帰宅部 サクヤ編
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「……さて。それで、さっきのアイツはなんなんだ?」
体育館で集会に参加した帰宅部は取り敢えず落ち着ける場所へ、と部室に戻ってきた。
理由は勿論、先程の話をする為。あの文化祭実行委員長が、オスティナートの楽士だと。
笙悟が口を開けば皆、自然と視線は鍵介の方へと向けられた。
「なんだって言っても、さっき言った通りですよ。ドールPのサクヤって知ってます?あれ、咲耶先輩です」
「ま……待ってよ!私、咲耶の出てる雑誌とか動画とか全部観てるけどそんなの聞いたことない!咲耶だってそんなの宣伝してなかったし……」
鍵介の言葉に、彩声が困惑混じりに声を上げた。
体育館での彩声を見るに、きっとかなりの咲耶ファンなのだろう。そんな彼女が咲耶について、全く予想もしなかった情報を投げかけられて混乱しないわけがない。
「知らないのも仕方ないですよ。咲耶先輩、自分が楽士だってこと公言してませんでしたし。サクヤだって顔出ししてなかったし、伊良原咲耶としての活動と比べてかなりドールPの活動は地味でしたから」
「あー、サクヤって確か他の楽士と比べて投稿ペースがかなり遅めなんだよね。それもあってあんまり目立たないんだけど……でも作る曲は凄いカッコイイんだ!最近はなんだか方向性変わってきちゃったんだけど……え、でもあれが伊良原咲耶……?なんか意外っていうか……あんな曲作る人じゃなくない?」
鳴子がうーん、と首を傾げた。
鳴子の意見は最もだ。「伊良原咲耶」は誰もが認めるカリスマJK、カースト最高位の所謂陽キャラ。
対して「サクヤ」は、そんなクラスの中心的存在に敵意を剥き出しにしたような曲も手がけているドールP。そんな二人が同一人物など、にわかには信じ難いだろう。
「僕もどうして咲耶先輩がああいう曲を作ったのかは分かりませんけど……でも、先輩自身もそれは気にしてましたよ。再生数が多い曲ほど自分の嫌いな曲だーっていつも嘆いてました。だからここ最近は明るい、JKウケするって言うんでしょうか。そういう曲ばっかり作ってイメチェンを図ってたんですよ」
「ふうん……それにしても鍵介くん、咲耶さんのこと随分詳しいのね。他の楽士のことは新参だからってあまり知らなかったじゃない」
鍵介はいつも楽士のことについて聞かれてもあまり情報らしい情報は出せていなかった。出したとしても、ほんの少し。けれど今回はどうだ。いつもと違い、いやに詳しいではないか。
琴乃はふとその事が気になり、鍵介に問うてみた。すると鍵介はああ、と少しだけ言い淀むかのように頬を掻いた。
「仲のいい楽士が一人居たって話、しましたよね?それが咲耶先輩……っていうか、サクヤだったんです」
「──えっ」
「ええ?!」
「はああああ!?!?!」
驚きの声は前から順に琴乃、鳴子、彩声。
彩声なんて混乱が最高値に達したのか、最早驚いているのか怒っているのか分からないようなリアクションだ。
「ちょっ……ちょっと、どういうこと!?鍵介くんが咲耶と仲良いって……はあ!?なんで!?どうして!?」
「あ、彩声先輩……落ち着いてください……!」
「じゃ、じゃあ咲耶のWIREも持ってるの!?これが!?何したの!?脅迫とかしたんじゃないでしょうね!!」
「め、めちゃくちゃ失礼なこと言いますね……」
鈴奈の静止を振り払いぼこぼこと散々な言葉を鍵介へ投げつける彩声に、どれだけ信用無いんですか、と鍵介はため息をついた。
「言っときますけど、最初に話しかけてきたのは咲耶先輩の方ですからね」
「え、そうなの?」
その事実は他の部員にとっても意外だったのか、今まで聞き役に徹していた美笛から唖然としたような声が出た。
「ええ。僕が楽士になりたての頃、咲耶先輩が色々気にかけてくれてたんです。性格とかノリとか合ってたのか、それから結構仲良くなって。それでよくお昼一緒に食べたり、時間が合えば何処か二人で遊びに行ったりしてたんですよね」
そう話す鍵介の表情は何処か楽しげで。よほど仲が良かったのだろう、彼の雰囲気からそのことが痛いほど伝わってきた。
「なるほど……鍵介くんも隅に置けないわね」
「へえ〜。ただとヘンタイかと思ってたのに、やるじゃん!」
それに何を察したのか、琴乃と鳴子がにやにやと含み笑いを浮かべた。彩声はありえない、と声にならない声を出して首を振るばかり。けれど当の鍵介には彩声はともかく二人の笑みの意図が掴めず、怪訝そうに眉を顰めるだけだった。
「な、何なんですかいきなり……。あー、とにかく、恐らく僕らが次戦うことになる楽士はサクヤでしょう」
ある者はにやにやと、ある者は信じられないと呆然とし、またある者は静かに考え込んで鍵介の話がひと段落ついた。
皆頭の中で整理しているのか、微かに無言の時間が生まれる。すると、何か引っかかったのか鼓太郎がん?と首を傾げた。
「鍵介、お前そのサクヤって奴と仲良かったんだろ?なら元からそいつの居場所くらい知ってたんじゃないのか?」
「そりゃあ知ってれば最初に教えましたよ。でも彼女、僕が楽士だった頃はテリトリーを持ってなかったんです。楽士外の活動が忙しいからソーンに免除してもらった、って本人は言ってましたけど……」
「そうなのか?僕はてっきり学校があいつのテリトリーだと思っていた」
維弦の言葉に鍵介はいや、と首を横に振った。
「そもそも学校──本校舎は僕の管轄でしたから。サクヤがあそこにいるってことは……もしかしたら、僕の後任になってるのかもしれません」
「あ〜、確かにいつまでも裏切り者の楽士の曲流してる訳にもいきませんもんね」
何気なく呟いた美笛に、鍵介は少々バツが悪そうに咳払いをした。間違ってはいないが、そうなんですよと頷くのもそれはそれでどうなのだろう。いや、彼女は何も間違っていないのだが。
「誰の管轄だとかはどうでもいい。とにかく来週の文化祭で、そのサクヤとやらを見つけ出して叩けばいいんだろう?」
話が脱線しかけていたところ、永至がすぱりと会話の空気を切るように割り込んできた。
「っと、そうだったな。わざわざステージまで用意してくれたんだ」
「彼女、こういうイベント事……特に派手なものが好きなんです。サクヤが企画ならきっと色んな催しを入れてくるでしょうし……そこに勿論、μのライブも入れてくるはずです」
μはずっとサクヤの傍に居るでしょうから、当日サクヤを見つけられれば、と笙悟に頷き鍵介が続けた。帰宅部の次の活動が決まったようだ。──しかし約一名。どうやら待てを知らない者が居るようで。
「かー、来週まで待たないといけねえのかよ!仲良いんだろ?鍵介がWIREでそいつ呼び出してμを連れてこさせるんじゃ駄目なのか?」
またこの人は、どれだけ馬鹿なんだ。
鍵介はわざとらしく大袈裟にため息をついてみせた。
「はあ〜……できるわけないでしょ。それで来るようなら僕らはもうとっくに現実に帰ってますよ。そもそも、楽士である彼女のWIREなんて今の僕が持ってるわけ無いじゃないですか。楽士のグループWIRE、裏切ったその日にソーンから即退会させられましたから」
考えたら分かるでしょと言外に告げてみるがそこは予想通り伝わらず、鼓太郎はちぇ、っと小さく舌を打った。するとそんな鼓太郎を見かねたのかまあまあ、と美笛が声をかけた。
「文化祭だって楽しそうじゃないですか!サクヤを探しながらちょっと遊んでいきましょうよ〜!」
「えっ……ぶ、文化祭ってそんなに楽しいもんなのか?」
しかし、楽しそうな美笛を見て一転、鼓太郎はおずおずと興味をそそられ始めた。先程までの面倒はどこへ行ったのか。
「そりゃそうですよ!高校って言ったら文化祭じゃないですか?模擬店とか、舞台発表とか!鼓太郎先輩の現実の学校ってもしかして文化祭無かったんですか?」
「そ、そんなわけねーだろ!──文化祭……祭り……そっか、祭りか…!」
きょとんと首を傾げる美笛に、鼓太郎は少し歯切れ悪く、慌てたような反応を返した。その後、小さく上げた明るい声は誰に聞かれることもなかったようだ。
「そっか……咲耶プロデュースの文化祭になるんだよね。楽しそう……!」
どんな文化祭になるんだろう、と彩声がわくわくした声を零した。勿論、楽しみにしているのは彼らだけではない。
見れば、みんな各々何処か浮ついたような表情をしていた。突然舞い込んだきた大イベント。今まで部活に精を出していて、娯楽が少ない状況だったのだ。惹かれるのも無理は無い。
「アタシも文化祭、結構楽しみだってば!息抜きってことで、ちょっと遊んだっていいんじゃない?」
「うん、そうだな。少しくらい店を見て回っても罰は当たらないだろう。俺もちょっと気になるし……」
部員の無言の期待とアリアに背中を押されるような感覚で、颯は口を開いた。
息抜きもできて、楽士も探せて。一石二鳥じゃないだろうか。
颯は一つ頷くと、笑顔で皆を見回した。
「それじゃあ、来週の文化祭はサクヤを探しつつ、ハメを外しすぎないように遊ぶってことで。当日まで活動は無しにしよう。デジヘッドに気をつけながらになるけど、皆ゆっくり休んでくれ。はい、解散!」
ぱん、と颯が手を叩けば部員らは伸びをし、スマホを開き、はたまたこれからカラオケやらカフェに行く約束を取り決めたりとすぐにオフモードへと切り替わった。勿論、維弦や永至は誰と話すでもなく荷物を纏めて帰る準備をしている。……今日は珍しく、鍵介もそちら側に入っていた。
いつもであれば颯と無駄話をしたり一緒に帰ったり、少なくとも真っ先に一人で帰ることは無かった。けれど今日の鍵介はスマホを弄りながら、何処がそわそわして部室を後にしようとしている。
「鍵介、何か急ぎの用事があるのか?」
「あ……はい。すみません、颯先輩。今日はちょっと約束があって」
「そっか。じゃあまた来週、部活で」
颯が軽く手を振れば鍵介はお疲れ様です、と会釈をし部室を後にした。
「約束、ねえ……な〜んか怪しいってば」
「アリアもそう思う?今日はいつになくそわそわしてたしな、鍵介」
アリアがにしし、と悪戯っ子のように笑い、颯がそれに苦笑で返す。しかし、その瞳にはアリアと同じ、悪戯っぽい光が灯っていた。
「もしかしたらデート?ナンパ?合コン!?颯、バビュッと追っかけちゃって!GO GO!!」
「はいはい」
アリアにぺちぺちと頭を叩かれながら、颯は小走りに部室を後にした。
体育館で集会に参加した帰宅部は取り敢えず落ち着ける場所へ、と部室に戻ってきた。
理由は勿論、先程の話をする為。あの文化祭実行委員長が、オスティナートの楽士だと。
笙悟が口を開けば皆、自然と視線は鍵介の方へと向けられた。
「なんだって言っても、さっき言った通りですよ。ドールPのサクヤって知ってます?あれ、咲耶先輩です」
「ま……待ってよ!私、咲耶の出てる雑誌とか動画とか全部観てるけどそんなの聞いたことない!咲耶だってそんなの宣伝してなかったし……」
鍵介の言葉に、彩声が困惑混じりに声を上げた。
体育館での彩声を見るに、きっとかなりの咲耶ファンなのだろう。そんな彼女が咲耶について、全く予想もしなかった情報を投げかけられて混乱しないわけがない。
「知らないのも仕方ないですよ。咲耶先輩、自分が楽士だってこと公言してませんでしたし。サクヤだって顔出ししてなかったし、伊良原咲耶としての活動と比べてかなりドールPの活動は地味でしたから」
「あー、サクヤって確か他の楽士と比べて投稿ペースがかなり遅めなんだよね。それもあってあんまり目立たないんだけど……でも作る曲は凄いカッコイイんだ!最近はなんだか方向性変わってきちゃったんだけど……え、でもあれが伊良原咲耶……?なんか意外っていうか……あんな曲作る人じゃなくない?」
鳴子がうーん、と首を傾げた。
鳴子の意見は最もだ。「伊良原咲耶」は誰もが認めるカリスマJK、カースト最高位の所謂陽キャラ。
対して「サクヤ」は、そんなクラスの中心的存在に敵意を剥き出しにしたような曲も手がけているドールP。そんな二人が同一人物など、にわかには信じ難いだろう。
「僕もどうして咲耶先輩がああいう曲を作ったのかは分かりませんけど……でも、先輩自身もそれは気にしてましたよ。再生数が多い曲ほど自分の嫌いな曲だーっていつも嘆いてました。だからここ最近は明るい、JKウケするって言うんでしょうか。そういう曲ばっかり作ってイメチェンを図ってたんですよ」
「ふうん……それにしても鍵介くん、咲耶さんのこと随分詳しいのね。他の楽士のことは新参だからってあまり知らなかったじゃない」
鍵介はいつも楽士のことについて聞かれてもあまり情報らしい情報は出せていなかった。出したとしても、ほんの少し。けれど今回はどうだ。いつもと違い、いやに詳しいではないか。
琴乃はふとその事が気になり、鍵介に問うてみた。すると鍵介はああ、と少しだけ言い淀むかのように頬を掻いた。
「仲のいい楽士が一人居たって話、しましたよね?それが咲耶先輩……っていうか、サクヤだったんです」
「──えっ」
「ええ?!」
「はああああ!?!?!」
驚きの声は前から順に琴乃、鳴子、彩声。
彩声なんて混乱が最高値に達したのか、最早驚いているのか怒っているのか分からないようなリアクションだ。
「ちょっ……ちょっと、どういうこと!?鍵介くんが咲耶と仲良いって……はあ!?なんで!?どうして!?」
「あ、彩声先輩……落ち着いてください……!」
「じゃ、じゃあ咲耶のWIREも持ってるの!?これが!?何したの!?脅迫とかしたんじゃないでしょうね!!」
「め、めちゃくちゃ失礼なこと言いますね……」
鈴奈の静止を振り払いぼこぼこと散々な言葉を鍵介へ投げつける彩声に、どれだけ信用無いんですか、と鍵介はため息をついた。
「言っときますけど、最初に話しかけてきたのは咲耶先輩の方ですからね」
「え、そうなの?」
その事実は他の部員にとっても意外だったのか、今まで聞き役に徹していた美笛から唖然としたような声が出た。
「ええ。僕が楽士になりたての頃、咲耶先輩が色々気にかけてくれてたんです。性格とかノリとか合ってたのか、それから結構仲良くなって。それでよくお昼一緒に食べたり、時間が合えば何処か二人で遊びに行ったりしてたんですよね」
そう話す鍵介の表情は何処か楽しげで。よほど仲が良かったのだろう、彼の雰囲気からそのことが痛いほど伝わってきた。
「なるほど……鍵介くんも隅に置けないわね」
「へえ〜。ただとヘンタイかと思ってたのに、やるじゃん!」
それに何を察したのか、琴乃と鳴子がにやにやと含み笑いを浮かべた。彩声はありえない、と声にならない声を出して首を振るばかり。けれど当の鍵介には彩声はともかく二人の笑みの意図が掴めず、怪訝そうに眉を顰めるだけだった。
「な、何なんですかいきなり……。あー、とにかく、恐らく僕らが次戦うことになる楽士はサクヤでしょう」
ある者はにやにやと、ある者は信じられないと呆然とし、またある者は静かに考え込んで鍵介の話がひと段落ついた。
皆頭の中で整理しているのか、微かに無言の時間が生まれる。すると、何か引っかかったのか鼓太郎がん?と首を傾げた。
「鍵介、お前そのサクヤって奴と仲良かったんだろ?なら元からそいつの居場所くらい知ってたんじゃないのか?」
「そりゃあ知ってれば最初に教えましたよ。でも彼女、僕が楽士だった頃はテリトリーを持ってなかったんです。楽士外の活動が忙しいからソーンに免除してもらった、って本人は言ってましたけど……」
「そうなのか?僕はてっきり学校があいつのテリトリーだと思っていた」
維弦の言葉に鍵介はいや、と首を横に振った。
「そもそも学校──本校舎は僕の管轄でしたから。サクヤがあそこにいるってことは……もしかしたら、僕の後任になってるのかもしれません」
「あ〜、確かにいつまでも裏切り者の楽士の曲流してる訳にもいきませんもんね」
何気なく呟いた美笛に、鍵介は少々バツが悪そうに咳払いをした。間違ってはいないが、そうなんですよと頷くのもそれはそれでどうなのだろう。いや、彼女は何も間違っていないのだが。
「誰の管轄だとかはどうでもいい。とにかく来週の文化祭で、そのサクヤとやらを見つけ出して叩けばいいんだろう?」
話が脱線しかけていたところ、永至がすぱりと会話の空気を切るように割り込んできた。
「っと、そうだったな。わざわざステージまで用意してくれたんだ」
「彼女、こういうイベント事……特に派手なものが好きなんです。サクヤが企画ならきっと色んな催しを入れてくるでしょうし……そこに勿論、μのライブも入れてくるはずです」
μはずっとサクヤの傍に居るでしょうから、当日サクヤを見つけられれば、と笙悟に頷き鍵介が続けた。帰宅部の次の活動が決まったようだ。──しかし約一名。どうやら待てを知らない者が居るようで。
「かー、来週まで待たないといけねえのかよ!仲良いんだろ?鍵介がWIREでそいつ呼び出してμを連れてこさせるんじゃ駄目なのか?」
またこの人は、どれだけ馬鹿なんだ。
鍵介はわざとらしく大袈裟にため息をついてみせた。
「はあ〜……できるわけないでしょ。それで来るようなら僕らはもうとっくに現実に帰ってますよ。そもそも、楽士である彼女のWIREなんて今の僕が持ってるわけ無いじゃないですか。楽士のグループWIRE、裏切ったその日にソーンから即退会させられましたから」
考えたら分かるでしょと言外に告げてみるがそこは予想通り伝わらず、鼓太郎はちぇ、っと小さく舌を打った。するとそんな鼓太郎を見かねたのかまあまあ、と美笛が声をかけた。
「文化祭だって楽しそうじゃないですか!サクヤを探しながらちょっと遊んでいきましょうよ〜!」
「えっ……ぶ、文化祭ってそんなに楽しいもんなのか?」
しかし、楽しそうな美笛を見て一転、鼓太郎はおずおずと興味をそそられ始めた。先程までの面倒はどこへ行ったのか。
「そりゃそうですよ!高校って言ったら文化祭じゃないですか?模擬店とか、舞台発表とか!鼓太郎先輩の現実の学校ってもしかして文化祭無かったんですか?」
「そ、そんなわけねーだろ!──文化祭……祭り……そっか、祭りか…!」
きょとんと首を傾げる美笛に、鼓太郎は少し歯切れ悪く、慌てたような反応を返した。その後、小さく上げた明るい声は誰に聞かれることもなかったようだ。
「そっか……咲耶プロデュースの文化祭になるんだよね。楽しそう……!」
どんな文化祭になるんだろう、と彩声がわくわくした声を零した。勿論、楽しみにしているのは彼らだけではない。
見れば、みんな各々何処か浮ついたような表情をしていた。突然舞い込んだきた大イベント。今まで部活に精を出していて、娯楽が少ない状況だったのだ。惹かれるのも無理は無い。
「アタシも文化祭、結構楽しみだってば!息抜きってことで、ちょっと遊んだっていいんじゃない?」
「うん、そうだな。少しくらい店を見て回っても罰は当たらないだろう。俺もちょっと気になるし……」
部員の無言の期待とアリアに背中を押されるような感覚で、颯は口を開いた。
息抜きもできて、楽士も探せて。一石二鳥じゃないだろうか。
颯は一つ頷くと、笑顔で皆を見回した。
「それじゃあ、来週の文化祭はサクヤを探しつつ、ハメを外しすぎないように遊ぶってことで。当日まで活動は無しにしよう。デジヘッドに気をつけながらになるけど、皆ゆっくり休んでくれ。はい、解散!」
ぱん、と颯が手を叩けば部員らは伸びをし、スマホを開き、はたまたこれからカラオケやらカフェに行く約束を取り決めたりとすぐにオフモードへと切り替わった。勿論、維弦や永至は誰と話すでもなく荷物を纏めて帰る準備をしている。……今日は珍しく、鍵介もそちら側に入っていた。
いつもであれば颯と無駄話をしたり一緒に帰ったり、少なくとも真っ先に一人で帰ることは無かった。けれど今日の鍵介はスマホを弄りながら、何処がそわそわして部室を後にしようとしている。
「鍵介、何か急ぎの用事があるのか?」
「あ……はい。すみません、颯先輩。今日はちょっと約束があって」
「そっか。じゃあまた来週、部活で」
颯が軽く手を振れば鍵介はお疲れ様です、と会釈をし部室を後にした。
「約束、ねえ……な〜んか怪しいってば」
「アリアもそう思う?今日はいつになくそわそわしてたしな、鍵介」
アリアがにしし、と悪戯っ子のように笑い、颯がそれに苦笑で返す。しかし、その瞳にはアリアと同じ、悪戯っぽい光が灯っていた。
「もしかしたらデート?ナンパ?合コン!?颯、バビュッと追っかけちゃって!GO GO!!」
「はいはい」
アリアにぺちぺちと頭を叩かれながら、颯は小走りに部室を後にした。