最適化令嬢



第43話
『光は国境を越えて(裏面)』第二部

ソルフィア暦1285年10月18日、午前10時00分。カレントリア王国国会議場の扉が開いた。

ソルダ・サイリスタは、第3補助導線くんをつきながら議場に入った。カツン、という杖の音が響く。半円形に配置された議員席から、一斉に視線が集まった。彼らの目には「足を痛めても出勤するガッツの宰相」に映っているだろう。しかし真実は違う。推し活で自爆した44歳の宰相が、息子の作った杖に頼って、なんとか歩いているだけだ。

痛い。ソルダは内心で呟いた。右足が痛い。一歩ごとに、靭帯が悲鳴を上げている。しかし、ここで弱みは見せられない。彼は杖を強く握りしめた。演台まで、あと20メートル。歩ける。歩かなければならない。

議長が立ち上がった。「本日の特別委員会質疑を開始します」彼は宣言した。「ソルダ・サイリスタ宰相、答弁席へ」

ソルダは一歩踏み出した。右足に体重をかける。サポーターが姿勢を補正してくれる。リアクトルの調整が効いている。彼は淡々と歩き続けた。議場の視線が、彼の一歩一歩を追っている。

答弁席に辿り着いた。ソルダは杖を答弁台の脇に立てかけた。そして、議員たちを見回した。与党席には支持者たち。野党席には、レイナード・イムペダンス・オーミックの姿が見える。野党党首。電流至上主義者。今日の追及は厳しいだろう。

「宰相!」レイナードが立ち上がった。声が議場に響く。「なぜ鉄塔に『電流』の名を入れなかったのか!」彼は拳を振り上げた。「『リベレール(解放)』などという名は、シェライトへの挑発ではないのか!」

議場がざわついた。ソルダは深呼吸した。来た。予想通りの追及だ。

「そして!」レイナードは続けた。「ディアレイン裁判での『缶バッジ』発言!あれは何だったのか!」彼は書類を掲げた。「国民を愚弄しているのではないか!」

議場の空気が張り詰めた。ソルダは一歩前に出た。その瞬間、ズキッ!右足首に激痛が走った。彼は顔をしかめた。しかし、それを隠すことはできない。その歪んだ表情が、議員たちには「国を憂う苦渋の表情」に映った。

ソルダは声を張った。「レイナード議員」彼は答えた。「私の師、アークオム先王は仰いました」彼は杖を掴んだ。「『技術は、盾にも刃にもなる』と」

また一歩前へ。激痛。しかし耐える。ソルダは続けた。「電流に固執することこそが」彼の声が議場に響く。「磁場に囚われることなのです!」

議場が静まり返った。レイナードが息を呑む。ソルダは杖を強く握りしめた。この痛みは、私に必要な負荷だ。彼は内心で呟いた。レジスタンスだ。技術者として、宰相として、そして父親として。すべての罪悪感が、この痛みに凝縮されている。

「支配から解放へ」ソルダは宣言した。「磁場から光へ!」彼は答弁台を叩いた。「我々は、シェライトの支配に屈しない。カレントリアは、自由な電流の国だ!」

議場が爆発した。総立ちの拍手。与党席も、野党席の一部も、議員たちが立ち上がった。レイナードは返す言葉を失い、座り込んだ。タレーラン回避、成功。

ソルダは答弁台に手をついた。やった。なんとか、持ちこたえた。しかし足が、限界だ。彼の右足は震えていた。サポーターが、ギリギリで姿勢を保っている。あと少し。あと少しだけ、耐えろ。

拍手が鳴り止まない。議員たちの中には涙を流している者もいる。「足を痛めても国のために立つ」「激務の中でも職務を全うする」そんな声が聞こえる。しかし彼らは知らない。この宰相が、推し活で自爆して、息子に実験台にされながら、ここに立っていることを。

ソルダは小さく笑った。推し活の自爆が、まさか支持率を上げるとは。流れるままに、躓くままに。それでも、前に進む。

議長が立ち上がった。「本日の質疑を終了します」彼は宣言した。「ソルダ・サイリスタ宰相、お疲れ様でした」

ソルダは深く頭を下げた。そして、第3補助導線くんを掴んで、議場を出ようとした。一歩。右足に激痛。しかし歩く。二歩。左膝に負荷。それでも歩く。議員たちの拍手が、背中を押してくれる。

議場の扉が閉まった。拍手の音が遠ざかる。ソルダは廊下の壁に寄りかかった。足が、もう動かない。彼は眼鏡を外し、額の汗を拭った。ポーカーフェイスが崩れる。「ぐっ」彼は壁に額を押し付けた。「もう、限界だ」

「リアクトル」彼は呟いた。「君の調整のおかげだ」第3補助導線くんを見つめる。「ありがとう」

廊下の向こうから、足音が聞こえた。二人の人物。ソルダは顔を上げた。ヴォルティス・エレクトラム・カレントリア三世と、リアクトル・ファリテーナ。王と、息子。


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