最適化令嬢



第64話
『電導侯の受難』第四部

栗色の髪の婦人が優雅に身を翻し、廊下の奥へ歩き出した。長いドレスの裾が石床を滑るように揺れる。

「それで、この先にも危険な場所が?」彼女は振り返りながら尋ねた。

その瞬間、ドレスの裾が床に這う高圧ケーブルに引っかかる。

リアクトルの目がそれを捉えた瞬間、彼の表情が一変した。

「待て!」彼は咄嗟に婦人の腰を両腕で抱え、横へ引き寄せる。

ドレスの裾がケーブルから滑るように外れた。

栗色の髪の婦人は驚いて彼の腕の中で目を瞬かせる。

「まあ」彼女の頬がほんのり紅潮し、至近距離でリアクトルの青い瞳を見つめた。

リアクトルは自分が何をしたか気づき、慌てて手を離して三歩後退する。

「す、すみません!」彼の顔が耳まで真っ赤に染まった。「でもそのケーブル、昨日補修したばかりで絶縁が不完全なんです」

彼は早口で説明し始める。

「ドレスの繊維が引っかかって被膜を剥がしたら、最悪の場合感電する可能性が。それに静電気で火花が散ったら」彼は床のケーブルを指差した。「この区画は通信の中枢だから、火災になったら宮殿全体の通信網が」

緑のドレスの婦人が感動したように胸に手を当てた。

「危険から守ってくださったのね」彼女は目を輝かせる。「騎士様みたい」

リアクトルは首を激しく横に振った。

「騎士じゃない、ただの技術兵です」彼は両手を振って否定する。「それより本当に危ないんですって、この区画」

彼の声に必死さが滲む。「表の会場は安全基準を満たしてますけど、ここは作業用通路で。一般の方が立ち入る想定じゃないんです」

深紅のドレスの婦人が微笑んで提案した。

「それなら、危険な場所を全部教えていただけません?」彼女は優雅に扇子を開く。「私たち、この宮殿の構造を知らなくて。迷子になったら困るもの」

リアクトルは頭を抱えた。

「そんな時間ないです」彼は懐中時計を取り出して確認する。「俺はこれから通信防壁の最終チェックが。リミッタの外交が成功するかどうかは、俺がシェライト陛下の監視網を完全に遮断できるかにかかってるんです」

彼は必死に訴えるが、三人のマダムたちは聞く気配がない。

栗色の髪の婦人が彼の腕に手を置いた。

「ほんの少しだけでいいの」彼女は甘い声で囁く。「さっきみたいに、また危険な目に遭ったら困るわ」

リアクトルの抗議は三人の笑顔に完全に飲み込まれた。彼は諦めたように肩を落とし、廊下の先を指差す。

「分かりました」彼の声は疲労に満ちている。「ただし五分だけです。五分経ったら絶対に表の会場へお戻りください」

三人のマダムたちは顔を見合わせて微笑み、満場一致で頷いた。

リアクトルは深く息を吐き、廊下を歩き出す。三人が彼の後ろから付いてくる気配に、彼は心の中で泣いた。


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