Red
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赤バージルと耳の話
「おい、聞いているのか」
軽く怒気を含んだ声が間近で響く
仕事から帰宅して夕食を手早く済ませた後、リビングのソファで寛いでいたら、いつの間にやらバージルが隣りにいた
ちょっと意識が飛びかけていたのかもしれない
ちらりと時計を見やると、針は午後の9時を過ぎようとしているところだった
本当ならさっさとシャワーを浴びて、自室のベッドで眠りについたほうがいいと思うのだが
もう少しだけ座り心地の良いソファで転寝をしていたい気持ちが勝って、膝に掛けていたブランケットを引っ張り上げる
すると途端に横から頭を叩かれ、ぐはっとはしたない声を上げてしまった
涙目で叩いてきた隣りの人物に顔を向けると、すかさず今度は有り得ないほどの力で耳を抓ってくる
「二回目だぞ 無視するとは本当にいい度胸をしているな、お前は
それとも聞こえていないのか? お前の耳は飾り物なのか? どうなんだ?」
「いたいいたいいたい! いたいって! 飾り物じゃないから! ちゃんと痛覚あるから、やめて!」
「痛覚ではなく聴覚があるのかと聞いているんだ」
「ありますよ! すみませんね、耳悪くて! いたい、離してって、」
溜息をひとつ吐くと、バージルは呆れ顔で私を見下してくる
しかし抓る力は弱めてくれたが一向に耳から手を離してくれないので、寝る体制に入れない
「お前はたしか、目も悪かったはずだな」
「? ええまあ、視力は人並み以下ですけど」
「耳も悪くて目も悪くて頭も悪いとなるといい加減、救えないぞ」
「待って、最後の頭も悪いってどういうこと 頭悪いって誰が言った!?」
間髪入れずに浴びせられる罵倒に、眠気が吹っ飛んでしまった
最初の耳と目の悪さは自覚しているからまあ、良しとして 頭の悪さは別に認めた事なんてないし、自覚もない
だからといって良い訳でもないけれど
バージルは変わらず私の耳を掴んだまま、じっとこちらを見下げてくる
この人の視線攻撃はさっきのような暴力以上に耐え難いものがあるので、やめて貰いたい
「なに、なんなの もう眠くないから、ちゃんと話聞くから、やめてください」
「なにをだ」
「なにをって、耳掴むのとガン見してくるの……」
そう言うと再び耳に痛みが走り、またひどい声を上げる羽目になる
「いっ、ちょ、なにしてるの!? いたた、いたいって!」
「聞いてやれるのはどちらかだけだ」
「はあ!? な、なに なにが、」
「どちらにする?」
「だだだから、何が、いてて!」
さっきよりも強い力で耳を抓られ、再び涙目になる私
そんな私をひどく愉快そうな表情で眺めるこの人はまさしく鬼だ こわすぎる
そしてその鬼の言っている事がよく分からなくて頭が混乱している
いや、もしかしなくても耳を掴むのと凝視、どちらか一方だけはやめてやるという事なのだろうか
「わ、わかった、じゃあ耳抓るのやめて!」
そう言えば、力をふっと失くして抓るのをやめてくれた
ほっとして息を吐いたが、バージルの手は未だに私の耳を掴んだままだ
「あの、やめてって言ったよね…… 私」
「抓るのをやめろと言っただけだろ」
「えええ、い、いや 恐いから離してくれると嬉しいんだけど……」
次の瞬間抓られ過ぎて赤くなっているだろう私の耳を、バージルは吃驚するくらい優しい手付きでするすると撫でてきた
私は思わずびくっと肩を揺らし、身を竦める
「な、なに」
「お前の耳自体は悪くないんだがな」
「……は?」
一瞬何を言われたのか分からなくて思いっきり顔を顰めたら、鼻で笑われた
耳自体というのはつまり耳の形は悪くないって事? え? なに、耳フェチだったのかこの人
いきなりの告白にしばらく唖然としていると、バージルの視線は私の耳から私の顔に移る
思わず蛇に睨まれた蛙の様に怯んでしまい、情けなくなる この上下関係はこれから先覆ることはないのだろうか
そんな私の渋い顔を見て、何が面白いのかバージルはくつくつと笑い出す始末だ 本気でこわい
相当怯えた表情をしているだろう 私の顔を再度見やり、目の前の鬼は恐ろしく綺麗な笑みを向けてくる
「お前のその顔も悪くない」
言われて、ぴきりと固まった
前言撤回
このひとは鬼でも耳フェチでもない、ただのドSだ
(このドSが……)
(マゾヒストなお前には丁度いいだろう)
(マゾじゃない! マゾって誰が言った!?)
(見てれば分かる)
END