誓いの言葉を最期に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……今、何時だろ」
お昼に倉持がゼリーと薬を部屋に持ってきてくれて、薬を飲んでからかなりぐっすり眠っていたようだ。カーテンから入っていた日の光はすっかり消えていて外は既に薄暗くなっている。
汗をたくさんかいたようで、体感的にかなり熱は下がったような気がする。しかし、汗で張り付いた下着や前髪が鬱陶しい。ひとまず、水分をとって1度着替えをしよう。何度も部屋に来て、心配そうに顔をしかめていた倉持にも楽になったと、声をかけなければ。そう思いながら寝室からリビングに出ると、真っ暗なリビングに思わずドキリとする。そこでようやくいつも何をするにもガタガタと音をたてている倉持の気配が、目が覚めてからなかった事に気付く。
「あ…れ、倉持いないの…?」
真っ暗な室内に向かって思わず声を出して問いかけるが、シンと静まり返った部屋からは何の反応もない。ドクンと心臓が嫌な音をたてる。
何をこんなに動揺しているのだ。ただ、部屋に倉持がいないだけなのに。買い物に行ったのかもしれない、会社に呼び出されたのかも。そうだ、携帯を確認してみよう。頭ではそう思うのに、足が鉛のように動かない。
--ガチャン
急に玄関の方で音がして肩がビクリと跳ねる。目線だけ玄関の方に向けると、ガサガサとビニール袋の音をたてながら足音が近づいてくる。そしてリビングの扉がガチャリと開くと同時に室内に灯りがつく。
「うお、ビビった!何やってだよ、暗い部屋で突っ立って」
「あ、倉持…おかえり」
明るくなった室内に、目をまん丸くした倉持が入ってくる。その顔を見た途端に、ようやく動くようになった私の足は近くにあったソファに吸い寄せられて、そのままドサリと座り込む。
「どうした?気分悪いか?」
その様子を見た倉持は、手に持っていたビニール袋を半ば放り投げるように床に落として、私の前にしゃがみ込んで下から顔を覗き込んでくる。
「平気、多分熱も下がったっぽい」
「……じゃあどうしたんだよ。変な夢でも見たか?」
「…く、らもちが、」
「ん?」
「起きたら…目が覚めて倉持がいないから…なんか、寂しくて」
私の言葉に倉持が小さく息を飲む音がする。私がゆるりと倉持に目線を合わせると、倉持は口を開けてポカンとした顔で私を見ている。私はそんな倉持の右手に手を伸ばして、そっと自分の手を重ねる。
「…変だよね、5年も一人だったのに。まだ半年しか一緒にいない倉持がいないと…私、寂しくて」
私が言葉を言い終わる前に、倉持は私の左腕を掴んで自分の方へ引き寄せる。背中に倉持の手がまわって、控えめ目にそれでも隙間なく抱き締められる。夜、抱き締められて眠るのとは違う。初めてから正面から抱き締められた私は、倉持の胸元に顔を埋めて私は目を閉じる。倉持の心音が聞こえて安心する。ここにいるのが倉持で良かった。倉持にまた会えて良かった。込み上げてくる感情に心が揺さぶられる。いいのだろうか、またこんな感情を持ってしまって。
「…ねぇ、私すごく汗かいたから臭いと思うんだけど」
「……お前、今それ言うかよ」
本当はもっと別の事を言いたかったのに、口から出たのはいつもの軽口だった。だけど、倉持がいない時に渦巻いていた寂しさや不安は、いつの間にか消え去っていた。