Shine
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「うわ、すごい降ってきた」
休日の午後 夕方にさしかかる時間帯
特に目的もなく気ままに出かけていたら、天気予報通りに降りだしたにわか雨
しっかりと持ってきていた折り畳みの傘を鞄の中で見つけてほっとしたのも束の間
雨は予報以上に凄まじくなり、たまらず私は近場にあったカフェへと逃げ込んだ
折り畳みの小さな傘ではカバーしきれなかった箇所が、湿り気を帯びていることに少しだけ眉を顰める
「こんなに降ってくるなら外出しなきゃよかったな」
呟いて、オープンテラスになっているカフェの奥へと移動した
屋根のあるところまで入って、ちらりとガラス越しに店の中を覗く
やはり雨宿りするならば中へ入って、なにか頼まないとまずいだろうか
そう思い、あまり人気のない店内へと入ろうとした瞬間
「……」
ちょうど店の出入り口を塞ぐように大きな影がひとつ
視線を引いて見上げれば、自分と同じように雨にあてられた顔の男の姿があった
青いコートを着こんだその男は、濡れてまとわりつく髪を軽く掻き上げて、それから気付いたようにこちらへと視線を向ける
あらわになったその顔は端正極まりない
しかしその美貌を帳消しにする勢いで苛立ちが前面にでていた
その気迫に負けて、特に自分が悪いわけでもないのに思わず一歩後ずさる そして眼前の男のつま先だけを視界に入れてうつむいた
(さっさと店の中に入って欲しい………)
先に入るのを譲ったつもりで引いたのだが、どういうわけか店の扉を開ける気配がしない
不審に思って恐る恐る視線を上げる するとさきほどまで目の前にいた人物は店の出入り口を塞いではいなかった
いつのまにか屋根のあるテラスのさらに奥へと移動していて、視界に入る止まない雨を睨みつけている
どうやら店の中に入る気はないらしい
それならば、と 素早く店の扉に手をかけてそそくさと入店する
何度か利用したことのあるカフェだったので、見知った店長がいらっしゃいませと出迎えてくれた
それから、小一時間が経った頃__
頼んだホットのカフェオレはすっかりぬるくなり、店内も入った時に比べて人気がなくなっていた
そんな静かな空間で、店長が食器を片付ける音だけがBGMに混ざる
ちらりとテラス席を見れば、青いコートの人物はまだそこにいるようだった
雨は相変わらず、弱まることなく降り続けている
ここまで待って止まないとなれば、濡れるのを覚悟で帰るしかないか
諦めの溜息を吐いて、もう一度男の背中を盗み見る きっと彼も自分と同じく、止まない雨に辟易しているのだろう
「もう帰るのかい?」
イスを引いて立ち上がると、後ろから声をかけられる 初老の男性である店長と視線が合った
「はい、待っててもなんだか弱まりそうにないので」
「たしかに、にわか雨だと思ったんだけどねぇ まぁ季節の変わり目だから天気もなかなか安定しないんだろう」
言って、柔らかく目を細めた店長はカウンターを出ると店の出入り口に置いてある傘立てからひとつ、長傘を取り出した そしてそれをそのまま私の目の前に差し出した
「よかったら、これを持っていきなさい」
「え、いや、大丈夫です 私傘は持ってますので」
「君のその小さな傘じゃあ、ほとんど差してないのと変わらないじゃないか」
いいから持っていきなさい、と言って半ば無理やり手渡される
でも、と躊躇えば次来店した時にでも返してくれればいいからと笑顔で返され
私は少し迷った後、正直とてもありがたい申し出ではあったので、頭を下げて素直にそれを受け取った
「ありがとうございます、またすぐ来店しますね」
「そんなに慌てて返しに来なくても構わないよ まだまだ置き傘なら、あるからね」
店長は意味深に笑みをこぼすと、なぜかもうひとつ傘を私に手渡した
余分に渡された傘の意味がわからず間の抜けた顔になった私に、店長は外のテラス席を無言で指した
その視線の先を追って、目に入ったものを認識して、もう一度店長に視線を戻す
「あ、あの……」
思わず引きつり顔になっていると、今度は無慈悲な笑みが返された
「ちょうどいいし、彼にも渡してやってくれ 君と同じで困っているんだろう」
「わ、私がですか?」
「そう、君が」
通りかかった時にでも返してくれと伝えてくれればいいから、と言った店長にしっかり傘を受け渡される
自分も貸してもらった手前もうどうやっても断りづらかったので、ぎこちなく首を縦に振るしかなかった
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