誓いの言葉を最期に
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「あれ、苗字?」
仕事終わり、帰る前に何か甘いものでも買おうと入った駅前のコンビニで突然声をかけられる。
「え、あ!小湊先輩!」
「はは、久しぶり。この歳で先輩って呼ばれるのは変な感じだな」
「わーお久しぶりです!え、本当にいつぶりだろう」
「4年くらい前にたまたま会ったのが最後だろ。それにしても、お前は変わらないね。良かったらちょっと飲んでかない?久しぶりに話したいし」
「え、」
「あ、もしかして倉持そういうのうるさいタイプ?」
「ええ!?」
「あはは、俺らまだ結構仲良いからいろいろ聞いてるよ」
「…そうですか。あ、多分連絡入れれば大丈夫なのでメールしておきます」
突然の誘いと倉持との件を知っている事に狼狽えながら、私は倉持に「知り合いと会ったから夕飯食べて帰るね。突然ごめんね」と送って、小湊先輩の後に続く。駅前の半個室の居酒屋に入り、各々注文をすませる。先輩たちとは仲良くしてもらったけど、個人的にこうやってご飯に行ったりする事はなかった。少し緊張しながら、前に座る小湊先輩をチラリと見ると、小湊先輩はいつもの笑顔でこちらを見ている。
「急にごめんね、倉持大丈夫?」
「あ、はい。問題ないです」
「俺と会ったって言ったの?」
「いえ、なんか驚かれそうなので知り合いって言いました」
「はは、知り合いかよ」
小湊先輩は小さく笑いながら、一口ビールを口にして箸でもつ煮込みをつつきながら、チラリと私を見る。
「それにしても、今になって苗字と倉持がねー。さすがに、俺も驚いた」
「はは、そうですよね」
「……あいつも執念深いね」
「え?」
「いや。…あれ?でも今はまだ入籍はしてないんだっけ?」
「あ、そうです。お試し期間みたいな」
「へー、後どのくらい残ってるの?そのお試し期間」
「…半年切りました」
「ふぅん…倉持は元々その気あるみたいだけど…お前は今のところどうなの?心境の変化あった?」
「んー、そうですねぇ…」
私は先輩とこんな話をする事に何となく気恥ずかしさを感じて、頼んだ梅酒をゴクリと飲み干す。先輩はそんな私をニッコリと微笑んで見ながら、黙って返事を待っている。
「…好きになりつつある、というか…そっちにベクトルは向いてます」
「おお、いい傾向じゃん」
「うーん、まさかこうなるとは思わなかったんですけど」
「何でそんなに不服そうなの?結婚するんだから、その方がいいじゃん」
「や、でも…まだ半年あるし、倉持の気持ちも変わるかも」
「は?」
「結婚適齢期だから、元々知り合いの私が都合が良くてお見合い受けたんですって。そんな理由で、こんな問題だらけの女と結婚するってどう思います?」
「倉持がそう言ったの?」
「はい、そうです。お見合いした日にそう話してました」
「うーん、馬鹿だねぇ…あいつも」
「?それに、倉持の事が…その、私も大切なので、私と結婚する事で恥ずかしい思いをしてほしくないというか」
「誰かに何か言われたの」
「いや、直接言われたわけじゃなくて…聞いてしまったというか」
「何?」
「や、うーん」
「何だよ、ホラ飲め飲め!飲んで吐いちゃいなよ、どうせお前も倉持にはそういう話しないんだろ」
小湊先輩は私が言い淀んでいる事に眉を寄せながら、私のグラスにどんどんお酒を注いでいく。私は先輩の笑顔の圧に負けて、流されるままにチビチビとお酒を飲み進めていく。お酒の力を借りて、ポツポツと以前倉持の同僚達の話を聞いてしまった話をすると、先輩は静かに所々相槌を挟みながら話を聞いてくれる。一通り私の話を聞いてもらうと、私はずっと鬱憤としていた気持ちが幾分かスッキリする。小湊先輩もそんな私の変化に気付いたのか、今度はポツポツと自分の話や結城先輩達の近況を教えてくれる。
ずっと関わりを避けてきた当時の仲間達の話も、こうやって聞いてしまえば楽しく聞けるものだ。みんなが元気にそれぞれ頑張っている話を聞いて、私は嬉しくなって余計にお酒が進んだ。
◇◇◇◇◇◇
「おい、名前」
イイ感じに気分が良くなってきて、少し飲み過ぎたかも…と思っていた時に突然自分の後ろにあったドアが開く。
「え、倉持?」
「知り合いって亮さんかよ」
「は、何でここに?」
「あ、俺が呼んだ。苗字に結構飲ませちゃったし、送るのは面倒だし」
「面倒って…私そこまで酔ってないし、一人でも帰れましたよ」
「そういうわけにもいかないでしょ」
「さて、倉持も来たしそろそろ帰ろうか」そう言いながら、テーブルの上を整理し始めたため、私は慌てて「すみません、帰る前にお手洗い」と言って席を外す。そんな私を見送った倉持は眉間にシワを寄せたまま、私が座っていた席に腰をおろした。