誓いの言葉を最期に
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「おーい、入るぞ。大丈夫か?」
「うん、平気。倉持にうつると悪いから、向こうに行ってなよ」
「こんな時にバカな事言ってんなよ、ほれもう一回熱はかれ」
倉持から受け取った体温計を脇に突っ込んで大きなため息をつく。朝から何となく寒気がして、布団から出られないでいれば倉持に額を触られて「熱あるぞ」と言われた。そこまで体調が悪い感じはなかったものの、体温は38度を少し越えていて、そのままとりあえず二度寝する事になった。
結局10時頃まで寝てしまい、目が覚めてからはちょくちょく倉持が部屋を覗きに来る。子供じゃないんだから、そこまで頻繁に来なくても大丈夫なのに。
「二人ともちょうど休みの日で良かったな」
「んー、倉持はせっかく休みなのにごめんね」
「気にすんな」
「でも年明けから体調崩すなんて嫌な新年の始まりだな…あ、鳴ったみたい」
ポツポツと会話していれば、小さな電子音が聞こえたため体温計を確認する。そこに表示された数字に思わず言葉を失っていれば、それに気付いた倉持が横から覗きこんで来る。
「……39度って上がってるじゃねーか」
「そうだねえ」
「何ともないのかよ」
「なんか朝よりぼんやりするな、とは思った。でも寝起きのせいかと思って。あと少し頭いたい」
数字を見ると一気に体調が悪いような気がしてきて、大きくため息をつきながら布団に潜り込む。
「おい、病院行こうぜ。連れてってやるから」
「病院はいーよ」
「良くねーだろ、こんなに高い熱久しぶりに見たわ」
「んー」
「薬だけでもあった方がいいだろ」
倉持が心配してくれているのは分かる。だけど、行きたくない。私は、あれから1度も病院に行っていない。純粋に心配してくれている倉持には何となく顔を見られたくなくて、布団を顔まで引っ張りあげて倉持に答える。
「病院には、行きたくないの」
思いの外、声が震えてしまい動揺する。違う、そこまでトラウマがあるわけでも何でもないのに。ただ、行かなくてすむなら行きたくないだけなのに。また余計な心配を倉持にかけてしまうかもしれない。私が自分の発言に後悔していると、しばらく沈黙していた倉持が口を開く。
「……ずっと行ってねーの?」
「うん…私、体は丈夫だったから」
「……わかった、明日も下がんなかったら引っ張って連れてくからな」
「ん、ごめんね」
「いちいち謝んなって」
倉持はわざとらしく私の頭を乱暴に撫でると、部屋から出ていく。ああやって私が1から10まで言わなくても察してくれるから、私は随分甘えてしまっている気がする。
私は倉持が弱った時に、甘えられるような存在になれるだろうか。
リビングからガチャガチャと騒がしい音が聞こえてくる。倉持の事だから、何か食べ物とかを用意しようとしてくれているのかもしれない。ああやって、ガチャガチャ音をたててしまう辺りが倉持らしい。だけど、この5年間どんなに体調が悪い時も、寂しくて辛くなった時も静かな部屋で布団にくるまって耐えていた。
今はあのうるさい音も愛しく感じる、あれは倉持が私と同じ空間にいる証なのだ。