのを横目に、アームストロングは拳を握りしめ、滂沱と涙を流す。
「なんたる悲劇!!賢者の石にそのようなおそるべき秘密が隠されていようとは!!」
その後ろで、ロスとブロッシュは申し訳なさそうに汗を流す。
「しかもその地獄の研究が、軍の下の機関で行われていたとするならば、これは由々しき事態である!!我輩だまって、見過ごす訳にはいかん!!」
全く事情を知らないはずのアームストロングが賢者の石の真実を知っている。
エドは二人を無言で睨みつけた。
「……………………」
「ごごご、ごめんなさい…」
「あんな暑苦しい人に詰め寄られたら、喋らざるをえなくて…」
アームストロングに抱えられていたキョウコは解放され、アルに背中をぽんぽん叩かれながら慰めてもらっていた。
「アルぅぅ~~。怖かったよ~~」
「おー。よーし、よーし」
同じく、部屋に引きこもっていたキョウコも先程の手口で扉を破壊され、無理矢理連れてこられたのだ。
ふとブロッシュが、手袋をはめていないエドの右手を見て疑問符を浮かべる。
「…あれ?右手、義手だったんですか」
「ああ…えーと、東部の内乱の時に、ちょっとね…」
「そそ、それで、元の身体に戻るのに、賢者の石が必要でして」
兄弟は必死に取り繕いながら言葉を紡ぐ。
たちまち恐縮したように目を伏せ、ブロッシュは兄弟に同情する。
「そうですか…それがあんな事になってしまって、残念ですね」
「真実は時として、残酷なものよ」
アームストロングの心底からの悲嘆の言い回し。
その時だった。
キョウコの表情が突然、強張った。
彼女がこれまで研ぎ澄ましてきた感覚で、その意味を探る。
「ねぇ。エド」
「なんだ?」
「マルコーさん、駅で言ってたよね…『真実の奥の、更なる真実』…………」
そう言って、キョウコは先のマルコーから告げられた言葉を反芻 する。
エドは、そんなキョウコを鋭い目で観察し……やがて、その表情に何かただならぬものを鋭敏に感じ取った。
顎に手を当てる。
考えねばならなかった。
「そうか…まだ何か、あるんだ…何か……」
そして今度こそ、エドは辿り着いた。
戦慄と共に、さらなる真実を知った。
エドがテーブルに広げた地図に、皆の視線は集中する。
「軍の下にある錬金術研究所は、中央市内に現在4か所。そのうち、ドクター・マルコーが所属していたのは、第三研究所」
さらなる真実を探るため、軍が管理する錬金術研究所に目星をつけてマルコーと関係が深い研究所を見つけようとする。
「ここが一番、あやしいな」
「うーん…市内の研究所はオレが国家資格とって、すぐに全部回ってみたけど、ここはそんなにたいした研究所はしてなかったような………」
すると、エドは地図のある場所を指差した。
「これ…この建物、なんだろう」
その質問に、キョウコが答える。
「以前は第五研究所とよばれた建物だけど、現在は使用されていない、ただの廃屋よ。崩壊の危険性があるから、立入禁止になっているは…ず………エド!」
「ああ!これだ」
確信を得たように頷く二人に、ブロッシュが首を捻る。
「え?なんの確証があって?」
エドは研究所の隣の建物を指で示す。
「となりに刑務所がある」
「えっと……」
「賢者の石を作るために、生きた人間が材料として必要って事は材料調達の場がいるって事です。たしか、死刑囚は処刑後も遺族に遺体は返されない」
いつもの明晰 さで語るキョウコの解説に、エドが確たるを考えを返す。
「表向きには刑務所内の絞首台で死んだ事にしておいて、生きたままこっそり、刑務所に移動される。そこで、賢者の石に使われる…そうすると、刑務所に一番近い施設があやしいって考えられないか?」
二人の説明でロスとブロッシュの瞳に理解の色が浮かぶ。
すると、ロスの顔が真っ青になった。
「…囚人が材料……」
「嫌な顔しないでくれよ。説明してるこっちも嫌なんだから」
顔を真っ青にさせる彼女に、エドも同じ気分なのか冷や汗を浮かべながら苦々しく告げる。
「刑務所がらみって事は、やはり政府も一枚、かんでるって事ですかね」
「一枚かんでるのが、刑務所の所長レベルか政府レベルかは、わからないけどね」
ブロッシュから漏れたその言葉に、キョウコが失笑する。
戦いに勝利を。
暗黒に光を。
死者に生を約束する。
血のごとき
人はそれを敬意をもって呼ぶ。
「賢者の石」と。
床に散乱した資料の山と、そこに記されていた真実。
それは確かに、知らない方が幸せだったのかもしれない。
その口からこぼれるのは、辛苦の響き。
「たしかにこれは、知らない方が幸せだったかもしれないな。この資料が正しければ、賢者の石の材料は生きた人間…しかも石を一個精製するのに、複数の犠牲が必要って事だ…!」
長い時間をかけて解読した、マルコーが書き記した賢者の石に関する暗号資料。
その結果が、石の材料は生きた人間であり、しかも一個を精製するのに複数の人間が必要だということ。
「そんな、非人道的な事が軍の機関で行われているなんて…」
「許される事じゃないでしょう!」
身も凍るような恐怖を覚えるロスとブロッシュ。
「そう、許される事じゃない。でも、これは紛れも無い事実」
キョウコはいきなり冷淡に告げ、恐怖に身をすくませる二人へ向き直る。
「……ロス少尉、ブロッシュ軍曹」
「「はっ!」」
その呼びかけに、二人は幼い少女から醸し出される貫禄と存在感を感じて表情を引き締める。
「この事は、誰にも言わないでくれますか」
「しかし…」
何か言いたげなブロッシュの抗議を遮って、エドはか細い声で懇願する。
「たのむ。たのむから、聞かなかった事にしといてくれよ」
スカーとグラトニーが交戦した地下水道の跡地を見て、憲兵は唖然とした。
「うわ…ガス爆発か?」
度重なる爆発に砕かれ吹き飛んで、瓦礫の山と成り果てた地下水道の痕跡も残していない。
「わからんな。テロかもしれん」
「おいおい。かんべんしてくれよ。傷の男の件も片付いてないところに…」
(最近、市街破壊多いなぁ)
目の前の光景に愕然とする憲兵の横で、もう一人の憲兵はつい、そんなことを思う。
「…なんだ、あれ」
不意に視線を移すと、血に
「――どう思う?」
その後、現場の状況を視察しにロイ達が到着した。
血に塗れたジャケットを手に取ったリザがスカーの私服だと確認する。
「傷の男が着ていた物に、間違いないと思います」
「死体は出たか?」
「捜索はしてますが、あのガレキの下を全部確認するとなると、何週間かかるやら」
リザは周囲の惨憺たる状況を見渡した。
激しい戦闘で爆砕した地下水道は見るも無惨な姿となり、瓦礫の山にはスカーらしき死体がない。
「どのみち、この出血量では無事ではいないでしょうけれど…」
「うむ…しかし、奴の死亡を確認するまで油断はできん。ハボック少尉!」
険しく眉を寄せるロイは煙草を吹かすハボックを呼ぶ。
「はい?」
「おまえの隊はガレキの撤去作業を進めろ、昼も夜も休み無しだ!なんとしても、奴の死体を引っぱり出せ!」
「うへぇ、かんべんしてくださいよ。俺らを過労死させる気ですか」
顔をしかめる部下の愚痴を、青筋を立てて斬り捨てる。
「うるさい!奴の死体をこの目で見るまで、私は落ち着いてデートもできんし、安心してキョウコを呼び戻せんのだ!」
「ああ、そうですか」
上司が切羽詰まったように告げる、不純と過保護な理由に、ハボックは投げやりな口調で答えた。
ロイ達が必死にスカーの捜索を続ける様子を、現場から離れた場所でラストとグラトニーが眺める。
「……逃げられちゃったわね」
「食べそこねた」
スカーを仕留め(食べ)損ねたグラトニーは恨めしそうに涙を浮かべ、指をかじる。
「はいはい。また今度ね」
恨めしげなグラトニーに対して、ラストは軽くあしらうと即座に思考を切り替える。
「ま。あれだけやっとけば、
三人の宿泊するホテルのロビーにアームストロング、ロス、ブロッシュは集まっていた。
「何?エルリック兄弟とキョウコ・アルジェントは今日もまた、部屋に閉じ籠もっていると?」
部下からの報告に、彼は訝しげに眉根を寄せる。
「ええ。今日は食事も、まだのようです」
「むう…疲れが溜まっていたのだろうか。このところ、
「はぁ…」
アームストロングの話に生返事をすると、二人はすぐさま顔を近づけて小声で話し合う。
「無理もないわよ。苦労して解読した研究資料の内容が、あんな……」
「ダメージでかかったんでしょうね。オレも思い出しただけで、胸くそ悪くなりますよ」
ひそひそと囁き合う二人の会話に、アームストロングは早速気づいた。
不思議そうに首を傾げて声をかける。
「なんだ?」
「「いえ。なんでもありません」」
何かを隠そうとする二人の反応に瞬時に察し、半眼になって問いつめる。
「あやしい」
――ひー!!
アームストロングの筋骨隆々な身体に脅され、二人は否応なしに答えざるを得なかった。
判明した恐ろしい真実を知った次の日から、三人は食事も取らずに部屋に閉じこもっていた。
部屋に引きこもりのエドはコートと上着を脱ぎ、黒のシャツとズボンでソファに寝転がり、アルはソファの背もたれに座る。
「……兄さん、ごはん食べに行っといでよ」
「いらん」
その言葉だけ終わって会話は続かず、重苦しい静寂が部屋を包み込む。
しばらくして、エドが重い口を開いた。
「………しんどいな」
「………うん」
それに応えるアルの返事も元気がない。
エドは機械鎧の右手を天井に伸ばして逡巡するように言葉を紡ぐ。
「なんか、こう……手の届く所に来たなと思ったら逃げられて、それのくり返しで、やっとの思いでつかんだら今度は、つかんだそいつに蹴落とされてさ…」
微かに金色の瞳を
「はは…神サマは禁忌を犯した人間を、とことん嫌うらしい。オレ達、一生このままかな」
ああ、神様は残酷だ。
一生、元の身体に戻れないのか。
そんな耐えがたい虚無感と絶望感に苛まれる。
そんな思考放棄を無理矢理にせき止め、口をつぐんだ。
そして、エドはアルを見もせずにつぶやいた。
「――なぁ、アル。オレさ…ずっとおまえに言おうと思ってたけど、怖くて言えなかった事があるんだ…」
「何?」
その時、廊下からこちらの部屋に向かう足音が聞こえる。
「ちょっ…お待ちください!!」
「二人とも、休んでいるところですので………」
必死に止めようとするロスとブロッシュの声が聞こえ、キョウコの悲鳴が届く。
「少佐ーー!!降ろしてくださいーー!!」
次に、激しくノックされる音。
否、扉が軋み部屋が震えるそれは、既にノックという範疇を超越して打撃の領域に足を踏み入れていた。
「エルリック兄弟!!居るのであろう!?我輩だ!!ここを開けんか!!」
遠雷のように重く深いアームストロングの大声に、
「う・わ――」
二人の表情が一気に引きつる。
「どうしよう?」
「シカトだ、シカト!!鍵かかってるし、居留守きめこむぞ!!」
「むん!!」
無視を決め込んだ直後、いとも簡単に扉が叩き壊れた。
「聞いたぞ、エドワード・エルリック!!」
右手に壊れたドアノブ、左脇にキョウコを抱えてアームストロングが入ってきた。
「……」
後ろには、止めようとしたブロッシュが涙を流して立っている。
二人が恐怖に顔を歪めるのを横目に、アームストロングは拳を握りしめ、滂沱と涙を流す。
「なんたる悲劇!!賢者の石にそのようなおそるべき秘密が隠されていようとは!!」
その後ろで、ロスとブロッシュは申し訳なさそうに汗を流す。
「しかもその地獄の研究が、軍の下の機関で行われていたとするならば、これは由々しき事態である!!我輩だまって、見過ごす訳にはいかん!!」
全く事情を知らないはずのアームストロングが賢者の石の真実を知っている。
エドは二人を無言で睨みつけた。
「……………………」
「ごごご、ごめんなさい…」
「あんな暑苦しい人に詰め寄られたら、喋らざるをえなくて…」
アームストロングに抱えられていたキョウコは解放され、アルに背中をぽんぽん叩かれながら慰めてもらっていた。
「アルぅぅ~~。怖かったよ~~」
「おー。よーし、よーし」
同じく、部屋に引きこもっていたキョウコも先程の手口で扉を破壊され、無理矢理連れてこられたのだ。
ふとブロッシュが、手袋をはめていないエドの右手を見て疑問符を浮かべる。
「…あれ?右手、義手だったんですか」
「ああ…えーと、東部の内乱の時に、ちょっとね…」
「そそ、それで、元の身体に戻るのに、賢者の石が必要でして」
兄弟は必死に取り繕いながら言葉を紡ぐ。
たちまち恐縮したように目を伏せ、ブロッシュは兄弟に同情する。
「そうですか…それがあんな事になってしまって、残念ですね」
「真実は時として、残酷なものよ」
アームストロングの心底からの悲嘆の言い回し。
その時だった。
キョウコの表情が突然、強張った。
彼女がこれまで研ぎ澄ましてきた感覚で、その意味を探る。
「ねぇ。エド」
「なんだ?」
「マルコーさん、駅で言ってたよね…『真実の奥の、更なる真実』…………」
そう言って、キョウコは先のマルコーから告げられた言葉を
エドは、そんなキョウコを鋭い目で観察し……やがて、その表情に何かただならぬものを鋭敏に感じ取った。
顎に手を当てる。
考えねばならなかった。
「そうか…まだ何か、あるんだ…何か……」
そして今度こそ、エドは辿り着いた。
戦慄と共に、さらなる真実を知った。
エドがテーブルに広げた地図に、皆の視線は集中する。
「軍の下にある錬金術研究所は、中央市内に現在4か所。そのうち、ドクター・マルコーが所属していたのは、第三研究所」
さらなる真実を探るため、軍が管理する錬金術研究所に目星をつけてマルコーと関係が深い研究所を見つけようとする。
「ここが一番、あやしいな」
「うーん…市内の研究所はオレが国家資格とって、すぐに全部回ってみたけど、ここはそんなにたいした研究所はしてなかったような………」
すると、エドは地図のある場所を指差した。
「これ…この建物、なんだろう」
その質問に、キョウコが答える。
「以前は第五研究所とよばれた建物だけど、現在は使用されていない、ただの廃屋よ。崩壊の危険性があるから、立入禁止になっているは…ず………エド!」
「ああ!これだ」
確信を得たように頷く二人に、ブロッシュが首を捻る。
「え?なんの確証があって?」
エドは研究所の隣の建物を指で示す。
「となりに刑務所がある」
「えっと……」
「賢者の石を作るために、生きた人間が材料として必要って事は材料調達の場がいるって事です。たしか、死刑囚は処刑後も遺族に遺体は返されない」
いつもの
「表向きには刑務所内の絞首台で死んだ事にしておいて、生きたままこっそり、刑務所に移動される。そこで、賢者の石に使われる…そうすると、刑務所に一番近い施設があやしいって考えられないか?」
二人の説明でロスとブロッシュの瞳に理解の色が浮かぶ。
すると、ロスの顔が真っ青になった。
「…囚人が材料……」
「嫌な顔しないでくれよ。説明してるこっちも嫌なんだから」
顔を真っ青にさせる彼女に、エドも同じ気分なのか冷や汗を浮かべながら苦々しく告げる。
「刑務所がらみって事は、やはり政府も一枚、かんでるって事ですかね」
「一枚かんでるのが、刑務所の所長レベルか政府レベルかは、わからないけどね」
ブロッシュから漏れたその言葉に、キョウコが失笑する。