on the way
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歩き慣れた暗い夜道を、重い足取りで歩く
今日は勤めている店の閉店間際までお客さんが留まっていたせいで、少しばかり退勤する時間が遅くなってしまった
帰路に着いた頃にはすっかり身体も疲労で重くなっていて、これは早いとこ家に帰って寂しい思いをしているだろうマイペットを、存分に抱き締めて癒やされなくては、と思っていた時の事
ひたり 後をつけてくるような何かの気配を感じて、私は思わず身を強張らせた
その何か、の気配がどうも人のものではないような気がする
私はこの世に人ならざる者が存在している事を知っている 何故なら、そういった類の被害に遭った事があるからだ
一度経験しているからこそ感じ取れる、この不穏な気配 鋭く研ぎ澄まされた冷たい空気に、ひとつ絶望的な溜め息を零す
ああ、これならまだ強盗目的の人間相手のほうがましだ
しかし只の強盗だったとしても、手元に大した金品はないので命乞いも無理そうだ
そうこう考えている間に、陰鬱な気配がもう間近まで迫っている事に気づいた どうしよう、怯えつつも好奇心に負けて振り返りそうになる でも振り返ったら最後な気もする
内心焦りながら、けれど迫りくる脅威を捉える為に意を決して私は思い切り振り返った
そして、振り返ったその先にいたのは__
「……何してるの、バージル」
「……」
振り返った先にいたのは、紛れもない知り合いだった
「偶然、依頼帰りにお前の姿を見掛けて、声を掛けようか掛けまいか迷っていた」
「いや、迷わず声掛けてよ てっきりまた悪魔にでも尾けられてるのかと思っちゃったじゃん……」
言えば、不服そうに顔を歪める長身の男の名はバージル
彼は一度世話になった事のあるデビルハンターで、とりあえず間違いなく知り合いなのだが
如何せん諸々事情であまり人間らしくない人物なので、彼の纏う気配から私は盛大な勘違いをしていた
「お前まさか、俺の気配を悪魔だとでも思っていたのか?」
「え、いや、そんな事は……変質者かなー、と思っただけ」
「悪魔のほうがマシだ」
「って! ちょっと柄で叩かないでよ! 地味に痛いわ!」
「加減はしてるんだ、大袈裟に痛がるな」
得物で小突いてくる彼をひと睨みすれば、それ以上の威力で睨み返された
なんでもいいけど、いくらそういう仕事の帰りだからと言って武器をそう易々とぶら提げているのはいかがなものなのか
はぁ~、と溜め息を零しつつ、なんだかんだ家まで送ってくれるらしいバージルは、紳士的なのか粗暴なのか相変わらずよく分からなかった
「……ところで、」
と、帰路を気の抜けた調子で歩いていると、突然隣を歩くバージルが改まった態度でこちらに声を掛けてきた
「? なに?」
「……エリザベートは元気か?」
「……」
数瞬、ぽかんとする 私は思わずまじまじと隣の彼を見詰めた
私の視線を気にしてない風に装っているバージルだが、どことなく目が泳いでる気がする
もしかしなくても、それが目当てで私に声を掛けてきたんじゃないのかこの男……
「げ、んきだけど なに、気になるの」
「いや、別に」
「……そういやエリザベート、バージルにはよく懐いてたもんねぇ なに、情でも移っちゃった?」
「そんな訳がないだろう」
「じゃ、なんで元気かなんて聞いてくるの」
「……」
私の言葉を閉口してかわそうとするバージルだけれども、かわしきれていないように見える
よくよく見れば彼が携えているのは愛用の刀だけじゃない 反対の手には紙袋が提げられていた
その中身は時々街灯の光で反射されて、きらきらと私に存在を主張してくる あれは間違いなく
「(ネコ缶……)」
銀色に鈍く光るそれは、見慣れたネコ用の缶詰だ
エリザベートとは私の愛描の名前で、以前何度かバージルのお世話になった事もあるのだが
どうやらエリザベートがバージルに懐いたように、バージルもエリザベートをお気に召したらしい
そんな事実に、私はほんの少し危機感を覚えた
「……あげないからね?」
「……そこまで言っていない」
「そのネコ缶……」
「……」
「食べるの?」
「誰がだ」
べしりともう一度頭を叩かれ、襲った痛みに呻く私
対するバージルはからかわれて相当ご立腹のようだが、踵を返して帰ろうとしない辺り私の家までしっかり着いて来る気はあるようだ
「……まあ、折角だからちょっとエリザベートに会ってく? お土産まで持ってきてくれてるみたいだし」
「……」
「私が私用で家に帰れない時とかは、バージルに預けてもいい?」
「……頼まれてやる」
「わー、たすかるー」
と言いつつもバージルに預けたら最後、帰ってこない気がしてきたので
エリザベートを誰かに預けるような事態はなるべく招かないように気をつけようと、肝に銘じたのだった
2014.6.16
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