鍵介夢SS
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初めて会ったときは、気の強そうな女の子だな、と思った。派手で元気で、うるさいタイプなのかな、と。
次第に、それは半分正解で半分間違いだったことが分かった。
確かに元気で明るくて、ぺらぺらいつも色んな話をして来て僕がいつも聞き手で。だけどいつも、相手がうんざりする前に話を切る。きっと、無意識に気遣っているのかな、と思った。
女の子は元から好きだ。健全な青少年だ、当たり前だろう。
だけど、彼女に対してはもっと別の──
ある時、彼女が他人の目をいつも気にしていることに気がついた。
彼女が目立つことに対して異常なまでの執着を持っているのは知っていた。
いつでも誰かに見られて、道を歩けば人に話しかけられて。普通なら疲れそうなそれも、彼女は嬉しそうに受け止めていた。
だからこそ、彼女は自分が他人にどう見られているかを気にしていた。「理想の自分」で居られているか。それだけを執拗に気にしていた。……きっと、僕に対しても。
彼女は僕の弱い一面を知っている。
大人になるのが怖くて、ずっと子どものまま夢を見ていたくて。
そんな情けない僕の面を、彼女は笑いもせずに受け止めてくれた。うん、うん、とちゃんと相槌を打って、真面目な顔で。
「なら、ずっとここにいればいいんだよ。あたしも、きみも。ずっと理想の中で夢を見てていいんだ。だって、ここはそういう世界なんだから」
彼女は僕にそう言って、僕を安心させるように笑ってくれた。
彼女と戦った。
彼女はギリギリまで僕に「まだ戻ってこれる」と手を伸ばしてくれていた。……けど、僕はもうその手を取る気はなかった。僕はもう、帰宅部だから。
僕の目の前に、あの時僕に笑いかけてくれた彼女はいなかった。
目の前に居たのはさらさらの髪を振り乱して、可愛い顔を怒りに染め上げて「裏切り者!!」と啖呵を切る楽士だった。
彼女のそんな姿を見たのは初めてだった。彼女にこんな顔をさせたのは僕のせいだ。僕はそのとき、酷く後悔した。……何に対しての後悔かは、僕自身も分からなかった。
彼女は僕らに負けた後、呆然としながら僕に問うてきた。「どうして現実に戻るの?きみだって、現実が嫌だって散々言ってたのに」。
それは、この理想の世界に居て尚帰りたがる、そんな人達に興味が湧いたから。ここに無くて、向こうにあるものを確かめたかったから。あの無口な部長の言う、現実に漂う小さな光を掴んでみたくなったから。そう、うまく言えない中必死で言葉を紡いで言えば、彼女は弱々しく、小さく笑って、
「……なに、それ……意味わかんないんだけど」
と、それだけ答えた。
そのときの彼女の瞳には、理解できないという困惑と、己が何を選択するか分からなくなった迷いの色が混じっていた。
彼女が他の楽士達の元へ帰ったとは思わなかった。だから、僕はその後色んな場所を歩き回った。彼女の影を見つける為に。
彼女と行った水族館、彼女と行ったショッピングモール。けれど、何処にも彼女はいなかった。
最後に、半ば諦めながら学校の屋上へ向かった。僕が楽士の頃、よく彼女とそこでお昼を食べて居たから。
夕焼け色に染まった屋上に彼女は居た。
彼女は一人、ぼうっと景色を眺めていた。その姿に、いつもの快活さは見えなかった。
きっと、それは僕らと戦ったから。僕らと戦って、結果侵食率が落ちて正気に戻ったんだろう。
彼女の背中は、何故だかとても小さく見えた。僕の情けない話を、真剣な顔で聞いてくれたあの時の先輩は、もっと心強く見えたのに。なんだか今の先輩は吹けば飛んでしまいそうだった。……今度は、僕が受け止める番じゃないのか。
ねえ、先輩。僕に貴女の背中を支える権利はあるんでしょうか。僕に、貴方の隣に寄り添うことを許してください。
だって。
「先輩、ここに居たんですね。探しちゃいましたよ」
──だって、初めてなんだ。誰かの心に「踏み込みたい」と思ったのは。
次第に、それは半分正解で半分間違いだったことが分かった。
確かに元気で明るくて、ぺらぺらいつも色んな話をして来て僕がいつも聞き手で。だけどいつも、相手がうんざりする前に話を切る。きっと、無意識に気遣っているのかな、と思った。
女の子は元から好きだ。健全な青少年だ、当たり前だろう。
だけど、彼女に対してはもっと別の──
ある時、彼女が他人の目をいつも気にしていることに気がついた。
彼女が目立つことに対して異常なまでの執着を持っているのは知っていた。
いつでも誰かに見られて、道を歩けば人に話しかけられて。普通なら疲れそうなそれも、彼女は嬉しそうに受け止めていた。
だからこそ、彼女は自分が他人にどう見られているかを気にしていた。「理想の自分」で居られているか。それだけを執拗に気にしていた。……きっと、僕に対しても。
彼女は僕の弱い一面を知っている。
大人になるのが怖くて、ずっと子どものまま夢を見ていたくて。
そんな情けない僕の面を、彼女は笑いもせずに受け止めてくれた。うん、うん、とちゃんと相槌を打って、真面目な顔で。
「なら、ずっとここにいればいいんだよ。あたしも、きみも。ずっと理想の中で夢を見てていいんだ。だって、ここはそういう世界なんだから」
彼女は僕にそう言って、僕を安心させるように笑ってくれた。
彼女と戦った。
彼女はギリギリまで僕に「まだ戻ってこれる」と手を伸ばしてくれていた。……けど、僕はもうその手を取る気はなかった。僕はもう、帰宅部だから。
僕の目の前に、あの時僕に笑いかけてくれた彼女はいなかった。
目の前に居たのはさらさらの髪を振り乱して、可愛い顔を怒りに染め上げて「裏切り者!!」と啖呵を切る楽士だった。
彼女のそんな姿を見たのは初めてだった。彼女にこんな顔をさせたのは僕のせいだ。僕はそのとき、酷く後悔した。……何に対しての後悔かは、僕自身も分からなかった。
彼女は僕らに負けた後、呆然としながら僕に問うてきた。「どうして現実に戻るの?きみだって、現実が嫌だって散々言ってたのに」。
それは、この理想の世界に居て尚帰りたがる、そんな人達に興味が湧いたから。ここに無くて、向こうにあるものを確かめたかったから。あの無口な部長の言う、現実に漂う小さな光を掴んでみたくなったから。そう、うまく言えない中必死で言葉を紡いで言えば、彼女は弱々しく、小さく笑って、
「……なに、それ……意味わかんないんだけど」
と、それだけ答えた。
そのときの彼女の瞳には、理解できないという困惑と、己が何を選択するか分からなくなった迷いの色が混じっていた。
彼女が他の楽士達の元へ帰ったとは思わなかった。だから、僕はその後色んな場所を歩き回った。彼女の影を見つける為に。
彼女と行った水族館、彼女と行ったショッピングモール。けれど、何処にも彼女はいなかった。
最後に、半ば諦めながら学校の屋上へ向かった。僕が楽士の頃、よく彼女とそこでお昼を食べて居たから。
夕焼け色に染まった屋上に彼女は居た。
彼女は一人、ぼうっと景色を眺めていた。その姿に、いつもの快活さは見えなかった。
きっと、それは僕らと戦ったから。僕らと戦って、結果侵食率が落ちて正気に戻ったんだろう。
彼女の背中は、何故だかとても小さく見えた。僕の情けない話を、真剣な顔で聞いてくれたあの時の先輩は、もっと心強く見えたのに。なんだか今の先輩は吹けば飛んでしまいそうだった。……今度は、僕が受け止める番じゃないのか。
ねえ、先輩。僕に貴女の背中を支える権利はあるんでしょうか。僕に、貴方の隣に寄り添うことを許してください。
だって。
「先輩、ここに居たんですね。探しちゃいましたよ」
──だって、初めてなんだ。誰かの心に「踏み込みたい」と思ったのは。