誓いの言葉を最期に
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「もう2月になっちゃうけど、倉持のお家に新年の挨拶行った方がいいかな?」
私の体調もすっかり回復して1月も終わりに近づいた頃、年明けから気になっていた事を倉持に聞いてみる。
「ああ、それならお前の家と日替わりで週末に行くか?」
「うちはいいよ、どうせ父親は出てこないだろうし。母親はまた籍入れろってうるさいだけだよ」
「そうか?一応新年だぞ?」
「いいの。元々家を出てから、年末年始だろうと帰らなかったし」
「……そうか」
「でも倉持は違うでしょ?倉持のお母さん達も会いたいんじゃない?」
「……こんなデカイ息子にいちいち会いたいもんかよ」
「そんなもんじゃない?何なら私行かない方が家族でゆっくり話せるかな?」
「まだ、正式に結婚したわけじゃないもんね」何の気なしに、ただ家族水入らずで過ごしたらどうかと思いながらそう言うと、倉持は盛大に顔をしかめる。最近この顔見なくなったと思ったのに、また何か言い方を間違えたらしい。
「……アホか、行くならお前も絶対ついてこいよ」
◇◇◇◇◇◇◇
「あけましておめでとうございます、ご挨拶が遅くなってしまいすみませんでした」
「あらぁ、いいのよ!名前ちゃん体調崩してたんだって?今年の冬は寒いものね」
少し緊張しながら訪ねた倉持家では、思いの外倉持のお母さんもお祖父さんも気さくに迎え入れてくれた。
私が風邪を引いた事を知っている辺り、倉持は時々実家に連絡を入れていたのかもしれない。
一通りの新年の挨拶をすませると、昼食を用意してくれていたようで4人でテーブルを囲む。私に気を使ってくれているのか、基本的には倉持があれこれ話題を出してくれて、私はたまに質問される事に一言二言返すのみですんだため内心安堵する。昼食を終えると、お祖父さんが庭の植木の手入れに男手がいるからと言いながら、倉持を外に連れ出そうとした。倉持は私を残して行くことを気にしているのか、心配そうな顔をしていたが、いい歳をした大人がいつまでも頼りっぱなしになるわけにもいかず軽く手を振って送り出した。
そうして倉持を見送った私は緊張しつつも食器の片付けを申し出て、倉持のお母さんと台所へ向かう。
「名前ちゃん、新しい生活には慣れた?」
「あ、はい。おかげさまで」
並んで食器を片付けながら、倉持のお母さんは優しい口調で私に声をかけてくれる。
「あの子、ガサツだし口も悪いでしょう?何か嫌なこと言われたりしてない?」
「いえ、そんな事ありません。むしろ倉…洋一君が優しいので私の方が頼りっぱなしになってしまって…」
「あら、そう?やっぱり大事な相手には優しいのかしらね」
「……どうでしょう」
大事な相手と言われると反応に困る。一応結婚予定とはいえ、倉持は私のことを昔からの知り合いで都合がいいからと言っていた。ご家族にはどう話しているのだろうか。思いがけず、倉持のお母さんと二人きりになったため、私はずっと心に気にかかっていた事を聞いてみようと、小さく息を吸ってから口を開く。
「あ、あの…」
「どうしたの?」
「洋一君は本当に優しくて、いろんな事を気にかけてくれて…私には勿体ないくらいなんです。本当はずっと、洋一君にはもっと普通のいい子が見つかるんじゃないかって…お見合いで私との結婚を決めてしまって、その…洋一君のご家族は本当はあまり良く思っていないんじゃないかって…」
そこまで言って私は口ごもってしまう。そうね、良く思ってないわよ。と今さら言われた所で私は倉持から離れられるだろうか。それに、今になってこんな聞き方をするのは卑怯だったかもしれない。
「名前ちゃん」
不安に思っていると、倉持のお母さんは流れていた水を止めて手を拭くと、私の名前を呼びながら私に向き直って真っ直ぐ目線をこちらに向けてくる。
「確かにね、お見合いの話が来たときには…洋一には本当に受けるの?って、何度か確認したの」
「……はい」
「でもね、あの子が私とお祖父ちゃんをわざわざ集めて言ったの。」
「?」
『俺が高校の頃、教師からあらぬ疑いをかけられて、いくら否定しても信じてもらえなかった時に、まだ友達でもなかった苗字が教師に立ち向かって庇ってくれた事がある』
「……え?」
『その時から、俺は苗字の事をずっと大事な友達だと思ってる。苗字は俺と同じ歳なのに、病気の恋人をずっと何年も支えて、しっかり最後まで看取った俺なんかよりも立派な奴だから。結婚した事があるとか、そういう上っ面の経歴だけであいつの事を見ないでやってほしい』
「………」
「洋一がね、あんなに真剣に私達に何かを頼んだの初めてなの。だから、私もお祖父ちゃんも…名前ちゃんの事は洋一が選んだ"普通の女の子"として見てるのよ」
「………え、」
「だから、私たちに何の気兼ねも遠慮もする事はないわ。今度、本当に結婚した時に"洋一君のお母さん"じゃなくて、お母さんって呼んでもらえるの楽しみにしてるわね」
私は倉持がお母さん達に話したという話の内容にも、今倉持のお母さんから言われたら言葉にも、どう言葉を返したらいいか分からず、ただ目元に滲む涙を押さえたくて片手で顔を覆う。倉持が、そんな風に思っていてくれたなんて思わなかった。あんな昔、私からしたらたまたま倉持の無実を知っていたから庇っただけの事を、今の今まで大切に覚えてくれていたなんて。
「あらあら、泣かないで?洋一が戻ってきたら何言ったんだって怒られちゃうわ」
肩を震わせる私に、倉持のお母さんは優しく声をかけながら背中をポンポン叩いてくれる。実の母親に、こんな風に慰められた記憶などもう思い出すことも出来ないのに。どうして、この家の人たちは私なんかに心を砕いてくれるのだろう。
「す…みません…嬉しくて。本当にありがとうございます」
私は震える唇で何とか言葉を紡ぎながら、倉持のお母さんに頭を下げた。