誓いの言葉を最期に
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時計を確認すると、時刻は17時すぎ。夕方に戻ると言っていた倉持はまだ帰らないけれど、そろそろ夕食の用意をしようと私はキッチンへ向かう。
すると、そのタイミングで私の携帯が音をたてたためリビングに置いてある携帯を手に取る。
「……御幸?」
私は、意外な人物からの着信に首を傾げながらも通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ、苗字か!』
「そうだけど、御幸もう倉持と別れたの?今日一緒だったはずじゃ…」
『苗字!』
「な、何?」
『すぐに市民病院に来てくれ!』
「え…どうしたの?」
『倉持が階段から落ちたんだ!頭を打ってて、意識が…』
突然の御幸の言葉に、私は大きく息をのむ。「い、今すぐ行く」震える身体を押さえ込み、何とかそれだけ伝えると、財布と鍵だけを掴んで部屋を飛び出す。車に飛び乗って、一度大きく息をつく。焦って事故をおこすわけにはいかない。グルグルと駆け巡る不安を押さえ込み、ハンドルを握って病院へ向かう。
(どうして、またこの病院に…)
スピード違反ギリギリで走らせた車から降りて、病院に駆け込む。この辺り一帯で唯一の総合病院。彼が手術して、治療をして、最後の時を迎えたのもこの病院だった。
どうして、またここに来なければならないのか。また私は、ここで大切な相手を失うのか?そんなの、そんなの絶対に耐えられない。もうそんな思いしたくない。普段ほとんど運動をしない私は、病室までの短い距離を走ったたげて脇腹が痛む。焦っているせいか、乱れる呼吸につられて小さく咳き込む。それでも私は必死に病室に向かって足を進める。
「く、倉持!」
ようやくたどり着いた病室の扉を勢いよく開いて中へ駆け込むと、扉の開く勢いに驚いたのかベッド脇の椅子に座っていた御幸が目を見開いて振り向く。
「あ、れ?苗字どうした、そんなに慌てて」
「は、はあ!?それより、倉持は?」
「え、お前メール見てねーの?」
「はあ?だから倉持はどこに…」
「あれ、名前じゃん」
状況が飲み込めないまま御幸にぐいぐいと詰めよっていると、今自分が入ってきた扉がまた開く音がして聞き慣れた声が聞こえてくる。私が驚いて振り返ると、そこには頭に包帯を巻いた倉持が不思議そうな顔をしてたっている。私は身体の力が抜けて、座り込みそうになるのを何とか踏ん張りながら、隣にいる御幸と倉持の顔を見比べる。
「……な、なんで」
「いや、お前に電話したあとすぐに意識が戻ったんだよ。焦って来なくていいぞってメールしたんだけど」
「はあ?おい、お前わざわざ名前に連絡してたのかよ!」
「や、だって酔っぱらい親父とぶつかって階段から落ちた時には本当に意識なかったから…俺も焦って」
「ただの脳震盪だっただろうが!余計な心配かけんなよ」
「いや、だから後からメールしたんだって。苗字悪かった…」
御幸は倉持といつもの調子で言い合いをしたあとに、私に余計な心配をかけた事を謝ろうと目線に向けるが、そこで言葉を切って黙りこむ。そんな御幸の様子に、倉持が不思議そうに私に目線をうつすと慌てたように近寄ってくる。
「お、おい…どうした」
「……え?あ、やだ…ごめんね。ちょっと気が抜けちゃって」
倉持が元気そうに御幸と言い合いしている姿を見て、気が抜けてぼんやりしてしまった私は、倉持に顔を覗きこまれてようやく意識を浮上させる。そして、そこで自分の瞳からボロボロと涙が流れている事に気付いて慌てて袖口で目元を擦る。
「お、俺…ちょっと出てまーす」
そんな様子を見て、御幸は気まずそうにそう言うと病室から出ていった。