鍵介夢SS
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「おいーっす……っと、あれ?今日はカギのが早い」
「あ、サクヤ。こんにちは」
サクヤが控え室に入るとカギPが一人寛いでいた。
学校から拝借した机を二つくっつけて作ったサクヤと二人の共同スペースで、いつものようにブラックコーヒーを飲んでいる。
その机の上にはカギPのクラシックCDやら自己啓発本やら、サクヤが置きっぱなしにしたコスメにお菓子。──それから、山盛りのさくらんぼ。
「えっ、何これ?どうしたの?」
つやつやと赤く、食欲をそそられるさくらんぼを見つめながらカギPの向かいに腰を下ろしたサクヤに、カギPはふふんと口端を吊り上げて見せた。
「今日ファンの子から貰ったんですよ。僕の曲の大ファンだって子。そういうの貰う主義じゃないんで気持ちだけで充分だって言ったんですけど、その子がどうしてもーって言うもんで。いやね?僕も誰か一人を特別扱いとかしたくないんですよ。でも今日ばかりは折れざるを得なかったというか。それでデジヘッドに仲介してもらって受け取ったんです」
「へーっ、良かったじゃん!ね、あたしも食べていい?」
ぺらぺらと腕を組みながら得意気に話すカギPよりもさくらんぼに興味をそそられ、会話を軽く受け流しながらサクヤは当のさくらんぼに手を伸ばした。
サクヤに問われて我に返ったのか、勿論どうぞ、と勧めて自らも手を伸ばし実を取った。
ぱく、と口に含んで噛んでみれば、甘い果汁が口に広がる。
「ふーん!これめっちゃ美味しい!」
「ん……本当だ。甘くて美味しいですね」
カギPが一つのさくらんぼをもぐもぐと咀嚼しているうちに、サクヤはひょいひょいと二、三個口に入れる。
側にあったお陰でゴミ箱と化した、きのこを模したお菓子の空き箱の中にはみるみるうちに種と茎が増えていった。
その茎を見てサクヤは一つ、以前Gossiperで見たある投稿を思い出した。
「ねえ、これ知ってる?さくらんぼの茎を口の中で結べればキスが上手いってやつ」
「あー、そういえばそんなの回ってきたような……あれリゴシップしたのもしかしてあなたですか?」
「うん、めっちゃ面白そうじゃん?ちょっとやってみようよ!あたしも試してみたかったんだー」
ほらほら、と手に取った己が今実を口に入れて茎だけになったさくらんぼをくるくると振ってカギPを促す。
カギPはそんな楽しそうなサクヤに挑戦的な笑みで答えた。
「結べばいいんですよね?簡単じゃないですか」
「へえ、自信ある感じ?」
「勿論ですよ、僕のテクニシャンっぷり見せてあげますから」
自信たっぷりに言ってのけたカギPは茎をつまみ、ほいと口の中へ放り込んだ。早速始めたカギPに続いて、サクヤも茎を口に含む。
何とか茎を結ぼうと舌を上手く使おうとするが、中々上手くいかず結び目どころか茎を曲げることすら難しい。
もごもご、と口を動かし始めてから三十秒。最初に音を上げたのはサクヤだった。
「〜〜っ、あーもう無理!できない!!ギブ!!めんどいだるい!!」
痺れを切らしたようにべ、と茎を吐き出して空き箱に捨て、こんなのやってらんない、と愚痴を零した。
「何?これ、結ぼうとしたってまず茎で輪っか作れないじゃん。無理ゲーだよ無理ゲー。ねえ?……って」
あんたもそう思うよね、とカギPを見てみれば、彼は集中しているのかもごもごと口を動かすだけ。前言通り、本当に結ぶ気なのだろう。
結構こういうとこ諦め悪いからなあ、と無言で口を動かし続けるカギPにくすくすと聞こえないよう笑みを零し、サクヤは時間潰しにとスマホを手にした。
一通りWIREとGossiperの返信を終え、ほっと息をついた。
「咲耶」名義のアカウントから「サクヤ」名義のアカウントにページを変え、軽くタイムラインを眺める。
少年ドールがいいねを押した美少女ゲームのゴシップやら、Storkの訳の分からない数千リゴシップされたポエムやらが画面の下から上へと流れていく。
「あっ……そういえばカギPさあ、新曲のゴシップ──って」
何となく目を向けた先で、サクヤは思わずぱちくりと目を瞬かせた。それからスマホの時間表示を確認する。自分がさくらんぼを食べてから10分は経っている。
「……うっそ、あんたまだやってたの?」
呆れたような声を出すのも致し方ない。何故ならカギPは、未だに懸命に口を動かしていたから。
口に入れてから十分だ。十分経っているのだ。彼は十分間もさくらんぼの茎を結ぼうと試行錯誤してたのか?ただのお遊びのつもりだったのに。
あんな自信満々にしていたから後に引けなくなったのか、それとも結んでドヤ顔でもしたかったのか。──何はともあれ面白過ぎる。サクヤは笑い混じりの声で一生懸命なカギPへ話しかけた。
「ね、ねえっ……もう十分経ってんだよ?そんなマジになってやることじゃ……ふはっ、そんなさくらんぼに……あはは!」
「〜〜っ、ああもう!静かにしてくださいよ今出来そうだったんですから!」
サクヤの笑い声にとうとう無視出来なくなったのか、カギPはようやく観念したように茎を吐き出した。
「できそうって…十分かけてまでやることじゃないでしょこんなん……!はは、ウケるんだけど!」
「ウケないでくださいよ……だって、出来る気したし」
拗ねたようにそう言うカギPはいつもより子どもっぽくて。その反応にサクヤは益々あはは!と声を上げて笑いを零した。
「何言ってんの!てか別にこんなん出来なくてもいいでしょ?キスが上手くたって、だってカギあんたする予定無いじゃん」
「あ、そういうこと言っちゃいます?予定のあるなしとかじゃなくて、こういうのは男として出来ときたいもんなんですよ。まあ女子のサクヤには分からないでしょうけど。……それに」
「それに?」
カギPは一度言葉を区切り、ちらりとサクヤを見た。ぱち、と目が合う。しかし今日は何故だかすぐにふい、と逸らされてしまった。
「……いや、何でもありません」
「はあっ?なんでよ、気になるじゃん!」
「別に大したことじゃありませんし。それよりサクヤ、さっき何言いかけてたんです?Gossiperがどうとかって」
「え?……あっ!そうそう、あの新曲のさ──」
──結局、彼が何を言いかけたのか。それは彼しか知ることは無い。
(それより前に、まず彼女を振り向かせないと)
「あ、サクヤ。こんにちは」
サクヤが控え室に入るとカギPが一人寛いでいた。
学校から拝借した机を二つくっつけて作ったサクヤと二人の共同スペースで、いつものようにブラックコーヒーを飲んでいる。
その机の上にはカギPのクラシックCDやら自己啓発本やら、サクヤが置きっぱなしにしたコスメにお菓子。──それから、山盛りのさくらんぼ。
「えっ、何これ?どうしたの?」
つやつやと赤く、食欲をそそられるさくらんぼを見つめながらカギPの向かいに腰を下ろしたサクヤに、カギPはふふんと口端を吊り上げて見せた。
「今日ファンの子から貰ったんですよ。僕の曲の大ファンだって子。そういうの貰う主義じゃないんで気持ちだけで充分だって言ったんですけど、その子がどうしてもーって言うもんで。いやね?僕も誰か一人を特別扱いとかしたくないんですよ。でも今日ばかりは折れざるを得なかったというか。それでデジヘッドに仲介してもらって受け取ったんです」
「へーっ、良かったじゃん!ね、あたしも食べていい?」
ぺらぺらと腕を組みながら得意気に話すカギPよりもさくらんぼに興味をそそられ、会話を軽く受け流しながらサクヤは当のさくらんぼに手を伸ばした。
サクヤに問われて我に返ったのか、勿論どうぞ、と勧めて自らも手を伸ばし実を取った。
ぱく、と口に含んで噛んでみれば、甘い果汁が口に広がる。
「ふーん!これめっちゃ美味しい!」
「ん……本当だ。甘くて美味しいですね」
カギPが一つのさくらんぼをもぐもぐと咀嚼しているうちに、サクヤはひょいひょいと二、三個口に入れる。
側にあったお陰でゴミ箱と化した、きのこを模したお菓子の空き箱の中にはみるみるうちに種と茎が増えていった。
その茎を見てサクヤは一つ、以前Gossiperで見たある投稿を思い出した。
「ねえ、これ知ってる?さくらんぼの茎を口の中で結べればキスが上手いってやつ」
「あー、そういえばそんなの回ってきたような……あれリゴシップしたのもしかしてあなたですか?」
「うん、めっちゃ面白そうじゃん?ちょっとやってみようよ!あたしも試してみたかったんだー」
ほらほら、と手に取った己が今実を口に入れて茎だけになったさくらんぼをくるくると振ってカギPを促す。
カギPはそんな楽しそうなサクヤに挑戦的な笑みで答えた。
「結べばいいんですよね?簡単じゃないですか」
「へえ、自信ある感じ?」
「勿論ですよ、僕のテクニシャンっぷり見せてあげますから」
自信たっぷりに言ってのけたカギPは茎をつまみ、ほいと口の中へ放り込んだ。早速始めたカギPに続いて、サクヤも茎を口に含む。
何とか茎を結ぼうと舌を上手く使おうとするが、中々上手くいかず結び目どころか茎を曲げることすら難しい。
もごもご、と口を動かし始めてから三十秒。最初に音を上げたのはサクヤだった。
「〜〜っ、あーもう無理!できない!!ギブ!!めんどいだるい!!」
痺れを切らしたようにべ、と茎を吐き出して空き箱に捨て、こんなのやってらんない、と愚痴を零した。
「何?これ、結ぼうとしたってまず茎で輪っか作れないじゃん。無理ゲーだよ無理ゲー。ねえ?……って」
あんたもそう思うよね、とカギPを見てみれば、彼は集中しているのかもごもごと口を動かすだけ。前言通り、本当に結ぶ気なのだろう。
結構こういうとこ諦め悪いからなあ、と無言で口を動かし続けるカギPにくすくすと聞こえないよう笑みを零し、サクヤは時間潰しにとスマホを手にした。
一通りWIREとGossiperの返信を終え、ほっと息をついた。
「咲耶」名義のアカウントから「サクヤ」名義のアカウントにページを変え、軽くタイムラインを眺める。
少年ドールがいいねを押した美少女ゲームのゴシップやら、Storkの訳の分からない数千リゴシップされたポエムやらが画面の下から上へと流れていく。
「あっ……そういえばカギPさあ、新曲のゴシップ──って」
何となく目を向けた先で、サクヤは思わずぱちくりと目を瞬かせた。それからスマホの時間表示を確認する。自分がさくらんぼを食べてから10分は経っている。
「……うっそ、あんたまだやってたの?」
呆れたような声を出すのも致し方ない。何故ならカギPは、未だに懸命に口を動かしていたから。
口に入れてから十分だ。十分経っているのだ。彼は十分間もさくらんぼの茎を結ぼうと試行錯誤してたのか?ただのお遊びのつもりだったのに。
あんな自信満々にしていたから後に引けなくなったのか、それとも結んでドヤ顔でもしたかったのか。──何はともあれ面白過ぎる。サクヤは笑い混じりの声で一生懸命なカギPへ話しかけた。
「ね、ねえっ……もう十分経ってんだよ?そんなマジになってやることじゃ……ふはっ、そんなさくらんぼに……あはは!」
「〜〜っ、ああもう!静かにしてくださいよ今出来そうだったんですから!」
サクヤの笑い声にとうとう無視出来なくなったのか、カギPはようやく観念したように茎を吐き出した。
「できそうって…十分かけてまでやることじゃないでしょこんなん……!はは、ウケるんだけど!」
「ウケないでくださいよ……だって、出来る気したし」
拗ねたようにそう言うカギPはいつもより子どもっぽくて。その反応にサクヤは益々あはは!と声を上げて笑いを零した。
「何言ってんの!てか別にこんなん出来なくてもいいでしょ?キスが上手くたって、だってカギあんたする予定無いじゃん」
「あ、そういうこと言っちゃいます?予定のあるなしとかじゃなくて、こういうのは男として出来ときたいもんなんですよ。まあ女子のサクヤには分からないでしょうけど。……それに」
「それに?」
カギPは一度言葉を区切り、ちらりとサクヤを見た。ぱち、と目が合う。しかし今日は何故だかすぐにふい、と逸らされてしまった。
「……いや、何でもありません」
「はあっ?なんでよ、気になるじゃん!」
「別に大したことじゃありませんし。それよりサクヤ、さっき何言いかけてたんです?Gossiperがどうとかって」
「え?……あっ!そうそう、あの新曲のさ──」
──結局、彼が何を言いかけたのか。それは彼しか知ることは無い。
(それより前に、まず彼女を振り向かせないと)