誓いの言葉を最期に
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喫茶スペースで、それぞれ珈琲や紅茶を注文すると結城先輩が一番に口を開いた。
「さっきの話だが、お前たちが結婚を決めた理由も聞いた」
「…そうですか」
「言いにくければ言わなくていいが、先輩の具合はどうなんだ」
「先輩、俺たちにはそこらへんの話は濁してたから。ただ苗字と残りの時間をなるべく一緒にいたいって言ってた」
結城先輩の言葉に補足するように小湊先輩がそう続ける。そう、私たちはそれが理由で結婚を選んだ。結婚しても、今まで通り毎日お見舞いに来たりと生活に変化はなさそうだけど。それでも、私たちが一緒にいる確固たる明確な"理由"が出来ることで、今の少し押したら崩れてしまいそうな精神状態が良くなるような気がした。
「……1年半」
「え?」
「長くて1年半…短ければ年内かもと言われています」
「……そうかァ」
私の言葉に伊佐敷先輩はポツリとそう呟くと、肩を落とす。恋人である私じゃなくても、同じ部の仲間として過ごしてきた先輩だってショックだろう。
「結婚したら家に帰れるの?」
「一応、来月先輩の実家に帰る予定です。ギリギリまで家で過ごして、辛くなったら病院に戻るつもりです」
「そうか」
「さっきの哲の話じゃないけど、お前は大丈夫?本当に痩せてるし、無理してない?」
「俺は先輩の事は、もちろん世話になったから大事だし、先輩がお前といる事で幸せに過ごせるなら嬉しい。だけど、お前だって俺らの大事な後輩だ。お前が辛い思いして、無理してるんだったら」
「平気です。辛くなることもあるけど、先輩と一緒にいたいって気持ちはずっと変わってません」
「そうかァ」
伊佐敷先輩の言葉に涙が出そうになって、遮るようにそう答えながら微笑む。私のそんな様子を察したのか、小湊先輩が少し明るい口調で話題を変える。
「先輩、嬉しそうに俺らに結婚すること連絡してきたよ。部の奴らみんなに広まってる」
「え、そうなんだ…恥ずかしい」
「本当は他の奴らも見舞いとお祝いに来たがったんだがな。大勢で行っても迷惑だろうと、代表して俺達が来た。これは、部のみんなからだ」
そう言いながら結城先輩は、私の前に可愛いラッピングが施された包みを差し出す。
「俺らの学年と、苗字の学年の奴らの分も入ってるよ。倉持と御幸が声かけてた」
「……そうですか」
「苗字、結婚おめでとう」
結城先輩が真っ直ぐ私の目を見てそう告げる。その言葉に私の目からは、ポロポロと涙がこぼれる。
「ちょ、大丈夫かあ?」
「すみません…こんな風に、この結婚に対して真っ直ぐお祝い言われたのが初めてで…嬉しい。ありがとうございます」
私は慌てて涙を拭いながら無理矢理笑顔でそう言い訳をする。私の兄妹は一応は納得してくれたけど、両親は狂ったように反対していた。
彼のご家族は最後まで私に申し訳なさそうに、病院の人たちもお祝いの言葉はくれたけれど今の状態で籍まで入れるのは反対しているようだった。
高校の頃と変わらない、嘘のない結城先輩の真っ直ぐな瞳と、その言葉が本当に嬉しかった。
状況は良くないかもしれない、だけど私は好きな人と結婚するのだ。何の後悔もない。ただ、好きな人と結婚するのだから本当は祝ってほしかった。
「今日は突然悪かったなあ」
「いえ、私こそすみませんでした」
結局私が落ち着くまで一緒にいてくれた先輩たちを、私は入り口まで見送ろうと立ち上がる。
「苗字は病室に戻りな」
「え、でも」
「さっき、先輩言ってたよ。目が覚めた時にお前が側にいるのが一番安心するって。先輩が起きる前に戻ってあげなよ」
「そうですか、そんな事を…」
「苗字は、立派に先輩の支えになっている。何か俺達にも出来ることがあれば、いつでも連絡してくれ」
「じゃあな、無理すんなよ」
先輩たちはそれぞれ私の肩や背中をバシバシと叩きながら帰っていく。ちょっと乱暴だけど、優しい、頼もしい先輩たちだ。私は、目元をゴシゴシと拭ってから立ち上がる。彼に泣いたことを悟られたくない、彼の前では涙を見せずに、残された時間ずっと笑顔を見せていたいのだ。
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