誓いの言葉を最期に
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「あの、頭…大丈夫?」
「ああ、本当に大したことねーって。御幸の奴、大袈裟にしやがって」
倉持は私の目元に残る涙を指で拭いとりながらそう言うが、改めていつも通りに私の前で話す倉持の姿を見ると、またじわじわと涙が滲んでくる。
「お、おい…本当に大丈夫だって」
「だって本当に心配で」
私は倉持の体温を確かめるように私の目元に触れる手を力強く握りしめて、大きく息をつく。そして、トンっと倉持の胸元に自分の顔を埋める。倉持の心音が聞こえて安心する。
「名前?」
頭上から心配そうに私の名前を呼ぶ倉持の声が聞こえるが、私は顔を上げずに少し考えてから口を開く。
「倉持が死んじゃうかと思って」
「ああ」
「そう思ったら、本当に怖くて。運ばれたのが…この病院だし、余計に怖くなって」
「…悪い、そうか。ここ先輩の…悪いな、嫌なこと思い出させて」
「違う、そうだけど…違う」
「名前?」
私は小さく首を振る。確かにこの病院に来て、彼の事も思い出した。だけど、違う。
「違うの、私が一番怖かったのは、倉持がいなくなっちゃうと思って」
私は倉持の手を握る力を強める。
「倉持が好きなの」
「…え」
「倉持が都合が良くて私を選んだのは分かってる。いろんな事情がある私を受け入れてくれて…本当はこれ以上、重荷になりたくなかったけど」
「お、おい?」
「だけど…私、倉持が好きなの。迷惑ばっかりかけて、甘えてばっかりでごめんね。でもお願い…く、倉持まで私の側からいなくならないで…もう私を一人にしないで」
そこまで言って、私は倉持にぎゅっと抱きつく。私の生活に色づいたのは、倉持がいてくれたからだった。倉持と毎日一緒に過ごして、頭を撫でてもらって、手を繋いで眠って。私はそれだけで凄く安心できた。ずっとこんな日が続いてほしいくらい毎日が幸せだった。こんな風に穏やかに暮らせる日々が来るなんて思っていなかった。
涙が溢れてくる、目を閉じて彼の顔を思い浮かべる。綺麗事かもしれないけれど、彼は悲しむかもしれないけれど。彼への想いは私の中で、ずっと生きてる、決して忘れない。だから、許してほしい。
「倉持とずっと一緒にいたい」
流れる涙もそのままに倉持の胸元から顔を離し、倉持の顔を真っ直ぐ見上げてずっと言いたかった事を告げる。倉持は、目を大きく見開いて呆然としたような顔をしている。
「お前…さ、俺が本当に都合がいいからって理由だけで結婚すると思うか?」
「…え、」
「ずっと…俺は本当にずっとお前の事が好きだった。何でもいいから、お前の側にいて支えてやりたかった」
「ずっとって…え?いつから、」
「……俺の片思い歴を舐めんなよ、引かれるから言いたくねー」
倉持の言葉に思わず涙が引っ込んだ私とは対照的に、倉持は思い切り歪んだ顔を片手で覆い隠している。
「え、倉持…泣いてるじゃん」
「うっせ!まじで、今ちょっと無理だから。俺に話かけんな」
「ええ…」
話かけるなと言いながらも、もう片方の倉持の腕はしっかりと私の背中にまわされていて距離を取る事も出来ない。私は困惑しながらも、相変わらず顔を隠している倉持の事をジッと見上る。すると、倉持は大きく一度深呼吸すると顔を覆っていた手を私の背中に回して、両腕で抱きしめるようにしながら、私と目線を合わす。
「名前」
「…なに?」
「ずっとお前が好きだった。これからは嬉しい時も、楽しい時も、悲しい時も、辛い時も…お前がどんな時でも俺が必ず側にいる。だから、俺と結婚してほしい」
「は、はい」
私を見つめる真剣な倉持の表情と、告げられた言葉に胸が大きく音をたてる。私が狼狽えながらも小さく頷くと、倉持は今までに見た事もないような優しい笑顔を見せる。私は、その表情につられるように、そして幸せを噛み締めるように倉持に笑顔を返す。
すると、倉持は私の頬を優しく撫でたあとに腰を屈めて私の唇にそっと自分の唇を重ねる。その瞬間、身体全身に電力が駆け巡ったような感覚がして鼓動が一気に高まる。
私はこの人が好きだ。
倉持は唇を離すと、私をぎゅっと抱きしめて耳元で「やっと笑った」と、嬉しそうに呟いた。
fin.
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