裏腹の鎖
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「ギンさんは可愛いですね」
その言葉に深い意味はなかった。
人間界において円滑にコミュニケーションを取る為であり、あくまで他者から見てそうなのだろうという思考を口にしたにすぎない。
ブラックにとって、嘘ではないが本心でもなかった。
今日はさとしの家で動画撮影をする為、いつもより人が集まっている。
「市井ちゃんと一緒に撮影だー!ギンお姉ちゃんもありがとうっ」
企画名は『学校一の美少女が色んな服装をしてみた!』だ。
「わぁ~!この服かっこいい!こっちもかわいー」
「市井ちゃん、この髪飾りも使って。絶対似合うから!」
「すてき~。ギンさんありがとぉ!」
盛り上がる二人の横で、さとしは可愛らしい市井ちゃんの姿を沢山撮影できて幸せそうにしている。
撮影は順調に終わり、ギンが市井ちゃんを家まで送ると言うと、さとしが送ると言いだし家を出ていった。
「さとしくんは本当に市井ちゃんが好きだね」
「そうですね」
「いいなぁ」
「なにがです?」
ブラックは羨ましそうな呟きの意味がわからずギンの方を見る。
「二人ともだけど、市井ちゃんかな。可愛いし、さとしくんみたいな子に好かれて」
「え!さとくんに好かれたいんですか!?ザコ小学生ですよ。市井ちゃんの鬼ヤバ動画観ます?」
「さとしくんはいい子でしょ!あとそういう意味で好かれたいんじゃないし、市井ちゃんの鬼ヤバ動画は観ない…。誰にだって欠点はあるよ」
「カカカッ!本当に観なくて良いんですか~?」
人間は複雑であり単純で面白い。
からかうとそっぽを向かれるが、ギンが本当に怒っているわけではないのをブラックは知っている。
「ギンさんは可愛いですね」
「なに急に…そういうこと言わないで」
たまに見せる、恥ずかしがりつつも嬉しそうに自分を見る目が心地良かった。
いつからだったか、その目がとりわけ人間の男性に向けられた時。それを見ると胸の辺りが僅かに疼いた。
「オレちゃん、そういうの面白くないです。まあでも。ギンさんが良いと思うならやってみますか?」
「ううん、ブラック達がやりたいのにしよう」
さとし達といる時、二人でいる時。ギンへの態度が少しずつ変わっていった。
「興味ないです」
「……そっか、わかった」
そのうちギンはブラックを避ける為にさとしとも距離を取るが、それでも家が近いのでどうしても会うことになる。
さとしに「いつ遊べるの」と聞かれる度にギンは自分の顔色を伺ってくるが、何も言わなかった。
ある日。さとしの家へ向かう途中、男性と二人で歩くギンを見かけた。家まで送られ玄関前で話し込み、声は聞こえないが親密そうに見える。
その様子に、自分の中で疼いていた物が重く締め付けられ、黒く濃い渦が全身の隙間から漏れでる感覚に陥る。すぐ近くに居るギンへの意識が止められなかった。
男性が帰ったのを見計らい、渦を吐き出すように「良い趣味ですね」とギンへ言うと、怒った顔で「一度話そう」と言われ部屋に連れてこられた。
「私の何に怒ってるの?」
「怒ってないですけど」
「けど、なに?」
「ギンさんとはもう動画も撮りたくないですし、存在が不愉快です」
思った事を伝えると、目を丸くし驚いている。
「…待ってブラック。ねえ、嘘だよね?」
「嘘じゃないです」
丸くなった目は瞬く間に涙を浮かべ崩れ始める。それと同時に、見えないはずの黒く濃い渦がギンの体に近づき触れた気がした。
「……どんな気持ちですか?」
真っ直ぐにギンを見て言った。
「オレちゃん、知りたいんです」
「…ふっ、うぅ…」
「ねえ。教えてくださいよ。ギンさん」
久しぶりに話すからか、今まで溜め込んでいたものが言葉と一緒に込み上げる。
「耳ついてます?お口はありますかァ?」
自分の言葉で傷つく姿に溜飲を下げていき、快感が顔を覗かせはじめた。
「ただの飾りなんですねえ!」
「なんで…そんな風に笑うの」
「……。オレちゃんはいつもこうですよ」
感情の読めない声色が気に入らず、ブラックは一方的に話し続ける。
「ギンさんが勝手にオレちゃんに理想を抱いて、勝手に喜んでただけです。他の人にもそうやって押し付けてるんですか?だから表面上の関係しか築けないんですね!」
それからもブラックの言葉は止まらなかった。
何かを言う度、ギンの顔が怒りや悲しみに歪むことが痛快でしかない。
「嫌い!!」
耳をつんざくような叫び声だった。先ほどまでの震えた声は消え失せ、静まり返る部屋に荒い息遣いが響く。
「ブラックなんて大っ嫌い!!」
続けられたその言葉を聞いた瞬間、パンという乾いた音が聞こえ、自分の右手がギンの頬を叩いたのだと気づくには間があった。
今の音は。右手の異物感は。目の前にいるギンは顔を傾け、左頬は赤みを帯びている。
蓋をして押さえ込んでいたものがふつふつと込み上げ、知らぬ間に爆発したようだ。
「…やだよぉ…ブラック…」
ギンの目は恐怖の色で染まり、体は小刻みに震え、それでも祈るように涙をこぼしながらも自分の名前を呼ぶ。
ブラックは少しの後ろめたさから、ギンの左頬を指で触れるように撫でる。
「っやめて…お願い」
前は可愛いと思っていた唇も、自分を拒否する言葉を発すると醜いものに思えた。
「大嫌いなんでしょう。オレちゃんのこと」
震える唇を強くなぞれば、蚊の鳴くような声が漏れる。
「大嫌いな相手にお願いできるんですね」
顔を近づけると、大嫌いと言った時とは変わり、今は涙で揺れる瞳が縋るように自分を見ている。
「どうしたら前みたいになれるの…」
「言ったでしょう。初めからないんですよ。そんなもの」
過去の話を持ち出されるのは面白くなく、冷たく言い放つ。
「オレちゃんもギンさんが大嫌いです」
ギンの大きく開いた目と、強く噛み締め血を滲ませた唇を見て、ブラックは幾分か気分が良くなるのを感じた。
全身から漏れでている黒く濃い渦が、居場所を見つけ動き出す。
「オレちゃんのこと、どう思ってます?」
「……好き。嫌いにならないで……」
自分を求める反応にゾクリと快感が込み上げる。
「ギンさんは可愛いですね」
その言葉に深い意味はない。
目の前にいる人間を、本心から可愛いと思えた。
その言葉に深い意味はなかった。
人間界において円滑にコミュニケーションを取る為であり、あくまで他者から見てそうなのだろうという思考を口にしたにすぎない。
ブラックにとって、嘘ではないが本心でもなかった。
今日はさとしの家で動画撮影をする為、いつもより人が集まっている。
「市井ちゃんと一緒に撮影だー!ギンお姉ちゃんもありがとうっ」
企画名は『学校一の美少女が色んな服装をしてみた!』だ。
「わぁ~!この服かっこいい!こっちもかわいー」
「市井ちゃん、この髪飾りも使って。絶対似合うから!」
「すてき~。ギンさんありがとぉ!」
盛り上がる二人の横で、さとしは可愛らしい市井ちゃんの姿を沢山撮影できて幸せそうにしている。
撮影は順調に終わり、ギンが市井ちゃんを家まで送ると言うと、さとしが送ると言いだし家を出ていった。
「さとしくんは本当に市井ちゃんが好きだね」
「そうですね」
「いいなぁ」
「なにがです?」
ブラックは羨ましそうな呟きの意味がわからずギンの方を見る。
「二人ともだけど、市井ちゃんかな。可愛いし、さとしくんみたいな子に好かれて」
「え!さとくんに好かれたいんですか!?ザコ小学生ですよ。市井ちゃんの鬼ヤバ動画観ます?」
「さとしくんはいい子でしょ!あとそういう意味で好かれたいんじゃないし、市井ちゃんの鬼ヤバ動画は観ない…。誰にだって欠点はあるよ」
「カカカッ!本当に観なくて良いんですか~?」
人間は複雑であり単純で面白い。
からかうとそっぽを向かれるが、ギンが本当に怒っているわけではないのをブラックは知っている。
「ギンさんは可愛いですね」
「なに急に…そういうこと言わないで」
たまに見せる、恥ずかしがりつつも嬉しそうに自分を見る目が心地良かった。
いつからだったか、その目がとりわけ人間の男性に向けられた時。それを見ると胸の辺りが僅かに疼いた。
「オレちゃん、そういうの面白くないです。まあでも。ギンさんが良いと思うならやってみますか?」
「ううん、ブラック達がやりたいのにしよう」
さとし達といる時、二人でいる時。ギンへの態度が少しずつ変わっていった。
「興味ないです」
「……そっか、わかった」
そのうちギンはブラックを避ける為にさとしとも距離を取るが、それでも家が近いのでどうしても会うことになる。
さとしに「いつ遊べるの」と聞かれる度にギンは自分の顔色を伺ってくるが、何も言わなかった。
ある日。さとしの家へ向かう途中、男性と二人で歩くギンを見かけた。家まで送られ玄関前で話し込み、声は聞こえないが親密そうに見える。
その様子に、自分の中で疼いていた物が重く締め付けられ、黒く濃い渦が全身の隙間から漏れでる感覚に陥る。すぐ近くに居るギンへの意識が止められなかった。
男性が帰ったのを見計らい、渦を吐き出すように「良い趣味ですね」とギンへ言うと、怒った顔で「一度話そう」と言われ部屋に連れてこられた。
「私の何に怒ってるの?」
「怒ってないですけど」
「けど、なに?」
「ギンさんとはもう動画も撮りたくないですし、存在が不愉快です」
思った事を伝えると、目を丸くし驚いている。
「…待ってブラック。ねえ、嘘だよね?」
「嘘じゃないです」
丸くなった目は瞬く間に涙を浮かべ崩れ始める。それと同時に、見えないはずの黒く濃い渦がギンの体に近づき触れた気がした。
「……どんな気持ちですか?」
真っ直ぐにギンを見て言った。
「オレちゃん、知りたいんです」
「…ふっ、うぅ…」
「ねえ。教えてくださいよ。ギンさん」
久しぶりに話すからか、今まで溜め込んでいたものが言葉と一緒に込み上げる。
「耳ついてます?お口はありますかァ?」
自分の言葉で傷つく姿に溜飲を下げていき、快感が顔を覗かせはじめた。
「ただの飾りなんですねえ!」
「なんで…そんな風に笑うの」
「……。オレちゃんはいつもこうですよ」
感情の読めない声色が気に入らず、ブラックは一方的に話し続ける。
「ギンさんが勝手にオレちゃんに理想を抱いて、勝手に喜んでただけです。他の人にもそうやって押し付けてるんですか?だから表面上の関係しか築けないんですね!」
それからもブラックの言葉は止まらなかった。
何かを言う度、ギンの顔が怒りや悲しみに歪むことが痛快でしかない。
「嫌い!!」
耳をつんざくような叫び声だった。先ほどまでの震えた声は消え失せ、静まり返る部屋に荒い息遣いが響く。
「ブラックなんて大っ嫌い!!」
続けられたその言葉を聞いた瞬間、パンという乾いた音が聞こえ、自分の右手がギンの頬を叩いたのだと気づくには間があった。
今の音は。右手の異物感は。目の前にいるギンは顔を傾け、左頬は赤みを帯びている。
蓋をして押さえ込んでいたものがふつふつと込み上げ、知らぬ間に爆発したようだ。
「…やだよぉ…ブラック…」
ギンの目は恐怖の色で染まり、体は小刻みに震え、それでも祈るように涙をこぼしながらも自分の名前を呼ぶ。
ブラックは少しの後ろめたさから、ギンの左頬を指で触れるように撫でる。
「っやめて…お願い」
前は可愛いと思っていた唇も、自分を拒否する言葉を発すると醜いものに思えた。
「大嫌いなんでしょう。オレちゃんのこと」
震える唇を強くなぞれば、蚊の鳴くような声が漏れる。
「大嫌いな相手にお願いできるんですね」
顔を近づけると、大嫌いと言った時とは変わり、今は涙で揺れる瞳が縋るように自分を見ている。
「どうしたら前みたいになれるの…」
「言ったでしょう。初めからないんですよ。そんなもの」
過去の話を持ち出されるのは面白くなく、冷たく言い放つ。
「オレちゃんもギンさんが大嫌いです」
ギンの大きく開いた目と、強く噛み締め血を滲ませた唇を見て、ブラックは幾分か気分が良くなるのを感じた。
全身から漏れでている黒く濃い渦が、居場所を見つけ動き出す。
「オレちゃんのこと、どう思ってます?」
「……好き。嫌いにならないで……」
自分を求める反応にゾクリと快感が込み上げる。
「ギンさんは可愛いですね」
その言葉に深い意味はない。
目の前にいる人間を、本心から可愛いと思えた。