誓いの言葉を最期に
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『……もしもし』
「あ、えっと御幸一也の携帯ですか?」
『そうだけど、え…苗字?』
倉持とあんな話をした次の休日。たまたま倉持は仕事で昼間時間があったため、御幸に電話してみた。久しぶりだから少し緊張するし、倉持のいる所でかけても良かったけど、倉持のいないところでかけた方がクリスマスの話を聞きやすい。
「うん、苗字です」
『おーびっくりした、お前番号変わってないんだな』
「そっちこそ、10年経つのに私の番号まだ残しておいてくれたんだね」
『はっはっは、わざわざ消さねーよ』
「そっか」
『何だよ、どうした』
「あ、えっと…」
何から言おうか。何だろう、お見合いで倉持と久しぶりに会ったときより緊張する。改まって電話で話してるからだろうか。それとも、倉持と私の関係が変わったのを知っている相手だからだろうか。
『そういえば、倉持とどう?うまくやってるか?』
私が口ごもってしまったせいか、御幸の方から話を振ってくれる。
「うん、一応それなりに」
『それなり?』
「倉持すごく優しいから、いろいろ気を使ってくれてるんだろうな…とは思う。だから私には何の不満もないけど、向こうはどうか分かんない」
『あー、なるほど。…うん。ま、そこは甘えとけよ。あいつ昔からあんな顔で世話焼きだったじゃん』
「うーん……あ、御幸はさ倉持が今欲しがってるもの分かる?」
『何だよ、いきなり』
「ほら、クリスマスだし何かあげたいんだけど。私の倉持データ高校生で止まってるから。今はもう格ゲーやらないんだって」
『はっはっは、この歳までやり続けてたらやべーだろ』
耳元から響く御幸の笑い声も話し方も何も変わってないような気がするけど、そうやって笑ってしまうたあたり倉持だけじゃなく、御幸もあの頃とは違って大人になってるんだろうな…と、頭の隅でぼんやり思う。そんな事を考えていると、「あいつの欲しいものね…」と、御幸が呟くのが聞こえる。
『欲しいものは分かる』
「え、何?」
『んー、言って渡せる物じゃないからな。でも、ずっと欲しがってる』
「…なんか高価なもの?」
『どうかな。簡単に手に入らない辺り、あいつからしたら凄く価値があるのかも』
「全然わかんない。御幸のその何でも分かってます風なとこ変わらないね」
『ははっ。とにかくお前からなら何でも喜ぶだろ、あいつは』
「……どうかな」
御幸にそんな風に言い切られてしまうが、私としてはスッキリしない。趣味じゃないものとか渡されたら、普通は喜ばないと思うけど。それに、どうせ渡すなら本当に喜んでくれるものを渡したい。
『苗字さ、倉持が優しいって言うじゃん?』
「あ、うん」
『本当にただ単にあいつが優しいからだけだと思う?倉持がお前に優しくするの』
「え、どういう事?」
『俺は、倉持とも苗字とも友達だからさ、二人の事に余計な口出ししたくないけどさ』
「うん」
『誰でもいいから結婚するんじゃなくて、倉持を選んだなら…ちゃんと見てやって、あいつの事』
「………うん」
『お前を責めてるわけじゃないぜ?いろんな事に向き合うのが難しい立場なのもわかる。だけどさ、いろいろあった分やっぱりお前にはちゃんと幸せになってほしいわけ』
「………」
『もちろん倉持にもな。あんな奴でも高校からの長ぇ付き合いだし』
「…そうだよね」
『だから、お前らが二人で幸せになるのを俺は心から願ってるよ』
「や…だな、急に何…?」
『おいおい、泣くなよ!泣くなら倉持呼んでこい!俺が怒られるわ』
「……倉持、今日仕事だもん。いても呼ばないし」
『呼べよ、いつでも。あいつならそばにいてくれるの分かってるだろ?余計な事考えないで甘えとけよ』
「……何なの、御幸のくせに。あんたは、意地悪な事だけ言っててくれなきゃ、調子狂うじゃん」
倉持だけじゃない。
御幸もちゃんと大人だった。私が逃げて向き合えていないのをわかってて、責めもせずに優しく諭してくれる。私の幸せも恥ずかし気もなく願ってくれる。
高校時代の思い出も、彼との思い出も、家族の問題も、これからの未来も、倉持の気持ちも。全部諦めたふりをして、向き合ってないのは自分だけだ。いつまでも、同じ所で足踏みし続けている。
『お前らが本当に結婚したら、家に遊びにいくわ。苗字に会うの楽しみにまってる』
ぐずぐずと鼻をすする私に、御幸はいつものように笑いながらそう言った。