誓いの言葉を最期に
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「倉持はまだ格ゲー好きなの?」
「いや、最近はやんねーな」
「漫画とか読む?」
「読まねー」
「家でもお酒は飲みたいタイプ?」
「外だけでいいわ」
「一番好きな食べ物は?」
「肉」
「最近何かハマってるものある?」
「いや、特にねーよ。つーか、最近のそれ何なんだよ!」
「え、ごめん。うざかった?」
「うざくねーけど、気になるだろ」
「そっか、ちょっとリサーチ」
「はあ?」
連日あれこれ気になる事を聞きすぎたらしく、倉持は不審そうに眉を寄せている。季節は刻々と巡り、日々寒さが身に染みるようになってきた。私の目下の悩みはクリスマスである。倉持はお見合い結婚とはいえ、普通のカップルや夫婦のようなやり取りを望んでいるような節があるし、普段からお世話になっているから何らかのプレゼントは渡したいところだ。学生の頃は、スポーツタオルや野球関係の物を渡しておけば間違いなかっただろうけれど、今となってみると倉持が何が好きなのか分からない。そう考えると、学生時代の延長で違和感なく暮らせてはいても、今の倉持の事は知らない事が多いんだな、と思い知る。
一番楽なのはケーキでも作って渡す事なんだろうけど、彼との約束が引っ掛かってお菓子を作る気にはならない。
「……そういえば、この前御幸と呑んだって言ったろ」
「あ、うん。先週だっけ?」
「おお、あいつ俺らの事すげー気にしてた」
「そうなんだー。っていうか、御幸にはどこまで話してるの?」
「普通にお前と結婚するつもりって」
「…そうなんだ」
「お前にも久しぶりに会いたいってよ」
「そっか、久しぶりにちょっと電話でもしてみようかな」
御幸なら今の倉持の好みも把握していそうだし、リサーチするのに都合がいいかもしれない。ちょうどいいタイミングだと思いながらそう言うと、倉持は驚いたような顔をして私を見ている。
「え、何?」
「いや、すんなりそう言ったのが意外だったから。お前あんまり高校の頃の奴らと会いたくないのかと思って」
「ずっと集まりにも顔出さなかったじゃん」倉持はどこか気まずそうにポツリと呟く。そういえば倉持は、二人の共通の話題なのに高校の頃の話や友人の話はあまりしなかった。たまに出るのは些細な高校の頃の思い出と、御幸の名前くらいだ。私の方は意識的に高校の頃の話題は避けてきたから気付かなかったけど、普通だったら倉持からもっとあの頃の話が出ても不思議じゃなかったのに。そんな所まで、私に気を使ってくれていたのか。
「会いたくないわけじゃないよ、みんないい友達だったし。ただ、あの頃の事はあんまり思い出したくなくて」
「…そうか」
そういえば、こういう話題になるのも初めてかもしれない。私は今までどれだけ倉持に気遣われて、傷つかないようにと気を配ってもらっていたんだろう。
「でもこうやって毎日倉持といたら自然といろいろ思い出すし」
「…悪いな」
「ううん、倉持といると懐かしくて楽しい思い出ばっかり思い出すの。あの頃、倉持とか御幸とか…みんなで一緒にいるのが毎日楽しかったから。こんな風に穏やかにあの頃の事を懐かしめるのは、きっと倉持のおかげ」
私がポツポツと思っている事を伝えると、倉持は少し驚いたように目を丸くしながらジッと私を見つめている。
「倉持とこうやって会う前は、電話なんてしようとも思い付かなかったけど、今は平気」
「そうか」
「倉持、いろいろありがと」
「……何だよ、改まって」
「ううん。本当にありがとう」
お見合いで再会して、結婚するのが倉持で良かった。
本当はそう続けたかった言葉を飲みこむ。そこまで言ったら倉持の重荷になるかもしれない。まだ私たちには1年の猶予が残っているのだから。