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白バージルにひたすら構われる話
「ニナ」
ヤケに甘ったるい声色が降り掛かる
彼を知らない、全くの他人が聞いたら男女問わずぞくりとしてしまいそうな魅惑の声
しかし今の私にとってそれは、ぶるりと背筋を撫ぜる悪魔の声でしかなかったりする いや、実際声を発している人物は半分悪魔なんだけれども
「ニナ、」
尚も私のなまえを呼び続ける悪魔、もとい同居人のバージルに私は今現在、がっちりとホールドされてしまっている
恐ろしさの余り抵抗するタイミングを逃したのが運の尽きだったらしい 私の頭はこれから何をされるんだろうかという恐怖で既に一杯だった
偶々、共同リビングに居合わせたバージルにばったりと遭遇してしまったのがつい先ほどの事
ちょっと外出掛けてくるね、の軽い挨拶を言い終わるか終わらないかの内にがしりと腕を掴まれ、そのまま抱き込まれたのが数秒前の事
あっという間の出来事過ぎて、今彼がどの人格の彼なのかがわからなかった が、こういった突然の行動に出るのは大概が赤か黒のバージルだ
捕獲された後、気が済むまで苛められるか詰られるか脅されるか どれになるかはその都度違うけれど、どれにしろ被害を受けるのはこの私だ 堪ったもんじゃない
とにかくこの前のように血を吸ったりするのだけは勘弁して欲しい、と思いながらちらりと斜め上にある彼の顔を窺った
すると、思っていたよりも間近にあった顔が視界に入り、人格を表すその双眸と視線が合う
次の瞬間思わず、あ、と口から零れた
「どうした?」
いつもの冷淡さが消えた声色には、裏を感じさせるようなものがなかった
きゅっ、と 回された腕に力が籠められる けれどそれも身体を圧迫するような意地の悪い力の籠め方ではなく、骨が軋みそうになるほど狂気的な籠め方でもない
些細で微弱で、早く言えば優しかった
「バージル?」
「悪い、苦しいか」
私の声に反応して元々籠もってもない力を緩めたバージルは、淡いグレーに色付いた瞳を細める
透き通ったようなそれでこちらを覗き込むのは、滅多に現れない人格の彼だった
「珍しい……」
「? 何がだ」
「えっと、いやなんでも」
きょとりとした顔を私に向ける彼、白バージルは、バージルの中に存在する人格の中でも唯一攻撃性のない、比較的穏やかで大人しい気性の持ち主であり
私に対しても絶対にひどい事は仕掛けて来ない、一応無害な部類に入るバージルだった
いや、丸っきり害がないと言えば嘘になるかもしれない
現に力こそ緩めてくれたものの、肩に回った腕が離れる気配はなかった 久々に遭遇する人格に戸惑う私は、ちらちらと近距離にある彼の顔を窺う
「バージル、あの、何か用があった?」
「今日は特にどこかへ向かう用はない」
「いやそうじゃなくて、私に何か用があって捕まえたんじゃ……」
「用があった訳ではない」
「じゃあ、なんで」
私はホールドされているんですかね、という疑問を投げ掛ければ、目の前の瞳は再度優しく細められる
その視線をもろに喰らい、思わず喉から変な声が出そうになった
「用がなければ捕まえてはいけないのか」
「う、い、いや そういう訳じゃあないんだけども」
「なら、もう少しこのままで」
「え、いや、その~、一回離して貰えると嬉しいかな、なんて……」
言って、私は白バージルの腕をやんわりと掴む 赤バージルや黒バージルの苛め耐性ならまあまあついている私だけれど、白バージルのこの甘々な対応には慣れていない
正直優しくされても困る時は困る これはこれでやはり耐え難いものがあった 主に心臓がもたないという理由で
掴んだバージルの腕を徐々に私の肩から外そうとして引けば、逆に手を掴まれ返されてさっきよりも身動きが取れなくなってしまった
うぐ、と今度こそ潰れた蛙のような声が口から零れる 戸惑うのを通り越して怯みつつある自分を、バージルは面白そうに観察してくる
「どうした」
「い、いや、どうしたもこうしたも ちょ、ちょっと腕離してくれない?」
「痛むのか?」
「い、たくはないけど」
「なら構わないだろう」
「いや、構うんですよそれが……」
「何がだ」
「何がって、あの、その 距離が近すぎるって言うか」
「距離が近いと嫌なのか」
「え、い、嫌とかじゃなくて」
言い掛ければそろりと、バージルの手中にある私の手が撫で付けられた 瞬間、背筋が悲鳴を上げるように引き攣る
それは普段の軽いけど精神的に耐え難い暴力を受けた時の反応とはまた違った、むず痒くて気恥ずかしい感覚だった
掴まれている手に心臓が移ってしまったみたいに、そこがどくどくと熱い これは間違いなく 新手の拷問だ
「ば、ば、ばーじるさん、ちょっと……!」
「甲が薄いな ……当然か」
「そ、そりゃ、これでも一応女なんで、私」
「知っている 薄いが、申し分なく柔らかいな」
「ちょっ! ちょっともう無駄に撫でるのやめてって!」
「苦痛を感じさせるような事はしてないのだから、そんなに嫌がらなくてもいいだろう」
「苦痛じゃないけど心臓には充分悪いからそれ……! も、もうホントやめて!」
勘弁してくれと、出来るだけの身動ぎをして私は悪魔の手から逃れようとする
尚も抵抗し続ける私が流石に少し癇に障ったのか、目の前のバージルの眉が僅かに顰まった
「……他の人格の俺にはあまり抵抗しない癖に、俺には抵抗するのか」
「え、いや、そんな事…… っていうかいつもは抵抗したくても抵抗する余地すら与えてくれないだけで」
「どいつがお前のお気に入りなんだ? 何なら、替わってやるぞ」
「えええ、いや、いいって ちょ、やめてこのタイミングで替わったりしないで!」
主人格の青バージルならまだしも、赤か黒の人格に替わられたら非常にまずい
この近距離体勢で彼等に当たった日には、間違いなく悲惨な末路しか想像出来ない
ぶんぶんと首を横に振って否を唱えると、険しくなりそうだった白バージルの目付きは次第に元の緩やかな形へ戻っていった
「……俺のままでいいのか?」
「うん、是非 是非このままでいてください……!」
「もう抵抗しないか?」
「し、しない、しないから 大人しくしてるから、だからバージルも変な気起こさないでね…?」
首肯して、こちらも念を押すようにそう告げる するとバージルは緩く頷いて、改めて私の肩に腕を回す
満足そうに抱き込むバージルの、先程より僅かに籠められた力に若干冷や汗を掻きつつも、観念して大人しくされるがままの一日を過ごした
end
あとがき
白バージルは比較的穏和な性格の設定ですが
人格の中で一番劣等感とか抱えてて、そのせいで意外に嫉妬深くて甘えたなかんじだと勝手にテンション上げてます