Sinking red
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ドンドン、ガタッ ガタガタッ
乱雑に叩かれた後、少し傾いて引き難い窓と格闘する音が耳に入る
俺は半分寝惚けたままベッドに横たえていた身体を捩り、頭だけ煩い音のする窓へと向けた
「ダンテー! ちょっとここ開けて! 早く!」
「……またかよ、」
呟いて、まだまだ眠気の残る頭をぼすっと枕へ沈めた
「__で、なんだよこんな朝っぱらから」
金なら貸さねーぞ、と言って俺は簡素なキッチンに置いてある冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを一本取り出す
ニナは金貸してなんて言った事ないけど、と零しながら俺の手から出したばかりのボトルを奪い取った
「おい、」
「聞いて! 明日、明日バージルと、なんと一緒にパーティーに行く事になったの!」
朝からよく響く声でそう告げたニナに、俺は首を傾げた
「パーティーって……ああ、例の潜入調査の話だろ?」
そう、と軽く頷くとニナは引き続き顔を輝かせながら話す
「それで、そのパーティーにどのドレス着ていこうか迷い過ぎちゃってさ」
「おい、公私混同するなよ それはあくまで仕事で向かうパーティーだろ はりきったってしょうがない……」
「なに言ってるの、仕事だろうがなんだろうがとにかく一緒に潜入するんだから、一緒にパーティーに行くんだから、ドレスを見られる事に変わりはないじゃない! 万が一にでも外して失敗は出来ないってわけ……!」
「……大体あいつ、そんな正面切ってパーティーなんか出るのかよ」
うんざりした顔を作りニナを見やれば、彼女は俺の話なんて聞こえていないのか聞く気がないのか
リビングのソファにドレスを広げて、勝手に吟味をし始める 俺はデスクに寄り掛かると、盛大に溜め息を吐いた
ニナはバージルに想いを寄せる女のデビルハンターだった
デビルハンターと言っても俺達とは違い、積極的に悪魔を狩るような遣り方を生業にしている訳ではなく
主に小物の悪魔の捕獲や、悪魔除けなどを請け負う拝み屋の端くれみたいなもんだった
彼女と知り合ったのはそんな悪魔退治屋が集う酒場でだったか、何かの共同依頼でだったか、……おぼろげだが
とにかくよく思い出せないぐらいにインパクトのない初対面だった事は記憶している
彼女の存在が俺にとって色濃く鮮明になってきたのは、そう、ニナがバージルに想いを寄せ始めた頃からだ
「あ~、決まらない、ちょっとドレス借り過ぎたかな………」
色とりどりの衣装を広げ、困ったようにあーだこーだと唸るニナ
その後姿を視界に入れながら、俺は彼女と彼女の目の前に広がるドレスを見比べる
「……バージルなら、青いの着てけばお揃いになるかもな あいつ青好きだし」
「うんうん、やっぱ青系だよねー……じゃあ、これにしようかな」
言って、濃紺に近い青のドレスを手にする 全く際どくもなくお上品なデザインのドレスを選んでいる辺り、ニナもバージルの好みをよく分かっている
けれど決まって彼女はこういう時、双子の俺に最終確認を入れに来るのだ
「ど、どう? バージル、好きそう? こういうの ていうか、これ似合ってる?」
ひらりと手に持ったドレスを自身に当てて、こっちを振り返るニナ
視界の端にちらつく選ばれなかった赤の衣装から目を背けた後、俺は目元を緩ませて笑って返した
「ああ、多分な よく似合ってるよ」
「ほ、ほんと? よーし、とりあえず、弟のお墨付きにはなったかな」
ほっとしたように息を吐いて、ニナは顔を綻ばせる その笑顔は今間違いなく俺に向けられているのに、俺に対しての笑顔ではない
分かっている どうやっても面白くないこんな相談を繰り返し受ける内に、俺も学習はした
だけど、いつもいつもほんの少しだけ期待がその笑顔の中に滲んでしまう いつも、どうにかすればもしかして、なんて
「なあ、折角だから他のドレスも試着するだけ試着してみれば」
「え? 試着? これじゃなくて?」
俺の提案にきょとりと目を瞬かせ、俺を見上げてくる彼女
「それだけ借りてきてあっさり決めるってのも勿体無くないか? とりあえず一通り試着するだけして選んでみろよ」
「えー、ひとりファッションショーやれって事?」
「付き合ってやってんだから、目の保養ぐらいにはなってくれよ」
茶化すように言うと、俺はソファに置かれたままのドレスをひとつ手にする
「いや、ダンテの目の保養になれるほど私……スタイルが、その~、」
「お前で保養にならない分、ドレスがなるから気にすんな」
「は、わ、わかってるけど、ドレスに負けてる事ぐらい知ってるけど!」
膨れっ面で文句を並べるニナに笑って、すかさず冗談だと告げる
そうすればニナもすぐに表情を崩して、素直に俺が差し出したドレスを手に取り二階へと足を向ける
「とりあえず着替えてくるけど……言ったからには全部着るから、途中で飽きないでよ?」
「ああ」
分かってるよ
頷いて、振り返る彼女を俺は視線で促した ニナは軽く笑うとドレスを抱え直して二階へ消えていく
彼女の腕の中でひらひらと揺れる、俺が渡した赤いドレス それにそっと視線を留めて、彼女ごと見送った
「……やっぱり、よく似合ってる」
初めから他の色なんて目に入っていない
俺が思うお前に似合う色なんて、「俺」しか有り得ないから
end
ダンテ⇨夢主⇨バージル
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