page.21 誤算
1990.4.4
Michelを迎えに行く日がやってきた
僕は計画通りにハウスを早めに出発し
真っ直ぐ時計台へは向かわず
Michelの歓迎会の為の買い出しをした
十時半
そろそろワタリに電話が来る頃だ
ヴヴヴヴ....
「...おや?」
ほらね
掛かってきた
「もしもし?Michelですか?」
ハウスへ掛かってきた電話は
5コール以内に出ない場合
自動的にワタリの携帯へと転送される
「B。どうやらMichelは、もう着いてしまったようです。今のは公衆電話からの着信でした」
「ふ~ん...じゃあ僕達も戻ろう。念の為に時計台の方を回ってね」
「そうですね...
きっとMichelの方が先にハウスに着いてしまいますが、Lもいますから安心ですね」
「うん。そうだね」
何もかも頭の中で描いていた通りだ
きっと帰ったら
Lはベッドの下で震えているだろう
Lは人伝に聞いたJackの事よりも
Michelとの記憶の方が鮮明に覚えているだろうからね
震えているLに手を差し伸べて
歌でも唄ってあげようかな~
「どうかしましたか?」
「ううん。楽しみなだけさ...」
ハウスに帰るのがこんなに楽しみなのは
初めてだった
「ただいま~」
ドアを開けるとLの姿はなく
長いブロンドの髪をした少女がいた
「Lは?」
僕は少女には目もくれず
Lの行方だけを問う
「え...?あの..二階に...」
クククッ...
やっぱり震えているんだろうな
二階に上がろうとすると
俯いたままLが降りてきた
「L。ただいま」
「お帰りなさい。B...」
擦れ違った時にLの顔を見たら
仄かに頬が赤らんでいた
リビングに移動してから自己紹介が始まるまで
Lは極力Michelの方を見ないようにしていた
逆にMichelは
Lに興味津々という感じだ
誤算だった
Lはあの時の恐怖が蘇り
震え上がると思っていたのに
こんな女に母の面影を感じている
僕の知らない母との思い出が
今
君の中で渦を巻いているのかい...?
MichelとLを先に逢わせてしまった事が
僕の唯一の誤算
どこまで
亡き母に縋るんだい...?
兄さん...
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