誓いの言葉を最期に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆◆◆◆◆◆◆
「倉持お疲れー」
「お、サンキュー」
私がタオルとスポーツドリンクの入ったボトルを渡すと、倉持はガシガシと汗を拭いながら一気にドリンクを飲み干す。
(みんな暑いなか、毎日よくやるなあ)
私は仮にもマネージャーのくせに、汗を流す部員達を見てどこか他人事のように考えてしまう。
「今日はこれで自主練も終わり?」
「おお、沢村とかはもう少しやりそーだけどな」
「うちのエースは頑張るねー」
私は倉持の視線の先で、御幸を追いかけながらボールを受けろと騒いでいる沢村君の姿に笑みをこぼす。
倉持はそんな私を見上げて、自分の座っているベンチを叩きながら声をかける。
「苗字、ちょっと座れよ」
「…何?」
私が促されるままに腰を降ろすと倉持は私にチラリと目線を向けて、言いにくそうに口を開く。
「お前マネージャー辞めんの?」
「……ああ、監督に聞いた?」
「今日の朝練の時に言われた」
「なるほどー、沢村くんが"俺たちの絆は永遠です!"とか意味わかんないこと言ってたのは、それが理由か」
「もうすぐ予選始まるじゃねーか、辞めなきゃまずいのかよ?」
「うん、私たちの学年は最後の夏の大会になるのにごめんね」
「あー、先輩そんなに悪いの?」
倉持はどこか聞きにくそうに、頭を掻きながら私に尋ねる。最近は、私に直接彼の病状を聞いてくる人が減った。みんな気を使ってくれていたのかもしれない。
「再発したのは聞いてる?」
「亮さんから何となく」
「そっか、今それで違う治療が始まったんだけど副作用がキツいみたいで」
「……ああ」
「最初は手術すれば完治の可能性も…って説明されてたから、手術してすぐに再発してるのが見つかって、凄く落ち込んでるの」
「………」
「薬が効けばまた再手術の可能性もあるし、今すぐどうこうってわけじゃないんだよ?」
「……ああ」
「でも本当に落ち込んじゃって。ほら、病は気からって言うでしょ。少しでも前向きに治療に臨んでほしいから。出来るだけ側にいたい」
「…そうか」
私がハッキリそう言い切ると、倉持は小さく息を飲んだ後にポツリと答えた。彼にも何か思うところがあるのだろうか。つい数日前に家族に同じ話をしたら、猛反対された。お前が辛くなる前に別れた方がいい、家族でもない相手にそこまでする必要はない、と。その時の事を思い出して、私は言い様のない怒りが沸き上がってきて下唇を噛む。
「…試合、直接は応援に行けないけど先輩とテレビで見るね」
「おお」
「予選で負けたら、テレビ中継ないんだからしっかり頼むよ!」
「ヒャハ、任せとけ。テレビで飽きるほど俺の活躍を見せてやるよ」
「別に倉持が見たいわけじゃないよ」
「…おい」
「あはは、うそだよ。期待してる。先輩も、自分の後輩が甲子園行くの楽しみにしてたよ」
「そうか、マジで頑張るわ」
どこか噛み締めるようにポツリとそう言ったあと、倉持はチラリと私に視線を向ける。
「お前は大丈夫かよ」
「私?私は何ともないよ、辛いのは治療してる先輩だし」
「それでも側にいたらいろいろと辛いこととかあるだろ」
心配そうに私を見つめる倉持の顔を見ると、思わずいろいろな感情をぶちまけたくなる。先輩がこれからどうなっていくのか不安なこと、家族に反対されて家に居場所がないこと、一番辛い思いをしてる先輩には弱音も吐けなくて時々一緒にいると辛くなること。
だけど、それは倉持に言うべきではない。今は最後の夏に集中してほしい。
「平気だよ、私こう見えて図太いんだから」
「……見た目通りじゃねーか」
「何?よく聞こえない」
「ヒャハハ。ま、何かあったら言えよ」
倉持はそう言って私の頭をガシガシ撫で付けると、私の返事を待つことなく勢いよく立ち上がる。
「じゃ、俺クールダウン行ってくるわ」
「あ、うん……いってらっしゃい」
私は心配してくれた倉持にお礼を言うことも出来ないまま、走っていく倉持の背中をぼんやり見つめていた。
◆◆◆◆◆◆◆