誓いの言葉を最期に
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中学時代そこそこ荒れていた俺は、髪は金髪だったし喧嘩もよくしていた。そんなわけで、元々決まっていた高校への推薦も取り消されたりと、いろいろあった。結果的に青道に拾ってもらって楽しい高校生活と充実した野球人生を送れたのは良かったけど、そんな経歴故に高校に入ってすぐの頃は、大人から疑われたり信用されない事に何の抵抗もなかった。
「お前を見たって奴がいるんだよ」
割れた窓ガラスの前で厭らしく疑っているのを隠しもしない目線を俺に向ける学年主任。
「誰が言ってるんすか?俺、心当たりないっすけど」
「じゃあ昨日の夜、お前どこにいたんだ?誰か寮の奴らとずっと一緒にいたならアリバイになるが」
「…夕飯のあとに少し自主練で寮から出てます」
「そら見ろ、それを誰か証明出来る奴がいんのかあ?」
アリバイだの証明だのと、はなから犯人扱いしやがって。学年主任ともなれば、俺が推薦取消された経緯とか知ってるんだろう。めんどくせえ。俺は思わず舌打ちしそうになるのを、グッと飲み込む。
「自主練なんで一人でした」
「はっ、くだらない言い訳はいいから早く謝ったらどうだ?大体さっきから自主練だなんだと言ってるが、お前みたいな元ヤンが本当に真面目に野球やってるのか?」
ウザイ。これは俺以外の犯人がいることなんて、一ミリも考えていないんだろう。やってもいない事を認めるのも、謝るのも癪に触るがこの状況は早く抜け出したい。少し離れた場所で、事の成り行きを興味深そうに見ている知らない連中の視線も気に入らない。俺が小さくため息をついて、諦めて口を開こうとした時、突然後ろから声がかかる。
「先生、お話中すみません」
「何だよ、お前は」
「1年C組、野球部のマネージャーの苗字名前です」
声のした方を振りかえると、そこには一人の女子生徒。この雰囲気によく割って入ってこれたなと感心する。現に話の腰を折られた学年主任は不服そうに顔を歪めている。
マネージャーの苗字か、確かに同級生にこんな奴がいた気がする。しかし、何せ強豪校。まだレギュラーでもない俺たちには、ほとんどマネージャーはつかないため部活中もほとんど関わりはないし、クラスも違うから話したことはなかった。
「私、昨日の夜は部室に残って備品の在庫確認をしていたんです。窓からグランドが見えて、倉持君が素振りしてるのを見てました」
「え、」
「おい、庇ってもろくな事ないぞ」
「私の他にもう一人、先輩のマネージャーがいたので必要なら呼んで確認してください」
威圧感たっぷりの学年主任に対して、表情も変えずに淡々と話す苗字の顔を、俺はまじまじと見つめてしまう。
「第一、さっきから聞いてると倉持君を完全に犯人扱いしてますよね?倉持君を見たって言ってる人たちは、そんな時間に何をしてたんですか?」
「そんな事、俺が知るか」
「だったら、一人の生徒を犯人扱いする前に他の可能性もしっかり確認すべきだと思います」
「な、」
学年主任は完全に言い負かされてしまい顔が真っ赤になっている。そして、「わかったよ!ただこれで倉持の疑いが晴れたわけじゃないからな!」と忌々し気に吐き捨てて立ち去ろうとする。ひどい言われようであるが、まあ解放してもらえるみたいだし、良いだろう。そんな事を考えていると、苗字は立ち去ろうとする学年主任を呼び止める。
「先生」
「まだ何かあるのか」
「倉持君にちゃんと謝ってから行ってください」
「おい、苗字…もういいって」
「よくないよ。毎日朝早くから遅くまで練習して自主練まで真面目にやってるのに、犯人扱いして。ちゃんと野球に向き合ってる倉持君の姿勢まで貶したんだもん」
今まで淡々と話していたのに、急に悲しそうに表情を歪める苗字に俺は目を丸くしてしまう。話したこともない俺のために、なぜそこまで必死になってくれるのか。
「あー、悪かったな」
学年主任は不服そうにしていたが、周りで様子を伺っている他の生徒の目を気にしたのか投げやりにそう言うと、今度こそ俺たちの前から立ち去っていく。
「あー、苗字だよな。悪ぃな、迷惑かけて」
「平気だよ、倉持君がやったわけじゃないんだから謝らないで。それより、諦めて謝ろうとしてたでしょ!」
「え、ああ…めんどくせえから、つい」
「駄目だよ!私ちゃんとマネージャーの先輩に証言してもらうように頼んどくからね!」
「おお、悪いな」
「それにしても倉持君、元ヤンだったんだねー。ウケる」
「おい、何がウケんだよ」
「何か見た目通りで!やっぱり雨の日に動物拾ったりするの?」
「舐めてんのか…お前」
さっきまで冷静に学年主任に物申していたはずなのに、急におちゃらけた様ににやにやしながら俺の事をからかい始めた苗字を、俺は思いっきり睨み付けるが、全く怖がりもせずに「あはは、さすが元ヤン!怖ーい」などと言ってケラケラ笑っている。そして言い返してやろうとしている俺を尻目に、急に思い付いたように「今のうちに先輩マネージャーに頼みに行くね」と言ってあっという間に駆け出してしまう。
「惚れちゃったか?」
何も言えないまま、呆然とその背中を見送っていた俺の隣にニヤニヤした御幸がやって来て声をかけてくる。
「ウゼェ!お前も見てたんなら助けろよ」
「いやー、俺が助ける前に苗字が突っ込んでったんだよ」
「本当かよ…お前、あいつと話したことあんのか?」
「いや、部活でちょっと連絡事伝えたくらいだな」
「俺なんて話したことないぜ」
「はっはっは、それであんなに庇ってくれんのか!いい奴だなー」
「いや、馬鹿だろ。相手はあの学年主任だぞ?」
「でもマジで苗字の事が気になるなら早くしねーと、先超されるぜ。3年の先輩で苗字が可愛いって言ってる人がいるらしいから」
「は?野球部で?」
「そうそう、あいつレギュラーの練習につく事が多いから先輩らと仲良いみたいだぜ?」
俺は御幸の言葉に小さく舌打ちする。
気になるは、気になる。だが、あれだけのインパクトのある出会いをすれば当然だろう。まだ惚れたとか、そういう感情は正直わからない。
ただ、今度あいつが困っている時は俺が一番に助けてやりたい。そう思ったのだ。
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