誓いの言葉を最期に
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今年のクリスマスは平日だった。30歳間近のクリスマスなんて、若い頃ほど待ちわびるイベントじゃないし、わざわざ休みをとるほどの事でもない。だから私も倉持も普通に仕事だったけど、さすがに残業するのは避けて急いで帰宅した私は、普段より少し気合いを入れて夕飯を作った。
サラダや生ハムはお洒落っぽく、それなりに盛り付けるだけでも雰囲気が出たし、ビーフシチューは圧力鍋の活躍によって仕事帰りに作った割には、美味しく出来たような気がする。
ケーキはやっぱり作る気にはならなくて、二人しかいないのにホールケーキを買うのもどうなのか勝手が分からないから買わなかったけど、少し高めのワインは買っておいた。倉持がケーキを食べたいようなら、1日遅れだけど明日買いに行こう。
さすがに部屋の飾りつけまではしないけど、キッチンに並んだ料理やワインを見てふと冷静になる。
(……これだと、私がクリスマスを凄く楽しみにしてたみたいかな)
倉持は今日まで特にクリスマスの話題に触れてこなかった。いきなり、こんな"いかにも"な食事が出てきたら戸惑うだろうか。それより、我に返ると自分がこんなにイベント事を重要視している現状に驚いてしまう。彼がいなくなってから、夏も冬も、誕生日もお正月も世間にとったらどんな特別な日でも、私からしたら"ただの1日"に過ぎなかった。こんな風に、毎日の中の1日が普通じゃないと感じたのは久しぶりかもしれない。倉持と再会してから、私の日々の生活はうっすらと、でも確実に色を取り戻し始めている。
「ただいまー」
そんな事を考えていると玄関から倉持の声が聞こえてきて、私は慌てて玄関に迎えに出る。もう倉持が帰ってくる時間になっていたのか。
「おかえり、お疲れさまー」
「おお。名前も仕事お疲れ…なんか、すげえいい匂いするんだけど」
「あ、うん」
入ってきた途端にそう言った倉持に、私は何となく恥ずかしくなって黙ってリビングに向かう倉持の後に続く。
「おー!何これ、めっちゃ豪華!」
「……一応、クリスマスだから」
「ワインもあるじゃん!」
「うん」
「お前、クリスマスの事とか何にも言わねーから忘れてんのか興味ないのかと思ったわ」
「や、こっちこそ。倉持だって何にも言わないじゃん」
「ヒャハハ、俺はこれ買っちまった」
「え、何?」
そう言われて初めて、倉持が鞄と一緒に紙袋を持っていた事に気付いて首をかしげる。倉持から手渡された紙袋を覗くと、そこには割と人気だと話題の駅前にある洋菓子店のホールケーキが入っていた。
「え、ケーキ?ホールケーキじゃん!しかも、人気のやつ!」
「お前なら買うなり作るなりするなら先に言いそうだけど、何も言わないから用意する気ねーのかと思って」
「倉持食べたかったの?」
「お前、こういう甘ったるいの好きだろ?」
「高校の頃、よく食ってたじゃん」ネクタイを緩めながら、サラリとそう話す倉持の言葉に私は思わず胸が熱くなって紙袋を握る手に力が入る。
「さっきまで、張り切りすぎたかちょっと心配だった」
「何でだよ?せっかくのイベントなんだから張り切るだろ。逆にお前がこんなにいろいろしてくれるなら、休みとるなりしてどっか出掛けても良かったかもな」
「……それも良かったかもね」
来年はそうしようか、と言いかけそうになった自分を押さえ込む。そして、それを誤魔化すように「何なら私、倉持にプレゼント買ったよ」と、少しおどけてそう言うと、倉持が「俺も買ったぜ」と至極当たり前のように、そう返してきたから、私の胸は更に熱くなった。