誓いの言葉を最期に
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「倉持お疲れー」
「おー、待たせたな」
久しぶりに高校からの友人である倉持を呼び出した俺は、ビールで乾杯しながら倉持をチラリと覗き見る。
「で、どうよ?」
「何が?」
「苗字と!うまくやってる?」
「御幸が急に呼び出すから何かと思ったら、ソレが聞きてーのかよ」
「や、気になるだろ。普通。苗字と見合いして、結婚するつもりだって聞かされてから放置されてる俺の身にもなれよ」
呆れたような視線を俺に向けた倉持は、何かを考えるように目線をさ迷わせた後に口を開く。
「まァ、生活自体は悪くない」
「何か問題あんの?」
「あいつさー、高校の頃ってケラケラよく笑ってたろ?」
「ああ、そうだったな」
「今、ほとんど笑わねーの」
倉持の言葉に俺は眉を寄せて、持っていた箸を置く。いつも楽しそうに俺達と冗談を言い合っていた苗字には明るい奴だというイメージしかない。先輩が病気になったと分かった時も笑顔で支え続けていた奴だ。
「やっぱり先輩のこと…まだ?」
「あー、まァそれもあるだろうけど。親も少しな」
「苗字の?」
「そう、名前と先輩の結婚は間違ってたって言い切って再婚相手探してたらしい。あれ、家でも相当言われてたと思うわ。俺と会った見合いの席であいつの顔死んでた」
「あー、確かにちょっと煩そうな親だったよな。先輩の葬式にも来てなかったし」
先輩の葬式に行った時に、やつれて脱け殻のようになった苗字の側には、苗字の両親の姿がなかった。苗字の妹が心配そうに寄り添ってはいたけれど、両親は最後まで結婚について反対していたようで葬式にも来なかったようだ。反対する気持ちも分からなくはないが、普通あんなに弱りきった自分の娘を放っておくことが出来るだろうか。
「再婚も親が煩いから誰でもいいからするかって思ってたらしい。見合い相手、知らずに顔合わせ来たんだぜ?」
「そりゃ随分と投げやりだな」
「本当、最初に話が来たのがたまたま俺で良かったぜ」
「……そうか」
「今のあいつがさー、笑う時どんな時だか分かるか?」
「何だよ?」
「…泣くの、我慢する時にだけヘラって馬鹿みたいな顔で笑うんだよ。バレバレだっつーのに」
倉持は酒を飲み干しながら苦々しそうに呟く。その言葉に俺は考えてしまう。苗字は長年連れ添った恋人が病気になり、まだ若いのに最後だと分かって結婚して立派に看取った。家族の理解はなく、当時もそれ以降もきっと辛い思いをしてきただろう。かなり仲の良かった方だと自負している同級生としては、これからは少しでも幸せに暮らして欲しいと切に思う。だけど…。
「倉持はさ、本当にいいのか?」
「何がだよ?」
「結婚。確かに俺だって苗字には幸せになってほしいし、誰か支えてくれる奴がいたらって思うけどさ。だけど、それをお前が引き受けるのは友人としては心配もするわけだよ。お前だって辛いだろ?」
「……1年の頃、あいつが犯人扱いされた俺のこと庇ったの覚えてるか?」
「…ああ」
「あの時、次に名前が困ってたら俺が助けてやりたいって思った」
「……おお」
「最初はそれだけだったけど、仲良くなって、あいつと馬鹿やって過ごしてるうちに、いつの間にか惚れてた。先輩のことで苦労してる時は何とか力になってやりてーって思ったけど、何にも出来ないまま過ごして気付いたら葬式で泣いてるあいつを見てた」
苦し気に話す倉持に、俺は眉をよせる。そんなの仕方ないことだ。あの頃は、みんなもどかしい気持ちで見守るしか出来なかった。大人になった今でも、どうしてやれば良かったのか未だに分からない。
「別に俺だって、あいつの事を一途に思ってたわけじゃねーよ。それなりに何人か女と付き合ったし」
「そうか、」
「だけど、ずっと頭の中で引っ掛かってて他の誰と付き合っても長続きしなかった。そんな時に、あいつが再婚相手探してるって聞いて、本人は誰でもいいなんて思ってるって分かって。もうそれなら、俺がずっと側にいようって思ったんだよ。あいつが先輩の事を忘れらんなくても…泣いてるときに側にいて涙を拭って、怒ってたら話を聞いてやって、不安な時は手を握ってやって。苦労した分これからは少しでも笑って過ごしてくれればそれで良いって思った」
倉持はそう言いながら両手で顔を覆って大きく息をつく。
「俺の気持ちなんか、あいつは知らなくていいんだ。ただ側にいて支えてやりたいだけなのに、泣きもしない、変な笑い顔しか見せない。うまくいかねーな」
「……俺はお前に惚れそうだよ」
「ざけんな、気持ち悪い」
「ちゃんとお前の気持ち、言った方がいいと思うぜ」
俺がそう言うと、倉持はゆるりと戸惑ったような目線を俺に向ける。
なぁ、苗字。ここにこんなにお前の事を、お前の事だけをずっと思ってる男がいるんだ。どうか気付いてやってほしい。このまま一緒になるなら形だけじゃなくて、俺の大切な友人二人には二人とも心から幸せになってほしい。
「あいつが困るだろーが」
「……それでも言うべきだよ。俺はそう思う」
「……まァ、機会があったらな」
倉持は少し考えるように眉を寄せた後にポツリと呟くと、店員を呼んで追加のビールを注文する。俺もそんな倉持に習って、再び箸をとってつまみに手を伸ばす。
「そういえば、名前…時々お前の話するぜ」
「おっ、まじかよ」
「今度会ってやれよ。お前のアホ面見たら笑うかも」
「俺が笑わせちゃっていいのかよ?」
「ヒャハハ、そりゃ妬けるけどよ。あいつが笑うなら何でもいーわ」