鍵介夢SS
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「あーっ!だから違うって!」
(……?)
鍵介が部室へと入れば、聞きなれた声が耳へと飛び込んできた。中を見てみればなるほど、そこには咲耶の姿。……隣には維弦が。
咲耶と維弦はソファに隣合って座り、膝を突き合わせて維弦の持つスマートフォンと睨めっこしていた。
「ちっちゃい『つ』はその先!なんでそこで押すの止めちゃうの!?」
「だが、ここでた行は終わりじゃないのか?」
「終わったあとにちっちゃいのが出てくるんだって言ってるじゃん!」
「ん……?そうなのか」
咲耶の言葉に、維弦はまたぽちぽちと画面をタップする。咲耶が画面を覗き込む。そうすれば自然に2人の距離は近くなって。
(……面白くない)
僕が居るのにも気付かずに。それも維弦先輩の方ばっかり見て。
鍵介は不機嫌そうにむっと眉を寄せると、つかつかとわざと足音を大きく立てて二人の座るソファへと近付いた。
「はーい、そこまでー」
「うわっ!?」
鍵介が大きな声を出して二人の間を無理やり割ってどっかりと座りこめば、今気付いたのか咲耶は素っ頓狂な声を上げた。何だよその反応、本当に僕が居るのに気づいてなかったのか?
「……響か」
維弦も多少驚いたのか、少しぽかんとしたような表情で鍵介を見た。
「峯沢先輩、こんな所に居ていいんですか?僕が部室に来る途中、廊下でフラワープリンセス達とすれ違ったんですけど」
「何?」
鍵介の言葉に、維弦はその秀麗な顔を顰めた。
「ええ、あの様子だと多分部室の場所分かってますよ。今のうちに反対から逃げた方がいいんじゃないですかね」
「……そうだな、あれに遭うと厄介だ。伊良原、わざわざすまなかった」
「えっ?ああ、うん。別に……」
維弦は咲耶に礼を述べると、足早に部室を後にした。そうして残ったのは鍵介と咲耶の二人だけ。
「ねえ、フラワープリンセスって本当に居たの?あたしさっきパピコで見たんだけど」
「嘘に決まってんじゃないですか、あんなの」
「って……何でそんな」
「先輩こそ、峯沢先輩と何やってたんです?二人っきりで」
不機嫌さの滲み出る声色で問い詰めても、咲耶ははあ?と訳が分からない、と言うふうに首を傾げるだけ。この人、変な所で鈍感じゃないか?
「何って……維弦にスマホの操作教えてたんだけど」
「へー、それで僕が来たのにも気付かないくらい二人の世界に入ってたんですね」
「……鍵介?」
──これだけ言ってやっても分からないのか。ああもう、面倒な人だな!
「……だから、恋人が居るのに気付かずに別の男と仲良くしてる奴が居るかって話ですよ!何で分からないかな」
「……えっ」
咲耶は盲点だった、と言うふうに目をぱちくりと瞬かせた。その反応に鍵介の方が恥ずかしくなってくる。
「鍵介、それってさ……」
「ええそうですよ嫉妬ですよ!ていうか、あの光景見たらしない方がおかしいでしょう」
「いや、だからさっきのは別にそういうのじゃないし……あっ!てか、あたし鍵介に怒られる筋合い無くない?鍵介だってWIREで散々ほかの女の子の話してるくせにさ」
「は……?」
何だか、鍵介の予想とは斜め上の展開になって来た。唐突に他の話を持ってこられて固まる鍵介を他所に、咲耶はむっとしたようにぺらぺらと話し続ける。
「ここの部長に聞いたんだよ。帰宅部のあの子がいいとかなんとか、暇があればWIREで言ってるんでしょ?あーあ、これって浮気かなぁ?悲しいなー」
「あっ……や、それは違います!帰宅部の女の子の話はしましたけど、それは部長に聞かれたからで……」
「えー?どうなんだろ、信用できないなー、だってあたしって彼女が居ながら他の子に現抜かしてるってことでしょ?なんだかなぁ」
咲耶は不機嫌そうに溜息をついた。それは完全に誤解なのに、ああもう、どうすればいいんだ。焦った鍵介は、考えるより早く口を開いていた。
「っ……確かに他の人のことを褒めたのは本当ですけど、だけど僕は貴女がいいって最後に言いましたよ、ちゃんと!」
「……え?」
「琴乃先輩は大人の女性、って感じのする正統派の美人で、美笛ちゃんは細身で可愛くてイイですねとは言いました。けど咲耶先輩だって充分可愛いですし、確かに押しが強いとことかすぐ自撮りに巻き込んでくるとことか、デートすればテンションの高さに振り回されるし沢山面倒なとこありますけど、それでもちゃんとする時はしっかりしてますし僕が本当に困ってる時は手を差し伸べてくれますし、それでいて僕が触れてほしくない所には触れてきませんし……。僕、そういう貴女の無意識に気遣い出来るとことか好きなんですよ。あと他にも、ドジって失敗したときの慌てようとか見てて面白いし可愛いと思いますし、いつも自分からぐいぐい来る癖にいざ僕から仕掛けたら照れて静かになっちゃうのだって可愛いし、前に二人でパピコに行ったときなんか──」
「あっ、あーー!分かった!分かりました!もういい、もういいから!!」
咲耶の大きな声が聞こえ、鍵介はやっと我に返ったように口を閉ざした。不機嫌だった咲耶は先程とは打って変わって慌てたように、それから頬を紅く染めて視線をきょろきょろとあちらこちらに動かしている。
自分は一体何を口走ったんだ?何分勢いで言ったからあんまり覚えていない。ただ咲耶の好きな所とか、そういうことを延々と……
「──あっ」
──これは、かなり恥ずかしいことを捲し立ててしまったのではないか?
「……えーっと、これは……何の話、だったっけ」
「……えっと、峯沢先輩?それと、WIREで僕が」
「あっ、そう、だね。うん。……なんか、その、誤解だったみたいで……いやその、すみません」
「あ、いえ……はい」
何だこの空気、とてつもなく恥ずかしい。
ただ、普段小っ恥ずかしくて言えてないことを言えたのだから、そこは感謝してもいいのだろうか。何に感謝をすればいいのか、よく分からないが。
「──と、兎に角。僕はちゃんと貴女のことが好きなんで」
「う、うん。あの、あたしも鍵介のこと好きだから」
「……ぷっ」
「──ははっ」
二人、顔を見合わせればどちらからとも無く笑いが零れてきた。お互いの性格上、甘ったるい空気は長く続かないのだ。
(……やっぱり、先輩が一番しっくりくる)
鍵介はソファに置かれた咲耶の自分のそれより一回り小さな手を、そっと握ってみた。
余談
「……ん?」
その日の夜、ふとWIREの通知音に気づき見てみれば、維弦からメッセージが届いていた。
『ひるま、いらはらにすまほのつかいかたをおしえてもらった いらはらはずっとひびきのはなしをしていた なかがいいんだな』
「……小さい『つ』、打てるようになってる」
咲耶の指導が実を結んだのだろう。鍵介としてはそれよりも内容の方に気が向いていたのだが。
「……あの人、峯沢先輩に何話したんだ……?」
少し紅く染まった頬をぽりぽりと掻くと、鍵介は返信を打ち込んだ。
『文字、前より打てるようになってるじゃないですか おめでとうございます
それと、あんまり咲耶先輩とべたべたしないで下さいよ また喧嘩になるんで』
(……?)
鍵介が部室へと入れば、聞きなれた声が耳へと飛び込んできた。中を見てみればなるほど、そこには咲耶の姿。……隣には維弦が。
咲耶と維弦はソファに隣合って座り、膝を突き合わせて維弦の持つスマートフォンと睨めっこしていた。
「ちっちゃい『つ』はその先!なんでそこで押すの止めちゃうの!?」
「だが、ここでた行は終わりじゃないのか?」
「終わったあとにちっちゃいのが出てくるんだって言ってるじゃん!」
「ん……?そうなのか」
咲耶の言葉に、維弦はまたぽちぽちと画面をタップする。咲耶が画面を覗き込む。そうすれば自然に2人の距離は近くなって。
(……面白くない)
僕が居るのにも気付かずに。それも維弦先輩の方ばっかり見て。
鍵介は不機嫌そうにむっと眉を寄せると、つかつかとわざと足音を大きく立てて二人の座るソファへと近付いた。
「はーい、そこまでー」
「うわっ!?」
鍵介が大きな声を出して二人の間を無理やり割ってどっかりと座りこめば、今気付いたのか咲耶は素っ頓狂な声を上げた。何だよその反応、本当に僕が居るのに気づいてなかったのか?
「……響か」
維弦も多少驚いたのか、少しぽかんとしたような表情で鍵介を見た。
「峯沢先輩、こんな所に居ていいんですか?僕が部室に来る途中、廊下でフラワープリンセス達とすれ違ったんですけど」
「何?」
鍵介の言葉に、維弦はその秀麗な顔を顰めた。
「ええ、あの様子だと多分部室の場所分かってますよ。今のうちに反対から逃げた方がいいんじゃないですかね」
「……そうだな、あれに遭うと厄介だ。伊良原、わざわざすまなかった」
「えっ?ああ、うん。別に……」
維弦は咲耶に礼を述べると、足早に部室を後にした。そうして残ったのは鍵介と咲耶の二人だけ。
「ねえ、フラワープリンセスって本当に居たの?あたしさっきパピコで見たんだけど」
「嘘に決まってんじゃないですか、あんなの」
「って……何でそんな」
「先輩こそ、峯沢先輩と何やってたんです?二人っきりで」
不機嫌さの滲み出る声色で問い詰めても、咲耶ははあ?と訳が分からない、と言うふうに首を傾げるだけ。この人、変な所で鈍感じゃないか?
「何って……維弦にスマホの操作教えてたんだけど」
「へー、それで僕が来たのにも気付かないくらい二人の世界に入ってたんですね」
「……鍵介?」
──これだけ言ってやっても分からないのか。ああもう、面倒な人だな!
「……だから、恋人が居るのに気付かずに別の男と仲良くしてる奴が居るかって話ですよ!何で分からないかな」
「……えっ」
咲耶は盲点だった、と言うふうに目をぱちくりと瞬かせた。その反応に鍵介の方が恥ずかしくなってくる。
「鍵介、それってさ……」
「ええそうですよ嫉妬ですよ!ていうか、あの光景見たらしない方がおかしいでしょう」
「いや、だからさっきのは別にそういうのじゃないし……あっ!てか、あたし鍵介に怒られる筋合い無くない?鍵介だってWIREで散々ほかの女の子の話してるくせにさ」
「は……?」
何だか、鍵介の予想とは斜め上の展開になって来た。唐突に他の話を持ってこられて固まる鍵介を他所に、咲耶はむっとしたようにぺらぺらと話し続ける。
「ここの部長に聞いたんだよ。帰宅部のあの子がいいとかなんとか、暇があればWIREで言ってるんでしょ?あーあ、これって浮気かなぁ?悲しいなー」
「あっ……や、それは違います!帰宅部の女の子の話はしましたけど、それは部長に聞かれたからで……」
「えー?どうなんだろ、信用できないなー、だってあたしって彼女が居ながら他の子に現抜かしてるってことでしょ?なんだかなぁ」
咲耶は不機嫌そうに溜息をついた。それは完全に誤解なのに、ああもう、どうすればいいんだ。焦った鍵介は、考えるより早く口を開いていた。
「っ……確かに他の人のことを褒めたのは本当ですけど、だけど僕は貴女がいいって最後に言いましたよ、ちゃんと!」
「……え?」
「琴乃先輩は大人の女性、って感じのする正統派の美人で、美笛ちゃんは細身で可愛くてイイですねとは言いました。けど咲耶先輩だって充分可愛いですし、確かに押しが強いとことかすぐ自撮りに巻き込んでくるとことか、デートすればテンションの高さに振り回されるし沢山面倒なとこありますけど、それでもちゃんとする時はしっかりしてますし僕が本当に困ってる時は手を差し伸べてくれますし、それでいて僕が触れてほしくない所には触れてきませんし……。僕、そういう貴女の無意識に気遣い出来るとことか好きなんですよ。あと他にも、ドジって失敗したときの慌てようとか見てて面白いし可愛いと思いますし、いつも自分からぐいぐい来る癖にいざ僕から仕掛けたら照れて静かになっちゃうのだって可愛いし、前に二人でパピコに行ったときなんか──」
「あっ、あーー!分かった!分かりました!もういい、もういいから!!」
咲耶の大きな声が聞こえ、鍵介はやっと我に返ったように口を閉ざした。不機嫌だった咲耶は先程とは打って変わって慌てたように、それから頬を紅く染めて視線をきょろきょろとあちらこちらに動かしている。
自分は一体何を口走ったんだ?何分勢いで言ったからあんまり覚えていない。ただ咲耶の好きな所とか、そういうことを延々と……
「──あっ」
──これは、かなり恥ずかしいことを捲し立ててしまったのではないか?
「……えーっと、これは……何の話、だったっけ」
「……えっと、峯沢先輩?それと、WIREで僕が」
「あっ、そう、だね。うん。……なんか、その、誤解だったみたいで……いやその、すみません」
「あ、いえ……はい」
何だこの空気、とてつもなく恥ずかしい。
ただ、普段小っ恥ずかしくて言えてないことを言えたのだから、そこは感謝してもいいのだろうか。何に感謝をすればいいのか、よく分からないが。
「──と、兎に角。僕はちゃんと貴女のことが好きなんで」
「う、うん。あの、あたしも鍵介のこと好きだから」
「……ぷっ」
「──ははっ」
二人、顔を見合わせればどちらからとも無く笑いが零れてきた。お互いの性格上、甘ったるい空気は長く続かないのだ。
(……やっぱり、先輩が一番しっくりくる)
鍵介はソファに置かれた咲耶の自分のそれより一回り小さな手を、そっと握ってみた。
余談
「……ん?」
その日の夜、ふとWIREの通知音に気づき見てみれば、維弦からメッセージが届いていた。
『ひるま、いらはらにすまほのつかいかたをおしえてもらった いらはらはずっとひびきのはなしをしていた なかがいいんだな』
「……小さい『つ』、打てるようになってる」
咲耶の指導が実を結んだのだろう。鍵介としてはそれよりも内容の方に気が向いていたのだが。
「……あの人、峯沢先輩に何話したんだ……?」
少し紅く染まった頬をぽりぽりと掻くと、鍵介は返信を打ち込んだ。
『文字、前より打てるようになってるじゃないですか おめでとうございます
それと、あんまり咲耶先輩とべたべたしないで下さいよ また喧嘩になるんで』