そして天使はいなくなった
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「良かった。会えました」
仕事を終えて歩いていると、正面からやってきたBさまに声をかけられた。
最初、近くを歩く他の天使だと思い通りすぎたら「あなたですよ」と言われてしまい、天使たちの視線がチラチラと注がれている。
「あの、どうして…」
「漫画をお貸しする約束だったでしょう」
資料室での出来事を思い出す。てっきり社交辞令だとばかり思っていたのに。
「取ってくるので待っていてもらえますか」
Bさまはそう言うと、あっという間に飛んで行ってしまった。
どうしよう。このままここで待っていたらいいのだろうか。そもそもBさまはどうして私なんかに漫画を貸してくれるのだろう。…そうだ、面白いものは共有したいタイプの人なんだった。
頭の中であれこれ考えていると、急に強い風が吹く。
「戻りました」
「早いですね!?」
Bさまは疲れも感じさせずに紙袋を差し出してきた。受け取ると想像よりもずしりと重みを感じる。
「……多いですね?」
「他にもおすすめを入れました」
「ありがとうございます…」
気持ちは嬉しい。だけどこの重さを運びながら飛べるだろうか。
心配しているのが顔に出ていたのか、Bさまに紙袋を持たれる。
「家まで案内してください。持ちますので」
「え!?いえ、そんなことまでしていただけません!」
「重くなってしまいましたから」
Bさまが飛び上がったので、私も慌てて羽を広げ飛び上がる。
片方の羽が歪んでいても、外ならば微調整がいらない。なるべく不恰好にならないよう必死に飛んだ。速度を合わせて着いてきてくれるのが申し訳ない。
「ここです、私の家」
家の前に降りると、Bさまが紙袋を渡してくれた。
「読み終わったら教えてください。受け取りにきます」
お茶くらい出した方がいいのだろうか。と悩んだけれど、Bさまが「それではおやすみなさい」と言うので私も慌てて「おやすみなさい」と返した。
家に入り一人になると、神さまの右腕であるBさまと漫画の貸し借りをしている。という事実に頭が追い付いてきた。なんだか凄い状況なんじゃないだろうか。
今までBさまとは挨拶か業務連絡しかなく、私の事は見たことのある顔くらいの認識だったと思うのに。それが一日で。
借りた漫画を読み進めるも、鼓動がいつもより速い気がして集中できない。
Bさまに抱き止められたことや話しかけられた事を思い出し、恥ずかしさが込み上げるのだ。
私はこんなに単純だっただろうか。Bさまへの気持ちは憧れなのか、それとも別の…。
あれから数日。漫画を返すべくBさまに話しかけるタイミングを見計らうも、なかなか一人にならない。
神さまの右腕として仕事で忙しいのはもちろん、Bさまに話しかける天使は沢山いるので当然なのだけれど。
これではいつまでたっても返すことができないので、他の天使は気にしないことにしよう。
「Bさまっ」
前を歩くBさまに後ろから声をかけた。Bさまが振り向き、私と目が合う。
「今お時間よろしいでしょうか?」
「もちろんです」
Bさまは体ごと私の方を向く。隣を歩いていた天使たちも立ち止まった。
「この前お借りしたの、読み終わったのでお返ししたいのですが…」
「もうですか!ヤバですね。では今夜取りに伺っても?」
「お願いします」
もう少し話したかったけれど、他の天使たちを待たせてしまうので「それでは失礼します」とお辞儀をしてその場を離れた。
晩ごはんを食べ終えお茶を飲んでいると、呼び鈴が鳴ったのでドアを開ける。
「こんばんは」
「Bさま、お疲れ様です」
Bさまは手をひらりとさせ立っていた。
「漫画ありがとうございました。NYA面白かったです。とくに3巻で笑っちゃって」
「化け猫のシーンですか?」
「そうです!新しいキャラの台詞回しとか…」
面白かったところを言い当てられ、嬉しくなった私はそのまま話を続けた。
Bさまも頷いたり気に入った所を話したりするのでつい長話になりハッとする。
「す…すみません。ベラベラと」
「いえ。楽しいですよ。こんな風に感想を言い合うことってないので」
Bさまは穏やかに言う。
「でも、玄関前で…すみません」
「気にしてません。また持ってきますね」
また?と聞き返す前に、Bさまは「おやすみなさい」と言って飛んで行ってしまった。
次の日の夜、Bさまは本当に漫画を持って家にやってくる。
借りてばかりは申し訳ないので、私の持っている中でBさまが読んだことのない漫画を貸すと喜んでくれた。
そのような貸し借りが数回続き、玄関前で感想を言い合うのが定番になっていた。
本当はお茶でも出して家の中で話した方が良いのだろうけど、私の部屋は物が多いので恥ずかしく、そのまま玄関前で話している。
Bさまに声をかけるのも慣れてきたある日。
いつものように漫画を読み終えたことを伝え、返す約束をした。
去り際、Bさまの隣にいた女性天使の「また私にも貸してくださいよ」という声が聞こえる。
ざわりとしたものが胸を撫でつけ、まるで冷水を浴びたかのように冷えていく。
この感覚を、私は覚えていた。
仕事を終えて歩いていると、正面からやってきたBさまに声をかけられた。
最初、近くを歩く他の天使だと思い通りすぎたら「あなたですよ」と言われてしまい、天使たちの視線がチラチラと注がれている。
「あの、どうして…」
「漫画をお貸しする約束だったでしょう」
資料室での出来事を思い出す。てっきり社交辞令だとばかり思っていたのに。
「取ってくるので待っていてもらえますか」
Bさまはそう言うと、あっという間に飛んで行ってしまった。
どうしよう。このままここで待っていたらいいのだろうか。そもそもBさまはどうして私なんかに漫画を貸してくれるのだろう。…そうだ、面白いものは共有したいタイプの人なんだった。
頭の中であれこれ考えていると、急に強い風が吹く。
「戻りました」
「早いですね!?」
Bさまは疲れも感じさせずに紙袋を差し出してきた。受け取ると想像よりもずしりと重みを感じる。
「……多いですね?」
「他にもおすすめを入れました」
「ありがとうございます…」
気持ちは嬉しい。だけどこの重さを運びながら飛べるだろうか。
心配しているのが顔に出ていたのか、Bさまに紙袋を持たれる。
「家まで案内してください。持ちますので」
「え!?いえ、そんなことまでしていただけません!」
「重くなってしまいましたから」
Bさまが飛び上がったので、私も慌てて羽を広げ飛び上がる。
片方の羽が歪んでいても、外ならば微調整がいらない。なるべく不恰好にならないよう必死に飛んだ。速度を合わせて着いてきてくれるのが申し訳ない。
「ここです、私の家」
家の前に降りると、Bさまが紙袋を渡してくれた。
「読み終わったら教えてください。受け取りにきます」
お茶くらい出した方がいいのだろうか。と悩んだけれど、Bさまが「それではおやすみなさい」と言うので私も慌てて「おやすみなさい」と返した。
家に入り一人になると、神さまの右腕であるBさまと漫画の貸し借りをしている。という事実に頭が追い付いてきた。なんだか凄い状況なんじゃないだろうか。
今までBさまとは挨拶か業務連絡しかなく、私の事は見たことのある顔くらいの認識だったと思うのに。それが一日で。
借りた漫画を読み進めるも、鼓動がいつもより速い気がして集中できない。
Bさまに抱き止められたことや話しかけられた事を思い出し、恥ずかしさが込み上げるのだ。
私はこんなに単純だっただろうか。Bさまへの気持ちは憧れなのか、それとも別の…。
あれから数日。漫画を返すべくBさまに話しかけるタイミングを見計らうも、なかなか一人にならない。
神さまの右腕として仕事で忙しいのはもちろん、Bさまに話しかける天使は沢山いるので当然なのだけれど。
これではいつまでたっても返すことができないので、他の天使は気にしないことにしよう。
「Bさまっ」
前を歩くBさまに後ろから声をかけた。Bさまが振り向き、私と目が合う。
「今お時間よろしいでしょうか?」
「もちろんです」
Bさまは体ごと私の方を向く。隣を歩いていた天使たちも立ち止まった。
「この前お借りしたの、読み終わったのでお返ししたいのですが…」
「もうですか!ヤバですね。では今夜取りに伺っても?」
「お願いします」
もう少し話したかったけれど、他の天使たちを待たせてしまうので「それでは失礼します」とお辞儀をしてその場を離れた。
晩ごはんを食べ終えお茶を飲んでいると、呼び鈴が鳴ったのでドアを開ける。
「こんばんは」
「Bさま、お疲れ様です」
Bさまは手をひらりとさせ立っていた。
「漫画ありがとうございました。NYA面白かったです。とくに3巻で笑っちゃって」
「化け猫のシーンですか?」
「そうです!新しいキャラの台詞回しとか…」
面白かったところを言い当てられ、嬉しくなった私はそのまま話を続けた。
Bさまも頷いたり気に入った所を話したりするのでつい長話になりハッとする。
「す…すみません。ベラベラと」
「いえ。楽しいですよ。こんな風に感想を言い合うことってないので」
Bさまは穏やかに言う。
「でも、玄関前で…すみません」
「気にしてません。また持ってきますね」
また?と聞き返す前に、Bさまは「おやすみなさい」と言って飛んで行ってしまった。
次の日の夜、Bさまは本当に漫画を持って家にやってくる。
借りてばかりは申し訳ないので、私の持っている中でBさまが読んだことのない漫画を貸すと喜んでくれた。
そのような貸し借りが数回続き、玄関前で感想を言い合うのが定番になっていた。
本当はお茶でも出して家の中で話した方が良いのだろうけど、私の部屋は物が多いので恥ずかしく、そのまま玄関前で話している。
Bさまに声をかけるのも慣れてきたある日。
いつものように漫画を読み終えたことを伝え、返す約束をした。
去り際、Bさまの隣にいた女性天使の「また私にも貸してくださいよ」という声が聞こえる。
ざわりとしたものが胸を撫でつけ、まるで冷水を浴びたかのように冷えていく。
この感覚を、私は覚えていた。