そして天使はいなくなった
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「基本は情報量ですね。あなたは一枚に詰め込み過ぎるところがあるので、ここは……」
昨夜の約束通り、Bさまと一緒にプレゼン資料の作成をしている。とはいえ『一緒に』というのがこうも直接指導だとは思っていなかった。作成後の修正をして貰えるのだとばかり。
隣同士に座り、幼子に教えるように手取り足取りで、私はそんなに仕事ができていなかったのだろうか。
「ここまでで質問ありますか」
「はい。あの、ここなのですが…」
Bさまのストイックさに、自分がいかに怠け者だったかを突きつけられ、勝手にダメージが蓄積していく。
「それはこっちですね」
離れた所に指を差す為、Bさまが軽く体を乗りだす。顔が近づけられたので緊張が走り視線を落とした。
「すみません」
「謝らなくても良いのに」
Bさまの表情に変わりはないが、少し困っているように感じた。
お昼休憩になり、食堂の椅子に座ると同時に溜め息が出た。
なんだか凄く疲れた気がする。私はサボる時はサボるが、やる気になれば集中したい。教えてもらえることは嬉しいのにBさまといると調子が狂う。矛盾する感情に心が疲れていくようだ。
私は一体、Bさまに何を求めているというのか。
「ねえ。隣に座ってもいい?」
横から声がし、誰かと思い顔を向ける。Bさまと親しい女性天使だった。
「…どうぞ」
「ありがとう!」
嬉しそうに笑うと椅子を動かし、私の隣へと座る。可愛らしい人だと思った。
「もうすぐ納期だね」
「そうですね。あっという間です」
「私、次もBさまと仕事したいなぁ。もっと仕事して経験を積んで、Bさまの右腕になりたい」
生き生きとした表情をして言うものだから、なんだか眩しく感じる。彼女の仕事ぶりから、とても懸命な人だと思う。
「真摯に取り組まれてますから、きっとなれますよ」
「ありがとう!あなたは?」
キラキラとした純粋な目で見つめられる。
「あなたもBさまの右腕を目指してるの?」
「まさか!」
「そうなの?今日だってBさまと…」
「あれは、私が全然できないからです」
「そうかなぁ。Bさまは見込んでのことだと思うよ。そんな風に思わなくても大丈夫」
嫌味のない笑顔で真っ直ぐに言われると、嬉しさでくすぐったい。
なんて素敵な人なんだろう。Bさまと同じで、堂々としている。
自分も好きだったはずなのに、結ばれた二人を祝福していた天使たちを思い出した。
彼女たちも、こんな気持ちだったのだろうか。
人柄を知れば、悔しさ等感じなくなるのかもしれない。
…もし彼女のようだったなら、Bさまを好きになれたのかな。
ふと『好きになれたのかな』という感情にひっかかる。『好きになれた』私はそう思った?
Bさまへの気持ちは恋愛の好きには至っておらず、憧れや尊敬が強かったのかもしれない。あんなに凄い人なのだから、親しくなり舞い上がるのも無理はない。そうなのだとしたら。
「では皆さん。午後も仕事頑張りましょー」
「はい、Bさま!」
Bさまのかけ声を合図に各々仕事に取り組む。Bさまは天使たちに声をかけていき、最後に私の方へ来た。
「あの、Bさま。案があるのですがいいですか」
「…ええ!聞かせてください」
Bさまは少し驚いて、すぐにいつもの表情に戻った。
「グラフの情報は簡潔にした方が見やすいと思ったのでこうして、説明文は絞って…」
広げた資料にペンを走らせる。
「色彩はこうで、ここはこうしてはどうでしょうか」
「ええ!ヤバですね。そうしましょう」
Bさまが嬉しそうに言うものだから、私の頬も自然と緩み小さな笑い声が出た。Bさまの視線が私に移動し、丸い目を細め右手をあげる。その手が私の頭上に近づきなにかと思えば、頭に僅かな重みを感じた。
「ふふ。Bさま、子ども扱いはやめてください」
優しい手から逃げるように、笑って頭を動かした。
「……すみません」
気のせいかもしれないけれど、少し落ち込んで見えるBさまがおかしかった。
良かった。Bさまとのやりとりが楽しい。夜に話す時みたいに気楽だった。
Bさまが私の顔を覗き込む。
「何か良いことでもありましたか」
「え?良いこと…わかりません。どうしてですか?」
「仕事中はずっと表情が固かったでしょう。今のあなたは…普段話しているあなたと似てます」
穏やかな声で言われる。
確かに、チームの一員が私で良いのかという気持ちと、Bさまを意識し過ぎていた。
「…私は目標もないですし、仕事に負い目があったんです。でも、頑張ること自体はいいのかなって」
呟きを、Bさまは静かに聞いてくれている。さすがにBさまの事は言えないけれど。
「すみません」
「…。あなた、他の天使のミスに気づいて、さりげなく修正してましたよね」
「え……」
「いいんですよ。そういうので」
言いながらBさまは席を立った。
「まぁでも」
こちらに少しだけ顔を近づけ、Bさまは人差し指を自身の口にあてがう。
「……サボりはほどほどに、ですよ?」
にや、と首を傾け笑い、耳にかけられた髪がさらりと揺れた。
「それと今夜、家に伺いますね」
他の天使には聞こえないくらいの小さな声で言い、離れていくBさまの後ろ姿を見送る。
いつもなら楽しみな言葉に、どうしてか罪悪感のようなものが私の胸をざわつかせた。
「貸してくれた漫画、ヤバでした!猫の絵がとても可愛らしかったです」
「それは良かったです」
Bさまの顔を見ると、女性天使とのやりとりが頭をよぎる。どこか上の空で返事をする私に気づいたのか、Bさまは間をおいて「元気ないですね」と言った。
「そうでしょうか」
「具合でも悪いですか。明日はお休みしてはどうでしょう」
「すみません、その、大丈夫です」
もし女性天使とBさまが付き合っても、今の私ならきっと応援できる。他の女性だとしても、Bさまだっていつかは。
「今日のこと、嫌でしたか」
「え?」
「頭を撫でるのはやりすぎたかと思いまして」
真っ直ぐに私を見る丸い目に、鼓動が速くなる。
「ち、違います。それは関係ないです。嫌じゃなかったですし…。その、頭が少し痛くて」
嘘ではない。
「そうでしたか。今日はもう帰ります。ゆっくり休んでください」
「おやすみなさい」と言ってBさまは飛んでいった。その後ろ姿が見えなくなるまで、私はぼんやりと見つめた。
次の日の午前中、Bさまは神さまの所にいるので会うことはなかった。
お昼ご飯を食べ終わり席を立とうとした時。男性天使に声をかけられる。
他愛もない会話をするが、何か言いたそうに視線が泳ぎなんだろうと不思議に思っていると。
「あのさ!今度の休み、良かったら一緒に…その…出かけないかな!?」
突然のお誘いに驚いたけれど、これは私に好意があるのだろうか。仕事以外の話はしたことがないが、人当たりがよく勤勉な印象の人だ。
異性とおでかけなんてもう何年もしていない。前に好きだった人とでかけたことはあったけれど。
「いいですよ」
返事をすると、その人は不安げな顔から一気に笑顔へと変わる。
可愛らしい人だと思った。
昨夜の約束通り、Bさまと一緒にプレゼン資料の作成をしている。とはいえ『一緒に』というのがこうも直接指導だとは思っていなかった。作成後の修正をして貰えるのだとばかり。
隣同士に座り、幼子に教えるように手取り足取りで、私はそんなに仕事ができていなかったのだろうか。
「ここまでで質問ありますか」
「はい。あの、ここなのですが…」
Bさまのストイックさに、自分がいかに怠け者だったかを突きつけられ、勝手にダメージが蓄積していく。
「それはこっちですね」
離れた所に指を差す為、Bさまが軽く体を乗りだす。顔が近づけられたので緊張が走り視線を落とした。
「すみません」
「謝らなくても良いのに」
Bさまの表情に変わりはないが、少し困っているように感じた。
お昼休憩になり、食堂の椅子に座ると同時に溜め息が出た。
なんだか凄く疲れた気がする。私はサボる時はサボるが、やる気になれば集中したい。教えてもらえることは嬉しいのにBさまといると調子が狂う。矛盾する感情に心が疲れていくようだ。
私は一体、Bさまに何を求めているというのか。
「ねえ。隣に座ってもいい?」
横から声がし、誰かと思い顔を向ける。Bさまと親しい女性天使だった。
「…どうぞ」
「ありがとう!」
嬉しそうに笑うと椅子を動かし、私の隣へと座る。可愛らしい人だと思った。
「もうすぐ納期だね」
「そうですね。あっという間です」
「私、次もBさまと仕事したいなぁ。もっと仕事して経験を積んで、Bさまの右腕になりたい」
生き生きとした表情をして言うものだから、なんだか眩しく感じる。彼女の仕事ぶりから、とても懸命な人だと思う。
「真摯に取り組まれてますから、きっとなれますよ」
「ありがとう!あなたは?」
キラキラとした純粋な目で見つめられる。
「あなたもBさまの右腕を目指してるの?」
「まさか!」
「そうなの?今日だってBさまと…」
「あれは、私が全然できないからです」
「そうかなぁ。Bさまは見込んでのことだと思うよ。そんな風に思わなくても大丈夫」
嫌味のない笑顔で真っ直ぐに言われると、嬉しさでくすぐったい。
なんて素敵な人なんだろう。Bさまと同じで、堂々としている。
自分も好きだったはずなのに、結ばれた二人を祝福していた天使たちを思い出した。
彼女たちも、こんな気持ちだったのだろうか。
人柄を知れば、悔しさ等感じなくなるのかもしれない。
…もし彼女のようだったなら、Bさまを好きになれたのかな。
ふと『好きになれたのかな』という感情にひっかかる。『好きになれた』私はそう思った?
Bさまへの気持ちは恋愛の好きには至っておらず、憧れや尊敬が強かったのかもしれない。あんなに凄い人なのだから、親しくなり舞い上がるのも無理はない。そうなのだとしたら。
「では皆さん。午後も仕事頑張りましょー」
「はい、Bさま!」
Bさまのかけ声を合図に各々仕事に取り組む。Bさまは天使たちに声をかけていき、最後に私の方へ来た。
「あの、Bさま。案があるのですがいいですか」
「…ええ!聞かせてください」
Bさまは少し驚いて、すぐにいつもの表情に戻った。
「グラフの情報は簡潔にした方が見やすいと思ったのでこうして、説明文は絞って…」
広げた資料にペンを走らせる。
「色彩はこうで、ここはこうしてはどうでしょうか」
「ええ!ヤバですね。そうしましょう」
Bさまが嬉しそうに言うものだから、私の頬も自然と緩み小さな笑い声が出た。Bさまの視線が私に移動し、丸い目を細め右手をあげる。その手が私の頭上に近づきなにかと思えば、頭に僅かな重みを感じた。
「ふふ。Bさま、子ども扱いはやめてください」
優しい手から逃げるように、笑って頭を動かした。
「……すみません」
気のせいかもしれないけれど、少し落ち込んで見えるBさまがおかしかった。
良かった。Bさまとのやりとりが楽しい。夜に話す時みたいに気楽だった。
Bさまが私の顔を覗き込む。
「何か良いことでもありましたか」
「え?良いこと…わかりません。どうしてですか?」
「仕事中はずっと表情が固かったでしょう。今のあなたは…普段話しているあなたと似てます」
穏やかな声で言われる。
確かに、チームの一員が私で良いのかという気持ちと、Bさまを意識し過ぎていた。
「…私は目標もないですし、仕事に負い目があったんです。でも、頑張ること自体はいいのかなって」
呟きを、Bさまは静かに聞いてくれている。さすがにBさまの事は言えないけれど。
「すみません」
「…。あなた、他の天使のミスに気づいて、さりげなく修正してましたよね」
「え……」
「いいんですよ。そういうので」
言いながらBさまは席を立った。
「まぁでも」
こちらに少しだけ顔を近づけ、Bさまは人差し指を自身の口にあてがう。
「……サボりはほどほどに、ですよ?」
にや、と首を傾け笑い、耳にかけられた髪がさらりと揺れた。
「それと今夜、家に伺いますね」
他の天使には聞こえないくらいの小さな声で言い、離れていくBさまの後ろ姿を見送る。
いつもなら楽しみな言葉に、どうしてか罪悪感のようなものが私の胸をざわつかせた。
「貸してくれた漫画、ヤバでした!猫の絵がとても可愛らしかったです」
「それは良かったです」
Bさまの顔を見ると、女性天使とのやりとりが頭をよぎる。どこか上の空で返事をする私に気づいたのか、Bさまは間をおいて「元気ないですね」と言った。
「そうでしょうか」
「具合でも悪いですか。明日はお休みしてはどうでしょう」
「すみません、その、大丈夫です」
もし女性天使とBさまが付き合っても、今の私ならきっと応援できる。他の女性だとしても、Bさまだっていつかは。
「今日のこと、嫌でしたか」
「え?」
「頭を撫でるのはやりすぎたかと思いまして」
真っ直ぐに私を見る丸い目に、鼓動が速くなる。
「ち、違います。それは関係ないです。嫌じゃなかったですし…。その、頭が少し痛くて」
嘘ではない。
「そうでしたか。今日はもう帰ります。ゆっくり休んでください」
「おやすみなさい」と言ってBさまは飛んでいった。その後ろ姿が見えなくなるまで、私はぼんやりと見つめた。
次の日の午前中、Bさまは神さまの所にいるので会うことはなかった。
お昼ご飯を食べ終わり席を立とうとした時。男性天使に声をかけられる。
他愛もない会話をするが、何か言いたそうに視線が泳ぎなんだろうと不思議に思っていると。
「あのさ!今度の休み、良かったら一緒に…その…出かけないかな!?」
突然のお誘いに驚いたけれど、これは私に好意があるのだろうか。仕事以外の話はしたことがないが、人当たりがよく勤勉な印象の人だ。
異性とおでかけなんてもう何年もしていない。前に好きだった人とでかけたことはあったけれど。
「いいですよ」
返事をすると、その人は不安げな顔から一気に笑顔へと変わる。
可愛らしい人だと思った。