トリプルフェイスとキスをする
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
くちゅりくちゅりと小さな水音が反響する。誰も見る者のいない喫茶店ポアロのスタッフルームの片隅で一組の男女が抱き合っていた。重なった唇の隙間から唾液の絡まる音と女のか細い吐息が漏れる。
「ン、……もう限界ですか?ほら、鼻で息をするんですよ、できる…?」
「と…るさ、……ゆるして、おねがい…」
涙目ではふはふと荒い息をする女の体を支えながら、この店のアルバイターである安室透はむう、とむくれたような顔をした。欲しいものが手に入らなかった子どものような仕草だ。
「できますよ、あなたなら。口をあけて、もう一回」
「やあぁ…ぁんんっ、んんん…!」
客の引けた夕方、安室の姿を求めて店を覗いた恋人を奥に引き込んだのは安室本人だった。口元に優しげな笑みを浮かべて、しかしそれに欠片も比例しない熱を瞳に宿らせ「少しだけ」と強請った安室は確信犯なのだろう。それが分かっていても拒否を許さないのがこの男の狡さであり、言いようのない魅力であった。
「は、っは、ぅう、あ……ああ、んんぁ」
「…あっは、上手ですね…。んん、……はあ、」
恍惚とした甘ったるい声だ。安室のほんのりと赤らんだ目尻が彼の興奮を物語る。焦れるほどのスピードで舌を絡める。時折思い出したように、柔らかい女の体を抱く彼の腕が動くのだ。
「もっと舌出して、ね?」
乞われ、靄のかかって碌に動かない頭で舌を差し出す。安室の喉がごくりと動き、瞳孔がぐっとひらいた。柔らかい肉にしゃぶりついた安室が彼らしくない、下品とすら思える音を立ててそれをねぶる。撫で、触れ、吸い、甘噛みして愛撫する。
「ああ、……きもちい……」
酸欠で朦朧とした女を相手にするにはいささか程度が過ぎている。それでも、安室は深く溶け合うようなくちづけを止めようとはしない。零れるような声できもちいい、きもちいいと囁きながら力の抜けた恋人をいいようにするのだ。
安室透はその美しさと物腰の柔らかさ、人好きのする柔和な性格で多くの人々に慕われている。誰にでも親切で気が利いて、一言で言ってしまうと距離の取り方がこの上なくうまいのだ。しかしそれが彼の手を取り、隣に立った時変わらないかと言われれば否定せずにはいられない。
「ねえ、離れたくないです…。もっと近くにいたい…。僕の背中に手を回して」
甘えるような声で強請る。気が高ぶっているからか二人の体は熱を持ち、しっとりと湿っている。安室が小さく低い声で服が邪魔ですねとつぶやいた。ぼんやりとしていた女ははっと我に返った。誰が来るかも分からない恋人の職場の奥でこうして抱き合っている。しかもよく顔を見る笑顔の可愛い女性店員が帰ってくるかもしれない。途端に自分たちのしていることが罪深く感じた。
「とおる、さん、あの、はなして」
「離して?なんでですか?」
キスを中断されてむっとした安室が意趣返しのように女を抱えなおした。
「やっぱりよくないです、あの、ここ職場だし…!」
「すごく今更ですねえ」
面白くないと言いたげな声で女の首筋に舌を這わせる。押しのけようにも力が違いすぎて話にならない。
「お客さんも、あずささんも、いつくるか」
「うーん…」
聞いているのかいないのかわからない返事しか返ってこない。安室にはこういうところがある。自分に都合の悪いことは聞きたくなくて、甘えていい相手にはとことん甘える。なまじ頭が良く口も回るだけに憎らしく思うこともできず、気が付いたら懐の中にいれてしまっているのだ。
「ねえ、あむろさん」
「うるさいのはこの口ですか」
「ん、ぅあッ、」
返事を待たず呼吸ごと奪われた。柔らかい唇の感触、ぬるい唾液の温度、うねうねと動く厚みのある舌。ぐちゅぐちゅと脳に響く水音が聴覚を侵す。頭の奥が白く霞み、反比例するように肌が過敏になる。指先に弱い電流でも流しているような感覚があって、たまらず男の服に夢中で縋りついた。服のすぐ下に硬くて引き締まった体を感じる。こんなに綺麗で中性的な雰囲気すらあるのに香りは男のものだ。香水は使っていないのだろう。しかし彼自身の香りに混ざった汗のにおいかひどくいらやしい。うっすらと目をあけると思いのほか粗野な欲を宿した蒼が見えて腰が、腹の奥が、ぞわりとうずいた。
閉店まで待っていてくれますよね、と優しく問いかけられる。そしたら、一緒に帰ってくれますよね。ほうほうの体で小さくうなずいた恋人をもう一度満足げに抱きしめて安室透は嬉しそうに笑うのだった。
「ン、……もう限界ですか?ほら、鼻で息をするんですよ、できる…?」
「と…るさ、……ゆるして、おねがい…」
涙目ではふはふと荒い息をする女の体を支えながら、この店のアルバイターである安室透はむう、とむくれたような顔をした。欲しいものが手に入らなかった子どものような仕草だ。
「できますよ、あなたなら。口をあけて、もう一回」
「やあぁ…ぁんんっ、んんん…!」
客の引けた夕方、安室の姿を求めて店を覗いた恋人を奥に引き込んだのは安室本人だった。口元に優しげな笑みを浮かべて、しかしそれに欠片も比例しない熱を瞳に宿らせ「少しだけ」と強請った安室は確信犯なのだろう。それが分かっていても拒否を許さないのがこの男の狡さであり、言いようのない魅力であった。
「は、っは、ぅう、あ……ああ、んんぁ」
「…あっは、上手ですね…。んん、……はあ、」
恍惚とした甘ったるい声だ。安室のほんのりと赤らんだ目尻が彼の興奮を物語る。焦れるほどのスピードで舌を絡める。時折思い出したように、柔らかい女の体を抱く彼の腕が動くのだ。
「もっと舌出して、ね?」
乞われ、靄のかかって碌に動かない頭で舌を差し出す。安室の喉がごくりと動き、瞳孔がぐっとひらいた。柔らかい肉にしゃぶりついた安室が彼らしくない、下品とすら思える音を立ててそれをねぶる。撫で、触れ、吸い、甘噛みして愛撫する。
「ああ、……きもちい……」
酸欠で朦朧とした女を相手にするにはいささか程度が過ぎている。それでも、安室は深く溶け合うようなくちづけを止めようとはしない。零れるような声できもちいい、きもちいいと囁きながら力の抜けた恋人をいいようにするのだ。
安室透はその美しさと物腰の柔らかさ、人好きのする柔和な性格で多くの人々に慕われている。誰にでも親切で気が利いて、一言で言ってしまうと距離の取り方がこの上なくうまいのだ。しかしそれが彼の手を取り、隣に立った時変わらないかと言われれば否定せずにはいられない。
「ねえ、離れたくないです…。もっと近くにいたい…。僕の背中に手を回して」
甘えるような声で強請る。気が高ぶっているからか二人の体は熱を持ち、しっとりと湿っている。安室が小さく低い声で服が邪魔ですねとつぶやいた。ぼんやりとしていた女ははっと我に返った。誰が来るかも分からない恋人の職場の奥でこうして抱き合っている。しかもよく顔を見る笑顔の可愛い女性店員が帰ってくるかもしれない。途端に自分たちのしていることが罪深く感じた。
「とおる、さん、あの、はなして」
「離して?なんでですか?」
キスを中断されてむっとした安室が意趣返しのように女を抱えなおした。
「やっぱりよくないです、あの、ここ職場だし…!」
「すごく今更ですねえ」
面白くないと言いたげな声で女の首筋に舌を這わせる。押しのけようにも力が違いすぎて話にならない。
「お客さんも、あずささんも、いつくるか」
「うーん…」
聞いているのかいないのかわからない返事しか返ってこない。安室にはこういうところがある。自分に都合の悪いことは聞きたくなくて、甘えていい相手にはとことん甘える。なまじ頭が良く口も回るだけに憎らしく思うこともできず、気が付いたら懐の中にいれてしまっているのだ。
「ねえ、あむろさん」
「うるさいのはこの口ですか」
「ん、ぅあッ、」
返事を待たず呼吸ごと奪われた。柔らかい唇の感触、ぬるい唾液の温度、うねうねと動く厚みのある舌。ぐちゅぐちゅと脳に響く水音が聴覚を侵す。頭の奥が白く霞み、反比例するように肌が過敏になる。指先に弱い電流でも流しているような感覚があって、たまらず男の服に夢中で縋りついた。服のすぐ下に硬くて引き締まった体を感じる。こんなに綺麗で中性的な雰囲気すらあるのに香りは男のものだ。香水は使っていないのだろう。しかし彼自身の香りに混ざった汗のにおいかひどくいらやしい。うっすらと目をあけると思いのほか粗野な欲を宿した蒼が見えて腰が、腹の奥が、ぞわりとうずいた。
閉店まで待っていてくれますよね、と優しく問いかけられる。そしたら、一緒に帰ってくれますよね。ほうほうの体で小さくうなずいた恋人をもう一度満足げに抱きしめて安室透は嬉しそうに笑うのだった。
1/5ページ