Black
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黒バージルと等価交換の話
「やる」
出掛けていたバージルが帰宅した途端、そう言って差し出したのは私が前から欲しがっていたブランドのパスケースだった
突然のプレゼントに一瞬驚いて思考が停まりかけたけれど、私はなんの疑念も抱かずに差し出された最高に可愛いデザインのそれを、嬉々として受け取った
「えっ ホントにくれるの!? やった嬉しい、ありがとうございま……」
「代わりに、お前も俺に何か寄越せ」
「……え」
バージルはいつもの表情といつもの口調で、何かを要求してきた
言われた言葉に呆気に取られたけれど、よくよく考えてみればバージルがなんの意味もなく私にプレゼントを寄越す筈がなかった
このバージルが物を寄越してくる時は確実に、裏がある
「えーと……やっぱりタダじゃないんですね」
「タダより怖いものはないと言うだろう」
バージルは手のひらを私の目の前に持ってくると、寄越せと催促する
見返りを求めるにしてはえらく不遜な態度のバージルに、私は顔を顰めた
しかし受け取ってしまった以上、要求に答えない訳にもいかない……のかもしれない
というかこれを見越した上で目の前の人物は柄にもない物をプレゼントしてきたのだろう
「いや、別に私はタダでくれるならそれに越した事はない派ですけど 一応お聞きしますが、バージルさんは何をご所望で?」
言って、私は少し緊張した
思えばバージルが欲しがる物なんて私にはまったく予想がつかない
一体なにを要求してくるつもりなのか
探るようにバージルの顔を窺うと、バージルは腕を組んで少しだけ目を伏せ、考えるような素振りをする
次の瞬間、ぽつりとその形のいい口から、とんでもない言葉が零れた
「そうだな、それなら……目がいい」
「……え?」
バージルの言動が理解出来ずに、私は目を何度か瞬かせ首を傾げる
今のは聞き間違いか、幻聴か
戸惑っている私の様子には構わず、バージルは淡々と言葉を続けた
「目玉がいい 無理なら、爪でもいいぞ」
「え あの、ちょっと待って なに め って何? つめって何?」
「目は目だろ 爪は爪だ」
お前ほんと馬鹿だな、と言いたげな顔でバージルは私を見下ろしてくる
けれど今はそんな事に気を取られている場合ではない
「……いや分りますよそれぐらい!! そうじゃなくて、なんで!? なんでそんなもの欲しがるの!? て、ていうか、わ、わたしの、目と、爪?」
「そうに決まってるだろ」
「いやいや、いや 決まってないでしょ、全然その決まってる意味が解らないんですけれど!?」
「お前以外の目や爪では意味がないし、欲しいとも思わない」
言うと、何故か嫌そうに顔を歪める目の前の男 いや、そんな嫌そうな顔をされても困る
「ま、待って、無理です無理です、そんなの、あげられる訳ないでしょ」
「駄目か」
「あ、当たり前だ! なに真顔で駄目か、って、駄目に決まってるでしょ! 私はあんた達みたいに爪剥いだそばから生え出す身体じゃないんだから!
というか、バージルだってさすがに目玉は取られたら再生出来ないでしょう!?」
思いっきり逃げ腰でそう告げれば、バージルはまた考える素振りをして軽く視線を頭上へと向けた
「そうだな、試した事がないから分からんが 流石に目は再生出来ないかもな」
「でしょうよ! って、なんでそんなモノ欲しがるかな いや、あれだよね、冗談……だよね?」
引き続き逃げ腰体制のまま、引き攣った顔でバージルに訊ねる バージルは依然として特に普段と変わった様子はないのだが
次の瞬間、少しだけ挑発的な表情を見せた と思ったら何故か誘惑するような笑みをこちらへ向けてくる
「冗談のほうがいいか? お前の目をくれれば、一生俺がお前の目になってやるぞ」
目をくれれば、目に じゃあ、爪をやれば爪になってくれるのか 意味がわからない
考えようによっては軽く告白されている気がしなくもないけれど、そんな猟奇的な関係、恐すぎる
「……ま、え、いや、…………嫌です」
「……そうか」
残念だな、と言ってバージルはまったく残念そうには見えない顔で笑う
私はそんな彼にびびり過ぎてしまい、まともな反応が返せずにいた
「あの……あのさ、冗談だか本気だか知らないけど いや、本気だと非常に困るんだけど あんまりそういう事、冗談でも言わないでくれない? 寿命が縮むから」
「寿命が縮む? 何故だ」
「何故も何も発言が恐すぎるからだよ!」
若干涙目で叫べば、バージルは私を食い入るように見つめる 私はその視線から目を逸らして、はあ、と盛大に溜め息を漏らした
「バージルの冗談ってただでさえ分かりにくいから、余計に恐いんだよ」
「本気だったら、恐いのか?」
「……ん?」
バージルの小さな問いに、目を瞬かせる
質問を幾らか反芻させた後、私はじっと見つめてくる瞳にそっと視線を返しながら頷いた
「では、冗談という事にしておく」
言って、バージルはいつもの無表情に戻った
……いや、では、ってなに しておくってなに
私が恐くないって言えば本気で目玉取る気でいたのかこいつは!? 大丈夫なのか!? 私はこの男の傍に居て大丈夫なのか!?
警鐘が鳴り響く頭で考え込んでいると、目の前の男は私の顔を見てまた笑い出す
「それはタダでくれてやるから、そんな青い顔をするな」
私の手にあるパスケースを一瞥して、バージルは苦笑する
この半魔は多分、いつも私を怖がらせたくてしょうがなくて、わざと物騒な事を口にするのだと思う もう勝手に、そう思うことにしている
だって、本気で掛かられたら逃げる暇もなく簡単に命だって持っていかれてしまうのだから
そんな私の思考を読み取ったかのように、バージルは目を柔らかく細める
「まあ、その顔も悪くはないが」
やっぱり、言うと思った
(いちいちびびる夢主が大好きなバージル)
END
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