Happy Valentine's Day!
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ちょうど昼食が出来上がった頃、二人はさすがに疲れたのか喧嘩が馬鹿らしくなってきたのか、ぼろぼろな装いになりながらも事務所の中へ戻って来た
むすっとした表情でソファに座り込むバージルと、既に普段の表情に戻ってこちらに近付いて来るダンテ やはり切り替えの早さはダンテのほうが数段、上だ
「昼飯、なに?」
「ミネストローネとサンドイッチ あと、コールスロー作ったけど、食べる?」
「食う」
言って、キッチンの前に立つ私の隣に立ち、口を大きく開けて何か待つような姿勢を見せるダンテ
私はコールスローとサンドイッチを見比べてから、サンドイッチをひとつ掴んでその開かれた口に運んでやった
もうちょっとでサンドイッチがダンテの口に入りそうになった瞬間、サンドイッチは高速で飛んできた青い何かにより消し飛んでしまった
「「……」」
ダンテとふたり、無言で固まる ダンテは何かが飛んできたほうに目をくれると、溜め息を吐いた
「おい、ガキっぽいことすんなよな」
「その言葉、そっくりそのまま貴様に返す」
「てめぇ……」
隣りに立つダンテが再び喧嘩腰になっていくのを感じ取った私も、溜め息を吐く
「ねえ、とにかく一旦その喧嘩やめてさ、ちゃんとお昼にしようよ ていうかふたりともなんでそんなに殺気立ってんの」
「「元はといえばお前のせいだろう!?」」
「な、なん、なんですって……」
いきなり声を合わせてきた双子に驚いて、思わず三歩下がってしまった
ダンテはそんな私を不満そうな顔で見下ろしてくる バージルもソファから立ち上がり、こちらに距離を詰めてきた その顔はダンテの倍、不機嫌が刻まれている
「__で、結局お前はどうなんだ? この愚弟にはしっかりと餌付けして、俺には何もやらないと?」
「え、餌付けって……いや、分かった 分かったから、そんな殺気立てないでよ とにかく私もふたりにちゃんと何かあげればいいんでしょ、あげれば」
言うと、少しだけ怒気を引っ込めたふたりは、顔を見合わせた
「……まぁ、別にそこまで強要したいワケでもねぇんだけど、俺は」
「ここまで私を追い詰めといて何言ってんのあんた! とにかく、あげるにはあげるから、その代わりせめて一日待って! ちゃんと考えてプレゼントするなら、流石に今日の今日で用意は無理!」
私は双子の前に手を掲げて、そう宣言する 双子はぱちぱちと瞬きした後、再び顔を見合わせる
見合わせてから同時にこちらを向くと、とりあえずは納得したように頷いてくれた
そんな双子の承諾にほっとして一息吐く私に、腕組したバージルがひとつ提案をする
「一日と言わず、二日やる」
「えっ?」
「どちらにしろ今日の夜から俺とこいつはそれぞれ依頼でここを出る 帰って来るのはお互い明後日だ それまでに用意しておけ」
ぽかんとする私には構わずに、言うだけ言ってバージルはさっさと自分の分のサンドイッチを掻っ攫っていった
「じゃー、明後日楽しみにしてるな!」
ダンテも、にっこりと笑ってから何事もなかったようにサンドイッチを頬張り、リビングで寛ぎだす
執行猶予は微妙に延びたようだが、勢いであげると言ったものの何をあげればいいのか何も思いついてはいなかった
けれどこの状況下で欲しいものなど直接聞ける筈も無く、結局残りの期間、私はじりじりと悩まされることになってしまった
双子が事務所を空けて二日が経ち、いよいよその日がやって来た
まぁ、なんだかんだ悩んだあげく私が用意したプレゼントは、ベタな手作りケーキだった
ダンテには、スポンジ部分にイチゴを練り混ぜイチゴをこれでもかと大量に飾ったその名も超イチゴケーキ
バージルには、キウイとメロンとラフランスと、とにかく青っぽい果物を大量にのせて作った青タルトケーキ
ネーミングセンスとかは、この際どうでもいい
要はどれだけ私が試行錯誤して丹精込めてケーキを作ったかに意味があるわけで 普段、ほとんどお菓子らしいお菓子なんか作らない私が作ったにしては、上出来だろう
なにせ二桁は失敗を繰り返して半日以上掛かった二品だ 文句は言わせない 但し、賞味期限は数分単位で切れてきている気がする
…………
「……まあ、あの双子なら大丈夫だろう!」
私はバージル用のケーキを冷蔵庫にしまうと、ダンテ用のケーキの箱を紙袋に詰め込んだ 今現在、時刻は丁度お昼前
ダンテはバージルより一足早く帰ってくるとの事だったので、一緒に外で昼食を摂ろうという話になっていた
どうせなら会って一番、待ち合わせの場所にプレゼントも持ち込んで、その場で渡してしまおう
私は紙袋を手に持つと、事務所を後にした
スラム街から抜けて、比較的穏やかな街並みが広がるそこに馴染みのカフェがある
オープンテラスの席に座る赤いコートの背が視界に入って、私は走り寄った
「おつかれさま~、待った?」
声を掛けながら近寄れば、ダンテは振り返りざまに元気そうな笑顔を見せてくれる
「よう、ちゃんといい子に留守番出来てたか?」
「まぁまぁキッチンは荒らしたけど、それ以外は大丈夫 ダンテこそ無事でなにより」
「なんだよキッチン荒らしたって」
首を傾げて、ダンテは訝しげな視線を投げてきた
それには構わず私はダンテの向かいに座り、持って来た紙袋をテーブルの上にどっかりと置いた 置かれた大きな紙袋を見れば、不思議そうな顔をする
「? なんだこれ?」
「お約束のプレゼントです」
「えっ まじかよ!」
ダンテは表情を忽ち明るくしてから、興味津々で紙袋に視線を注ぐ 私は紙袋から箱を取り出すと、ダンテの目の前に置いた
「お昼まだだよね? 後で食べる? これ、お菓子なんだけど……」
「食い物? いや、今喰いたいから、開けてもいいか?」
まあ、ダンテがそう言うなら別にいいだろうと思い、開ける様に促した
ダンテはそっと箱の蓋を開け、少しだけ開いた隙間から中身を窺う 次の瞬間、ダンテの顔が輝いたのを見て、自然と私も顔を綻ばせた
「すげえ! 超美味そうだなこのタルト!」
「うん、すごく頑張って作ったの、そのタルト……ん?」
「お手製? こんだけデカイの作るの大変だったろ んじゃさっそく、一口」
「え、え? あれ、タルト? 今タルトって言った?」
「ん、お前、こういうのもちゃんと作れるんだな、俺ちょっと感動した」
「え? あ、うん 作れるよ、作れるけど、あれ? 今何食べた? 今なんか青っぽいの見えたけど、もしかしてキウイ食べた?」
ダンテが箱を全開しないせいで私からは箱の中身が見えなかった
私は箱の蓋を奪うように取り上げて、嫌な予感に苛まれながら中身を確認する
目に飛び込んできたのは、私がバージル用に作ったタルトケーキだった
「!、……まじか」
「俺こういう酸っぱい系のフルーツ普段あんまり喰わねえけど、ケーキにすると美味いんだな」
「……えっ あ、そう、そうだね ああ、いや、気に入って貰えてよかった……」
「? どうした? なんか顔色悪いぞ?」
嬉しそうにケーキを頬張るダンテを見て、私はストップをかけるタイミングを逃してしまった いや、一口食べられてしまった時点でもう遅い
やってしまった
間違えて、ダンテにタルトケーキのほうをあげてしまった……
私は頭を抱えたくなる衝動を抑えつつ、なんとか苦笑いをダンテに返す
いや、別にダンテにこのケーキをあげる事自体は問題ないといえば問題ない
しかし、事務所の冷蔵庫に残ったケーキには問題がある 平静を装いながら頭の中で緊急会議を繰り広げた
残りのケーキ、本来はダンテにあげる筈だったイチゴ盛り沢山ケーキを、バージルにあげるのか……!?
それ、けっこう危なくないか……?
家事全般を請け負う私は双子の味覚の好みは把握しているし、ダンテの好物がイチゴという事はバージルだって嫌というほど知っている
それを、バージルにあげる……
いや多分、バージルにもダンテにも同じケーキをあげるのなら、問題なかった それが例えイチゴケーキでも、バージルも別に文句は言わないと思う
けれどふたりの好みを考えてケーキを分けてしまった事が、裏目にでた ダンテがそれを見たら、間違いなくおかしいと気付かれる
というか、絶対にばれる こいつ俺とバージルにあげるケーキ間違えてんじゃねえかって、絶対にばれる……!
私は軽く絶望的な気分で、思わず俯いてしまった
どうしよう、肝心なところでこんなアホな失敗をしてしまうなんて 絶対鬼の雷が落ちる 下手するとダンテの雷まで落ちる気がする
……それは流石にないか
ちらりと目の前のダンテを見やると、ダンテは既にワンホールあったケーキを半分以上平らげていた
「ん、お前も喰えよ」
ケーキが乗ったフォークをひょいと私の前に差し出して、ダンテは満面の笑みを向けてくる
ああ、眩しい 眩しくて何故か胃が焼けそうだ
とりあえず素直にそれをぱくりと頬張り、必要以上に噛み砕きながら嚥下した
ダンテは見守るように私を見つめると、もう一度嬉しそうに笑ってくれた
「ケーキありがとうな」
「……どういたしまして(泣きたい)」
駄目だっっ……、今更間違えたなんて言えない
……とにかく、私がバージルにイチゴケーキをあげる現場を見せてはいけないし
バージルには今からでも何か別のものを用意したほうがいいかもしれない
いやでも、そんな時間はない というか駄目だ どっちにしろ事務所に帰れば冷蔵庫にはケーキがある 見つかってしまう
見つかれば絶対、勘のいいダンテは気付くし、フォローしきれない
頭の中が真っ白になりつつあるその時、私の携帯がいきなり音を立てて、思わず肩をびくっと揺らしてしまった
「だ、だれ!?」
慌てて携帯を取り出し着信名を見れば、びきりと固まる
ま、まずい このタイミングで鬼の降臨
何故か手が震えてしまい通話ボタンを押せずにいると、ダンテが再び訝しげな視線を送ってくる
「? どうした? 出ないのか?」
「い、いや、出たいんだけど今はちょっと……」
「一体誰からだよ ってバージルからじゃねえか」
「あ! ちょっと!」
ダンテは私から携帯を奪い取り、勝手に通話に出てしまった
「はいはい、なんか用か?」
『……何故貴様が出るんだ』
「丁度こいつと一緒にいるからだよ、今昼飯中」
『お前と? だから家にいないのか ならいい』
「あ、ちょっと待て あんたもう帰って来てるのか?」
ダンテの言葉に私は顔を上げて耳を澄ませる
もう、帰って来ている……? ということは、バージルはもう事務所にいるということ?
「ちょ、バージル、もう事務所に帰ってるの!?」
「ん? あ、ああ 帰って来てるみたいだぞ」
「うわっやば……! あ、あの、冷蔵庫! 冷蔵庫は絶対開けないで!」
「は? 冷蔵庫?」
私の焦りようを見て、ダンテは一瞬だけ不審そうに眉を顰めたが、携帯越しにバージルへと伝言してくれる
「聞こえてたか? 冷蔵庫は開けるなってさ え? は? 俺が知るかよ は? ああ、分かってる分かってる 俺等もすぐに戻るから、ちょっと待ってろ」
言って、ダンテは通話を切ってしまった 携帯越しのダンテとバージルの会話に、私は少しだけ首を傾げる
「……今、バージルとなんの話してた?」
「え? ああいや、こっちの話 それより、冷蔵庫開けるなってなんだよ?」
質問を質問で返されて、思わず口篭る
「どうした? ……ああ、そっか バージルの分のケーキ、冷蔵庫に隠してるのか?」
「! あ、えと、……そ、そうなんだけど」
ああああ、まずい 冷蔵庫とか、ダンテの前で言うんじゃなかった
この流れだとそりゃそう気付くよな また自分で墓穴を掘ってしまった……!
ひとりで焦る私とは対照的に、ダンテは少しだけ笑いながら残りのケーキを頬張り続ける
「お前な、開けるなってわざわざ言ったら、逆に開けたくなるぞ」
焦る私を見てダンテは何を思ったのか、別の方向で心配してくれた
「いや、バージル言いつけは絶対守るタイプだから大丈夫……」
「そうか? 俺なら絶対、駄目とか言われると気になってしょうがないけどな」
「……まぁ、ダンテはそうだろうね」
でもってそこがあんたとバージルの違いだよね、と心の中で付け足し、私は重い溜め息を吐いた
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