誓いの言葉を最期に
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「籍を入れるのはせめて1年待ってほしい」
お見合いのあとに、倉持サイドからお断りもされなかったことに気をよくした母親は、早々に話を進めようと私と倉持に詰め寄ってきた。その事に関して倉持は特に否定もしていなかったけど、私はさすがに少し時間をかけたいと渋った。
案の定というべきか母親はそんな私を強く叱責してきたため、妥協案としてひとまず同棲から始める事となり、一人暮らしをしていた倉持の部屋に私が引っ越すこととなった。
そして倉持との結婚に対し現実味が沸かないまま、あっという間に引っ越し作業も終わってしまい冒頭の私の台詞に戻る。
「俺は別にいいけど、1年って何かあんの?」
「特に理由はないけど。すぐに結婚しちゃって、いざ私と暮らしてみてやっぱり合わないなってなったら倉持に悪いし」
「……そんな事あるか?」
「確かに元々友達だったけど、一緒に暮らしたらいろいろ不満とか出てくると思うよ?1年くらいお試し期間があった方がいいと思う」
「まあ…苗字がそう言うんなら、俺は構わねーよ」
「良かった。それに、その間に倉持にも普通に良い子が現れるかも……」
「おい、お前またそういう話すんなら怒るぞ」
「…ごめん」
私は突然低くなった倉持の声に小さく肩を震わせて謝る。どう考えても倉持ならもっといい相手が見つけられるだろうに、その手の話をしようとすると倉持は凄く怒る。
「……それに私の母親に何回か会ったからわかると思うけど、あの人おかしいでしょ?正直、倉持をあの人とか私の家族のいざこざに巻き込みたくない」
「それは関係ねーじゃん。俺が結婚すんのは苗字だぜ」
「でも、」
「それに結婚したら、お前の家族の問題は俺の問題でもある事くらい初めから分かってっから、遠慮すんな」
倉持にそう言い切られてしまうと、それ以上反論の言葉が出ない。目の前にいる男は、本当にこんな厄介事だらけの女でいいのだろうか?
「あ、俺からも1ついいか?」
「え、うん。何か要望があるなら言って」
「名前で呼んでいい?」
「え?」
「だって、このままいけばお前も倉持になるんだぜ?」
「あ、うん…そうか。倉持になるのか……」
「ヒャハハ、何だよ?その微妙な反応は」
「いや、なんか実感なくて。名前で呼ぶのは構わないよ。あ、私も洋一って呼んだ方がいいのかな?」
「や、お前は本当に結婚した時に呼んで」
「?わかった」
私と倉持の違いはよくわからないけど、倉持がそう言うならとりあえずそれで良いのだろう。正直、いきなり洋一と切り替えて呼べる自信もない。
「じゃ、疲れたし今日は寝ようぜ」
「あ、私まだ布団用意してないからソファで寝るね」
「はあ?お前1人で寝る気かよ」
「え?」
「普通、一緒に寝るだろ。ほら、来いよ」
思いもよらぬ展開に狼狽える私の手を引いて、倉持はどんどん寝室に向かって行く。
「く、倉持」
「何だよ?」
「え、……あのヤルの?」
「ヒャハハ、お前他に言い方ないのかよ」
「や、だって…」
「………名前はどうしたい?」
「え、私は……」
手を繋がれたままそう聞かれて、私は羞恥心から頭に血が昇るのを感じる。このタイミングで名前で初めて呼ばれるのも、友人であるはずの倉持とのこんなやり取りも。何だか全てが恥ずかしくて、無駄に緊張してしまう。
結婚するなら、当然致すことになるのだろうが。私が…倉持と?そんな事を考えてしまうと、何も答えられず黙りこんでしまう。
「お前それでよく誰でもいいから結婚しようなんて思えたな」
そんな私を見て、倉持は呆れたように小さくため息をつく。
「お前が何にも言えない間は、俺は何にもしねーから。でも一緒に暮らすだけじゃ、お試し期間の意味ないだろ。とりあえず夜は一緒に寝ろ」
「……わかった」
私が頷いて答えると、倉持は満足そうに笑って私の手を握る力を強める。そして、そのまま再び寝室に向かって行った。