そして天使はいなくなった
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女性天使の言葉を思い出すと、まるで胸の中に棘が刺さっていくみたいだ。
「また私にも」ということは、以前にBさまと貸し借りをしていたのだろう。自分だけとは思っていなかったけれど、どこか特別だと自惚れていたのかもしれない。
目頭が熱くなった時、呼び鈴の音が聞こえた。きっとBさまだ。
指で目元を拭い、玄関を開ける。
「こんばんは~。仕事が片付いたので早く来ました」
楽しげに話すBさまの顔を見ると、胸が痛んだ。けれど悟られたくなくて、私も笑顔を作る。
「お疲れ様です。今日のプレゼンも凄かったですね。資料のまとめ方、参考にしても構いませんか?」
「…ええ、構いません」
「ありがとうございます!」
上手く笑えているだろうか。
私の不安をよそにBさまは「でしたら、一緒に作成しましょう」と言ってきた。
「今日決まったプロジェクトに、何人か声をかけているのです。あなたも入りませんか」
私がBさまのチームに。
驚きで何度も瞬きをした。神さまの右腕であるBさまと同じチームで仕事ができるのは、一般天使からすると学びも多く誇らしいことだ。
でも、私なんかがいいのだろうかという思いがよぎる。
資料のまとめ方を参考にしたいと言ったのは嘘ではないが、何か話さなければと思わなければ、伝えることもなかったのに。
「その…」
「先程の話がなくても、声をかけようと思っていました。まだ経験の浅い人を選んでいるので、大変かもしれませんが構える必要はありません。皆同じです」
私の心を読んでいるみたいにBさまは優しく話してくれる。
ほんの少し、それを怖く感じた。私の考えなど全て知られているかのようで。
「…嬉しいです」
「良かったです。詳しいことは明日話しましょう」
「はい。ではまた明日お願いします」
「いえいえ、そうじゃなくて」
もう帰るのかと思い、私は漫画の紙袋を取ろうと扉を開けていた。
「仕事の話は明日ということです」
「あ……。お恥ずかしい…」
「あなたは意外と、あわてんぼうさんですね」
Bさまは口元に手を当て、私を見ながら小さく笑う。
その姿がなんだかとても可愛らしくて、私は赤くなった顔を隠すように俯いた。
Bさまに声をかけられたプロジェクトの為、私以外にも何人かの天使たちが会議室に集まっている。その中にはBさまと親しそうだった、あの女性天使も居た。
少しだけ胸が痛むものの、仕事に私情は挟みたくないし、同じチームとして仲良くなりたい気持ちもあるのだけれど。
「Bさま、私の納期が短すぎます!延ばしてくださいよ」
「そうでしょうか。ではもう数日なら調整できます」
「もう一声!」
「あとは頑張りましょう」
…とはいえ、女性天使とBさまのやりとりを身近で聞くというのは、なかなか落ち着かない。自分の書類を無駄に読み返している。
やりとりから二人の仲の良さが伺え、女性天使のBさまに物怖じしない態度は羨ましくもあった。
「不明な点はありますか」
急に頭上から声がし、肩が跳ねる。そこにはいつもの穏やかな顔をしたBさまが居た。
「あ…今のところ問題ありません」
緊張からか気まずさからか、Bさまの顔をいつものように見ることができない。
「何かあれば聞いてください。わたし、たまにしか来られないので」
「ありがとうございます」
顔を反らすかたちで、すぐに仕事へ取りかかる。
Bさまは他の天使にも声をかけていくと、午後にまた戻ってくると言い部屋を出ていった。
あれから何日かたったが、仕事中にBさまと話すのは相変わらずぎこちない。必要最低限の会話。仕事中なのだから当然といえば当然だが、円滑なコミュニケーションかと言われれば事務的すぎるかもしれない。
その分、Bさまと感想を言い合う時間は以前よりも待ち遠しくなっていた。
「あなたがこの漫画で好きなキャラ、当てましょうか」
自信ありげにBさまが言うものだから、私も乗っかり言い返す。
「もし当たったらリンゴ飴をごちそうしますよ」
「言いましたね?」
Bさまは悪戯っ子のように目を光らせニヤリと笑う。
「敵ボスの側近です」
当たりだった。普段とは違うタイプのキャラなのに、まさか当てられるなんて。
「なっ…なんでわかったんですか!?」
「ふふ。内緒です。リンゴ飴、約束ですよ」
「悔しいですが仕方ありません」
何故わかったのでしょうと呟く私を、Bさまがじっと見つめているのに気づいた。
「…なにか?」
「仕事はどうですか」
どう、といきなり言われても。Bさまにしては随分と雑な質問だ。もしかしてミスがあったのだろうか。それとも一昨日、資料室で十五分程仮眠をとったのが見られていたのかも。
「私、なにかしてしまいましたか?その、心当たりしかないのですが…」
「……いえ。明日はプレゼンの資料を一緒に作成しましょうね」
話題を変えるように言うので、なんだったのかそれ以上は聞けなかった。
「また私にも」ということは、以前にBさまと貸し借りをしていたのだろう。自分だけとは思っていなかったけれど、どこか特別だと自惚れていたのかもしれない。
目頭が熱くなった時、呼び鈴の音が聞こえた。きっとBさまだ。
指で目元を拭い、玄関を開ける。
「こんばんは~。仕事が片付いたので早く来ました」
楽しげに話すBさまの顔を見ると、胸が痛んだ。けれど悟られたくなくて、私も笑顔を作る。
「お疲れ様です。今日のプレゼンも凄かったですね。資料のまとめ方、参考にしても構いませんか?」
「…ええ、構いません」
「ありがとうございます!」
上手く笑えているだろうか。
私の不安をよそにBさまは「でしたら、一緒に作成しましょう」と言ってきた。
「今日決まったプロジェクトに、何人か声をかけているのです。あなたも入りませんか」
私がBさまのチームに。
驚きで何度も瞬きをした。神さまの右腕であるBさまと同じチームで仕事ができるのは、一般天使からすると学びも多く誇らしいことだ。
でも、私なんかがいいのだろうかという思いがよぎる。
資料のまとめ方を参考にしたいと言ったのは嘘ではないが、何か話さなければと思わなければ、伝えることもなかったのに。
「その…」
「先程の話がなくても、声をかけようと思っていました。まだ経験の浅い人を選んでいるので、大変かもしれませんが構える必要はありません。皆同じです」
私の心を読んでいるみたいにBさまは優しく話してくれる。
ほんの少し、それを怖く感じた。私の考えなど全て知られているかのようで。
「…嬉しいです」
「良かったです。詳しいことは明日話しましょう」
「はい。ではまた明日お願いします」
「いえいえ、そうじゃなくて」
もう帰るのかと思い、私は漫画の紙袋を取ろうと扉を開けていた。
「仕事の話は明日ということです」
「あ……。お恥ずかしい…」
「あなたは意外と、あわてんぼうさんですね」
Bさまは口元に手を当て、私を見ながら小さく笑う。
その姿がなんだかとても可愛らしくて、私は赤くなった顔を隠すように俯いた。
Bさまに声をかけられたプロジェクトの為、私以外にも何人かの天使たちが会議室に集まっている。その中にはBさまと親しそうだった、あの女性天使も居た。
少しだけ胸が痛むものの、仕事に私情は挟みたくないし、同じチームとして仲良くなりたい気持ちもあるのだけれど。
「Bさま、私の納期が短すぎます!延ばしてくださいよ」
「そうでしょうか。ではもう数日なら調整できます」
「もう一声!」
「あとは頑張りましょう」
…とはいえ、女性天使とBさまのやりとりを身近で聞くというのは、なかなか落ち着かない。自分の書類を無駄に読み返している。
やりとりから二人の仲の良さが伺え、女性天使のBさまに物怖じしない態度は羨ましくもあった。
「不明な点はありますか」
急に頭上から声がし、肩が跳ねる。そこにはいつもの穏やかな顔をしたBさまが居た。
「あ…今のところ問題ありません」
緊張からか気まずさからか、Bさまの顔をいつものように見ることができない。
「何かあれば聞いてください。わたし、たまにしか来られないので」
「ありがとうございます」
顔を反らすかたちで、すぐに仕事へ取りかかる。
Bさまは他の天使にも声をかけていくと、午後にまた戻ってくると言い部屋を出ていった。
あれから何日かたったが、仕事中にBさまと話すのは相変わらずぎこちない。必要最低限の会話。仕事中なのだから当然といえば当然だが、円滑なコミュニケーションかと言われれば事務的すぎるかもしれない。
その分、Bさまと感想を言い合う時間は以前よりも待ち遠しくなっていた。
「あなたがこの漫画で好きなキャラ、当てましょうか」
自信ありげにBさまが言うものだから、私も乗っかり言い返す。
「もし当たったらリンゴ飴をごちそうしますよ」
「言いましたね?」
Bさまは悪戯っ子のように目を光らせニヤリと笑う。
「敵ボスの側近です」
当たりだった。普段とは違うタイプのキャラなのに、まさか当てられるなんて。
「なっ…なんでわかったんですか!?」
「ふふ。内緒です。リンゴ飴、約束ですよ」
「悔しいですが仕方ありません」
何故わかったのでしょうと呟く私を、Bさまがじっと見つめているのに気づいた。
「…なにか?」
「仕事はどうですか」
どう、といきなり言われても。Bさまにしては随分と雑な質問だ。もしかしてミスがあったのだろうか。それとも一昨日、資料室で十五分程仮眠をとったのが見られていたのかも。
「私、なにかしてしまいましたか?その、心当たりしかないのですが…」
「……いえ。明日はプレゼンの資料を一緒に作成しましょうね」
話題を変えるように言うので、なんだったのかそれ以上は聞けなかった。