Let's自粛生活
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お隣に住む名前ちゃんと朝のジョギングを始めて、早くも1ヶ月。良い感じに体力と筋肉がつき始めた。それに加えて、意外にも彼女はストイックな面もあるらしく天気の悪い日以外は毎日走る。最初はジョギングに付き合っている俺に遠慮して、週に2~3回しか誘わなかったようだが、走りながら話しているうちに以前は毎日走っていたと言うことが分かり、俺もそれに付き合う事にした。前までは週に2~3回、夕食と映画・ドラマ鑑賞のために会っていた俺達。今では結果的に毎日名前ちゃんと会うことになり、一緒に過ごす時間も増えている。そんな矢先に、ポコンという通知音と共に名前ちゃんからメッセージが届いた。
『こんにちは。朝のジョギングですが、しばらくお休みさせてください。付き合ってもらってるのにすみません』
(どうしたんだろ、体調悪いのか…?今のご時世、体調悪いとなると別の意味でハラハラすっけど…大丈夫かな)
俺はそんな事を考えつつも、了承のスタンプと共に体調を気遣う文章を送る。メッセージが届いて数分後に返信したものの、返事が来たのは半日ほどしてからで、内容も"体調は問題ないです"とシンプルなものだった。
(そういえば、とりあえず連絡先交換したけど、部屋が隣だからほとんどスマホでやり取りしたことなかったな。名前ちゃんって、メールはいつもこんな感じなのか?)
普段はよく喋る名前ちゃんにしては意外だな。と、何となく違和感を感じつつも、それ以上やり取りを続けられそうな雰囲気もないため、俺はスマホを置いた。
6.September
(おかしい、もうニ週間以上顔見てない)
名前ちゃんを初めて夕食に誘ったあの日から数ヶ月、俺達は3日以上続けて会わないことはなかった。今思えば、ただのお隣さん相手にそうなる事自体がおかしい状況だったのかもしれないけれど。それでも、今までそんな関係で仲良くやってきたはずなのに。
(え?もしかして避けられてる?俺何かしたっけ!?)
朝のジョギングの件で連絡が来た日以降、食事や映画に誘っても何だかんだと理由をつけて断られてしまう。
---ガチャン
そんな事を悶々と考えていると、ふいに隣の部屋の玄関が開く音がする。
「!」
その音を聞いた俺は、弾かれるようにダンッと立ち上がって玄関に向かう。
----バンッ!!
「わ!?」
勢いよく玄関をあけたせいか、扉の近くにいた名前ちゃんは目を大きく見開いてこっちを見ている。
「ひ…さしぶりだね、名前ちゃん」
「あ、そうですね……すみません、何度か誘ってもらったのに」
会って何を話すかまで考えていなかったため、不自然な挨拶しか出てこない。名前ちゃんは、気まずそうにふいっと視線をそらす。やっぱり避けられていたのか?と思ったが、すぐに名前ちゃんの顔色が悪いのが目に入って、思わずパシッと腕を掴む。
「名前ちゃん、何か痩せた?本当に体調大丈夫?」
「大丈夫です。ちょっと食欲なくて…」
「どうしたの?何かあった?」
「……………。」
「ん?どうした?」
言いにくそうに視線をさ迷わせている名前ちゃんを安心させるように、なるべく優しく穏やかな口調で問いかけながら顔を覗き込む。
「えっと……実は少し前に実家の祖母の具合が悪くて入院したって連絡が来たんですけど……」
「え?もしかして、」
「あ、違います。普通に持病が原因ですよ」
「ああ、そうなんだ……」
「それで……その、今月に入ってからまた状態が悪くなったらしくて」
「…………。」
「だけど、こんな状況だからお見舞いも行けなくて。あ、あんまり具合が良くないから……もしかしたら、もうこのまま…あ、会えないかもって思ったら……」
そこまで話すと、ポロポロと涙をこぼす名前ちゃん。その姿を見て胸をギュッと鷲掴みにされたような気持ちになり、俺は思わず名前ちゃんの腕を掴む力を強める。
入院している家族に会えない、闘病中なのに誰にも会えず寂しく辛い思いをしている人達がいる。今、そんなことが社会問題になっているとニュースで見ていて「大変だな」とは思っていたものの、どこか他人事だった。だけど、こんなに身近にも苦しんでいる人がいたのか。
「おばあちゃん、話とか出来るの?」
「え?……あ、はい。寝てる時間が多いみたいですけど……」
「そっか。顔見たいよな…やっぱり」
「はい……」
落ち込んだように視線を落とす名前ちゃんの頭をポンポンと撫でながら、俺は記憶を遡る。
(確か、こういう経験をしてる人の話をニュースで見たときに……)
「家族からの差し入れは出来るの?」
「?はい、看護師さん経由なら」
「名前ちゃんの実家に、ネットの設定とか得意な人いる?あと、タブレットとかあるかな?」
「え、多分兄が出来ますけど……」
不思議そうに首を傾げる名前ちゃん。まだ目尻に残る涙を拭ってやりながら、ニッコリと微笑んで見せる。
「絶対出来るって確証はないんだけどさ。今そうやって入院中の家族に会えないときって、病院に頼むとリモートで会話させてくれるみたいだぜ」
「……え?」
「とりあえず、おばあちゃんの体調にもよるけどさ。病院に連絡して出来るか聞いてみようぜ!ちょっとでも顔見て話せたら、おばあちゃんも喜ぶと思うよ」
「お、おばあちゃん!」
『名前?』
「おばあちゃん…大丈夫?」
『大丈夫よ。ゴホッ、ゴホッ……名前こそ、こんな時に独り暮らししてて大丈夫なの?』
「私は平気…凄く優しいお隣さんがいてね…ずっと部屋にいても、全然寂しくないの!毎日楽しいよ!」
---ガチャ
「えーと、名前ちゃんのお兄さんですか?うまく繋がったみたいで今お話してますよ」
(優しいお隣さんか……)
あのやり取りから3日。病院と名前ちゃんの家族に相談した結果、おばあちゃんとの画面越しの対面を無事に果たすことが出来た。チラッと見えた画面には酸素のチューブや点滴に繋がれている姿が映っていて、やはり体調は悪そうではあったが、何とか名前ちゃんと会話することも出来ているようだ。ゆっくり話をさせてやろうとリビングからベランダに出ながら、この対面を実現させるために何度かやりとりしたお兄さんに連絡する。
『そうか、良かった。俺達もやっぱり病室までは行けなくてな。病院の看護師さんが、うまくやってくれたんだな』
「そうみたいですね。すみません、家族でもないのに出しゃばって…」
『いや、あいつがそんなに落ち込んでるとは思わなくてな。気にかけてくれて助かったよ……それにしても、優しいお隣さんがいるとは聞いてたけど。本当に仲が良いみたいだな』
「え?アハハ……そうですね、こんな時なので!話し相手になってもらったりしてて……」
『ハハ!そんなに焦らなくても、黒羽君が良いやつなのは分かったから。こんな時だから、アイツ実家にも帰ってこれないし……これからも仲良くしてやってよ』
「は、はい…こちらこそ。ありがとうございます」
言い様のない緊張からか全身から汗が吹き出すのを感じながらも、何とか平常心を保ってそんな会話を交わし、無事にお兄さんとの通話を終える。
(思いがけず、家族公認のお隣さんになっちまったな……いや、家族公認のお隣さんって何だよ……)
「黒羽先輩!!」
そんな事をぼんやり考えていると、名前ちゃんが勢いよくベランダに出てくる。
「うお!どうした?」
「おばあちゃんと話せました!先輩のおかげです…本当にありがとうございます」
「俺は何にもしてねーよ。名前ちゃんのお兄さんがいろいろやってくれたじゃねーか」
「でも、黒羽先輩がああ言ってくれたからです。私一人だったらメソメソしてるだけで、あんな方法思いつなかったです。本当にありがとうございました!」
「ハハ、どういたしまして」
(元気出たみたいで良かったぜ)
嬉しそうに笑う名前ちゃんの笑顔を見て、自然と俺の頬も緩んでくる。調子の戻った名前ちゃんといつものように会話しながら、この子にはいつもこうやって笑っていてほしいなんて、柄にもなくそんな事を考えていた。