誓いの言葉を最期に
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「それ、何が咲くんだ?」
「クレマチスとムスカリ…ムスカリは倉持が好きな青い花だよ」
ベランダのプランターに植えた花の苗の蕾はゆるゆると膨らみ始めた。季節はもう春先、かなり過ごしやすい気候になってきた。私がプランターに水をやっていると、窓辺から倉持が顔を出して尋ねる。
「…ふーん」
「何にやついてんの?花なんか育てるの似合わないって言いたいんでしょ」
「ヒャハハ、そんな事言ってねーだろ」
水をやり終えた私は、ベランダからリビングに戻りニヤニヤしている倉持にジロリと目線を向けるが、倉持は相変わらず楽しそうに口角をあげている。
「この部屋、あの花もそうだけどお前の物だいぶ増えたよな」
「あー、そうだね」
「もう春だけど、どう?」
「ん?」
「見合いで会ったが6月の終わりだったろ。もう1年待たなくてもいいんじゃねーの?」
「……そうね、倉持こそ本当にいいの?」
私はチラリとカレンダーに目線を向けて小さく頷く。これまでの期間、結局倉持は真摯に私に向き合ってくれていたし、他に私以外の良い子が現れる機会もなかった。まあその点に関しては、倉持が本気で探せば同僚とか今までの友人とか…とにかく、いい相手が見つかるかもしれないけれど。彼にそのつもりはないようだ。
「俺は最初からそう言ってるだろ」
「…そっか」
「まだ、何か引っかかる?」
本当にこのまま倉持を私の元に縛り付けてしまっていいのかと、思い悩んでいると、倉持は私が結婚に対して気乗りしないと思ったのか、ふいに真剣な表情で私に尋ねる。
「……やっぱり、俺じゃ駄目か?」
私の目を真っ直ぐ見つめながら、倉持はどこか言いにくそうに尋ねる。私は、そんな倉持の言葉に小さく首を振る。そういうわけじゃない、むしろ私の気持ちは既に逆である。だけど膨れ上がった私のこの気持ちは果たして倉持に伝えていいのか。私のことは大事に思ってくれているようだけれど、彼の言葉を信じるならば所詮都合がいいと選ばれた私である。
いろいろ事情を飲み込んで、私を受け入れてくれようとしている倉持に私のこの感情まで伝えるのは、更なる重荷になるかもしれない。
「そんな事ないよ、倉持は私には勿体ないくらい」
私は自分の思考を誤魔化すようにヘラリと笑ってそう言うと、倉持は僅かに眉を寄せる。そして、私の頭を乱暴に撫でて呆れたように口を開く。
「ま、どっちにしても残りあと数ヶ月。最初の約束通り、無理に今決めなくてもいいけどよ」
「……そう?」
「ああ。まあ、それまでに何か言いたい事があるならちゃんと言えよ」
「うん」
「……じゃ、俺そろそろ行くわ」
倉持はそこまで言うと、時計をチラリと見た後に鞄を手に立ち上がる。
「また御幸だっけ?」
「またって、いつも一緒みたいに言うなよ。前回飲んだのは年末だせ?」
「そうだっけ?でも相変わらず仲いいな、と思って」
「ヒャハハ、ま…腐れ縁だな。今日は飲むわけじゃねーし、夕方には帰るわ」
「はーい、行ってらっしゃい」
「おお、行ってくる」
何やら御幸との約束があるという倉持は、私にそう言い残すといつもの笑顔でそう告げると部屋を出ていった。