悪魔と過ごすバレンタインデー
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バレンタインデー前日。
ギンは晩ご飯の食器を洗った後、再びキッチンに立ちマスクを装着し、ビニール手袋をはめる。そしてスマホで流している曲に合わせ小さく口ずさみ、板になっているチョコレートを刻み始めた。
刻んだチョコレートを耐熱カップに入れ、電子レンジで少しずつ溶かしていく。生クリームを注いでゆっくり混ぜると、キッチンシートを敷き詰めたトレイに流し込む。そこへ適当に割ったビスケットとマシュマロを入れ、上にカラフルで小さなハート模様のチョコレートをまぶした。
「完成ですか」
トレイを持つ手が止まり反射的に声のした方を向く。大きな丸い目が、覗き込むようにしてトレイの中身を見つめていた。
「ワ"ア"ア"ア"!?」
「おじゃましてます」
声の主であるブラックは、目だけを動かしギンと視線を合わせた。
「不法侵入!!」
「否定はしませんが。オレちゃん悪魔ですし関係ありません」
「私が嫌なんだけど!」
「ままま、そんなことよりも」
怒っているギンの背中に腕を回し、落ち着かせるように肩を叩く。
それでギンの機嫌が直るわけもなく呆れた目でブラックを睨むも、当の本人は気にせずにチョコレートを興味深そうに見ている。
「美味しそうですねぇ~。小学生でも簡単に作れそうです!カメラちゃん撮って」
「じー!」
「大人ですがなにか。喧嘩売ってる?」
「売ってませーん!」
視線をそらし笑うブラックの相手をやめ、ギンはトレイを冷蔵庫に入れた。
「珍しいですね。お菓子作りだなんて」
「明日はバレンタインだから」
ギンはビニール手袋とマスクを外し言う。
「ああ。さとくんも言ってました。日本のお菓子業界もうまいマーケティングを考えたものです」
「嫌な悪魔だなぁ」
手を洗い終えたギンに、ブラックは「どうぞ」とタオルを差し出す。
「ありがとう」
「最近は自分や推し活用が人気だそうですね」
さすがヨーチューバー、流行りに詳しい。とギンは感心した。
「最近は手作りも義理も嫌がられるからねぇ。渡さなくなるよね」
「それなのに手作り」
「いいでしょ別に!」
ブラックは「カカカ!」と笑うとギンの部屋に行き、パソコンを触り始める。
それを見たギンの『邪魔だな』という気持ちを察したかのように、カメラちゃんは肩をすくめてみせた。
バレンタインデー当日の夜。
ブラックがさとしと話していると、さとしのスマホのメッセージ音が鳴る。
「ギンちゃんだ。今から会えるかって」
「へえ」
「あ!そうじゃん…!」
さとしの目が光る。素早く返事を送り、家の外に出た。すぐに斜め向かいの家からギンが出てくる。
「ギンちゃん!お仕事お疲れ様!」
「さとしくんも学校お疲れ様!ありがとうね」
二人の様子を、ブラックは頭上を飛び回りながら見ている。
ギンは赤い紙袋をさとしへ差し出した。
「バレンタインプレゼント」
「やったー!ありがとううう!」
さとしは紙袋を受け取ると、大喜びで家へと帰っていった。
ブラックはさとしの後ろ姿をじっと見つめ、視線をギンへと向ける。
「……」
「はー。寒いぃ」
ギンは背中を丸めカメラちゃんを抱き抱える。
「ギンちゃん」
「なに?」
玄関の扉を開け、振り向きながら返事をする。ブラックも家の中へと入った。
「いくつかラッピングしてましたよね。あれどうしたんですか」
「あぁ。職場のぶんね。よく話す人だけだけど」
「そうなんですね」
部屋に入り、ブラックは棚に置かれた赤い紙袋に気づく。クッションに座ると、体を揺らしながらギンが来るのを待った。
「ブラック。コーヒー飲むよね?」
ギンは運んできたマグカップをミニテーブルに置く。
「いただきます」
「カメラちゃんも。はい」
「じじ~!」
体を揺らすのをやめたブラックはギンを目で追う。カメラちゃんにマグカップを渡すと、棚の方に移動し紙袋を手に取った。
「これ。バレンタインプレゼント」
その言葉にブラックは背筋を伸ばす。
「はい、カメラちゃん!」
「じ~っ!?」
「……」
伸びた背筋はすぐに丸くなった。
カメラちゃんは嬉しそうに紙袋を抱き抱える。その様子にギンは頬を緩め、また部屋を出ていった。
「……いーですね。カメラちゃん」
「じじっ!」
ブラックは羨ましそうに呟いた。
先ほど部屋を出たギンは戻ってくると、申し訳なさそうに口を開く。
「…あのさ、ちょっと形崩れちゃったんだけど…。バレンタインプレゼント」
テーブルにお皿が置かれ、それを見たブラックは目を見張る。
「これはっ」
お皿に乗っていたのは、ブラックの顔がチョコペンで描かれたカップケーキだった。
「オレちゃんの顔!鬼ヤバです!カメラちゃん撮って!」
「じ~っ!」
「あと一応これも。昨日作ってたやつ」
ギンは紙袋を差し出す。待ってましたとばかりに、ブラックはすぐにそれを受け取った。
「オレちゃん、このチョコが食べたかったんです!!ありがとうございます」
紙袋を持ち上げ跳び跳ねる。
「そうだったの?小学生でも~とか言ってたのに」
「それとこれは別です。カップケーキも嬉しいです!」
「それは良かった」
ギンも嬉しそうに笑う。
「…もしかして、気にしてました?昨日はカップケーキ作りませんでしたよね」
「いや、それは…えっと」
口ごもる様子に、ブラックは持ち上げていた紙袋を胸の前に下ろした。
「ギンちゃん」
「うん?」
「バレンタインというのは、元々は男性から贈り物をするんですよ」
「それは知ってるけど…」
「なので用意していました」
ブラックはどこからか花束を取り出した。
「オレちゃんからのバレンタインプレゼントです!」
赤い薔薇の花束を抱え真っ直ぐにギンを見つめる。
「受け取ってくれますか」
「ブラック……」
こんな風に花を貰うなんて初めての事だった。花束を抱える姿は普段よりも格好良く感じ、ギンの胸が高鳴った。
「あ。受け取る際はサインお願いします!」
一瞬にしてブラックの服が宅配員の服装に変わる。
「は?え、なに?」
「贈り物に同意するってだけですから」
企画契約書とは違うようだが、サインの箇所を指差すのでギンは荷物を受け取る感覚のままサインをし、花束を受け取った。
「ディールッ!!」
服を元に戻したブラックは両腕をあげ叫ぶと、ギンに顔を向ける。そして上にあげていた手のひらを、花束を抱える手へと重ねた。間に挟まれた花が揺れ、まるで花畑の中にいるかのようにみえた。
「この花束、十二本の薔薇で作りました」
「そうなんだ?」
「薔薇を十二本贈る意味を知ってますか」
「…知らない」
「ダーズンローズとも言い、花言葉の一つが……」
ゆったりと話す声に、ギンは静かに聞き入る。
「私と付き合ってください」
少しだけ強められた言葉は頭の中で反復されるように響き、ギンの顔を熱くさせるには十分だった。
「……じゃあ、私はサインしたから…」
「恋人ちゃんですね!!」
ブラックは満面の笑みで言った。ギンは恥ずかしそうに俯く。
「嬉しいけど…でも、まさかブラックが。私のどこを好きになってくれたの?」
その言葉にブラックはいつもの表情に戻り、不思議そうにする。
「理由って必要です?」
「…え。ほら、顔が好みーとか、優しいところが好きーとか、一緒にいて癒されるーとか…」
ブラックは顎に手を当て言われたことを考えると、斜めを見ていた視線がギンへと向く。
「ないですね」
「……ブラックらしいっちゃらしいけど。なんだかなぁ…。え、私のこと好き?なんだよね?」
「好きです」
伝えても未だ不服そうにするギンの様子に、ブラックは再び顎に手を当てた。
「まあ。強いて言うなら……。ギンちゃんを一番笑わせたり怒らせたり泣かせたり…。そういうのはオレちゃんが良いなって思ったんですよ」
「ブラック……」
まるでプロポーズのような言葉に、ギンの頬が再び熱くなる。
「それで、恋人というのが契約上しっくりくるなと」
「ブラック……?」
色々と台無しな言い方だ、と思った。
「というかギンちゃん。顔が好みーとか、優しいところが好きーとか、癒されるーとかって自分の事言ってます!?カーッカカカ!癒しって!いやしん坊の間違いでしょう!」
ブラックは涙を流し笑う。
「なっ…!酷い。この悪魔ぁーっ!」
「恋人ですがなにかー」
怒るギンから離れ、ブラックは宙を一回転し楽しそうに言った。
ギンは晩ご飯の食器を洗った後、再びキッチンに立ちマスクを装着し、ビニール手袋をはめる。そしてスマホで流している曲に合わせ小さく口ずさみ、板になっているチョコレートを刻み始めた。
刻んだチョコレートを耐熱カップに入れ、電子レンジで少しずつ溶かしていく。生クリームを注いでゆっくり混ぜると、キッチンシートを敷き詰めたトレイに流し込む。そこへ適当に割ったビスケットとマシュマロを入れ、上にカラフルで小さなハート模様のチョコレートをまぶした。
「完成ですか」
トレイを持つ手が止まり反射的に声のした方を向く。大きな丸い目が、覗き込むようにしてトレイの中身を見つめていた。
「ワ"ア"ア"ア"!?」
「おじゃましてます」
声の主であるブラックは、目だけを動かしギンと視線を合わせた。
「不法侵入!!」
「否定はしませんが。オレちゃん悪魔ですし関係ありません」
「私が嫌なんだけど!」
「ままま、そんなことよりも」
怒っているギンの背中に腕を回し、落ち着かせるように肩を叩く。
それでギンの機嫌が直るわけもなく呆れた目でブラックを睨むも、当の本人は気にせずにチョコレートを興味深そうに見ている。
「美味しそうですねぇ~。小学生でも簡単に作れそうです!カメラちゃん撮って」
「じー!」
「大人ですがなにか。喧嘩売ってる?」
「売ってませーん!」
視線をそらし笑うブラックの相手をやめ、ギンはトレイを冷蔵庫に入れた。
「珍しいですね。お菓子作りだなんて」
「明日はバレンタインだから」
ギンはビニール手袋とマスクを外し言う。
「ああ。さとくんも言ってました。日本のお菓子業界もうまいマーケティングを考えたものです」
「嫌な悪魔だなぁ」
手を洗い終えたギンに、ブラックは「どうぞ」とタオルを差し出す。
「ありがとう」
「最近は自分や推し活用が人気だそうですね」
さすがヨーチューバー、流行りに詳しい。とギンは感心した。
「最近は手作りも義理も嫌がられるからねぇ。渡さなくなるよね」
「それなのに手作り」
「いいでしょ別に!」
ブラックは「カカカ!」と笑うとギンの部屋に行き、パソコンを触り始める。
それを見たギンの『邪魔だな』という気持ちを察したかのように、カメラちゃんは肩をすくめてみせた。
バレンタインデー当日の夜。
ブラックがさとしと話していると、さとしのスマホのメッセージ音が鳴る。
「ギンちゃんだ。今から会えるかって」
「へえ」
「あ!そうじゃん…!」
さとしの目が光る。素早く返事を送り、家の外に出た。すぐに斜め向かいの家からギンが出てくる。
「ギンちゃん!お仕事お疲れ様!」
「さとしくんも学校お疲れ様!ありがとうね」
二人の様子を、ブラックは頭上を飛び回りながら見ている。
ギンは赤い紙袋をさとしへ差し出した。
「バレンタインプレゼント」
「やったー!ありがとううう!」
さとしは紙袋を受け取ると、大喜びで家へと帰っていった。
ブラックはさとしの後ろ姿をじっと見つめ、視線をギンへと向ける。
「……」
「はー。寒いぃ」
ギンは背中を丸めカメラちゃんを抱き抱える。
「ギンちゃん」
「なに?」
玄関の扉を開け、振り向きながら返事をする。ブラックも家の中へと入った。
「いくつかラッピングしてましたよね。あれどうしたんですか」
「あぁ。職場のぶんね。よく話す人だけだけど」
「そうなんですね」
部屋に入り、ブラックは棚に置かれた赤い紙袋に気づく。クッションに座ると、体を揺らしながらギンが来るのを待った。
「ブラック。コーヒー飲むよね?」
ギンは運んできたマグカップをミニテーブルに置く。
「いただきます」
「カメラちゃんも。はい」
「じじ~!」
体を揺らすのをやめたブラックはギンを目で追う。カメラちゃんにマグカップを渡すと、棚の方に移動し紙袋を手に取った。
「これ。バレンタインプレゼント」
その言葉にブラックは背筋を伸ばす。
「はい、カメラちゃん!」
「じ~っ!?」
「……」
伸びた背筋はすぐに丸くなった。
カメラちゃんは嬉しそうに紙袋を抱き抱える。その様子にギンは頬を緩め、また部屋を出ていった。
「……いーですね。カメラちゃん」
「じじっ!」
ブラックは羨ましそうに呟いた。
先ほど部屋を出たギンは戻ってくると、申し訳なさそうに口を開く。
「…あのさ、ちょっと形崩れちゃったんだけど…。バレンタインプレゼント」
テーブルにお皿が置かれ、それを見たブラックは目を見張る。
「これはっ」
お皿に乗っていたのは、ブラックの顔がチョコペンで描かれたカップケーキだった。
「オレちゃんの顔!鬼ヤバです!カメラちゃん撮って!」
「じ~っ!」
「あと一応これも。昨日作ってたやつ」
ギンは紙袋を差し出す。待ってましたとばかりに、ブラックはすぐにそれを受け取った。
「オレちゃん、このチョコが食べたかったんです!!ありがとうございます」
紙袋を持ち上げ跳び跳ねる。
「そうだったの?小学生でも~とか言ってたのに」
「それとこれは別です。カップケーキも嬉しいです!」
「それは良かった」
ギンも嬉しそうに笑う。
「…もしかして、気にしてました?昨日はカップケーキ作りませんでしたよね」
「いや、それは…えっと」
口ごもる様子に、ブラックは持ち上げていた紙袋を胸の前に下ろした。
「ギンちゃん」
「うん?」
「バレンタインというのは、元々は男性から贈り物をするんですよ」
「それは知ってるけど…」
「なので用意していました」
ブラックはどこからか花束を取り出した。
「オレちゃんからのバレンタインプレゼントです!」
赤い薔薇の花束を抱え真っ直ぐにギンを見つめる。
「受け取ってくれますか」
「ブラック……」
こんな風に花を貰うなんて初めての事だった。花束を抱える姿は普段よりも格好良く感じ、ギンの胸が高鳴った。
「あ。受け取る際はサインお願いします!」
一瞬にしてブラックの服が宅配員の服装に変わる。
「は?え、なに?」
「贈り物に同意するってだけですから」
企画契約書とは違うようだが、サインの箇所を指差すのでギンは荷物を受け取る感覚のままサインをし、花束を受け取った。
「ディールッ!!」
服を元に戻したブラックは両腕をあげ叫ぶと、ギンに顔を向ける。そして上にあげていた手のひらを、花束を抱える手へと重ねた。間に挟まれた花が揺れ、まるで花畑の中にいるかのようにみえた。
「この花束、十二本の薔薇で作りました」
「そうなんだ?」
「薔薇を十二本贈る意味を知ってますか」
「…知らない」
「ダーズンローズとも言い、花言葉の一つが……」
ゆったりと話す声に、ギンは静かに聞き入る。
「私と付き合ってください」
少しだけ強められた言葉は頭の中で反復されるように響き、ギンの顔を熱くさせるには十分だった。
「……じゃあ、私はサインしたから…」
「恋人ちゃんですね!!」
ブラックは満面の笑みで言った。ギンは恥ずかしそうに俯く。
「嬉しいけど…でも、まさかブラックが。私のどこを好きになってくれたの?」
その言葉にブラックはいつもの表情に戻り、不思議そうにする。
「理由って必要です?」
「…え。ほら、顔が好みーとか、優しいところが好きーとか、一緒にいて癒されるーとか…」
ブラックは顎に手を当て言われたことを考えると、斜めを見ていた視線がギンへと向く。
「ないですね」
「……ブラックらしいっちゃらしいけど。なんだかなぁ…。え、私のこと好き?なんだよね?」
「好きです」
伝えても未だ不服そうにするギンの様子に、ブラックは再び顎に手を当てた。
「まあ。強いて言うなら……。ギンちゃんを一番笑わせたり怒らせたり泣かせたり…。そういうのはオレちゃんが良いなって思ったんですよ」
「ブラック……」
まるでプロポーズのような言葉に、ギンの頬が再び熱くなる。
「それで、恋人というのが契約上しっくりくるなと」
「ブラック……?」
色々と台無しな言い方だ、と思った。
「というかギンちゃん。顔が好みーとか、優しいところが好きーとか、癒されるーとかって自分の事言ってます!?カーッカカカ!癒しって!いやしん坊の間違いでしょう!」
ブラックは涙を流し笑う。
「なっ…!酷い。この悪魔ぁーっ!」
「恋人ですがなにかー」
怒るギンから離れ、ブラックは宙を一回転し楽しそうに言った。