そして天使はいなくなった
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天界は今日も平和だ。
明るい光が窓から射し込み、テーブルに反射する。
私は眩しさに目を細めながら、夜更かしをした昨日の自分を呪った。しかも、よりにもよって今日はプレゼンをする日だったのだ。こんなに寝不足の顔と頭で大丈夫だろうか。
帰りたい気持ちに蓋をし、会議の時間までにと書類に目を通す。
暫くすると、部屋に居た天使たちが賑やかになった。
「Bさまだ!」
「おはようございますBさま!」
尊敬の眼差しを受けながら、Bさまが部屋に入ってくる。
「おはようございます」
落ち着いた声で挨拶をするBさま。毎日の恒例だけれど、この空気には慣れないでいる。
そもそも天界が苦手なのかもしれない。Bさまだけじゃない。皆、眩しすぎるのだ。
なぜそんなにも一生懸命で、快活としているのだろう。私といえば仕事は可能ならサボりたいし、向上心もないし、家ではだらけているのに。
…それに、なによりも。他の天使達は私のように、負の感情を持ち合わせていないように思う。
何年か前、私には好きな天使がいた。
そして知っているだけでも三人の天使がその人に恋をしていて、その人は三人の内の一人と付き合うのだが、これがまたお似合いだった。
付き合えなかった二人は、恋人同士になった二人を祝福していた。残念だけどお似合いだよね、なんて笑顔で言って。
私といえば悔しくて悲しくて、どうして私じゃ駄目なんだろうと惨めったらしく一人で泣いていた。なんなら女性天使を憎たらしくさえ思った。本当に最低だ。こんな私が釣り合うはずもないのに。
「…眠い」
欠伸を手で隠し、確認し終わった書類をまとめ会議室へと向かった。
会議中は欠伸をすることなく、プレゼンは可もなく不可もなく終わる。他の天使のプレゼンはもっと盛り上がっていたけれど。
午後は先輩天使に頼まれ、人気の少ない道を歩き資料室へと向かう。私は一人になれるこの時間が好きで、いつもゆっくりと資料を探す。
資料室には誰もおらず、埃が空中をキラキラと舞っている。適当に椅子に座り、暖かな日差しを感じながら必要な物を確認する。気持ち良さにまどろみ始めた時、誰かが扉を開けて入ってきた。Bさまだった。
「っ…Bさま、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
Bさまは私を横目に見るとすぐに棚を探し始める。本を手に取り、紙を捲る音が響く。
これではサボることなどできないので、早く資料を集めることにする。
ひとつを見つけたものの、私の背よりも遥かに高い所にあった。仕方がないので、部屋の隅に置いてある錆び付いた脚立を設置する。
ゆっくり一段登ると、ギシリと嫌な音をたて左右に揺れた。もう一段、さらにもう一段…と慎重に登っていく。資料のある高さまで登り手に取ったその時。踏ん張っていた足がぐらつき、脚立を蹴り飛ばす形で離れてしまった。
落ちる衝撃にそなえ頭を守るけれど、それとは違う振動が身体を走る。咄嗟につぶっていた目を開けると、Bさまの丸い目とかち合った。
「痛くないですか」
…一体どうして。どうしよう。Bさまの顔からは想像できない筋肉質な腕に抱き止められていて、私の顔には厚い胸板がぴたりとくっついていた。思わず頬に熱が集中する。
「すみません…!」
固まっていると、ヨイショと近くの椅子に座らされる。Bさまが一瞬、私の羽を見た。その動作に先程の熱が急速に冷えていき、言葉が喉に引っ掛かる。何か言われるだろうか。
沈黙を破ったのはBさまだった。
「今日のあなたのプレゼン、面白かったですよ」
「…え」
「人員や時間をどれだけ割けるかの課題はありますが。挿絵もヤバです」
「……ありがとうございます」
Bさまに褒められている天使は沢山見てきたけれど、まさか自分の番がくるなんて。
「挿絵は、漫画が好きで…。嬉しいです」
「わたしも漫画は好きですよ」
意外すぎる。Bさまは資料や小説しか読まないと思っていたのに。
「Bさま、漫画読むんですか」
「はい。家に沢山置いてあります。最近は『NYA』を読んでます」
NYAはデフォルメされた黒猫が表紙の漫画で、私はまだ読んだことがなかった。
「面白いですか?気になってるんです」
しまった。気になるなんて、読みたいと催促していると思われなかっただろうか。
「ええ。読みますか?」
「いえ!すみません。Bさまになんてことを」
「遠慮しなくて良いですよ。面白いものは共有しましょう」
率直に言うBさまに、ざわりと心が揺れる。勝手に親しみを感じた自分が恥ずかしい。私とは違うのに。
Bさまは羽を広げると、私が取り損ねた資料を取ってきてくれた。
「他に必要なものは?」
「えと、あとは村の人口調査の資料とそれから…」
伝えたそばから資料が机に重ねられていき、あっという間に終わる。
「…ありがとうございます。全部把握されているんですね」
「いえ。あなたの目線を参考にしました」
そう言ってBさまは自分の目を指差す。その目はビー玉のようにキラキラして見えた。この人はどこまで凄いのだろう。
もう一度お礼を伝えて資料室を去ろうとした時、背中越しに声を受ける。
「それではまたあとで」
目を閉じ微笑むBさまに会釈を返すのが精一杯で、逃げるように資料室を出た。
明るい光が窓から射し込み、テーブルに反射する。
私は眩しさに目を細めながら、夜更かしをした昨日の自分を呪った。しかも、よりにもよって今日はプレゼンをする日だったのだ。こんなに寝不足の顔と頭で大丈夫だろうか。
帰りたい気持ちに蓋をし、会議の時間までにと書類に目を通す。
暫くすると、部屋に居た天使たちが賑やかになった。
「Bさまだ!」
「おはようございますBさま!」
尊敬の眼差しを受けながら、Bさまが部屋に入ってくる。
「おはようございます」
落ち着いた声で挨拶をするBさま。毎日の恒例だけれど、この空気には慣れないでいる。
そもそも天界が苦手なのかもしれない。Bさまだけじゃない。皆、眩しすぎるのだ。
なぜそんなにも一生懸命で、快活としているのだろう。私といえば仕事は可能ならサボりたいし、向上心もないし、家ではだらけているのに。
…それに、なによりも。他の天使達は私のように、負の感情を持ち合わせていないように思う。
何年か前、私には好きな天使がいた。
そして知っているだけでも三人の天使がその人に恋をしていて、その人は三人の内の一人と付き合うのだが、これがまたお似合いだった。
付き合えなかった二人は、恋人同士になった二人を祝福していた。残念だけどお似合いだよね、なんて笑顔で言って。
私といえば悔しくて悲しくて、どうして私じゃ駄目なんだろうと惨めったらしく一人で泣いていた。なんなら女性天使を憎たらしくさえ思った。本当に最低だ。こんな私が釣り合うはずもないのに。
「…眠い」
欠伸を手で隠し、確認し終わった書類をまとめ会議室へと向かった。
会議中は欠伸をすることなく、プレゼンは可もなく不可もなく終わる。他の天使のプレゼンはもっと盛り上がっていたけれど。
午後は先輩天使に頼まれ、人気の少ない道を歩き資料室へと向かう。私は一人になれるこの時間が好きで、いつもゆっくりと資料を探す。
資料室には誰もおらず、埃が空中をキラキラと舞っている。適当に椅子に座り、暖かな日差しを感じながら必要な物を確認する。気持ち良さにまどろみ始めた時、誰かが扉を開けて入ってきた。Bさまだった。
「っ…Bさま、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
Bさまは私を横目に見るとすぐに棚を探し始める。本を手に取り、紙を捲る音が響く。
これではサボることなどできないので、早く資料を集めることにする。
ひとつを見つけたものの、私の背よりも遥かに高い所にあった。仕方がないので、部屋の隅に置いてある錆び付いた脚立を設置する。
ゆっくり一段登ると、ギシリと嫌な音をたて左右に揺れた。もう一段、さらにもう一段…と慎重に登っていく。資料のある高さまで登り手に取ったその時。踏ん張っていた足がぐらつき、脚立を蹴り飛ばす形で離れてしまった。
落ちる衝撃にそなえ頭を守るけれど、それとは違う振動が身体を走る。咄嗟につぶっていた目を開けると、Bさまの丸い目とかち合った。
「痛くないですか」
…一体どうして。どうしよう。Bさまの顔からは想像できない筋肉質な腕に抱き止められていて、私の顔には厚い胸板がぴたりとくっついていた。思わず頬に熱が集中する。
「すみません…!」
固まっていると、ヨイショと近くの椅子に座らされる。Bさまが一瞬、私の羽を見た。その動作に先程の熱が急速に冷えていき、言葉が喉に引っ掛かる。何か言われるだろうか。
沈黙を破ったのはBさまだった。
「今日のあなたのプレゼン、面白かったですよ」
「…え」
「人員や時間をどれだけ割けるかの課題はありますが。挿絵もヤバです」
「……ありがとうございます」
Bさまに褒められている天使は沢山見てきたけれど、まさか自分の番がくるなんて。
「挿絵は、漫画が好きで…。嬉しいです」
「わたしも漫画は好きですよ」
意外すぎる。Bさまは資料や小説しか読まないと思っていたのに。
「Bさま、漫画読むんですか」
「はい。家に沢山置いてあります。最近は『NYA』を読んでます」
NYAはデフォルメされた黒猫が表紙の漫画で、私はまだ読んだことがなかった。
「面白いですか?気になってるんです」
しまった。気になるなんて、読みたいと催促していると思われなかっただろうか。
「ええ。読みますか?」
「いえ!すみません。Bさまになんてことを」
「遠慮しなくて良いですよ。面白いものは共有しましょう」
率直に言うBさまに、ざわりと心が揺れる。勝手に親しみを感じた自分が恥ずかしい。私とは違うのに。
Bさまは羽を広げると、私が取り損ねた資料を取ってきてくれた。
「他に必要なものは?」
「えと、あとは村の人口調査の資料とそれから…」
伝えたそばから資料が机に重ねられていき、あっという間に終わる。
「…ありがとうございます。全部把握されているんですね」
「いえ。あなたの目線を参考にしました」
そう言ってBさまは自分の目を指差す。その目はビー玉のようにキラキラして見えた。この人はどこまで凄いのだろう。
もう一度お礼を伝えて資料室を去ろうとした時、背中越しに声を受ける。
「それではまたあとで」
目を閉じ微笑むBさまに会釈を返すのが精一杯で、逃げるように資料室を出た。
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