I'm Santa Claus
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12月24日、クリスマスイブとは
主にキリスト教圏における救世主の降誕を祝う祭りの日の、その前夜のことを指す
聖なる夜を迎える街中は例年通り煌びやかな装いに包まれ、行き交う人々の足並みも楽しげに感じられる
家族と和やかに団欒する者、恋人と仲睦まじく時間を満喫する者、聖夜の過ごし方はひとそれぞれだ
そしてここにも、そんな一年に一度訪れるイブの日を迎える男がひとり
「……建て付けが悪い」
バージルは疲れた顔で誰ともなしに呟いた
依頼から帰る道中、これでもかというほどのクリスマスムードに当てられながら家へと帰り着いた彼は、疲れと苛々が混ざったような溜め息を吐く
浮かれ顔で街中を闊歩する人々の賑わいに嫌気が差してしまった訳ではない 今しがた開閉した玄関ドアの建て付けが本当に悪かったのだ
そしてその遠因をつくったと思われる人物の事を思い出して、思わず眉間に皺を寄せてしまった
ちなみにドアの閉まり具合が悪い直接的な原因をつくったのはバージル本人だ 決してそうしたくてした訳ではないが
何の前触れもなく、突拍子にやってくる人物を追い返す度に、引いたドアはバージルの怒りを体現する速度と音で力任せに閉ざされていた
おかげで、本当に建て付けが悪くなってきている そんなドアに少しだけ物憂げな視線を向けつつ、バージルは垂れた前髪を掻き上げた
『バージルはさ、クリスマスプレゼント何が欲しい?』
ふと、静まった部屋の中にひとつの声が浮かび上がる
数日前、先に述べた突拍子のない人物が例の如く家に侵入していた時の事だ 彼女の言葉に、バージルは顔を顰めた
「何の話だ」
「何ってだから、クリスマスプレゼント 何か欲しいモノあったらリクエストして」
「何故お前に言う必要がある」
また訳の分からない事を、と呆れ顔で というより半ば諦めたような顔で一瞥くれながらコーヒーメーカーのタンクに水を注ぎ足すバージル
晴れやかな朝の陽射しが充満するリビングに、バージルの寝起きを見計らってやってきたらしい女がソファに鎮座しているという、奇妙な光景が広がる
しかし慣れた違和感ではある元凶を大して構うことなく、朝の日課をもそもそと遂行し続けていた
対する彼女は素っ気無いバージルの物言いに、珍しく不服そうな顔を向けた
「何故って私とバージルの仲じゃないの」
「どんな仲だ」
「こうやって朝を一緒に迎えて、一緒に朝食とるぐらいには親しい仲じゃないの」
「お前が勝手にやって来て居座っているだけだろう そして客人でも友人でもない、況して恋人でもないお前に用意する朝食などここにはない」
「そんなっ、バージルの作るスクランブルエッグめっちゃ好きなのに、すっごい楽しみにして、眠いの我慢してこんな早朝からわざわざやって来たのに……!」
「お前にスクランブルエッグを振舞ったことなど一度もないぞ」
なんとか返答するものの、喚く侵入者に負けず劣らずバージル自身も未だに眠いのか、普段よりも幾分覇気のない声色しか出てこない
手元のコーヒーメーカーに視線を留めたまま気怠く話すバージルに、眠くても元気な侵入者が近づきその顔を覗き込む
「まぁそれはそれとしてさ…… さ、遠慮しないで言ってみてよ 200ドルぐらいまでだったら何でもプレゼントしたげる」
「遠慮するなと言っておいて上限があるのか」
「え、なに もっと高価なもの欲しいの?」
「欲しいものなどない いいからお前は早く帰れ」
「わかったじゃあ300ドル! 300ドルまでだったらなんでも買ってあげるから……!」
「いいから消えろと言っている」
怒りの沸点の低さが戻りかけたバージルの、今日一番の鉄槌が下る
手厳しく追い出された彼女はそれでもめげずに騒がしいまま、24日楽しみにしててと置き土産的な宣言を残し、暫くすると去って行った
ようやく訪れた静寂 バージルは朝から疲れの濃い顔で溜め息を吐くのだった
一連の遣り取りを思い返してバージルは部屋の明かりを点けた 帰宅した我が家に誰かが侵入したような跡はない
ほっとしたような、少しだけ肩透かしを喰らったかのような気分でバージルはコートを脱いだ
そのままシャワールームへ向かうと衣類を全て脱ぎ捨てて、浴室の蛇口を捻る 依頼の際わずかに付着した血臭を落とす為頭から熱湯を被った
ざあざあと降り注ぐ水滴が床タイルを伝い、排水口へと流れていく その様子を見詰めながら、バージルは徐に遠い記憶をなぞり始めた
__飾り付けられた室内 嬉しそうにはしゃぐ小さな片割れと、その背後に控える父 更にその背後で朗らかに笑うのは、母だった
それは幼少の頃、父も母も弟も等しく健在で、ごくごくありふれた一般的な家庭をつくり上げていた時代の記憶
聖なる夜を祝える身ではない父と、その血が通う半魔の身である自分達ではあったが しかし母の要望で毎年幼い間はクリスマスを祝っていた
まだ純粋に、サンタクロースの存在でさえ信じていた頃の事 母、エヴァは決まってこう訊ねるのだ
『今年はクリスマスプレゼント、何が欲しい?』
視線を合わせて問う母の顔を見返して、バージルが答えるよりも先にダンテが口を開く
『おれケーキがいい! ケーキ! イチゴがいっぱいのっかった!』
『ダンテ、ケーキならクリスマス用にちゃんと私が作るのよ? プレゼントは別のものにしなさい』
『やだ! だって、みんなでたべるとすぐなくなるんだもんケーキ、おれはおっきなケーキまるまるいっこひとりでたべたいんだ!』
『ほんとうにばかだなおまえ』
『うわあぁぁぁ、バージルがばかっていった!』
ちょっと貶すだけで大騒ぎするダンテを宥めつつ、困った顔を浮かべるエヴァの隣でバージルは子供ながらに呆れたような顔をする
これも決まった光景で、いくら別のものにしろとエヴァが催促してもダンテは苺のケーキが良いと主張し続けるのだ
するとエヴァは仕方なく、ダンテが満足するような数の苺をのせた特大のクリスマスケーキを作るから、と約束する
そう言えばダンテも素直に納得して、改めて別のプレゼントを考え始める
このやりとりをいつも横目で見ていたバージルは、エヴァ特性の巨大なクリスマスケーキがあまり好きではなかった
ダンテの好きな生クリームと甘い苺をふんだんに使ったお手製のケーキ 母の手作りはどれも好きだったが、これだけはいつも苦い想いと一緒に飲み込んでいた
(これじゃクリスマスケーキじゃなくてダンテのためのケーキだ)
幼い自分は、こんな些細な事すら嫉妬の対象に成り得るほど、ダンテという存在が怨めしくあり羨ましかったのだ
ぎゅっと蛇口を捻り、シャワーを止める
何故今、こんな昔の記憶を辿ったりしたのだろうか 不思議に思いながらも自嘲的な笑みをひとつ落として、バージルはシャワールームを出た
適当な格好に着替えてリビングへと入った瞬間、0時を告げるデジタル時計の音が鳴る
それに気を取られる事もなく、冷蔵庫にストックされたミネラルウォターのボトルをひとつ取り出そうとしたところで
「う、いてっ! なんかぶつかった…… ってやばい、日付変わっちゃった」
聞き慣れた騒音がリビング窓の外から聞こえてきた バージルはぎくりと肩を揺らし、ボトルを取り出した姿勢のまま固まる
「あ~あ~、イブにはちょっと間に合わなかったかな まぁ別にいいか バージルー、居るー? 留守?」
大きな独り事を発しながら窓を叩く人物の登場に、彼は盛大な溜め息を吐き出した
玄関ではなくリビングの窓際に回り込んで来たあたり、バージルが居なければ確実に不法侵入する気でいたのだろう
今日はもう来ないと思っていた侵入者の相変わらずな訪問に辟易としつつ、バージルは叩かれた窓へと近付いた
がちゃりと鍵を開けて窓を引けば、驚いたような顔と視線が合う
「あ、なんだ居たんだ 今日はもう仕事終わったかんじ? いや、バージルが居てくれて良かったよ」
「居なくても勝手に入るつもりだったんだろう、貴様 一体こんな時間に何の用だ」
「こんな時間にって ほら言ったじゃん24日楽しみにしててって あーでも、もう日付変わっちゃったみたいだね」
それでもクリスマスには変わりないし許してよ と言って、僅かに噛み合わない問答を繰り広げながらもそのまま家の中へと上がり込む女
その奔放さに再度溜め息を吐くも、時間帯が時間帯なので無闇に追い返す事も出来ない とりあえずじとりと睨みつけるだけにバージルは留まらせた
そんな彼の視線を受けて、にへらと場違いな笑みを返す彼女
「もうそんな不景気な顔しないでよ 折角のクリスマスなんですから! ね、宣言通り来たでしょう」
「誰も来てくれなどと頼んではいない」
「ねー、ちゃんと待っててくれた良い子のバージル君にはちゃんとプレゼントあげますからねー」
「……」
普段よりもまた一段と悪ノリな構えの彼女に、若干引き攣るバージルは冷めた目で眼前の変質者を観察する
よくよく見れば彼女は全身真っ赤な衣装で身を包み、頭にも真っ赤な三角帽を装備している
そして取れかかっているが、口周りには綿菓子のように白い付け髭が張り付いていた 所謂これは、サンタクロースのコスプレなのだろうか
なんともちぐはぐな格好だったが、サンタもどきの手にはしっかりと大きな白い袋まである 中には一体、何が詰め込まれているのやら
「……お前、その格好は一体何の真似なんだ」
「は? あ、見て分かんない? 私こそこの世でただひとりのサンタクロースです 但しバージル専用の
ソリもトナカイもないけど、丈夫な足腰で家の何処からでも侵入する事が出来ます ああ、煙突があったらそこから入ったんだけどね でもバージルの家、煙突ないし」
「……」
唖然としたまま、悪態をつく事も忘れてバージルは瞬きを繰り返す
毎度の事だが本当に突拍子もない事を仕掛けてくる女だと、眩暈を覚えながら額を片手で押さえた
しかしそんなバージルに構うことなく、彼女は大きな袋をどかりと床に置く
「まあ、この装備でここまで来るの結構大変だったんだから ちゃんとプレゼントは受け取ってちょうだいよ あ、お礼ならバージルの気持ちの籠もったキスでいーよ」
「誰もプレゼントなど頼んではいない」
「いや、正直凄く高価なものなんてひとつもないよ? 予算結局250ドルだったからさ でもほら、数なら結構あるし」
「聞け」
「どれでも好きなの選んで?」
にこりと再び笑んで、バージルの抗言を遮るサンタ女 袋から取り出すものは確かにどれも高価そうなものではない
けれど言った通りに数ならある 一頻り並べて、バージルに選ぶよう促せば呆れの息を吐きつつも、ちらりと視線を配らせた
バージルの視線は彼女が並べた品々を通り過ぎて、ある一点へと辿りつく
「……それは何だ」
「え? ああ、えっと クリスマスケーキなんだけど」
袋の後ろにひっそりと隠された白い箱に気付くと、じっとそれに視線を留める
バージルの視線に促されて、彼女は徐にその白い箱を持ち上げた 箱の蓋を開ければ、中にあったのはワンホールのクリスマスケーキ
しかしそれはバージルの記憶の中にあるような、クリスマスケーキではなかった
「ホワイトクリスマスケーキにしようか迷ったんだけどさ~、バージルは苺とかクリーム塗れのケーキはあんまり好きそうじゃないなぁと思って
だからこういうのにしてみました どう、食べてみる?」
「……お前が作ったのか?」
「そりゃ勿論 あ、言っとくけど毒なんか入ってないから無駄に警戒しないでね」
「……」
一瞬眉を顰めたバージルだったが、彼女の手の中にあるケーキに再度目を留めると、鋭かった目つきを僅かに緩めた
バージルの思いがけない反応に、ケーキを手にしたままぱちくりと目を瞬かせる彼女
そうしている間に、バージルは彼女の手からケーキを箱ごと取り上げた
「なら、これを貰う」
「え、あ、うん どうぞ って、あの、プレゼントは…」
「他のガラクタは全部持って帰れ」
「ちょ、ガラクタってひどい! いや、じゃなくてそれはプレゼントじゃなくて只のクリスマスケーキだから、プレゼントに入らないって言うか」
「これでいいと言っている」
「ええ~、ちょっと、他にも色々考えて選んだ物とかあるんだからさぁ、ちょっとは吟味してくんない?」
「……俺はこれがいい」
バージルの言葉を受けて、今度は彼女が呆気に取られたような顔をした しかし頑なな態度とは裏腹に、表情はどことなく穏やかなものを湛えている
そんな反応をされてしまえば、彼女も素直にあ、そうですかと引っ込むしかない
「……ちぇ~、他にもっと良い物いっぱいあるってのに あ、バージルって意外とケーキ好きなの?」
「そういう訳ではない」
「じゃどういう訳でそれ選んだの」
「お前に教える必要はないだろ」
「なんでよ、それ私からの贈り物なんですけど まったく貰うだけ貰って自分は何も返さないとか!」
「サンタが見返りを求めるな」
勝手にやって来て勝手に好意を押し付けて、突き返せば当たり前のように喚き出す女は間違いなくサンタではないし、クリスマスを正常に祝えるような善人でもない
けれども、間違いなく彼女は今、彼の為の贈り物をその手に渡した 他の誰の為でもない
それを一瞥した後、バージルは不満を零す彼女に視線を移した
「そう喚くな 礼はちゃんと返す」
「えっ なに、合鍵くれるの!?」
「何の話だ」
まったく見当違いな見返りを口に出す彼女の頭をがしりと掴み、威圧的に見下ろす
バージルの突然の行動に驚いた彼女は頭突きでもかまされるのかと思い慌てて身を捩るが、その腕から抜け出す事は叶わなかった
凄まじい迫力を目の前にして、思わず謝罪の言葉が零される しかしバージルはそれを苦笑と共に流した
「礼ならキスでいいと言っていなかったか」
間近で合わさった両者の視線が音を立てたのと同時に、掻き上げられた前髪の下で露わになった額にひとつ、プレゼントが贈られた
~~Happy Christmas!~~
2015.12.23
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