誓いの言葉を最期に
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「暑くねえ?クーラーつけるか?」
「ううん、窓あけてれば平気」
昔の夢を見たせいでしばらくぼんやりとしてしまった私を、倉持は寝不足だと思っているのか体調を気にかけてくれる。そんな倉持に申し訳なく思いながら、私は隣でハンドルを握る倉持を眺める。
「……何だよ、あんま見んな」
「なんか倉持が普通に運転してるのが、凄い違和感あるから」
私の視線に気付いた倉持は、僅かに眉を寄せて片手で私の頭を小突いてくる。
「何がだよ、お前だって運転くらいするじゃねーか」
「だって高校生の頃以来会ってなかったから、倉持が急に大人になっちゃった感じで不思議な気分」
「……そんなもんか?だったら、次はお前が運転しろよ。俺も名前が運転すんの見たい」
「えー、まあいいけど」
「今度、職場で飲み会あっから。終わったら迎えに来て」
「え?それって倉持の仕事先の人に挨拶とかした方がいいの?」
「あー、まだいいだろ」
そんな話をしながら、私たちはショッピングモールへ向かう。食器や生活用品をそろえるついでに、そのまま食事まですませる事になった。
高校以来会っていないと私が言った時に、倉持は微妙な表情をしていた。私も本当は覚えている、卒業後に彼のお葬式で会ったこと。当時の私は、彼を亡くしたショックや長きに渡った看病疲れで脱け殻のようになっていた。そばに来てくれて御幸と一緒に何かを言っていたような気もするが、ろくな受け答えが出来なかった気がする。
本当は2人に改めてお礼を言うべきなんだろう。あの時、私は24歳の年だったから高校を卒業して5年以上経っていたのにわざわざ来てくれたのだから。だけど、今はまだ彼の話を倉持としたくなかった。
いつか、倉持と普通に彼の話をする時が来るのだろうか。倉持と夫婦になるなら、いつかまた御幸と3人で笑いあったりするのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇
「ほら、手」
「え?」
ショッピングモールについて車から降りると、倉持はなぜか私に左手を差し出してくる。私が不思議に思って戸惑っていると、倉持は不満そうに私の右手を掴んでギュッと握って歩きだしてしまう。
「最初は食器からでいいのかよ?」
「え、手つないで行くの?カップルみたいじゃん」
「カップルみたいなもんだろ、一応結婚前なんだし」
「えー、なんか意外。寝るときもそうだけど、倉持ってくっつきたがりなの?そういうの嫌いかと思った」
「……お前、全然照れないよな」
「うーん、倉持だし。むしろ、くっつく相手が本当に私でいいの?」
「いいからやってんだろ」
「そうですか」
元々知り合いだから結婚するのに都合がいいと言っていたけれど、それなりに普通のカップルや夫婦みたいなやり取りは望んでいるらしい。それなら、本当に好きな相手を今からでも見つけたらいいのに。元ヤンだけど、優しいし気配りもできる。顔もそこまで悪くないのだから、お見合いなんか必要なさそうなのに。まあ、この話をすると機嫌が悪くなるから言うつもりはないけれど。
「これとかどう?」
「え、俺の茶碗あるじゃん」
「だってあれ欠けてたし、毎回おかわりするんだから大きいのに変えた方がいいよ」
「あー、じゃ名前選んで」
「倉持が好きなの青だっけ、大きさ的にはこれかこっちかな」
「お前よく覚えてんな」
口調は変わらないけど、倉持は心なしか嬉しそうだ。手を繋いでみたり、買い物に付き合ったり、だいたいの男の人は嫌がりそうだけど、意外と倉持はそういうのが好きなタイプなのだろうか。
「あ、こういうの家にないよな」
「倉持は使わないもんね」
そんな事を考えながら、あれこれ見て回っていると倉持がふと足を止める。そこは、お菓子作りコーナーでクッキー型やめん棒などが並んでいる。
「この間、話してたアレ思い出したら食いたくなった」
「あれ?」
「合宿に差し入れしてくれたやつ」
「あー、そういえばこの前言ってたね」
倉持の言葉にドキリとするが、私は何とか動揺を悟られないように言葉を続ける。
「確かに差し入れしたのは覚えてるけど、何を作ったのか忘れちゃったよ。倉持は覚えてるの?」
「俺に菓子の名前がわかると思うかよ」
「だよねー」
私はそう言いながら、製菓コーナーの隣の棚に倉持の手を引いて向かう。そして、不審に思われないように、倉持の要望にわざと答えない罪悪感を隠すように、ニコリと倉持に笑顔を向ける。
「お菓子は覚えてないし、どうせならお弁当作るよ。いつも倉持、お昼はコンビニでしょ?」
「………そうか?」
「うん、迷惑じゃなければ」
「…じゃあ、頼むわ」
「ほら、この中からお弁当箱選んでよ。ちょうどいい大きさとか私じゃわかんないし」
「おお」
倉持がお弁当箱を選ぶのを見ながら、私は軽く下唇をかむ。お弁当の提案をしたときに、倉持は驚いていたけど唐突すぎただろうか。
だけど、どうしてもあのブラウニーは彼以外には作りたくなかった。
出来ることなら、あの夢で見た約束は守りたい。もう彼にも作ることは出来なくなってしまったけれど。