誓いの言葉を最期に
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カーテンから差し込む朝日の眩しさにうっすら目を開ける。相変わらず倉持が背中から抱きつくようにしていて、右手はぎゅっと握られている。
(毎日よくこの態勢のまま寝てられるな)
私の手を握る倉持の手をぼんやり見つめながら、親指の腹でさわさわと擦る。
こうやって朝を迎えるのも随分慣れてしまった。夏の初めにお見合いで再会し、もう季節は秋となった。
毎日、朝起きると倉持がいて一緒に食事をして夜一緒に眠る。休日は買い物に出たり、家でドラマを見たり。
彼がいなくなってから、5年近く1人で暮らしてきたのに、たった1つの季節を倉持と過ごしただけで、もう何年も共に過ごしてきたような馴染み具合だ。同じ空間に人がいる生活も当たり前になってきた。
「なァ、起きていいか?」
「え、倉持起きてたの?」
「さっきから手がくすぐってーんだよ」
「ごめん」
いつから起きていたのか。いろいろ考えながら、ずっと倉持の手を擦っていた気がする。自分の行動が何だか恥ずかしくなってしまうが、倉持は大して気にしていないのか、ムクリと起き上がりながら私の頭を撫でると「はよ」と、律儀に挨拶をしてくる。
元ヤンのくせに礼儀正しいと言うか、1つ1つの行動を見ても筋が通っているのは、運動部で培われたものだろうか。もしかしたら、家庭環境かもしれない。確か倉持は母子家庭で祖父と暮らしていたと聞いた記憶があるが、お見合いで会った母親は穏やかで優しそうな人だった。
そこまで考えて、ずっと気になっていた事が頭に浮かび何となく気持ちが重くなる。
「…どうした?」
「え?」
「眉間にシワ寄ってるぞ、体調悪ぃのか?」
「ううん、早く目が覚めちゃったせいかも。今日、休みだから昼寝でもしようかな」
「もう一回寝ればいいだろ」
「倉持を見送ったらにするよ。お弁当も用意するし」
「名前が休みの日は無理しなくていーぜ?俺の分だけ作るの面倒だろ」
「平気だよ、夜のうちに大体仕込みすんでるから」
私はヘラリと笑ってそう言うとベッドから抜け出して立ち上がる。
お弁当を作ろうか、と私から言ったあの日以来、一応毎日作り続けている。倉持は帰宅して、空のお弁当箱を渡しながら「うまかった」「ありがとう」と必ず一声かけてくれるので、作りがいがある。
「今日は遅くなる?」
自分が仕事の日は、朝一緒に玄関を出る。私が休みの日は、お弁当と倉持の鞄を持ちながら玄関で見送る。彼と家で一緒に生活した時間はかなり最後の頃だったから、こんな風に出かける彼を見送った経験はない。
「あ、そういや今日呑み会だ」
「そうなの?迎え行こうか?」
「何だよ、急に」
「前に呑み会の迎えに来いって言ったくせに、それから全然頼んでこないから」
「ヒャハハ、あれ確か夏の話だろ。よく覚えてんな。来てもらえるなら助かるけど」
「じゃあ行くよ、別に挨拶とかしなくていいんでしょ?」
「ああ、確か近くにパーキングがある飲み屋だった気がする…昼に場所とか確認して連絡しとくわ」
「分かった、気をつけてね」
「おー、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
私からお弁当と鞄を受けとると、倉持は笑顔で私の頭を撫でてから玄関を出ていく。仕事に行くというのに朝から機嫌のいい奴だな、と私は内心感心しながら玄関の鍵を閉める。
(呑み会なら夕飯もいらないし、今日は楽だな)
私は小さく欠伸をしながら、もう少しゆっくり寝ようと寝室に向かった。