誓いの言葉を最期に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ただいまー」
「あ、おかえり。お疲れさま」
「やっぱ名前の方が終わるの早いな」
「そうだねー。私が帰って来て夕飯作り終わる頃に、だいたい倉持が帰ってくるから、ちょうどいいよ」
一緒に暮らし初めて2週間。約束の1年までには、まだまだ時間がある。
この2週間で、お互いの生活スタイルとか、仕事の様子なども何となく分かってきた。
私は自分の向かいに座り、ガツガツと白米をかき込んでいる倉持にチラリと目線を向ける。あの日から、夜は相変わらず抱きしめられて一緒に眠るけど、それ以外は仕事もあるし割と普通に日々生活している。
ただ、基本的に倉持は優しい。高校の時から優しかったけれど、それとは違う。私を女として扱って優しくしてくれる感じ。そういう倉持には、なかなか慣れないしむず痒い。
男の人と付き合うのは先輩が初めてだったし、それ以降もお見合いを勧められるまでそんな気にもならなかった。だから生活していて、倉持と先輩を比べてしまったり今まで以上に先輩を思い出してしまって泣きそうになることはある。だけど、あの泣いてしまった最初の夜以降は倉持の前では我慢するようにしている。
倉持は優しいから頼りたくなることもあるけれど、私は慰めてほしくて、労ってほしくて倉持といるわけではない。こんな私との縁談を受けてくれた以上、必要以上に負担や迷惑をかけたくない。
「今日も美味かった」
「それはどうも」
「お前、見かけによらず料理とか普通にうまいよな」
「見かけによらずってひどくない?そんなに意外だった?」
「いや、元から得意なんだろうなとは思ってたけど」
「?」
「春の合宿の時に、何か菓子みたいの差し入れしてただろ。あれも美味かった」
「……そういうのは、その時に言ってよ」
「年頃の高校生の男がそんなの素直に言わねーだろ」
「今は言えるんだねー」
「ヒャハハ、俺も大人になったからな」
まあ、そうだろう。気の合う友人だったから、久しぶりに再会しても違和感なく生活出来ているが、やはり会っていない間に精神的に大人になっているな、と感じることは時々ある。
「俺は料理とか本当ダメだから、任せっきりで悪いな」
「ううん、別に負担じゃないよ。元々倉持にそういうの期待してない」
「…ッチ、御幸なんかはああ見えて意外と出来るんだよな」
「ああー、なんかドヤ顔で美味いご飯作りそうでむかつくね。まだ御幸と仲良いの?」
「普通にたまに呑みに行くくらい」
「そうなんだ、2人ともいつも一緒だったもんね」
「気持ち悪い言い方すんなよ」
倉持と御幸はお互い何やら言い合いながら3年間いつも一緒にいたイメージがある。懐かしい、今まであの頃のことはあまり思い出さないようにしていたのに倉持といると必然的にいろいろ思い出してしまう。
先輩と出会って、付き合って。まだ病気も見つかっていない頃。一番素直に笑えていたのはあの頃だろう。
「名前?」
「あ、ごめん。倉持と御幸がくだらない事で盛り上がってたの思い出してた」
また緩みそうになった涙腺を誤魔化すように、私が倉持に笑顔を見せながらおどけたようにそう言うと、倉持は眉間にシワを寄せて小さく舌打ちする。
「そうだ、ちょっと食器とかいろいろ買い足してもいい?」
「ん、ああ。お前の部屋でもあるんだから好きにしろよ」
からかったせいなのか、少し不機嫌になってしまった倉持に私は違う話題を振る。
「何か足りなかったか?」
「足りないわけじゃないけど、食器とか2組そろってるのが少ないしご飯作った後によそいにくい。あとは、自分のシャンプーとか無くなりそうだから」
「なら、明後日の休み一緒に行くか。」
「いいの?」
「いいから言ってんだろ」
「…ありがとう」
生活用品の買い物なんて、一緒に行ってもつまらないだろうけど。倉持がいいと言うなら、荷物も多くなりそうだし一緒に行ってもらおうと思いながら、素直にお礼を言っておく。
そういえば、お見合いからあっという間に同棲してしまったし、高校の時も2人でどこかへ行くことなんてなかったから、一緒に出かけるのも初めてだ。