鍵介夢SS
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タイミングがいい、タイミングが合えば、ここのタイミング。
文字で説明するのは簡単だ。そして、その説明で理解することもできる。
──ただ、タイミングは理解するものではないのだ。
「──やっぱりあたしがあそこの温泉テリトリーにするべきなんじゃないかなあ?あんないい所なのにさ、客は震える女ばっかだし風呂に入ればStorkが高確率で居るし……ねえ鍵介?」
「あっ……え、ええっと……」
「ちょっと!聞いてなかったの!?」
さっきから上の空だと思ってれば!と怒る咲耶にすみません、と謝るも未だ鍵介の頭の中は別のことで埋め尽くされていた。
(──いつだよ『いいタイミング』って!)
鍵介と咲耶は前々からお互いの予定を合わせてデートに行こう、と話をしていた。
付き合い始めて数ヶ月。こうしてデートをすることは何回もあり、その全てが満足する結果で終わっていた。恋人同士、中々良い関係作りが出来ている証拠だ。
今日のデートだってそうだ。シーパライソに行って魚を見て、それから宮比温泉物語に行って射的やら何やらで遊んだ。(温泉は入っていない。入ったら最後、絶対にStorkが覗きに来るからだ。それ以外の理由は無い)
咲耶も楽しんでいたし、喧嘩をした訳でもない。……けれど、鍵介には一つどうしてもやりたかったことがあった。
(キスが出来ない……!)
二人の仲は良好だ。それはもう。
だが、けれど。二人はまだキスをしていない。
付き合って間もない頃なら分かる。けれど僕達はもう何ヶ月も付き合っているんだ、そろそろキスの一つくらいしてもいいんじゃないか。
そう兼ねてより思っていた鍵介は、このデートの予定が立ったときに沢山の恋愛指南書を図書館で読みふけった。たまたま図書館に居た鈴奈にぽかんとした顔で見られるくらいには。
そうして読んでいれば、大体の本には花火が上がって雰囲気が最高のときだとか、周りに人が少なく二人っきりになったときだとか、様々な「キスのタイミング」が書いてあった。取り敢えず、と全て頭の中に叩き込んでおいた。
こうして今日、勉強の成果を見せるつもりで。あわよくば自分が主導権を握ってやって、いつも後輩扱いばかりする先輩の考えを改めさせてやろう、と。考えていたわけだが。
「あっ、そうだStorkで思い出したんだけどさぁ。この前スイートPと温泉行ったら……」
「……」
「鍵介?」
全くもってタイミングが掴めない。
花火なんて上がるイベントは今日無いし、何処も客だらけで2人きりにだなんてなれるはずもない。そもそも「雰囲気」って何だ?どういうときのことなんだ?
イメージトレーニングは完璧だったのに、実際やってみれば全くもって分からない。
鍵介は今日のデート、未だに指南書を活かせていなかった。
ちゃんと場の空気は常に読んでいた。けれどもキスができるような甘ったるい雰囲気は確実に訪れなかった。そうしてタイミングを探し続けていれば、いつの間にか帰路についている。
「あ、」
「……あっ」
咲耶が小さく声を上げて立ち止まったので何かと思って顔を上げれば、いつものT字路。咲耶が右に曲がり、鍵介が左に曲がる道。
(しまった……!)
結局最後までタイミングが無かった。いや、実際はあったのだろうか?今になってはよく分からない。
「取り敢えず、今日はありがと!楽しかった!」
「えっ、あ……いえ、僕も楽しかったです」
「またどっか行こうね。てか、鍵介大丈夫?さっきからずっとなんかおかしいけど……」
「ああ、はい。大丈夫です」
そう?今日はゆっくり寝なよ、と咲耶は軽く鍵介の肩を叩くとじゃあね、と手を振って右の曲がり道へと消えていく。ああ、どうしよう。このままじゃまたいつもと同じだ。後一歩、後一歩距離を──
「っ、──先輩」
「え?なに──」
考えるより早く、鍵介は少し離れた場所に居た咲耶の腕を掴み自分のもとに引き寄せて、それから。
それから鍵介より少しだけ低い咲耶の背に合わせるように軽く頭を下げてそっと──そっと、唇を重ねた。
重ねるだけの、子供のような本当に軽いキス。眼鏡が当たりそうだ、と頭の片隅でほんのすこしだけ心配したが、一瞬の出来事だったからか情けないようなアクシデントは起きなかった。
密着していた身体をすぐに離して、掴んでいた腕も解放する。いつもの距離に戻った二人の間には、流れたことがない空気が流れた。
「……キ、キスくらいするでしょう。恋人同士なんだから」
沈黙に耐えられず絞り出した声は笑えるほど上擦っていて。部長やアリアに見られなくて良かった、と心から思った。いや、こんな場面に二人が居るわけが無いのだが。
「……先輩?」
全く声を発さない咲耶にまさか嫌がられたのではないか、と一抹の不安を覚えて恥ずかしくて意識的に逸らしていた目を向ける。
──目を向ければ、首まで赤くした咲耶が目を見開いたまま固まっていた。
「せ……先輩、あの」
「ぎゃッ!?あ、あぁ、けっ……」
鍵介が軽く肩を揺すれば全くもって可愛げのない声を発し、それから鍵介の顔を見た途端視線をそこかしこへ忙しく動かしてしどろもどろに意味をなさぬ言葉を紡いだ。
「ぇ、あの、えっ…え?」
咲耶は混乱したかのようにぱくぱくと口を開いたり、いつも以上に瞬きをする。その咲耶の姿には、いつも自由奔放に鍵介をぐいぐい引っ張る彼女の面影は見られなかった。
何だか自分が優位に立てたような、主導権を握れたような。
嫌がられていない。これは、むしろ……。
真っ赤になった咲耶を見ているのが妙に楽しくなっている自分がいて、鍵介はつい咲耶をからかってしまう。
「……へぇー?先輩ってこういうの慣れてそうだと思ってたんですけど、案外そうでもないんですね」
「はっ……?な、なにいきなり、てか突然あんたこそ何してっ……!」
「だからキスですって。先輩、少し動揺し過ぎじゃありません?あんな子供だましみたいなので」
自分もこれ以上ないほどに緊張していた癖にそれを棚に上げ、鍵介は楽しそうに口端を吊り上げる。
「だ、だからっ!あんたが突然変なことするから……」
「突然じゃなきゃいいんですか?じゃ、もう一回。ちゃんと宣言しましたからね」
軽口を叩いて心臓が平常値に近くなったのか、今度は余裕そうに咲耶の顎に手を掛け軽く上向かせた。シニカルな笑みを浮かべた顔と混乱してるいることが見て取れる、真っ赤な顔が目を合わせた。
そうして味をしめた鍵介がまた距離を縮めようと──
「ッ──バカ!!」
「ぐぇっ!?」
──縮めようとしたが、とっくにキャパオーバーになっていた咲耶に二回目のキスはまだ早すぎた。
咲耶の振るった拳が鍵介の鳩尾にヒットし、鍵介はカエルが潰されたような声を出して情けなくその場にくずおれた。
「ばっ…ばっかじゃないの!?何鍵介今日ほんとおかしいよ!?こっ……こんな、キッ……あああもう!!!」
一方的に纏まりきらない混乱した思いを鍵介へとぶちまけると、咲耶はその場から逃げるように走り去ってしまった。
「……ぅ……あの人、全然容赦とかないんだから」
いてて、と声を上げながら何とか立ち上がると、鍵介はがしがしと頭を掻いた。
「ちぇ、もう一回出来ると思ったんだけどなぁ」
ともかく、当初の目的はリミットギリギリで何とか達成。咲耶の可愛い一面も見れた。鍵介としては大満足の結果だ。それに加え、何となくキスのやり方が分かった気がする。
キスをしたときの、あの柔らかな唇の感触を思い出して無意識に己の唇を指で撫でた。
「……取り敢えず、先輩を慣らさないことには始まらないよな」
次第に慣れてくれるといいけど、と上から目線にぼやく鍵介はすっかり忘れていた。
最初のキスは所謂火事場の馬鹿力、というものであり、二度目はその場のノリと勢い。
意識的に今日のようにキスをするのは、決して経験豊富ではない鍵介にはまだ難しい物だと言うことを。
──後日、キスのタイミングにまたも悩んで、今日のことを思い出して一人赤くなる鍵介の姿があることはまだ知る由もない。
文字で説明するのは簡単だ。そして、その説明で理解することもできる。
──ただ、タイミングは理解するものではないのだ。
「──やっぱりあたしがあそこの温泉テリトリーにするべきなんじゃないかなあ?あんないい所なのにさ、客は震える女ばっかだし風呂に入ればStorkが高確率で居るし……ねえ鍵介?」
「あっ……え、ええっと……」
「ちょっと!聞いてなかったの!?」
さっきから上の空だと思ってれば!と怒る咲耶にすみません、と謝るも未だ鍵介の頭の中は別のことで埋め尽くされていた。
(──いつだよ『いいタイミング』って!)
鍵介と咲耶は前々からお互いの予定を合わせてデートに行こう、と話をしていた。
付き合い始めて数ヶ月。こうしてデートをすることは何回もあり、その全てが満足する結果で終わっていた。恋人同士、中々良い関係作りが出来ている証拠だ。
今日のデートだってそうだ。シーパライソに行って魚を見て、それから宮比温泉物語に行って射的やら何やらで遊んだ。(温泉は入っていない。入ったら最後、絶対にStorkが覗きに来るからだ。それ以外の理由は無い)
咲耶も楽しんでいたし、喧嘩をした訳でもない。……けれど、鍵介には一つどうしてもやりたかったことがあった。
(キスが出来ない……!)
二人の仲は良好だ。それはもう。
だが、けれど。二人はまだキスをしていない。
付き合って間もない頃なら分かる。けれど僕達はもう何ヶ月も付き合っているんだ、そろそろキスの一つくらいしてもいいんじゃないか。
そう兼ねてより思っていた鍵介は、このデートの予定が立ったときに沢山の恋愛指南書を図書館で読みふけった。たまたま図書館に居た鈴奈にぽかんとした顔で見られるくらいには。
そうして読んでいれば、大体の本には花火が上がって雰囲気が最高のときだとか、周りに人が少なく二人っきりになったときだとか、様々な「キスのタイミング」が書いてあった。取り敢えず、と全て頭の中に叩き込んでおいた。
こうして今日、勉強の成果を見せるつもりで。あわよくば自分が主導権を握ってやって、いつも後輩扱いばかりする先輩の考えを改めさせてやろう、と。考えていたわけだが。
「あっ、そうだStorkで思い出したんだけどさぁ。この前スイートPと温泉行ったら……」
「……」
「鍵介?」
全くもってタイミングが掴めない。
花火なんて上がるイベントは今日無いし、何処も客だらけで2人きりにだなんてなれるはずもない。そもそも「雰囲気」って何だ?どういうときのことなんだ?
イメージトレーニングは完璧だったのに、実際やってみれば全くもって分からない。
鍵介は今日のデート、未だに指南書を活かせていなかった。
ちゃんと場の空気は常に読んでいた。けれどもキスができるような甘ったるい雰囲気は確実に訪れなかった。そうしてタイミングを探し続けていれば、いつの間にか帰路についている。
「あ、」
「……あっ」
咲耶が小さく声を上げて立ち止まったので何かと思って顔を上げれば、いつものT字路。咲耶が右に曲がり、鍵介が左に曲がる道。
(しまった……!)
結局最後までタイミングが無かった。いや、実際はあったのだろうか?今になってはよく分からない。
「取り敢えず、今日はありがと!楽しかった!」
「えっ、あ……いえ、僕も楽しかったです」
「またどっか行こうね。てか、鍵介大丈夫?さっきからずっとなんかおかしいけど……」
「ああ、はい。大丈夫です」
そう?今日はゆっくり寝なよ、と咲耶は軽く鍵介の肩を叩くとじゃあね、と手を振って右の曲がり道へと消えていく。ああ、どうしよう。このままじゃまたいつもと同じだ。後一歩、後一歩距離を──
「っ、──先輩」
「え?なに──」
考えるより早く、鍵介は少し離れた場所に居た咲耶の腕を掴み自分のもとに引き寄せて、それから。
それから鍵介より少しだけ低い咲耶の背に合わせるように軽く頭を下げてそっと──そっと、唇を重ねた。
重ねるだけの、子供のような本当に軽いキス。眼鏡が当たりそうだ、と頭の片隅でほんのすこしだけ心配したが、一瞬の出来事だったからか情けないようなアクシデントは起きなかった。
密着していた身体をすぐに離して、掴んでいた腕も解放する。いつもの距離に戻った二人の間には、流れたことがない空気が流れた。
「……キ、キスくらいするでしょう。恋人同士なんだから」
沈黙に耐えられず絞り出した声は笑えるほど上擦っていて。部長やアリアに見られなくて良かった、と心から思った。いや、こんな場面に二人が居るわけが無いのだが。
「……先輩?」
全く声を発さない咲耶にまさか嫌がられたのではないか、と一抹の不安を覚えて恥ずかしくて意識的に逸らしていた目を向ける。
──目を向ければ、首まで赤くした咲耶が目を見開いたまま固まっていた。
「せ……先輩、あの」
「ぎゃッ!?あ、あぁ、けっ……」
鍵介が軽く肩を揺すれば全くもって可愛げのない声を発し、それから鍵介の顔を見た途端視線をそこかしこへ忙しく動かしてしどろもどろに意味をなさぬ言葉を紡いだ。
「ぇ、あの、えっ…え?」
咲耶は混乱したかのようにぱくぱくと口を開いたり、いつも以上に瞬きをする。その咲耶の姿には、いつも自由奔放に鍵介をぐいぐい引っ張る彼女の面影は見られなかった。
何だか自分が優位に立てたような、主導権を握れたような。
嫌がられていない。これは、むしろ……。
真っ赤になった咲耶を見ているのが妙に楽しくなっている自分がいて、鍵介はつい咲耶をからかってしまう。
「……へぇー?先輩ってこういうの慣れてそうだと思ってたんですけど、案外そうでもないんですね」
「はっ……?な、なにいきなり、てか突然あんたこそ何してっ……!」
「だからキスですって。先輩、少し動揺し過ぎじゃありません?あんな子供だましみたいなので」
自分もこれ以上ないほどに緊張していた癖にそれを棚に上げ、鍵介は楽しそうに口端を吊り上げる。
「だ、だからっ!あんたが突然変なことするから……」
「突然じゃなきゃいいんですか?じゃ、もう一回。ちゃんと宣言しましたからね」
軽口を叩いて心臓が平常値に近くなったのか、今度は余裕そうに咲耶の顎に手を掛け軽く上向かせた。シニカルな笑みを浮かべた顔と混乱してるいることが見て取れる、真っ赤な顔が目を合わせた。
そうして味をしめた鍵介がまた距離を縮めようと──
「ッ──バカ!!」
「ぐぇっ!?」
──縮めようとしたが、とっくにキャパオーバーになっていた咲耶に二回目のキスはまだ早すぎた。
咲耶の振るった拳が鍵介の鳩尾にヒットし、鍵介はカエルが潰されたような声を出して情けなくその場にくずおれた。
「ばっ…ばっかじゃないの!?何鍵介今日ほんとおかしいよ!?こっ……こんな、キッ……あああもう!!!」
一方的に纏まりきらない混乱した思いを鍵介へとぶちまけると、咲耶はその場から逃げるように走り去ってしまった。
「……ぅ……あの人、全然容赦とかないんだから」
いてて、と声を上げながら何とか立ち上がると、鍵介はがしがしと頭を掻いた。
「ちぇ、もう一回出来ると思ったんだけどなぁ」
ともかく、当初の目的はリミットギリギリで何とか達成。咲耶の可愛い一面も見れた。鍵介としては大満足の結果だ。それに加え、何となくキスのやり方が分かった気がする。
キスをしたときの、あの柔らかな唇の感触を思い出して無意識に己の唇を指で撫でた。
「……取り敢えず、先輩を慣らさないことには始まらないよな」
次第に慣れてくれるといいけど、と上から目線にぼやく鍵介はすっかり忘れていた。
最初のキスは所謂火事場の馬鹿力、というものであり、二度目はその場のノリと勢い。
意識的に今日のようにキスをするのは、決して経験豊富ではない鍵介にはまだ難しい物だと言うことを。
──後日、キスのタイミングにまたも悩んで、今日のことを思い出して一人赤くなる鍵介の姿があることはまだ知る由もない。