最適化令嬢



第8話
『最適化される生徒会室と遅すぎた許嫁報告』


カレントリア王立技術高校パロディ特典小冊子
『推しの映像と引き換えに敵国に売られた16歳の私ですが、電子回路の知識で宰相府を最適化していたら裏社会の女王になっていました~今さら宗主国の磁場王が「返して」と言っても、もう遅いですわ~』
【第1.5話】

カレントリア王立技術高校、放課後の生徒会室。

トランス・サイリスタは、机の上に山積みになった書類を見つめながら、深く溜息をついた。生徒会長として三年目。新学期早々、やることは山積みだった。しかし、今年は少し違った。数日前に入会した新任会計、リミッタ・エラスタンス・ソレラントという転校生が、恐るべき速度で仕事を片付けていたのだ。

「えっと……リミッタさん」トランスは恐る恐る声をかけた。「君が会計に入ってまだ数日だけど……この生徒会の月次決算、本当に君一人で全部終わらせたの?」

リミッタは窓際の席に座り、優雅に紅茶を飲みながら答えた。「ええ。前任者の計算には無駄が多すぎましたの」彼女はタブレットを操作した。「ついでに、予算編成のアルゴリズムも全て組み直しておきましたわ」

トランスは目を見開いた。「く、組み直した……?」

「はい」リミッタは涼しい顔で続けた。「特に気になったのが、顧問のソルダ先生が管理している『特別機密費』ですわね」彼女は目を細めた。「毎月同じ日に、隣国のソルフィアから謎の物品を輸入するための裏金ルート……あまりに杜撰でしたので、ダミー会社を経由して関税を87%回避するスキームを構築しておきましたわ」

トランスの顔から血の気が引いた。「待って!?顧問の裏金ルート、もう完全に把握して最適化しちゃったの!?」彼は頭を抱えた。「っていうか関税87%回避って、それ高校の生徒会がやっていい規模の経理じゃないよね!?」

「当然ですわ」リミッタは紅茶を置いた。「わたくしは生徒会という回路の『制御装置』ですもの。最適化は義務です」彼女は微笑んだ。「トランス会長は、表の生徒会業務に集中なさって。裏の帳簿は、わたくしが完璧に回しますから」

トランスは椅子に座り込んだ。(……なんだこの後輩。処理速度エグい……)彼はリミッタの横顔を見た。完璧な姿勢、冷徹な瞳、そして優雅な仕草。(横顔めっちゃ綺麗だな……いやいや、そうじゃなくて!)

彼は内心で呟いた。(僕、先輩として「守ってあげなきゃ」って思ってたのに、完全に実務で支配されてる……!これじゃ完全に胃袋掴まれてるじゃないか……!)

その時、トランスのスマホが鳴った。

「あ、ごめん」トランスは画面を見た。「親父からだ」彼は電話に出た。「はい、もしもし父さん?今、生徒会室だけど」

「おお、トランスか」ダラフ・サイリスタの声が聞こえた。「実はお前に伝えていなかった事があってな。先日、2年A組にゼルフィアから転校してきた令嬢がいるだろう?」

「うん、リミッタさんだよね」トランスは答えた。「すごい有能だよ。今、目の前で生徒会の裏帳簿を完璧に最適化してくれてる」

「そうか、それは良かった」ダラフは続けた。「……実はな、彼女、お前の許嫁なんだ」

トランスの動きが止まった。「………………は?」

「親同士が決めた政略結婚でな」ダラフは淡々と説明した。「彼女にはカレントリアに来てから伝える手はずになっていたんだが、彼女、転校初日からいきなり生徒会に直談判しに行ったと聞いてな」ダラフは続けた。「お前、ちゃんと先輩として、そして未来の夫として、彼女を守ってやっているか?」

トランスは震える声で答えた。「未来の……夫……?僕が、彼女の……?」

リミッタは不思議そうにトランスを見た。「トランス様?どうかなさいました?」

トランスは内心で叫んだ。(守ってやってるか、だと……!?守るも何も、もう完全に実務でマウント取られて、頭が上がらない状態なんですけど!?)彼はリミッタを見た。(しかも、この血も涙もない最適化マシーンが、僕の嫁!?!?)

「トランス?」ダラフの声が聞こえた。「聞いているか?」

「あ、うん」トランスは慌てて答えた。「わ、分かった。ちゃんと守るよ」

「よろしく頼む」ダラフは電話を切った。

トランスはスマホを置くと、腹部を押さえて机に突っ伏した。「うっ……!胃が……僕の胃壁が……!!」

リミッタは淡々とタブレットを操作しながら言った。「あら。胃痛ですか?非効率な生体反応ですわね」彼女は立ち上がり、救急箱を開けた。「胃薬を出しますから、すぐに飲んで業務に戻ってくださいませ。次の生徒総会の資料作成が待っていますわよ」

トランスは涙目で胃薬を飲んだ。「は、はい……」

彼は内心で呟いた。(僕の高校生活、どうなっちゃうの~!?)

リミッタは再び席に座り、紅茶を飲んだ。「それにしても」彼女は呟いた。「トランス様、お父様と何を話していらっしゃったのかしら」

トランスは顔を上げた。「え、あ、いや、その」

「まあ、よろしいですわ」リミッタは微笑んだ。「プライベートなことでしょうから」彼女はタブレットを操作した。「それより、次の議題ですが」

トランスは再び胃を押さえた。(この子、本当に僕の許嫁なのか……?)

窓の外、カレントリアの夕日が生徒会室を照らしていた。トランスの高校生活は、予想外の方向へと転がり始めていた。そして、彼はまだ知らなかった。数日後、生徒会室の空調がショートし、泥だらけのヤンキー技術兵が乱入してくることを。



その夜。トランスは自室のベッドに倒れ込んだ。

「許嫁……」彼は天井を見つめた。「リミッタさんが、僕の許嫁……」

彼は枕に顔を埋めた。「どうしよう。守るどころか、完全に実務で支配されてる」彼は呟いた。「しかも、あの冷徹な瞳。あの完璧な最適化。あの圧倒的な処理速度」

トランスは深呼吸をした。「でも」彼は小さく笑った。「悪くないかもな」

彼は窓の外を見た。星空が広がっている。「リミッタさん、君は僕の許嫁だ」トランスは呟いた。「これから、一緒に生徒会を回していこう」

彼は目を閉じた。明日からも、リミッタの最適化は続くだろう。そして、トランスの胃痛も続くだろう。

しかし、それでいい。

カレントリア王立技術高校の生徒会室。そこには、最適化令嬢と、不憫な会長の、新しい日常が始まっていた。


カレントリア王立技術高校パロディ特典小冊子『最適化される生徒会室と遅すぎた許嫁報告』完

【著者あとがき(令嬢V名義)】 読者の皆様から「トランス会長の胃痛描写が不憫すぎる」とのお便りを多数いただきましたが、彼が実際に日常的に胃薬を服用しているのは紛れもない事実ですわ。 また、作中でわたくしが顧問のソルダ先生の『特別機密費(裏金)』を暴き、ダミー会社を経由して関税を87%回避するスキームを構築したエピソードも、すべて実録に基づいております。より実践的なノウハウをお求めの方は、巻末の『付録:関税法の抜け穴解説』をご参照くださいませ。


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