最適化令嬢



第44話
『光は国境を越えて(裏面)』第三部

「ソルダ!」ヴォルティスは笑顔で手を振った。「見事だったぞ!感動したよ!」彼は近づいてくる。螺旋状にカールした髪を揺らしながら。「父上の言葉まで引用するとは」

ソルダは杖をつきながら頭を下げた。「陛下」彼は答えた。「ありがとうございます」姿勢を正そうとして、右足に激痛が走る。しかし表情には出さない。

ヴォルティスはソルダの足元を見た。第3補助導線くん。サポーターで固定された右足。「で」彼は尋ねた。ニヤニヤしながら。「足痛かった?」

ソルダは観念した。「はい」彼は苦笑した。「激痛でした」声が震える。「一歩踏み出すたびに、靭帯が」

「だろうね~」ヴォルティスは笑った。明るく、しかし容赦なく。「でも、あの演説最高だったよ。『磁場から光へ!』って」

その時、リアクトルが近づいてきた。手には小型の診断端末を持っている。「宰相」彼は淡々と言った。「サポーターの負荷データ、良好です」端末の画面を確認しながら。「演説中の姿勢制御、完璧でした」

ヴォルティスは目を丸くした。「え、データ取ってたの?」彼はリアクトルを見た。「演説中に?」

「はい」リアクトルは頷いた。無表情のまま。「歩容解析と負荷分散の実証実験として」彼は端末を操作した。「サポーターに組み込んだ反動アシスト機構が、想定以上の効果を発揮しました」

「反動アシスト?」ヴォルティスは尋ねた。

「将来的には戦場用の軽補助外骨格に応用できるかもしれません」リアクトルは答えた。淡々と、しかし少し楽しそうに。「宰相の演説が、軍事技術の進歩に貢献しています」

ヴォルティスは爆笑した。「すごいね~!」彼は手を叩いた。「親子揃って!」螺旋状の髪を指で弄びながら、彼は続けた。「推し活で転んで、息子に実験台にされて、でも国会では感動を呼ぶ!」

ソルダは深く息をついた。推し活で転んで捻挫した。それが息子との不器用な対話を生み、軍事技術の進歩を促し、さらには国会での支持率を押し上げた。彼は内心で確信した。「やはり」彼は呟いた。「推し活は国家戦略だ」

リアクトルが即座に反応した。「それは違います」彼は呆れた声で言った。端末を閉じながら。

「いや」ソルダは反論した。「結果的に全てプラスになっている」彼は第3補助導線くんを見つめた。「君との関係も、技術開発も、支持率も」

「偶然です」リアクトルは冷たく言った。そして医療キットから冷却パックを取り出した。「次は気をつけてください」

ソルダは嫌な予感がした。「待て」彼は言った。「まさかまた」

「冷やします」リアクトルは淡々と答えた。「データ的に、今が最適です」彼はしゃがみ込み、ソルダの右足首に手を伸ばした。「演説で負荷がかかりましたから」

「ちょっ、ここで!?」ソルダは慌てた。「廊下だぞ、議事堂の」

リアクトルは容赦なく冷却パックを押し付けた。サポーターの上から。ひんやりとした感触。「ひぎぃっ!?」ソルダは声を上げた。「冷たい!」

ヴォルティスは笑いが止まらない様子だった。「あはは!」彼は腹を抱えた。「さっきまであんなカッコいい演説してたのに!」

リアクトルは無表情のまま冷却パックを固定した。「20分、このままでお願いします」彼は立ち上がった。「次の負荷データ収集は、明日の朝です」

「データ収集って」ソルダは項垂れた。「私は実験動物か」

「いえ」リアクトルは答えた。「貴重な被験者です」彼は診断端末をカバンにしまった。「宰相という高負荷環境での歩行データは、極めて有用ですから」

ヴォルティスはソルダの肩を叩いた。「まあまあ」彼は言った。「Let It Flow!」彼は笑った。「推し活も、捻挫も、実験も、全部流れるままに」

ソルダは苦笑した。「陛下の哲学は」彼は言った。「時に、残酷です」右足に冷却パックが当てられたまま、廊下に立ち尽くす。「せめて控室まで待てなかったのか」

「データは鮮度が命です」リアクトルは真顔で答えた。

ヴォルティスは手を振って歩き出した。「じゃ、お疲れ~」彼は振り返った。「あ、そうだ。明日の新聞、楽しみにしてね。『ガッツの宰相、感動の演説』って一面だと思うよ~」

ソルダは天を仰いだ。推し活で自爆した情けない宰相が、明日には「ガッツの宰相」として称賛される。そして息子には冷却パックで実験台にされている。

「リアクトル君」ソルダは呟いた。「これ、あとどれくらい?」

「17分です」リアクトルは端末を確認した。「我慢してください」

議事堂の廊下で、カレントリア王国宰相は、息子に冷却パックを当てられたまま立ち尽くしていた。窓の外で、王都コンダクタールの送電線が静かに音を立てている。電流は流れ続ける。時に躓きながら。しかし、止まることなく。


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