誓いの言葉を最期に
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◆◆◆◆◆◆◆
「こんにちは~」
私はすっかり慣れたやり取りをして病院の面会受付をすませる。看護師さんも、受付の事務員さんも私を見ると「苗字さん、いらっしゃい」と、声をかけてくれる。
本当だったら、病院に来ることにこんな風に慣れてしまうことは良いことではないだろうけど、みんな湿っぽい雰囲気や同情する風でもなく、ご近所さんのように親し気にしてくれるから気持ちは楽だ。
最近、病院特有の消毒のような匂いや時折聞こえるナースコールやモニターの音が家にいても聞こえるような気がする。医療職の人にはそういう事もあるようだけど、私もそれだけ日々の大半を病院で過ごしているということか。
目当ての病室までたどり着くと、珍しく中から話し声がして首を傾げる。今日はご家族の誰かが来ると言っていただろうか?
「失礼しまーす」
「お、苗字じゃねーか」
「久しぶりだな」
「えっ?伊佐敷先輩に結城先輩!」
「せっかく来たのに、残念だね。喋り疲れたのか今寝ちゃったよ」
「わ、小湊先輩まで」
病室に入るとそこには高校時代の私の先輩であり、ベッドで寝てしまっている彼の後輩でもある結城先輩達の姿があり目を見開く。
「え、お久しぶりです…?」
「何で疑問系なんだよ」
「だって、先輩たちが卒業してから6年ぶり?くらいですよ」
「まあね、俺たちももう24になるし」
「苗字全然変わらねーな!」
「いや、少し痩せすぎだ。やはり苦労しているのか?」
「哲、そういうことはストレートに聞くもんじゃないよ」
「む、そうか。すまない」
私が口を挟む間もなく、好き勝手に喋る先輩たち。私はその変わらないやり取りに思わず口元を緩めてしまう。
「おい。何、笑ってるの」
「いや、先輩たちの掛け合いが懐かしいなって思って嬉しくて」
「そう言うなら部の集まりに顔出せよ、お前卒業してから1回も来てないだろ?」
伊佐敷先輩が怪訝そうな顔をして私に尋ねる。私は少し困ったように笑いながら、チラリとベッドの彼の寝顔を見つめる。
「なんとなく行けないまま、ずっと過ごしちゃいました。私にとって、今こうやって彼と一緒にいられる時間はもちろん幸せですけど、高校の頃の思い出は眩しすぎて少し辛いです。時間がたつ度に、その思いが大きくなってしまって。昔はそれでも行こうかなって思ったりもしたんですけど。もう今は行こうとも思えなくて」
私が彼の寝顔を見つめたままそう答えると、伊佐敷は思いっきり辛そうな顔をする。強面だけど、少女漫画が好きな優しい人なのだ。
私はそんな先輩に困ったように微笑みを返す。部のみんなに会いたい気持ちはあるけど、楽しそうに過ごすみんなに会うと、高校の頃をたくさん思い出すだろう。みんなと会って楽しく過ごしたら、余計に現実が辛くなりそうで怖い。こんな事を考てしまうなんて、彼が知ったらきっと悲しむだろう。
「倉持とは会ってる?」
「倉持ですか?いえ、たまーにメールが来たりしますけど、それくらいです。同じ学年のみんなとも、ほとんど会ってないですよ」
「…そう」
「小湊先輩たちは、どうして今日急にお見舞いに?」
「確かに会うのは久しぶりだけど、俺たちは結構先輩と連絡とってるからね」
「ああ、俺達以外にも他の部のメンバーとも交流があるようだ」
「それでよォ…お前らが結婚するって聞いたから一応、祝いに来た」
「そうですか…ありがとうございます」
伊佐敷先輩の言葉に私は目を丸くする。そうか、彼がまだ当時の友人たちと交流があるのは知っていたが、ちゃんと報告していたのか。
私は何やら言いたそうにしている先輩たちに向かって軽く微笑む。
「先輩たち、良かったら一階の喫茶スペースに行きませんか?ここで話してると起こしちゃうかも」
「ああ、そうだな」
私の言葉に結城先輩も小さく頷く。
そして、彼がぐっすり眠っているのをもう一度確認して私は先輩たちと病室の外へ向かった。