誓いの言葉を最期に
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*ヒロインの設定特殊
*オリジナルキャラの病気の話が出てきますが、実在の例ではなくフィクションです
私は29歳にして未亡人である。
高校の時に付き合っていた2つ上の先輩のことは当時から大好きだった。喧嘩することもなく順調に交際を続けていたが、付き合って2年たった頃の高3の春に先輩の病気が見つかった。病気が分かった頃、周囲の人には私たちの付き合いについて散々反対された。
まだ若いんだから。
何もそんな人を選ばなくても。
そんな言葉を何度も聞いた。
特に私の両親の事は、この頃から自分の親ながら薄情な人だとしか思えないようになった。
付き合っていた頃は、スポーツも出来て好青年だなんだと持て囃しておいて。いざ、病気が分かった時には、まだ治療をすれば完治も見込める状態だったのに「早く別れなさい」と。
病状が悪化してもう時間がないとなった時に、せめて結婚したいと言った時には烈火の如く怒り狂っていた。
自分の娘の幸せを願う親としては当然の主張だったのかもしれないけど、当時どんどん弱っていく彼を前にどうにか少しでも長く彼と一緒にいたいと必死だった私には頭ごなしに否定して、最後にはいつも彼を悪く言う両親のことは薄情で人間味のない人たちに思えて仕方なかった。
「お見合い?」
「そうよ、"あの人"が死んでもう6年でしょ。相手の人は結婚歴があっても良いって言ってくださるんだから、さっさとお受けして"普通の結婚"をして幸せになりなさい」
「"まだ"5年だよ、お母さん」
相変わらずの言いようにうんざりする。反対を押しきって結婚し、最終的に彼を看取った私を父は許せなかったようで、あれからもう何年も会話もしていない。
母は結婚と同時に家を出たまま1人で暮らす私に、躍起になって再婚相手を探そうとしている。
幸い兄も妹もいるから、両親が望む普通の結婚とやらはそちらに期待すればいいのに。
「あんな状況で結婚したいなんて馬鹿な事を言い出して、自分の好き放題やったんだから、断るなんて許しませんよ」
「別に今さら新しく相手を探さなくても……今時、一度も結婚しない事だって珍しくないんだよ」
「いい加減になさい。結婚して家庭に入って子供を産むのが女の一番の幸せだというのに。あんたは、この歳で旦那に先立たれて、いつまでも次の相手を探す素振りもないし。本当に恥ずかしいわ」
この人はいつの時代の人間なんだ。私は呆れたように小さくため息をつく。彼の事があるまでは、普通に良い母親だと思っていたのに。こんなに自分と母親の価値観がズレているとは思わなかった。まあ、昔から少し見栄っ張りなところはあったけれど。
「相手の人はね、母さんの知り合いの息子さんなんだけど。あんたの事情を知っても、それで良いって言ってくださるんだから」
「へー」
「歳もあんたと同じなのよ、こんないい話逃したらもう次はないんだから」
「……はあ」
まさかの同じ歳。自分で言うのも何だけど、こんなハズレな縁談を受けるなんておかしな人だ。29歳の男ならもっと良い人がいるだろうに。よほど癖が強いとか、向こうにも何か特別な理由があるのだろうか。それにしても、てっきりもっと歳のいったおじさんかとかが相手なのかと思ったから少し拍子抜けしてしまう。
「次の土曜日に顔合わせだからね、用意しておきなさい」
「はいはい」
まあ、いいか。
今さら彼以外と結婚するなら、相手なんて誰でもいいし。高校の時から何をするにも反対されて、母親に逆らって暮らすのも疲れたし。一度くらい言うことを聞いておけば、今後は少し静かになるかもしれない。
もう母親の好きにしたらいい、最後まで私たちのことは理解してくれなかったけれど、もう今さら理解してもらいたいとも思わない。彼への想いは私の中だけで抱えていればいい。
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