トリプルフェイスとキスをする
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お医者様を仰天させるスピードで回復した零さんが今日退院する。なんやかんや言いながら毎日のようにお見舞いに行っていたし、その間に彼の部下の風見さんをはじめとする同僚さんともお友達になった。彼らは総じて頭のいい方たちで、零さんが充実に満ちた顔で仕事に励むのも理解できて私まで嬉しくなった。そうそう、零さんの入院中で私の生活に大きく変わったことがある。自宅に帰れない零さんに代わって、愛犬のハロくんのお世話を請け負ったのだ。私のマンションはペット禁止なので、彼の部屋に泊まり込みである。家主のいない部屋に泊まりとは少々寂しい気もするが人懐っこいあのわんこと一緒なら寒々しさを感じることもなかった。勿論、零さんがいたならもっと楽しかったに違いない。
「ふ、っふふ、なんか、俺が暮らしてた時より生活感がでてるなっ…?」
ハロくんの熱烈な歓迎を受けながら心底楽しそうに笑う零さん。頑張って掃除したつもりだけれどどことなく染みついた生活感が抜けきらない。
「元の形で返せなくてすごく申し訳ないんだけど、最初の状態に戻せって言われても正直困るんです…。零さん、どのくらいの頻度で帰ってました?」
「ハロが来てからはエサやらないといけないから毎日。それまでは、……庁舎に住民票移そうかなって考えるくらいだったよ」
そんなことだろうと思った。零さんはハロを抱えたまま増えた歯ブラシに喜び、詰め替え用のシャンプーにそわそわし、冷蔵庫の中をのぞいては満足そうに笑い、久しぶりの自宅を検分して、最後に勢いよく布団に倒れこんだ。
「いやー、なんかいいなこういうの。うん、すごくいい」
「よく分からないけど、零さんが嬉しそうだからいいことにしましょう」
確かに一人暮らしでいるとこの状況はホクホクするかもしれないが、零さんの反応は思った以上だった。十分な休養で艶の増した金髪を手櫛で梳く。「…んだよお」照れくさいのか零さんは身をよじった。こういう可愛いところもあるのだから、この男はたまらない。
「冷蔵庫にポトフ作ってあるんです。零さん、きっとまた忙しくなるだろうから冷蔵庫にものを残しちゃいけないと思って、具は残りものばかりですけど。良かったら食べてください」
「……帰るのか?」
「……え?そんなに変でした?」
「いや別に、変じゃないけど…」
もごもごと何事か呟いて、知的な瞳がじっとこちらを見つめてきた。考え込むとき、この人は凪いだ表情をする。この顔はまさしくそうだった。
「なあ、一つ提案なんだけどさ」
ボフンと枕に顔を埋める。声がこもってしまうがいいのだろうか。ハロくんがようやく気が済んだようで零さんから離れた。
「新しい家借りて一緒に住まないか」
俺とお前とハロと3人で。ああ、私はきっと鳩が豆鉄砲食らった顔をしているのだろう。完璧に予想外の、考えもしなかったことを言われた。
「まだ早いか」
少し沈んだ声だ。ずるい。こんな時に顔を上げることもしないなんて。
「そんなにうれしかった?」
小さな声で聞くと、やっぱり枕に埋まったまま頷いた。その様子を見て、悪くないなあなんて思った。だから「次のお休みに見に行きましょうか」と言うと、彼はようやく顔を上げて頷くのだった。
「安室とアレはわりと何でもしっかり考える性格だけど、俺はそうでもない」
お風呂から上がってのんびりしていると半裸の彼氏にのしかかられた。目を白黒させていると、ひしりと抱きしめられる。入院生活が祟って筋肉が落ちたからまたトレーニングするんだ、とは彼の言であるが、私からしたら今でも十分立派だ。
「ああ、同居の話ですか?確かに思ったことを脳みそ通さずに言ってた感じでしたねえ」
「前から思ってたけど、お前結構はっきりもの言うよな」
「ええまあ。あと、それ盛大にブーメランしてきますけど大丈夫です?」
抱かれたまま二人で布団に横になる。彼の足が体に巻き付いてぴったりと服越しに体が触れ合った。何でもないような顔をしているが本当はとても恥ずかしい。照れた様子を示すと余計にからかわれるのが分かっているから知らんぷりしているだけだ。
「キスしていい?」
心なしか青い瞳が甘みを増した。黙って頷くと安心したように口元が緩んで、お礼のような触れるだけの子どもじみたくちづけがおくられる。以前の関係よりも彼の思っていることが分かるようになった。彼は小さくて細やかな幸福を見つけるのが一等上手で、しかし私は時折覗く彼の孤独からそれを手放しに喜べないでいる。当たり前のものを当たり前のように受け取ってほしい。職業柄とても難しいことかもしれないけれど、せめて私が傍にいる時くらいはと思わずにいられないのだ。
「んん、ん、…ぅん」
唇が唇を食む。歯をたてることなくやんわりと揉みこむように。くすぐったいような感触と溶ける温度に幸福感が止まない。恍惚として、時間の感覚が消える。食むだけだった仕草はやがて舐めては吸って、時折甘噛みして、と変わっていく。
「………とろとろ。ぁあ、…やらしい」
ころんと布団に転がされ、私の上に乗り上げた彼の影に隠れているにも関わらず頭が働かない。電気を背にした零さんの目はぎらぎらとしている。太い指が好きにされてぽってりと腫れた唇を撫でた。……つい、出来心だった。口元に寄せられた彼の指をぱくりと咥えてしまった。
「ぁ、…いいよ、舐めて」
「……ん、っ…ぁぅ、んん、」
指先が、性感帯なのかもしれない。そういえばいつだったか、手袋を外した時も色っぽい顔をしていた。爪の縁を時間をかけてなぞり、指の腹を大きく舐める。熱っぽい視線に答えるように人差し指と中指を咥えこみ唾液の音を立ててきつく吸うと堪らない顔で隠しようもなく喘いだ。
「あ、っあっ、待って、待ってくれ、そんな」
「きもちい?」
赤い顔をして桃色の吐息を惜しげもなくこぼし、恥ずかしそうなのにこちらから目を離さない。いつの間にか私は体を起こしていて、彼の左手が忙しなく自分の股を左右している。…入院中、こっちはどうしていたんだろうか。正直気になるけど、聞いたら悪いかしらとも思う。
「ねえ、零さん。もしかして、いじめられるのも好きなの?」
「ひ、ィんっ…!」
なんだか楽しみが増えた気がする。わくわくしていると、前触れなく体が倒された。
「ふ、っふ、っふうっ、ん、今は、俺の番」
言うが早いか、口を塞ぐ勢いでキスをする。大きな手で耳をふさがれると、頭の中で唾液の混ざり合う音が反響した。
「うぅう、ああっ、は、んんっ!くぅ、んん…!」
「はァッ、足りない、」
足りない、足りないとうわ言のように呟きながら呼吸を奪う。気持ちいいのと苦しいのとで頭がおかしくなりそうだ。
「ああ、やっとだ、ずっとこうしたかった、俺が、こうしたかったんだ、なあ」
意識が白く飛ぶ寸前でようやく唇が離れて、今度は抱きしめられる。震えた声だった。伝えたい言葉があるのに呼吸が整わない。やっとの思いで力の入らない腕を彼にまわす。
「嬉しいんだ、こんなこと、少し前は考えられなかった」
ようやく見ることができた彼の表情をきっと私は忘れない。
「好きだよ」
そばにいてと囁く。美しい人が頷いた。また唇が落とされる。唐突に、彼に人並みが許されたことを実感して息をついたが、それも飲みこまれていった。
「ふ、っふふ、なんか、俺が暮らしてた時より生活感がでてるなっ…?」
ハロくんの熱烈な歓迎を受けながら心底楽しそうに笑う零さん。頑張って掃除したつもりだけれどどことなく染みついた生活感が抜けきらない。
「元の形で返せなくてすごく申し訳ないんだけど、最初の状態に戻せって言われても正直困るんです…。零さん、どのくらいの頻度で帰ってました?」
「ハロが来てからはエサやらないといけないから毎日。それまでは、……庁舎に住民票移そうかなって考えるくらいだったよ」
そんなことだろうと思った。零さんはハロを抱えたまま増えた歯ブラシに喜び、詰め替え用のシャンプーにそわそわし、冷蔵庫の中をのぞいては満足そうに笑い、久しぶりの自宅を検分して、最後に勢いよく布団に倒れこんだ。
「いやー、なんかいいなこういうの。うん、すごくいい」
「よく分からないけど、零さんが嬉しそうだからいいことにしましょう」
確かに一人暮らしでいるとこの状況はホクホクするかもしれないが、零さんの反応は思った以上だった。十分な休養で艶の増した金髪を手櫛で梳く。「…んだよお」照れくさいのか零さんは身をよじった。こういう可愛いところもあるのだから、この男はたまらない。
「冷蔵庫にポトフ作ってあるんです。零さん、きっとまた忙しくなるだろうから冷蔵庫にものを残しちゃいけないと思って、具は残りものばかりですけど。良かったら食べてください」
「……帰るのか?」
「……え?そんなに変でした?」
「いや別に、変じゃないけど…」
もごもごと何事か呟いて、知的な瞳がじっとこちらを見つめてきた。考え込むとき、この人は凪いだ表情をする。この顔はまさしくそうだった。
「なあ、一つ提案なんだけどさ」
ボフンと枕に顔を埋める。声がこもってしまうがいいのだろうか。ハロくんがようやく気が済んだようで零さんから離れた。
「新しい家借りて一緒に住まないか」
俺とお前とハロと3人で。ああ、私はきっと鳩が豆鉄砲食らった顔をしているのだろう。完璧に予想外の、考えもしなかったことを言われた。
「まだ早いか」
少し沈んだ声だ。ずるい。こんな時に顔を上げることもしないなんて。
「そんなにうれしかった?」
小さな声で聞くと、やっぱり枕に埋まったまま頷いた。その様子を見て、悪くないなあなんて思った。だから「次のお休みに見に行きましょうか」と言うと、彼はようやく顔を上げて頷くのだった。
「安室とアレはわりと何でもしっかり考える性格だけど、俺はそうでもない」
お風呂から上がってのんびりしていると半裸の彼氏にのしかかられた。目を白黒させていると、ひしりと抱きしめられる。入院生活が祟って筋肉が落ちたからまたトレーニングするんだ、とは彼の言であるが、私からしたら今でも十分立派だ。
「ああ、同居の話ですか?確かに思ったことを脳みそ通さずに言ってた感じでしたねえ」
「前から思ってたけど、お前結構はっきりもの言うよな」
「ええまあ。あと、それ盛大にブーメランしてきますけど大丈夫です?」
抱かれたまま二人で布団に横になる。彼の足が体に巻き付いてぴったりと服越しに体が触れ合った。何でもないような顔をしているが本当はとても恥ずかしい。照れた様子を示すと余計にからかわれるのが分かっているから知らんぷりしているだけだ。
「キスしていい?」
心なしか青い瞳が甘みを増した。黙って頷くと安心したように口元が緩んで、お礼のような触れるだけの子どもじみたくちづけがおくられる。以前の関係よりも彼の思っていることが分かるようになった。彼は小さくて細やかな幸福を見つけるのが一等上手で、しかし私は時折覗く彼の孤独からそれを手放しに喜べないでいる。当たり前のものを当たり前のように受け取ってほしい。職業柄とても難しいことかもしれないけれど、せめて私が傍にいる時くらいはと思わずにいられないのだ。
「んん、ん、…ぅん」
唇が唇を食む。歯をたてることなくやんわりと揉みこむように。くすぐったいような感触と溶ける温度に幸福感が止まない。恍惚として、時間の感覚が消える。食むだけだった仕草はやがて舐めては吸って、時折甘噛みして、と変わっていく。
「………とろとろ。ぁあ、…やらしい」
ころんと布団に転がされ、私の上に乗り上げた彼の影に隠れているにも関わらず頭が働かない。電気を背にした零さんの目はぎらぎらとしている。太い指が好きにされてぽってりと腫れた唇を撫でた。……つい、出来心だった。口元に寄せられた彼の指をぱくりと咥えてしまった。
「ぁ、…いいよ、舐めて」
「……ん、っ…ぁぅ、んん、」
指先が、性感帯なのかもしれない。そういえばいつだったか、手袋を外した時も色っぽい顔をしていた。爪の縁を時間をかけてなぞり、指の腹を大きく舐める。熱っぽい視線に答えるように人差し指と中指を咥えこみ唾液の音を立ててきつく吸うと堪らない顔で隠しようもなく喘いだ。
「あ、っあっ、待って、待ってくれ、そんな」
「きもちい?」
赤い顔をして桃色の吐息を惜しげもなくこぼし、恥ずかしそうなのにこちらから目を離さない。いつの間にか私は体を起こしていて、彼の左手が忙しなく自分の股を左右している。…入院中、こっちはどうしていたんだろうか。正直気になるけど、聞いたら悪いかしらとも思う。
「ねえ、零さん。もしかして、いじめられるのも好きなの?」
「ひ、ィんっ…!」
なんだか楽しみが増えた気がする。わくわくしていると、前触れなく体が倒された。
「ふ、っふ、っふうっ、ん、今は、俺の番」
言うが早いか、口を塞ぐ勢いでキスをする。大きな手で耳をふさがれると、頭の中で唾液の混ざり合う音が反響した。
「うぅう、ああっ、は、んんっ!くぅ、んん…!」
「はァッ、足りない、」
足りない、足りないとうわ言のように呟きながら呼吸を奪う。気持ちいいのと苦しいのとで頭がおかしくなりそうだ。
「ああ、やっとだ、ずっとこうしたかった、俺が、こうしたかったんだ、なあ」
意識が白く飛ぶ寸前でようやく唇が離れて、今度は抱きしめられる。震えた声だった。伝えたい言葉があるのに呼吸が整わない。やっとの思いで力の入らない腕を彼にまわす。
「嬉しいんだ、こんなこと、少し前は考えられなかった」
ようやく見ることができた彼の表情をきっと私は忘れない。
「好きだよ」
そばにいてと囁く。美しい人が頷いた。また唇が落とされる。唐突に、彼に人並みが許されたことを実感して息をついたが、それも飲みこまれていった。
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