帰宅部 サクヤ編
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部室での話し合いがちょうど終わり、解散の声が掛けられた頃。鍵介のスマホが小さく音を鳴らした。
ポケットから出して見た画面の表示は、WIREの通知。
送信者は──サクヤ。
最後のやり取りが一ヶ月前で止まっていた彼女とのトーク画面を開けばただ一言、「いつもの場所で」。それだけ。
他人が見れば何のことだろうと首を傾げるこの内容も、鍵介には分かる。「いつもの場所」──屋上で待ってる、そういうことだろう。
今の自分は帰宅部で、楽士とは敵対関係にある。こんな密会のような真似、ともすれば帰宅部への裏切り行為になる。……だけど。
返信はしなかった。その代わり、足早に部室を後にする。向かう先は屋上。
──先の話し合いのとき、鍵介は鼓太郎に「サクヤのWIREは持っていない」と答えた。だのに今、鍵介は彼女からのWIREを受け取り屋上へと向かっていく。どうしてか?
結論から言うと、鍵介はサクヤのWIREを消さなかった。
楽士を離反したその日にグループWIREはもちろん抜けた。それから、個別に持っていた楽士のWIREだってブロックした。
けれど、彼女のだけは。サクヤのWIREだけは消すことができなかった。
仲が良かったから、だなんてそんな簡単な理由で残したわけじゃない。しかしどうして、と言われたらうまく説明できなくて。
どうせ向こうからブロックするだろう、と思っていたこともありそのままに置いておいたサクヤのWIREは、結局今まで彼女からもブロックされずにいたという訳だ。
他の楽士との繋がりは容易く切れるのに、サクヤとの繋がりだけは消したくない。……自分勝手極まりないことは、自分自身が一番分かっている。
しかし、自分はともかく彼女は少しまずいんじゃないだろうか。もしソーンにでもばれたら、と思う半分、彼女が自分のWIREを残しておいてくれていることに嬉しさを感じている部分もあり。
……自分から裏切っておいて、何を喜んでいるんだか。いつの間にか目前に迫っていた屋上の扉を前に鍵介はゆるく首を振って雑念を取り払った。そうして、目の前の扉と相対する。
つい一ヶ月前まで毎日のように来ていたのに、今はとても懐かしく感じられた。
ノブを握り、小さく深呼吸をする。帰宅部に入ってから、彼女としっかり話をするのはこれが初めてだ。
ふう、と息をつき、鍵介はそっと扉を開いた。
***
「──あっ、来た!」
ギギ、と大きな音を立てて扉を開くと、ちょうどフェンスに寄りかかっていたサクヤがこちらを向き、声を上げた。
鍵介と目が合うとにっこりと嬉しそうに笑み、こっちこっちと手招きをしてくる。……仮にもこちらは裏切り者だと言うのに、随分フレンドリーじゃないだろうか。
「返信くらい送ってよ、来ないかと思ったんだけど!」
「あー、すみません。……ていうか先輩、僕のことブロックしてなかったんですね」
「はあ?当たり前じゃん。なんでブロらないといけないの」
きょとんと、本当に当然のようにあっけらかんと言われてしまい、鍵介の方がぽかんと口を開けてしまった。
だって、自分は裏切り者だ。もう楽士ではないのに彼女は未だ自分に対して以前と同じように接してくれている。……もしかすると、自分の勝手な思い込みだが、彼女は楽士であることを抜きにしても自分と関わりを持ちたいと、そう思ってくれているのだろうか。
「ま、元気そうでよかった!ほんと心配してたんだよ?顔見るのもう一ヶ月ぶりくらい?さっき体育館で見た時めちゃめちゃびっくりしたもん!」
「そうですね、もうそれくらいになるのか……あー、その、さっきは…」
「ああいいよいいよ、気にしてないから!──それで、いつ戻ってくるの?」
「……え?」
そのサクヤの一言に、鍵介は思わず声をこぼした。
──戻る?どこに。……楽士に?
その一言に、何か冷たい、嫌なものがつうっと背中を走った気がした。サクヤはそんな鍵介に、嬉しそうに言葉を続ける。
「だってスパイしてるんでしょ?帰宅部の。凄いよね、皆あんたが本当に裏切ったと思ってるよ。敵を騙すにはまず味方からってやつ?」
「は……?さ、咲耶先輩、それは──」
「ウィキッドなんてあんたの荷物ダンボールに纏めて爆破しようとしてたよ?……あっ大丈夫だよ、ちゃんと止めといたからさ!」
「……」
……違う。サクヤは立場関係無く鍵介と接しようとしているのではない。彼女は──
「皆酷いよね、すぐ裏切り者って手のひら返して……でもあたしは分かってたから!鍵介は裏切ってなんかないって!」
──彼女は未だに鍵介が、カギPが楽士の一員だと信じているのだ。
彼女の言葉には、瞳には何の迷いも無い。当たり前だ。彼女の中で、未だに鍵介はカギPであるのだから。
「さっき体育館で言われたこと……一瞬びっくりしたけど、よく考えたらあそこ帰宅部のヤツらがいたもんね。ごめん、空気読まないで……言えるはずないよね」
「せ、先輩……僕は、」
「……?ソーン?何、こんなときに……ごめん、ちょっと待って」
違うんです、と言う前にサクヤのスマホから音楽が流れた。……鳴らなかったところで、自分は本当に今言おうとしていたことを口に出来ていただろうか。
「……もしもーし、どうしたの?…え?今から?でも今……っ、あーはいはい分かった!行けばいいんでしょうるさいな!行きます行きます!!」
乱暴に通話を切ったサクヤは、申し訳なさそうな表情で鍵介を見た。
「ごめん!呼び出しかかっちゃった。今から戻らないと……」
「あ……、はい」
いつになく元気の無い鍵介に何を思ったのか、サクヤは大丈夫、と笑ってみせた。
「もしあんたが戻ってきたときに何か言われたら、あたしが守ってあげる!だから何の心配もいらないからね!」
じゃあまた、とサクヤは鍵介の肩を軽く叩き、屋上を後にした。……叩かれた肩は、やけに重かった。
一人残された鍵介は力が抜けたようにその場へとしゃがみ込んだ。それから、頭を乱暴にぐしゃぐしゃと掻き回す。
──だって、まさか。思わないだろう。まさか彼女が未だに自分を仲間だと信じていただなんて。
もう情報はとっくに流れているはずだ。だからウィキッドも残った荷物を爆破させようとしたのだろう。
それなのに、それなのにあの人は……。
「……鍵介」
「……颯先輩、居たんですか」
ふと、背後から聞き慣れた声がした。振り向かなくても誰か分かる。鍵介はゆるゆると立ち上がり、後ろの……颯へと向き直った。
「悪い、屋上に来たらたまたま二人がいて……出るに出られなかった」
「へえ?先輩のことですから、またアリアと二人で僕のことつけてたんじゃないですか?」
口端を吊り上げてわざとらしく聞いてみれば、颯の頭の上に乗っかっていたアリアがありゃ、と舌を出した。
しかし、颯はいつものような笑みを浮かべる鍵介に心配そうな表情を崩さなかった。
「……大丈夫か?」
「何がです?平気ですよ、別に」
「さっきしゃがみこんでただろ。それに、本当に平気な奴は平気だって言わない。あの子と何かあったんじゃないのか?」
どうやら全てお見通しのようだ。逃げ場を失った鍵介は肩を竦め降参です、と大袈裟に溜息をついた。
「──咲耶先輩、まだ僕が楽士だって思ってたみたいで。またねって、笑顔で手振られちゃいました。戻ってきたとき周りに何か言われたら守ってくれるって」
「……」
鍵介はいつもの様な笑顔だった。しかし、その笑顔はどこかぎこちない、固いものだったが。
「……本当のこと、言おうとしなかったのか?」
「そりゃしましたよ。でも出来ますか?だって咲耶先輩、久しぶりって嬉しそうに挨拶してくれて、僕のこと心配してたって……体育館ではどうせもう僕のこと分かってるって思ってたからああいう事言えたんです。僕のことあんなに気にかけてくれて、笑顔で待ってるって言われて……それで実は裏切ってるんですよって言えるわけないじゃないですか!!」
言い終わった後、自分が思いがけず大きな声を出していたことに気づき、鍵介はハッとしてすみません、と小さく謝った。
そうして気まずそうに口を閉ざした鍵介に声をかけたのは、今まで聞き役に徹していたアリアだった。
「そっか……鍵介は、あの子を傷つけたくないんだね」
「……裏切っておいて、調子のいいこと言ってるのは分かってます。楽士と敵対するのがどういうことなのかも理解してたつもりです。けど、面と向かってああいう事言われちゃうと……声が出なくなっちゃって。情けないですよね」
「……鍵介。もしかして、楽士に戻りたいって思ってる?」
アリアが鍵介の瞳を覗き込んで問うた。それは帰宅部として不安混じりに聞くのではなく、あくまでも鍵介の相談者として、鍵介の思いを知りたいがために放った質問だった。
「そんなこと思ってないよ。こっちに来るっていうのだって、僕が自分で決めたことだから。ただ──」
「ただ?」
アリアが首を傾げて聞き返すも、鍵介はかぶりを振って何でもない、と濁してしまう。
「──すみません、変な話して。……その、ちょっと考えたいんで今は一人にしてくれませんか」
「……わかった。ごめんな」
颯の返事を受けると、鍵介は軽く会釈をして屋上を後にした。その鍵介の背中を、アリアが心配そうに見つめていた。
「大丈夫かな……鍵介」
「……きっとあの子のこと好きなんじゃないかな、あんな鍵介初めて見たよ」
「だからあんなに考え込んでるのか……来週の文化祭、無理しないといいけど……」
「……そうだね」
広がる夕焼けが、颯とアリアの影を伸ばしていた。
ポケットから出して見た画面の表示は、WIREの通知。
送信者は──サクヤ。
最後のやり取りが一ヶ月前で止まっていた彼女とのトーク画面を開けばただ一言、「いつもの場所で」。それだけ。
他人が見れば何のことだろうと首を傾げるこの内容も、鍵介には分かる。「いつもの場所」──屋上で待ってる、そういうことだろう。
今の自分は帰宅部で、楽士とは敵対関係にある。こんな密会のような真似、ともすれば帰宅部への裏切り行為になる。……だけど。
返信はしなかった。その代わり、足早に部室を後にする。向かう先は屋上。
──先の話し合いのとき、鍵介は鼓太郎に「サクヤのWIREは持っていない」と答えた。だのに今、鍵介は彼女からのWIREを受け取り屋上へと向かっていく。どうしてか?
結論から言うと、鍵介はサクヤのWIREを消さなかった。
楽士を離反したその日にグループWIREはもちろん抜けた。それから、個別に持っていた楽士のWIREだってブロックした。
けれど、彼女のだけは。サクヤのWIREだけは消すことができなかった。
仲が良かったから、だなんてそんな簡単な理由で残したわけじゃない。しかしどうして、と言われたらうまく説明できなくて。
どうせ向こうからブロックするだろう、と思っていたこともありそのままに置いておいたサクヤのWIREは、結局今まで彼女からもブロックされずにいたという訳だ。
他の楽士との繋がりは容易く切れるのに、サクヤとの繋がりだけは消したくない。……自分勝手極まりないことは、自分自身が一番分かっている。
しかし、自分はともかく彼女は少しまずいんじゃないだろうか。もしソーンにでもばれたら、と思う半分、彼女が自分のWIREを残しておいてくれていることに嬉しさを感じている部分もあり。
……自分から裏切っておいて、何を喜んでいるんだか。いつの間にか目前に迫っていた屋上の扉を前に鍵介はゆるく首を振って雑念を取り払った。そうして、目の前の扉と相対する。
つい一ヶ月前まで毎日のように来ていたのに、今はとても懐かしく感じられた。
ノブを握り、小さく深呼吸をする。帰宅部に入ってから、彼女としっかり話をするのはこれが初めてだ。
ふう、と息をつき、鍵介はそっと扉を開いた。
***
「──あっ、来た!」
ギギ、と大きな音を立てて扉を開くと、ちょうどフェンスに寄りかかっていたサクヤがこちらを向き、声を上げた。
鍵介と目が合うとにっこりと嬉しそうに笑み、こっちこっちと手招きをしてくる。……仮にもこちらは裏切り者だと言うのに、随分フレンドリーじゃないだろうか。
「返信くらい送ってよ、来ないかと思ったんだけど!」
「あー、すみません。……ていうか先輩、僕のことブロックしてなかったんですね」
「はあ?当たり前じゃん。なんでブロらないといけないの」
きょとんと、本当に当然のようにあっけらかんと言われてしまい、鍵介の方がぽかんと口を開けてしまった。
だって、自分は裏切り者だ。もう楽士ではないのに彼女は未だ自分に対して以前と同じように接してくれている。……もしかすると、自分の勝手な思い込みだが、彼女は楽士であることを抜きにしても自分と関わりを持ちたいと、そう思ってくれているのだろうか。
「ま、元気そうでよかった!ほんと心配してたんだよ?顔見るのもう一ヶ月ぶりくらい?さっき体育館で見た時めちゃめちゃびっくりしたもん!」
「そうですね、もうそれくらいになるのか……あー、その、さっきは…」
「ああいいよいいよ、気にしてないから!──それで、いつ戻ってくるの?」
「……え?」
そのサクヤの一言に、鍵介は思わず声をこぼした。
──戻る?どこに。……楽士に?
その一言に、何か冷たい、嫌なものがつうっと背中を走った気がした。サクヤはそんな鍵介に、嬉しそうに言葉を続ける。
「だってスパイしてるんでしょ?帰宅部の。凄いよね、皆あんたが本当に裏切ったと思ってるよ。敵を騙すにはまず味方からってやつ?」
「は……?さ、咲耶先輩、それは──」
「ウィキッドなんてあんたの荷物ダンボールに纏めて爆破しようとしてたよ?……あっ大丈夫だよ、ちゃんと止めといたからさ!」
「……」
……違う。サクヤは立場関係無く鍵介と接しようとしているのではない。彼女は──
「皆酷いよね、すぐ裏切り者って手のひら返して……でもあたしは分かってたから!鍵介は裏切ってなんかないって!」
──彼女は未だに鍵介が、カギPが楽士の一員だと信じているのだ。
彼女の言葉には、瞳には何の迷いも無い。当たり前だ。彼女の中で、未だに鍵介はカギPであるのだから。
「さっき体育館で言われたこと……一瞬びっくりしたけど、よく考えたらあそこ帰宅部のヤツらがいたもんね。ごめん、空気読まないで……言えるはずないよね」
「せ、先輩……僕は、」
「……?ソーン?何、こんなときに……ごめん、ちょっと待って」
違うんです、と言う前にサクヤのスマホから音楽が流れた。……鳴らなかったところで、自分は本当に今言おうとしていたことを口に出来ていただろうか。
「……もしもーし、どうしたの?…え?今から?でも今……っ、あーはいはい分かった!行けばいいんでしょうるさいな!行きます行きます!!」
乱暴に通話を切ったサクヤは、申し訳なさそうな表情で鍵介を見た。
「ごめん!呼び出しかかっちゃった。今から戻らないと……」
「あ……、はい」
いつになく元気の無い鍵介に何を思ったのか、サクヤは大丈夫、と笑ってみせた。
「もしあんたが戻ってきたときに何か言われたら、あたしが守ってあげる!だから何の心配もいらないからね!」
じゃあまた、とサクヤは鍵介の肩を軽く叩き、屋上を後にした。……叩かれた肩は、やけに重かった。
一人残された鍵介は力が抜けたようにその場へとしゃがみ込んだ。それから、頭を乱暴にぐしゃぐしゃと掻き回す。
──だって、まさか。思わないだろう。まさか彼女が未だに自分を仲間だと信じていただなんて。
もう情報はとっくに流れているはずだ。だからウィキッドも残った荷物を爆破させようとしたのだろう。
それなのに、それなのにあの人は……。
「……鍵介」
「……颯先輩、居たんですか」
ふと、背後から聞き慣れた声がした。振り向かなくても誰か分かる。鍵介はゆるゆると立ち上がり、後ろの……颯へと向き直った。
「悪い、屋上に来たらたまたま二人がいて……出るに出られなかった」
「へえ?先輩のことですから、またアリアと二人で僕のことつけてたんじゃないですか?」
口端を吊り上げてわざとらしく聞いてみれば、颯の頭の上に乗っかっていたアリアがありゃ、と舌を出した。
しかし、颯はいつものような笑みを浮かべる鍵介に心配そうな表情を崩さなかった。
「……大丈夫か?」
「何がです?平気ですよ、別に」
「さっきしゃがみこんでただろ。それに、本当に平気な奴は平気だって言わない。あの子と何かあったんじゃないのか?」
どうやら全てお見通しのようだ。逃げ場を失った鍵介は肩を竦め降参です、と大袈裟に溜息をついた。
「──咲耶先輩、まだ僕が楽士だって思ってたみたいで。またねって、笑顔で手振られちゃいました。戻ってきたとき周りに何か言われたら守ってくれるって」
「……」
鍵介はいつもの様な笑顔だった。しかし、その笑顔はどこかぎこちない、固いものだったが。
「……本当のこと、言おうとしなかったのか?」
「そりゃしましたよ。でも出来ますか?だって咲耶先輩、久しぶりって嬉しそうに挨拶してくれて、僕のこと心配してたって……体育館ではどうせもう僕のこと分かってるって思ってたからああいう事言えたんです。僕のことあんなに気にかけてくれて、笑顔で待ってるって言われて……それで実は裏切ってるんですよって言えるわけないじゃないですか!!」
言い終わった後、自分が思いがけず大きな声を出していたことに気づき、鍵介はハッとしてすみません、と小さく謝った。
そうして気まずそうに口を閉ざした鍵介に声をかけたのは、今まで聞き役に徹していたアリアだった。
「そっか……鍵介は、あの子を傷つけたくないんだね」
「……裏切っておいて、調子のいいこと言ってるのは分かってます。楽士と敵対するのがどういうことなのかも理解してたつもりです。けど、面と向かってああいう事言われちゃうと……声が出なくなっちゃって。情けないですよね」
「……鍵介。もしかして、楽士に戻りたいって思ってる?」
アリアが鍵介の瞳を覗き込んで問うた。それは帰宅部として不安混じりに聞くのではなく、あくまでも鍵介の相談者として、鍵介の思いを知りたいがために放った質問だった。
「そんなこと思ってないよ。こっちに来るっていうのだって、僕が自分で決めたことだから。ただ──」
「ただ?」
アリアが首を傾げて聞き返すも、鍵介はかぶりを振って何でもない、と濁してしまう。
「──すみません、変な話して。……その、ちょっと考えたいんで今は一人にしてくれませんか」
「……わかった。ごめんな」
颯の返事を受けると、鍵介は軽く会釈をして屋上を後にした。その鍵介の背中を、アリアが心配そうに見つめていた。
「大丈夫かな……鍵介」
「……きっとあの子のこと好きなんじゃないかな、あんな鍵介初めて見たよ」
「だからあんなに考え込んでるのか……来週の文化祭、無理しないといいけど……」
「……そうだね」
広がる夕焼けが、颯とアリアの影を伸ばしていた。
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